初めて経験する、「呼吸がしやすい」世界

小学部から高等部まであるその学校。入学式のときに小学部の子たちがみんなきっちりとした立ち居振る舞いで式典をこなしていたことに両親は心底驚き、希望に包まれたそうです。

ボーッとしていた私も、入ってすぐに、何やら空気が違うことに気づきました。みんなおっとりと、かつきちんとしている。「呼吸がしやすい」感じがしました。

「みんなレベルが高いから、そのうち少しぐらい成績が落ちるだろう」と言われていた私でしたが、定期試験では学年上位を取りつづけました。いじめられるかもとビクビクしていると、周囲の子たちがまっすぐに「すごい!」と尊敬の眼差しで見るので、狐につままれたような気持ちになりました。

「この3位の宇樹義子って私の友達なんだよ!」他のクラスの子に自慢する子。「いつも上位とってる宇樹義子ってどの子?」と他のクラスから見にくる子。「ここでは、『勉強ができることはいいこと』なのだな」と気づきました。

ああ、幸せだなあ、と思いました。片道2時間近くの通学は体力的につらかったけれど、確かに私立に来てよかったと思ったのです。

のちに、自分が恵まれていたことを知る

ボーッとしたまま中高の良い環境を享受しただいぶ後になって、私は自分がとても恵まれていたことに気づきます。

20代後半で学習塾講師のアルバイトをしたとき、公立の中高では自分が中学高校の頃にしてきてもらったような指導をしてくれていないことを知りました。

国語の分野でいえば、私は中高で、評論文用語集の暗記、百人一首や文学史年表の暗記などを授業に組み込んでやらされていました。それが当時はすごく嫌でしたが、私が出会った公立の学校に通う子は、そういう副教材や試験対策が世の中に存在すること自体も知らなかったのです。

私は、進学校の成績優秀な生徒として、「東大京大・早慶上智のどこに入るか」みたいな価値観を当たり前としていました。そして、過労で倒れたりしながら必死に受験勉強に打ち込んで、難関私大に進学…… そうした生き方が、私の少女時代の過ごし方の唯一最善の答えだったとは、今は思いません。詳細は過去記事に書いています。
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体を壊しても求めた高学歴、でも就職失敗――将来のために私に必要だったのは「得意を活かし苦手を避ける」選択肢だった

ただ、中高の時期に一度は「楽に呼吸できる」環境に属させてもらえたことで、私は文字通り生き延びられたとは思っています。教養的な面でも大きなアドバンテージをもらいました。

あのままうっかり公立中学に行き、自分に合わない環境を強いられていたとしたら、私は兄の言うとおりに死んでいたかもしれません。兄とはその後関係性がとても悪くなってしまいましたが、私を私立に進学させるよう両親に進言してくれた点について、私は兄に深く感謝をしています。

当時、妹の将来のために思いつめて泣いたほどの彼が、長男として、また(当時発覚していなかったものの)発達障害児のきょうだい児として背負っていたものの大きさ、そのことにまったく思いが至らず他人事のように思っていた自分のことを思うと、今更ながら申し訳なくて胸が苦しくなります。

本人の「楽」と「利」だけを考えて

これを読んでくださっている方は、お子さんに診断が出ているとか、ご自身が子どもの立場かといったあたりだと思います。中学への進学を考える時点で発達障害がわかっているというのは、私の世代から見れば大きなアドバンテージです。

世の中にはいろいろな意見があります。

「社会の多様性を学ばせるために学校は公立に行かせるべき」「男女が混じっているのが自然な社会の状態なんだから共学に行かせるべき」という意見もある。いっぽう、「いまだ男性優位に作られている世の中では、教育を受ける間だけでもジェンダーロールに邪魔されない環境で生きるため、女の子は女子校に行ったほうがいい」「個性の強い子には、その子の個性を伸ばすために個性の強い私立に行ったほうがいい」という意見もある。また、最近知ったところによると、関東の大都市圏での公立・私立のイメージと、地方での公立・私立のイメージは逆だったりもするようです。

私にはたまたま、関東圏の私立中高一貫女子校が合っていましたが、どういった学校が合うかはその子によって本当にさまざまです。私はASDだったのもあって、こうした規律が厳しくて「勉強=善!」みたいな環境が楽に感じましたが、ADHD特性の強い子や、LDがあって苦手教科の多い子にはそうとうに窮屈だったろうなとも思います。

今はフリースクールなどの選択肢も増えてきています。保護者の方々にはぜひ、世間の常識にも、私の体験談にも左右されることなく、本人にとってもっとも楽で利になる環境のために、情報を集めていってほしいと私は願っています。
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