「もうやだ!」物に当たる、暴言を吐く…ADHD息子の癇癪に母もイライラ。本人が編み出した怒りモードを鎮める呪文とは?

ライター:かなしろにゃんこ。
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ADHDと広汎性発達障害(自閉スペクトラム症)がある息子の癇癪の着火は理由はさまざまです。
怒りは激しいですが長続きはしないのです。癇癪のときの気持ちを息子に聞いてみたら早く怒りの苦しさから解放されたい、本人なりのつらさの向き合い方があったようでした。

ADHD(注意欠如多動症)の子どもが怒る原因について専門家による解説と共にご覧ください。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。

発達障害、ADHD(注意欠如多動症)の子どもは怒りやすい?

お子さんが怒りやすいからといって、発達障害であるということはありません。ですが、発達障害のある子どもに見られる以下の4つの傾向が、怒りやすいことや癇癪が起こってしまうことと関係している場合があります。

1.感覚の問題とこだわり
2.自分の意思や気持ちを他者に伝えるのが苦手
3.他者と自分の意図をすり合わせるのが苦手
4.気持ちのコントロールが難しい

ADHD(注意欠如多動症)の子どもは、4のように「やりたい」という気持ちを抑えることが難しく、感情がすぐに表面化してしまうので、爆発的に怒ってしまうことがあります。ADHD(注意欠如多動症)とASD(自閉スペクトラム症)の両方があるお子さんの場合、他の3つの要因も関わってくると思います。一人ひとりのお子さんの特性にあわせた環境調整や対応が必要です。

怒りモードになりやすい環境を知る

子どもの年齢にもよりますが、自分の感情がコントロールしにくい場面や状況に気づくことも大切です。例えば、ゲームの勝敗が分かったときや「宿題をやりなさい」と指示された時などです。それによって事前の対策も考えられるようになります。

感情コントロールの方法を知る

怒りの感情がいつまでも続くと、ほかの問題行動に発展する場合もあります。子ども自身がイライラした気持ちを切り替えるためのスキルを身に付けていくことも大切です。例えば、その場を離れることでリセットする、好きなことをすることで気持ちを紛らわせるなどです。

怒った時の対応は?クールダウンの仕方も解説

・子どもの安全を確保する
まずは、子どもが怪我をしないように、周りの安全を確保しましょう。頭を壁にぶつけるといった場合は、クッションなどを子どもと壁の間に挟んで怪我を防ぎましょう。

・怒っている、癇癪を起している間は、必要以上にかまわない
必要以上に声をかけたり注意することで、より興奮させてしまう可能性があります。難しい状況もあると思いますが、落ち着くまで待つ方がよいでしょう。

・落ち着けたらそのことを必ず褒める
子どもが完全に冷静さを取り戻したときに、その場で落ち着けたことをしっかり褒めましょう。褒めることで子どもは安心し、さらに気分を落ち着かせるための方法を学ぶことで癇癪の予防にもつながります。
井上 雅彦先生(鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授)
井上 雅彦先生(鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授)
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以下の体験談では、大人になったADHDのリュウ太くんが、子どもの頃癇癪を起こしていた理由を教えてくれています。専門家のコメントと併せてご覧ください。

息子の癇癪パターンはいろいろ

工作がうまくいかなくて癇癪を起こす息子の様子
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自分が思い描いた目標に達成できないと怒ったり、何かに夢中になっているところを横から干渉されると癇癪を起こすわが家の息子。

学童期は、「もうやだー」と家具を蹴ったりする始末……

その度、「あぁ~また始まっちゃった。リュウ太が怒りだすと近所に聞こえるような大きい声で怒鳴るからヤダな~」と母の私も暗くなったりイライラすることがあります(涙)。

中学生になっても癇癪のときの声の大きさは変わらず「くそーーーなんでだよーーー!」と何に対して言っているのか分かりませんが、乱暴な言葉で怒鳴り散らすのでたまりませんでした。
思い描いた目標通りにいかず癇癪を起こす息子の様子
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怒りのエネルギーを声で発散する息子
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成人した息子に癇癪について聞いてみると「暴言は自分に対してだったりするよ、うまくいかない自分に腹が立つ」のだそう。

さらに「癇癪はなくすことはできないんだ。『ほかの人は怒るときに大声なんて出さないで怒るんだよ。だからあなたも声を出さないようにしなさい』って親や先生に注意されてきたけれど、オレは声を出さないで怒りを消すことはできないんだ」と話してくれました。

息子は、怒りが発生して数秒でピークに到達する → 怒りをリセットするにはなるべく遠くに怒りを放つ感じで吐き出すから大声になる → 大声を出すと気持ちが収束に向かう

だから怒ると大声を出してしまうんだと知りました。
なるべく遠くに怒りを飛ばしたい息子
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私自身は「怒りの感情」というのが時間をかけてジワジワと来たりします。そのため瞬間湯沸かし器のようになる息子の状態が今まで私には分かりませんでしたが、息子の話を聞いて「自分の中にわいてくる”嫌なもの”を早めに排除する行動だったのね!」と知りました。
「ま、いっか」と言う息子
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「ま、いっか」は息子にとって怒りに区切りをつける言葉
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息子は、「ものによっては声を出しても怒りが収まらないときがあるけれど、『ま、いっか!』という言葉をつぶやいて全てどうでもいいことに変えるようにしてるよ。『ま、いっか!』は小学生のころからやっていて、”怒り”に区切りをつけることができる」とも言いました。

小中学生のころはまだ心のコントロールができていないように見えましたが、息子は自分なりに心の調整をする方法を見つけていたと分かりました。

執筆/かなしろにゃんこ。
(監修:井上先生より)
「怒りの感情」は、リュウ太さんが言われていたように成長と共に少しずつ制御可能になっていきます。小さいころは「制御する」というよりは、周りの大人が「我慢させようとする」ことが多いかもしれません。子どもの場合、我慢する方法を具体的に教えてあげないと「我慢しなさい」とだけ言われたことが、火に油を注ぎエスカレートして悪循環に陥ることもあります。

「叩いたり壊したりするよりは、声に出すほうがいい」「声に出すよりも、走ってみるのはどうか」「壊れないものを投げてみるのはどうか」…など怒りを鎮めるやり方を一緒に考えてあげるといいかもしれません。「怒り」を押さえつけるのではなく、怒りをうまく手なずけるための代替案を一緒に考えたり、うまく怒りを鎮められたときに褒めることが大切だと思います。
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

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