たった2文字の「うん」に心が震えて――自閉症のわが子を育てる中での思い
2022/04/07 更新

息子は21歳、知的障害を伴う自閉スペクトラム症があります。息子が私に「今日は涼しいね」と自ら言ってきました。自閉スペクトラム症として相手に共感を求める言葉を発するのはめったにないことです。この言葉を聞いて、私は感動し、喜びました。
立石美津子
19624
View
監修: 鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
1959年東京都生まれ。1985年秋田大学医学部卒。在学中YMCAキャンプリーダーで初めて自閉症児に出会う。同年東京医科歯科大学小児科入局。
1987〜88年、瀬川小児神経学クリニックで自閉症と神経学を学び、栃木県県南健康福祉センターの発達相談で数々の発達障がい児と出会う。2011年、茨城県つくば市に筑波こどものこころクリニック開院。
共感の言葉が欲しい
幼い自閉スペクトラム症の子を育てている知人も次のように話していました。
「今までで一番嬉しかったことは、オウム返しだった息子が、母親の声かけに対して『うん』と答えたこと」
私には知人の嬉しい気持ちがとてもよくわかります。「う・ん」これはたった2文字の言葉ですが、立派な会話だからです。
「今までで一番嬉しかったことは、オウム返しだった息子が、母親の声かけに対して『うん』と答えたこと」
私には知人の嬉しい気持ちがとてもよくわかります。「う・ん」これはたった2文字の言葉ですが、立派な会話だからです。
息子は2才ごろから言葉を話せるようになりましたが、動物園に連れて行くと、ゾウの展示の前で、全くゾウと関係ない、大好きなトイレの便器の型番をずっとブツブツと言っていました。
「象がいるね」と話しかけたら、息子に「うん」と言って欲しかったものです。だから、知人の気持ちがとてもわかるのです。
小さな成長がともかく嬉しい
こうした、小さな出来事のように見えるかもしれないことに幸せを感じられるのは、障害のある子の子育ての醍醐味かもしれません。
先日も45リットルのゴミ袋のストックがないのを見て「お母さん、ゴミ袋ないよ」と言ってきました。こんなことでいちいち、心が嬉しくて震えます。
聞かれてもいないのに、「2023年8月3日は木曜日」なんて言えなくていいから、一緒におやつを食べながら、「お母さん、このアイスクリーム、冷たくておいしいね」と言って欲しい…。一緒に外に出たときに、自分から「お母さん、今日は暖かいね」と言って欲しい…。
自閉スペクトラム症のある子どもを育てる親の願いです。
言葉が出ない子どもでも表情で「うん」と答えてくれる、言葉が出るようになってもオウム返しではなく、「これ美味しいね」「今日は寒いね」と親に自ら共感を求める言葉を言ったとき、心が嬉しくて震えるのです。
こういうことに幸せを感じられるとき、私も親として少しは成長をしているのかなと、思うのです。
(監修者・鈴木先生から)
以前私の患者さんでADHDの治療をしたら入浴後に「シャンプーがないよ」と言ってくれたお子さんがいます。治療を継続する中で、自ら気づくようになり、それを記憶して母親に言えるようになったのです。そういうところからも会話が増えることはあります。息子さんも成長してゴミ袋のストックがないのに気づき、忘れないうちに言えるようになったのかもしれません。
返事に関しては周りの大人も気をつけなければいけません。相手に対して大人もきちんと返事をしていれば自然と子どももまねるものです。最初はオウム返しでも構いません。赤ちゃんのころからお子さんの口ずさんだことに対して無視せずにその子の顔の前で必ず反応してあげることが大切です。
先日も45リットルのゴミ袋のストックがないのを見て「お母さん、ゴミ袋ないよ」と言ってきました。こんなことでいちいち、心が嬉しくて震えます。
聞かれてもいないのに、「2023年8月3日は木曜日」なんて言えなくていいから、一緒におやつを食べながら、「お母さん、このアイスクリーム、冷たくておいしいね」と言って欲しい…。一緒に外に出たときに、自分から「お母さん、今日は暖かいね」と言って欲しい…。
自閉スペクトラム症のある子どもを育てる親の願いです。
言葉が出ない子どもでも表情で「うん」と答えてくれる、言葉が出るようになってもオウム返しではなく、「これ美味しいね」「今日は寒いね」と親に自ら共感を求める言葉を言ったとき、心が嬉しくて震えるのです。
こういうことに幸せを感じられるとき、私も親として少しは成長をしているのかなと、思うのです。
(監修者・鈴木先生から)
以前私の患者さんでADHDの治療をしたら入浴後に「シャンプーがないよ」と言ってくれたお子さんがいます。治療を継続する中で、自ら気づくようになり、それを記憶して母親に言えるようになったのです。そういうところからも会話が増えることはあります。息子さんも成長してゴミ袋のストックがないのに気づき、忘れないうちに言えるようになったのかもしれません。
返事に関しては周りの大人も気をつけなければいけません。相手に対して大人もきちんと返事をしていれば自然と子どももまねるものです。最初はオウム返しでも構いません。赤ちゃんのころからお子さんの口ずさんだことに対して無視せずにその子の顔の前で必ず反応してあげることが大切です。
このコラムを書いた人の著書
子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方
すばる舎
Amazonで詳しく見る >
動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな
小学館クリエイティブ
Amazonで詳しく見る >
このコラムの著者親子がモデルの本
発達障害に生まれて
中央公論新社
Amazonで詳しく見る >

関連記事
「人生生きてて良かった」とわが子が語った。不登校のお子さんが自分らしさを見つけた学校外の居場所
Sponsored

関連記事
自閉症息子、19歳。変化した「オウム返し」が愛しくて――人と比べる病から脱した今感じる、息子の成長

関連記事
セリフ集をもって学校へ!オウム返しだったASD息子との「言いたいことを伝える」ための会話練習とは?

関連記事
自閉症の治療にも使われる薬リスパダール。小児期の衝動性や癇癪を抑える治療薬?副作用やジェネリックなどの注意点、エビリファイとの違いも解説
当サイトに掲載されている情報、及びこの情報を用いて行う利用者の行動や判断につきまして、正確性、完全性、有益性、適合性、その他一切について責任を負うものではありません。また、掲載されている感想やご意見等に関しましても個々人のものとなり、全ての方にあてはまるものではありません。
この記事に関するキーワード

あわせて読みたい関連記事

孤独に奮闘するママの一人として。自閉症子育ての経験を描いた漫画『ムーちゃんと手をつないで』
―「漫画を描くこと」は「生きる」こと―
その思いに新しい意味が生まれた日
私がこの子を授かった意味は何だろう?
神様は私に何を学ばせたく...
自分と家族のこと
43581
view
2019/02/21 更新

カナー症候群の症状、年齢別特徴、子育てや療育法について、カナー症候群とアスペルガー症候群との違いも解説
「カナー症候群」とは知能や言葉の発達の遅れ(知的障害)を伴う自閉症の通称です。現在の医学的な診断名としては「自閉症スペクトラム」と呼ばれる...
発達障害のこと
316702
view
2017/06/21 更新
この記事を書いた人
立石美津子 さんが書いた記事

「理想の子育て」に縛られて。動画は見せちゃダメ?読み聞かせは毎晩?24時間年中無休の親御さんに伝えたいこと
「理想のママ、パパ像」を追い求めすぎて、自分にあれこれと無理なハードルを課していませんか?もしかしたら、そのうちいくつかを止めたら、子育て...
発達障害のこと
5234
view
2022/05/11 更新

傷のなめ合いでもいい、障害児子育ての孤独を癒した私の居場所
子ども自身の生きづらさを軽減させてやることも親の役割の一つだと思いますが、自閉症のある子を育てて苦労している親にとって、親自身の居場所を確...
発達障害のこと
3808
view
2022/05/06 更新

抱きしめたくなる衝動を抑えて。思春期以降はどう変わる?障害があるわが子と、異性の親や支援者との関わり方
私は知的障害者移動支援の仕事、ガイドヘルパーを週末しています。先日、成人の自閉症のある男性と外出しました。
しかし私は、彼が成人しているの...
将来のこと
5171
view
2022/04/15 更新

放課後等デイサービス・児童発達支援事業所をお探しの方はこちら
コラムに対する投稿内容については、株式会社LITALICOがその内容を保証し、また特定の施設、商品及びサービスの利用を推奨するものではありません。投稿された情報の利用により生じた損害について株式会社LITALICOは一切責任を負いません。コラムに対する投稿内容は、投稿者の主観によるもので、株式会社LITALICOの見解を示すものではありません。あくまで参考情報として利用してください。また、虚偽・誇張を用いたいわゆる「やらせ」投稿を固く禁じます。「やらせ」は発見次第厳重に対処します。