「自閉症ではないですよ」と言ってほしい――否定や才能探しに明け暮れ、揺れ動いた心。医師のある言葉にハッとさせられて

ライター:立石美津子
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我が子に発達障害があることがわかったとき、とうてい受け入れることができない親も多くいるのではないでしょうか。かつての私もそうでした。

(撮影:週刊女性・渡邉智裕)

受け入れられなった頃

次はキューブラー=ロスの“死ぬ瞬間”という書籍で書かれていることです。

【否認・隔離】
自分が死ぬということは嘘ではないのかと疑う段階である。

【怒り】
なぜ自分が死ななければならないのかという怒りを周囲に向ける段階である。

【取引】
なんとか死なずにすむように取引をしようと試みる段階である。何かにすがろうという心理状態である。

【抑鬱】
なにもできなくなる段階である。

【受容】
最終的に自分が死に行くことを受け入れる段階である。

これは、死を受け入れる過程として書かれていることですが、障害受容のときも同様ではないかと思います。

息子は2歳で自閉症と診断されました。私は、診断した医師を「ヤブ医者だ」と恨み、診断を受け入れることが出来ませんでした。

否認→怒り→取引→抑鬱→受容

・私も誤診と思い(否認)

・定型発達の子と比較して、「どうしてうちの子が」と(怒り)を感じ

・「自閉症ではないですよ」と言ってくれる医師を探しドクターショッピング、何かにすがろうと療育に期待しました(取引)。

でも、自閉症が治るわけではなく定型発達の子どもとの差はますます開くばかりで(抑鬱)状態に陥りました。

受容のきっかけ

受容のきっかけは、ある医師の言葉でした。

息子は当時、ある病院内で行われていた療育に通っていました。この病院は既に廃院となりましたが、入院病床が260床以上ある、精神科に特化した18歳までの子ども専門の精神科の病院でした。

ある日、療育開始時刻よりも早く到着してしまいました。時間を潰すため、病院内の敷地を散歩しているとき、ふと鉄格子が目に入りました。
病院の敷地内で遊ぶ息子
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「ここは精神科の病院だから鉄格子があるんだ」と思いました。近づいてみると、鉄格子越しに、小学校くらいのまだ幼い子が一人でいる姿が見えました。

部屋にはベットと椅子、そして自傷を防ぐために身体拘束をするためのベルトもありました。
息子の後ろに鉄格子付きの窓が見える
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鉄格子の窓の前に立つ息子
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私は診察時に医師に「まだ小さな子がなぜ、入院しているんですか?」と尋ねました。

医師は

「この病院には家族が障害を受容していないために適切な育成環境を与えられないなどが原因で、二次障害を起こし入院している子が多くいます。ベットはほぼ満床です。お母さまも気を付けて育ててください」
と言われました。

それまで、息子の障害を受容できず、抑鬱状態で悶々としていたて私でしたが、医師のその言葉でハッとしました。目の前にいるまだ幼い息子の将来を思い浮かべ「私が受容しないとダメなんだ」と目が覚めました。

障害受容はしたけれど…

医師からその言葉をかけられたのは、診断されてから1年経ったころでした。1年の間、否定したり怒りを感じたり、抑鬱状態に陥ったり――そんな状態の私でしたがこのことをきっかけにやっと一歩前進できました。

けれども、そう簡単に受容しきれたわけではありません。我が子が普通であることの呪縛からは逃れられず、「普通の子に近づけよう!出来ることを増やそう!」と躍起になりました。
障害は克服するもの?熱血指導の前に、安全基地を。支援者の「こうすべき」より大切にしたいことのタイトル画像

障害は克服するもの?熱血指導の前に、安全基地を。支援者の「こうすべき」より大切にしたいこと

熱心な無理解者という言葉がありますが、私がまさにそうでした。

・「障害というハンディがあるのだから、今、辛くても頑張らせることが本人の将来のため、それが愛情だ」と思っている。

・こだわりはわがままの一種なのだから、応じてはならないと思っているところがある。

・努力すれば必ずできるようになると信じて疑わないところがある。

・苦手を克服させようと必死に努力させ、何でも一人でやらせようと試みる。

・「どうやったらこの子は○○ができるようになるのだろうか」とできないことばかりにスポットを当てがち。

・偏食を徹底して直そうとする。

・本人にとって難しいことであったとしても、みんなと同じことができるようにさせようとする。

・本人の意図を考えずに才能を開花させようと躍起になりがち。

・「やればできる」と過度な期待を抱きがち。

・「障害にともなう困難の改善」ではなく、「障害そのものの克服」を目的にしているところがある。

でも、熱心なあまり我が子のためと思っている行為が、結果としてわが子を苦しめていました。

更に「才能を見つけてそれを伸ばすのが親の務め」と考え、今の我が子の状態を受け入れられず躍起になり、紆余曲折がありました。
ピアノのレッスンをする幼い息子
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小学校で特別支援学校に入学してから、放課後等デイサービスに通い、きめの細かい温かい対応をしてくださる学校の先生方やデイのスタッフ、また同じ障害のあるママ友達との交流をしていくうちに、モーレツ母さんから徐々に卒業できた気がします。
放課後等デイサービスで楽しく過ごす息子
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その療育は誰のため?自閉症息子の育ちを振り返って――「みんなと一緒」より大切にしたいもの

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