診断をプレ幼稚園に提出すると、まさかの「退園勧告」が

その後、記憶が曖昧なくらい心も体もせわしなく情緒も不安定な2ヶ月を過ごし、どうにか療育の手続きも済ませ、診断書も手に入れました。そして診断書をプレ幼稚園の先生に提出すると、そのまま初日に行ったあの部屋へと呼び出されました。診断書を提出したあとは今後のことについて話すのだと思いました。加配の先生とか、合理的配慮とかそんな感じの話を。

しかし先生から告げられたのは「本日限りで退園」という言葉でした。

言葉にならない言葉をつなげて「でも…」「だって…」「スバルは幼稚園のある日を楽しみにしていて…」「ほかにも障害のあるお子さんが通っているって…」「もう1年プレクラスにいて年中から正式入園するとか(インターネットで予習した情報)」と食い下がりましたが、その決定を覆すことはできませんでした。

すでに通園している障害のあるお子さんへの加配で先生の人数が足りないのだと説明されました。それでもどうにか…と言葉を探して説得を試みましたが、最終的に園長が個人的なお花見の話をしだしたので、あまりの脈のなさに引き下がるしかありませんでした。

こうしてお友達に挨拶することもなく、裏門からプレの先生1人に見送られてひっそりと退園しました。幼稚園から自宅までスバルの手を引いて歩いて帰りながら、涙を止めることができず垂れ流して帰りました。初めて「社会」から拒否されたことは、まるで世界から拒否されたような絶望感でした。
プレ幼稚園の帰り道、「スバルの人生にこんなことがこれからたくさんあるのか」と思うと涙が止まらない私。スバルが泣いている私の顔を見つめながら「スバル、幼稚園、行かない」と言ってにっこり笑い、私を抱きしめてくれました。
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帰宅するとスバルが泣いている私の顔を見つめながら「スバル、幼稚園、行かない」と言ってにっこり笑いました。その翌週からスバルはプレ幼稚園のある曜日になってもプレ幼稚園の話をしなくなりました。あんなにあんなに楽しみにしていたのに。

スバルが少ない語彙を使って「ぼくはあの幼稚園にこだわらないから気にしなくて良い」と伝えてくれたのだと思いました。
スバルの前で大泣きして気を使わせてしまって申し訳ないやら退園になって悔しいやら複雑な思いを抱えながら、それでも前向きにスバルにピッタリの幼稚園を探そうと決意したのでした。
執筆/星あかり

(監修:初川先生より)
プレ幼稚園からの呼び出し面接、検査・診察を受けてとの指示、さらにその後の「本日限りで退園」の通告。なんと怒涛の日々、次々に来る課題をこなして今後のためにと願う母の思いをばっさりと非情にも切る園の判断。また、そこへ至るまでに自閉スペクトラム症の診断を受け、心の準備は出来ていると思っていたにもかかわらず「障害児」という字面に衝撃を受けたこと。そうしたことのどれをとっても大変な日々だったことと思います。

そもそも、1歳半健診時の「言葉が遅いだけ」という専門家の言葉。言葉が遅いというつらい指摘と、しかし、それさえ追いつけばという希望でもあったのですね。私も専門家の端くれとして保護者の方への言葉の一つひとつに気をつけなければならないなと反省的に受け取りましたが、ただ、実際、手探りの子育ての中で専門家や先生と呼ばれる方の言葉を灯台の明かりのように、そこを頼りに進んでいくのは自然なことであったろうと思います。

ようやく言葉が出始め、プレ幼稚園の通園も始まり、「これからだ!」と期待もひとしおだったことと思いますが、そこでの呼び出し面接と検査・診察を受けるよう言われるのはさぞ衝撃だったことと思います。言葉が出始めたことや検査でのスバルくんの取り組み方や応答に関しては、スバルくんの発達の中でも知的な発達を感じさせる一面であったのだろうと思います。以前に比べたら各段に成長している。それがあかりさんの実感と検査への取り組み状況的にも一致したのだろうと思います。

ただ、自閉スペクトラム症というものは必ずしも知的な発達の遅れを示すものではありません。検査の結果が良かった・悪かったで即決まるものではなく、これまでの育ちの経過や行動や感覚面の育ちに関しての観察や聴取の結果、総合的に診断が下ります。行動としては、集団での行動が難しかったり、周りの人たちへの注意や関心を向けづらかったり、感じ方が独特なために集団の中にいづらかったり、そういう面に特徴が表れることが多くあります。1歳半健診の時点でそうした様子が見られることもあれば、いよいよ集団場面に入る頃合いにそうした様子が目についてくる場合もあります。スバルくん1人だけを見ていてもそのあたりは見えづらく、集団の中に入って初めて、苦手な状況・設定の多さに気づきやすくなった面もあるかもしれないですね。

自閉スペクトラム症かもというところで、すぐに情報を集められ、療育をとお考えになったのは何よりです。お子さんの特性に合うトレーニング等を早期から行うことはお子さんの成長発達に良き効果をもたらします。ただ、幼児期の療育は自治体の福祉の枠組みで行われることも多く、どうしても制度上の区分である「障害児」というくくりがついてくる面もありますね。まだその事実を知って日も浅く、いよいよ突きつけられるその単語はおつらかったことでしょう。

それにしても(あかりさんのプレ幼稚園のコラムでは毎回思いますが)、園の先生の冷たい感じ、きついですね。保護者の方からしたら、園でよりよく生活をするために(園から頼まれた)検査・診察を受け、その結果を活かしてほしいと思うのは当然です。しかし、そこをばっさりと……。毎度思いますが、配慮などできないというスタンスの園にそこを頼みながらやっていくというのはそこから始まる園生活がなかなかに困難であろうことが想像されます。ならば温かく迎えてくださる新しい環境でやっていくほうが、スバルくんの短い「幼稚園時代」を過ごすうえでは実り多きものになるだろうと感じます。

そうすると冷たい園は冷たい園のままで存在し続けるので、それはどうなのかと私は支援者として思いますが、ただそこを今闘うかどうかというところで、母であるあかりさんの「次を探す」という選択はスバルくんにとって良きものになるのではと感じます。
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コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如・多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。

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