最低気温5度でも半袖登校!感覚過敏と鈍麻のせい?服装調節苦手なASD息子とつくった「あるルール」とは?

ライター:丸山さとこ
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神経発達症(発達障害)のあるコウの感覚には、過敏と鈍麻の両方があると感じることがあります。一般的なお菓子を「甘すぎる」と拒否したかと思えば、酸っぱい果物は平気で食べたりします。そんな彼は寒暖の感じ方も独特で、特に寒さは感じにくいようです。

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監修: 新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
2003年信州大学医学部卒業。小児科医師として、小児神経、発達分野を中心に県内の病院で勤務。2010年信州大学精神科・子どものこころ診療部で研修。以降は発達障害、心身症、不登校支援の診療を大学病院及び一般病院専門外来で行っている。グループSST、ペアレントトレーニング、視覚支援を学ぶ保護者向けグループ講座を主催し、特に発達障害・不登校の親支援に力を入れている。 多様な子育てを応援するアプリ「TOIRO」の制作スタッフ。

もう気温は一桁なのに!?クラスで残り2人の半袖になったコウ。

市販のお菓子を「甘すぎて食べられない」と拒否するコウに、「普通の飴とチョコを拒否…」と戸惑う私。その一方で、夫と私が食べられない程酸っぱいオレンジは「レモンみたいでおいしい」と喜んで食べるコウ。感覚の過敏と鈍麻があるコウは寒暖の感じ方も独特。『今日は晴れ。予想最高気温13℃、予想最低気温5℃です』という予報を聞いている半袖のコウ。朝食のパンを食べながら「晴れかー」と言うコウに、「気温も気にして」と突っ込む私。
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神経発達症(発達障害)のあるコウの感覚には、過敏と鈍麻の両方があると感じることがしばしばです。

子どもが好んで食べる一般的なお菓子を「甘すぎて食べられない」と言って拒んだかと思えば、私や夫が顔をしかめるほど酸っぱい果物を全く平気で平らげたりするので、私も「好みの問題ではないのだろうな」と思って見守っているところがあります。

見ているこっちが寒い!(夫談)

そんな彼には、味覚のほかにも鈍麻を感じることがあります。主に寒さに対してです。小学生のころは若干暑さに対しても鈍いところがありましたが、年齢が上がるに従って次第に暑がりになっていきました。

昨年は、冬が近づき朝の気温が一桁になってからも半袖で登校していたため、それを見た夫にしょっちゅう「見ているこっちが寒いわ!」と言われていました。私も「もう気温も一桁だし長袖にしたら?」と言いましたが、コウは「全然寒くない。長袖着たら暑くて倒れちゃうよ」と半袖登校を続けていました。
朝、半袖を着てリュックの支度をしているコウを見て「見てるこっちが寒いわ!」と突っ込む夫。それを見て「それは本当にそう思う。君は夏を生きてるな…」と夫に同意する私。
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ついにクラス内の半袖登校が2人になったとき、コウを除いた1人は筋肉がしっかりついたガッチリ体系の男子で『確かに寒くはないのかも』と思うビジュアルの生徒でした。

そこのところ、コウは筋肉控えめの細身な男子であるため見た目の「寒そう!!」な印象が強く、実際体温もそう高くはないため、私と夫は『本当に寒くないのだろうか?』と心配していました。

寒いときに(寒さを感じなくても)暖かい恰好をすることは大切!

半袖登校を続けていたコウでしたが、ついに…

「本当~に寒くないの?」と心配する両親の思いと毎朝の口出しをよそに、毎朝元気いっぱいに登校していくコウ。せめてと思い長袖のシャツを持たせるようにしましたが、彼は一向に着替えようとしません。

「最後の1人になるか、最高気温も一桁になるかしたら、あきらめて着替えてほしい」と伝えたところ、それは了承してもらえたためひとまず見守ることにしました。
「せめて長袖のシャツ持って行って。リュックに入れさせて!」と言いながらメッシュのポーチに入れたシャツをリュックにしまう私。それを見て「荷物をポーチに入れられるタイプの強制イベントだ…!!」と言うコウ。(背景にゲーム風のセリフを言うキャラクター。「この先は寒くなるぜ!ポーチに上着を入れておいたからな!」)
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そんなある日のこと、帰ってきた彼が少し鼻をぐずつかせているのを見ました。すかさず「これは流石に体が冷えてるんじゃないの~?」と突っ込むと、「うーん、そうなのかな…?」とピンとこない様子のコウ。

「感覚的には納得いかないかもしれないけど、ここはお母さんを信じて上着を着てみてよ。きっと鼻水止まるから」と上着と靴下を渡すと、しぶしぶといった調子ではあるものの着てくれました。
「上着着て体を温めて…マスクして、鼻や口元を保湿しておきなー」と言いながら更にひざかけをコウへ渡そうとする私。上着とマスクを着用したコウは「確かに体が冷えてたかも?」と納得した様子。鼻水も落ちついてきたと言う。
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「どうかな。暖かい恰好すると、少し体がホッとしない?」と聞くと、「う~~~ん…」とよく分からない様子のコウでしたが、次第に鼻のグズつきは落ち着いていったため「確かに体が冷えていたのかも」と納得してくれました。

感覚と「実際に起きていること」がリンクしているとは限らないから

こうして、コウは『自分の感覚』と『実際に体に受けているダメージ』は必ずしもリンクしているとは限らないと(少しだけ)納得してくれました。

『自分としては全く寒いと感じていない気温』も体を冷やして鼻水を出させることがあるのだと気づいたことは、コウにとって大きな経験になったようです。

「これと同じように、『自分としては全く暑くない気温』が熱中症を招くこともあるし、『自分としては全く酸っぱくない果物』が歯にダメージを与えることもあるんだよ」と話すと、いつもより真剣に聞いていました。
「『自分としては全く暑くない気温』が熱中症を招くこともあるし、『自分としては全く酸っぱくない果物』が歯にダメージを与えることもあるんだよ」という私の話を真剣に聞くコウ。
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これ以降、コウは
・クラスメートの半数以上が服装を変えたら調整用の衣類をリュックに入れる
・自分と同じ服装が10人になったら衣服を調整する

と大まかなルールを決めました。

雪が降る季節になってからも学ランの下にセーターを着るなどの対応ができるようになり、「寒さを感じるかどうか」以外に「(気温として)寒い日かどうか」も気にするようになりました。

再び暖かくなったころに適宜脱いで調節することができるか様子を見つつ、本人なりの基準で対応しようとしているコウを見守っていきたいです。
「自分の体感」以外の基準も気にするようになったコウは、雪が振る季節になってからも、学ランの下にセーターを着るなどの対応ができるようになりました。(セーターとネックウォーマーをつけて登校するコウと、見送る私のイラスト)
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執筆/丸山さとこ
(監修:新美先生より)
感覚の過敏と鈍麻の偏りの問題は本当に難しいですね。感じ方の違いについては原則本人の感じ方を尊重して、不快を避けて、快を増やしていくのがよいと思います。ただし健康面や安全に関わるところは、具体的な介入も必要です。
エピソードで伺ったように、衣服の調節についてはしばしば問題になります。寒暖を感じる感覚に鈍麻があると、周囲から見ると寒暖に合わない服装をしていたり、エピソードのように実際に暑すぎたり寒すぎたりして、熱中症になる、風邪をひくといった実害が起きることもあります。また大人から言われれば脱ぎ着できても自分で服装を調節するのはなかなか難しいかもしれません。自分の感じ方を否定されるように一方的に服装のことを指摘されてしまうと、「別に暑くないし(寒くないし)!」と抵抗されることもあるかもしれません。
エピソードで聞かせていただいたように本人の暑さ・寒さの感じ方以外の指標…たとえば天気予報の最高気温・最低気温と対応した調整や、暦の上での目安、体温を測ってみる、震えや汗など体のサイン…などを具体的に知識として知ったり、経験して実感していく中で、寒暖による衣服の調節のスキルを大人になるまでに身に着けていけるといいですね。
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コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如・多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。

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