たった2文字の「うん」に心が震えて――自閉症のわが子を育てる中での思い
ライター:立石美津子
息子は21歳、知的障害を伴う自閉スペクトラム症があります。息子が私に「今日は涼しいね」と自ら言ってきました。自閉スペクトラム症として相手に共感を求める言葉を発するのはめったにないことです。この言葉を聞いて、私は感動し、喜びました。
監修: 鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
1959年東京都生まれ。1985年秋田大学医学部卒。在学中YMCAキャンプリーダーで初めて自閉症児に出会う。同年東京医科歯科大学小児科入局。
1987〜88年、瀬川小児神経学クリニックで自閉症と神経学を学び、栃木県県南健康福祉センターの発達相談で数々の発達障がい児と出会う。2011年、茨城県つくば市に筑波こどものこころクリニック開院。
共感の言葉が欲しい
幼い自閉スペクトラム症の子を育てている知人も次のように話していました。
「今までで一番嬉しかったことは、オウム返しだった息子が、母親の声かけに対して『うん』と答えたこと」
私には知人の嬉しい気持ちがとてもよくわかります。「う・ん」これはたった2文字の言葉ですが、立派な会話だからです。
「今までで一番嬉しかったことは、オウム返しだった息子が、母親の声かけに対して『うん』と答えたこと」
私には知人の嬉しい気持ちがとてもよくわかります。「う・ん」これはたった2文字の言葉ですが、立派な会話だからです。
息子は2才ごろから言葉を話せるようになりましたが、動物園に連れて行くと、ゾウの展示の前で、全くゾウと関係ない、大好きなトイレの便器の型番をずっとブツブツと言っていました。
「象がいるね」と話しかけたら、息子に「うん」と言って欲しかったものです。だから、知人の気持ちがとてもわかるのです。
小さな成長がともかく嬉しい
こうした、小さな出来事のように見えるかもしれないことに幸せを感じられるのは、障害のある子の子育ての醍醐味かもしれません。
先日も45リットルのゴミ袋のストックがないのを見て「お母さん、ゴミ袋ないよ」と言ってきました。こんなことでいちいち、心が嬉しくて震えます。
聞かれてもいないのに、「2023年8月3日は木曜日」なんて言えなくていいから、一緒におやつを食べながら、「お母さん、このアイスクリーム、冷たくておいしいね」と言って欲しい…。一緒に外に出たときに、自分から「お母さん、今日は暖かいね」と言って欲しい…。
自閉スペクトラム症のある子どもを育てる親の願いです。
言葉が出ない子どもでも表情で「うん」と答えてくれる、言葉が出るようになってもオウム返しではなく、「これ美味しいね」「今日は寒いね」と親に自ら共感を求める言葉を言ったとき、心が嬉しくて震えるのです。
こういうことに幸せを感じられるとき、私も親として少しは成長をしているのかなと、思うのです。
(監修者・鈴木先生から)
以前私の患者さんでADHDの治療をしたら入浴後に「シャンプーがないよ」と言ってくれたお子さんがいます。治療を継続する中で、自ら気づくようになり、それを記憶して母親に言えるようになったのです。そういうところからも会話が増えることはあります。息子さんも成長してゴミ袋のストックがないのに気づき、忘れないうちに言えるようになったのかもしれません。
返事に関しては周りの大人も気をつけなければいけません。相手に対して大人もきちんと返事をしていれば自然と子どももまねるものです。最初はオウム返しでも構いません。赤ちゃんのころからお子さんの口ずさんだことに対して無視せずにその子の顔の前で必ず反応してあげることが大切です。
先日も45リットルのゴミ袋のストックがないのを見て「お母さん、ゴミ袋ないよ」と言ってきました。こんなことでいちいち、心が嬉しくて震えます。
聞かれてもいないのに、「2023年8月3日は木曜日」なんて言えなくていいから、一緒におやつを食べながら、「お母さん、このアイスクリーム、冷たくておいしいね」と言って欲しい…。一緒に外に出たときに、自分から「お母さん、今日は暖かいね」と言って欲しい…。
自閉スペクトラム症のある子どもを育てる親の願いです。
言葉が出ない子どもでも表情で「うん」と答えてくれる、言葉が出るようになってもオウム返しではなく、「これ美味しいね」「今日は寒いね」と親に自ら共感を求める言葉を言ったとき、心が嬉しくて震えるのです。
こういうことに幸せを感じられるとき、私も親として少しは成長をしているのかなと、思うのです。
(監修者・鈴木先生から)
以前私の患者さんでADHDの治療をしたら入浴後に「シャンプーがないよ」と言ってくれたお子さんがいます。治療を継続する中で、自ら気づくようになり、それを記憶して母親に言えるようになったのです。そういうところからも会話が増えることはあります。息子さんも成長してゴミ袋のストックがないのに気づき、忘れないうちに言えるようになったのかもしれません。
返事に関しては周りの大人も気をつけなければいけません。相手に対して大人もきちんと返事をしていれば自然と子どももまねるものです。最初はオウム返しでも構いません。赤ちゃんのころからお子さんの口ずさんだことに対して無視せずにその子の顔の前で必ず反応してあげることが大切です。
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