障害は克服するもの?熱血指導の前に、安全基地を。支援者の「こうすべき」より大切にしたいこと

2020/07/18 更新
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障害のある子どもを育てていると、さまざまな場所・場面で、熱心なあまり、「障害を克服させよう」とする先生や支援者に出あうことがあります。子どもの立場になってみたら、ただでさえ生きにくい世界に、さらに恐怖までもたらす存在なのかもしれません…。

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立石美津子
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熱心な無理解者に苦しめられて

『発達障害に生まれて』(松永正訓著/中央公論新社)ノンフィクションのモデルの立石美津子です。
障害のある子どもを育てていると、熱心な無理解者に出あうことがあります。

・「障害というハンディがあるのだから、今、辛くても頑張らせることが本人の将来のため、それが愛情だ」と思っている。
・こだわりはわがままの一種なのだから、応じてはならないと思っているところがある。
・努力すれば必ずできるようになると信じて疑わないところがある。
・苦手を克服させようと必死に努力させ、何でも一人でやらせようと試みる。
・「どうやったらこの子は○○ができるようになるのだろうか」とできないことばかりにスポットを当てがち。
・偏食を徹底して直そうとする。
・本人にとって難しいことであったとしても、みんなと同じことができるようにさせようとする。
・本人の意図を考えずに才能を開花させようと躍起になりがち。
・「やればできる」と過度な期待を抱きがち。
・「障害にともなう困難の改善」ではなく、「障害そのものの克服」を目的にしているところがある。

子どものことを思ってくれているのはわかる、熱心に支援をしてくれようとする…でも、こうした行為は子どもを苦しめてしまうことがあります。

熱心な無理解者という言葉は、児童精神科医の故・佐々木正美先生が提唱された言葉で、私の知人でもある公認心理師、臨床発達心理士、特別支援教育士スーパーバイザーの川上康則先生も「発達障害のある子どもについて【無理解・誤解・理解不足】などの状態にもかかわらず、熱心と言われるくらいの積極的な指導・支援を繰り返し、かえって当事者の状態を悪化させてしまう人のことを指す」とおっしゃっています。

たしかに、熱心であることは非常に重要です。しかし、「本人のため」「良かれと思って」の部分が前面に押し出されてしまうと、本人にとっては「苦行」のように感じられるのではないでしょうか。

自閉症の息子も、療育施設で苦手な音の克服の訓練をされた結果、その施設に行くことすら怖がるようになってしまいました。「本人のため」「良かれと思って」だけが一人歩きしない支援が必要だと常々感じています。
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子どもの気持ちを大切にする大人のあり方

では、子どもに寄り添い、子どもの気持ちを大切にする対応とはどんなものでしょう。

・できることを伸ばそうとする。
・偏食を無理に治そうとはしない。
・こだわりに十分に付き合い、信頼関係を築いた上で、こだわりの緩め方を一緒に考えてくれる。
・大人本位の「こうあるべき」にとわられすぎない。
・子どもの今の状態を受け入れている。

子どもにとって安心できる人は、このような対応をしているのではないでしょうか。

同じ場所で支援者によって対応が違うと、子どものさらなる混乱を招く

更に困ってしまうのは同じ場所でも上記の2種類のタイプの人がいて、子どもに対して全く違う対応をするケースです。子どもは無理強いされたり、許容されたりして「何が正しいのか」がわからず混乱してしまいます。こうした状況を「ダブルバインド」と言うそうです。子どものほうも相手により態度を変える(怖い大人の前でだけおとなしくし、やさしい大人にはからかいを多く出すなど)といった誤学習をしてしまうかもしれません。これは「偏食をわがままとして許さない父と、受け入れる母」など家庭内でもおこりがちです。

わがままとみなすか、こだわりと共存するか

感覚過敏によって偏食がある場合、無理強いされることは、もしかしたら「芋虫を小さく切ってあげるから一かけらだけでもいいから食べなさい」と言われているような状況にあるのかもしれません。熱心な無理解者はとかく「自分だけの基準」で考えてしまい、子ども本人の苦しみ、辛さまで思い至らないのかもしれません…。

とはいえ、わがままかこだわりか見分けるのが難しいこともあります。しかし、「その子が何にこだわっているか」をよく観察していると、その子にも譲れない部分があるということが見えてきます。

例えば靴、同じデザインのものでないと絶対に拒否するという段階の子どもがいます。違うものを無理に履かせようとすれば自傷しパニックになることでしょう。でも、「〇〇を買って欲しい」などのわがままな要求のときは、自傷や他害よりも、その場で泣くだけといった様子が見られることがあります。

安全基地の確保

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障害がある子どもにとって、社会にはさまざまな怖いもの、苦手なこと、わからないことがたくさんある世界のように見えるかもしれません。叱責されてばかり、無理強いされてばかりだと、自ら一歩を踏み出すことすら怖くなってしまうかもしれません。「安全基地(Secure Base)」としての大人の存在が不可欠です。

「この世は怖くない、安心、安全なんだ」
「先生や親は自分を脅かす存在ではない」
「大人は自分を守ってくれる人間である」

ということを幼いうちに十分に経験させることが大切だと思います。

障害があっても、経験を積んでいけばやがて「人生には思い通りにならないこともある」ことをその子なりに体験します。大海原に出ても戻ることができる心地よい「港」のような存在がいれば航海の勇気も出ます。安心安全な居場所=安全基地さえ確保していれば、時期がきたら本人から苦手なことにも挑戦する勇気も出てきます。
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人生をスタートさせたばかりの時期は、特に大人との愛着形成をする大切な時期です。保護者も支援者も先生もそのことを忘れてはならないと思います。

このコラムを書いた著者親子がモデルの本

発達障害に生まれて
松永正訓
中央公論新社

このコラムを書いた人の著書

子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方
立石美津子
すばる舎
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