小学校高学年なのに「袖をごはんで汚す」「観葉植物をなぎ倒す」のはASDの特性が原因!?ボディイメージを理解する難しさ【専門家アドバイスも】
ライター:丸山さとこ
神経発達症(発達障害)がある息子のコウは、感覚と実際に起きていることが連動しにくいところがあります。小学校高学年ごろまで食事中に服の袖がごはんに当たっていても気づかないこともしばしばでした。
監修: 初川久美子
臨床心理士・公認心理師
東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
臨床心理士・公認心理師。早稲田大学大学院人間科学研究科修了。在学中よりスクールカウンセリングを学び、臨床心理士資格取得後よりスクールカウンセラーとして勤務。児童精神科医の三木崇弘とともに「発達研修ユニットみつばち」を結成し、教員向け・保護者向け・専門家向け研修・講演講師も行っている。都内公立教育相談室にて教育相談員兼務。
東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
お皿に入る服、ぶつかるカバン、観葉植物をなぎ倒すカーテン…
「自分が動かしている物」が触れている物に意識を向ける難しさ
神経発達症(発達障害)がある息子のコウは、小学校高学年ごろまで食事中に服の袖がごはんに当たっていても気づかないことがよくありました。中学生になった今では以前よりも減りましたが、『自分が動かしている物』が何かに触れているとき、それに意識を向けるのが難しいようです。
とはいえ、最近は「カーテンを閉めるときに観葉植物を倒しているよ」と伝えると「あ~本当だ」とすんなり認めてくれるので助かります。
以前は「袖がごはんに当たっているよ」「本をどかしたときに消しゴムを机の上から落としているよ」と伝えても、「え?当たってる?」「あれ?何で?」と起きたことをなかなか認めてくれませんでした。
とはいえ、最近は「カーテンを閉めるときに観葉植物を倒しているよ」と伝えると「あ~本当だ」とすんなり認めてくれるので助かります。
以前は「袖がごはんに当たっているよ」「本をどかしたときに消しゴムを机の上から落としているよ」と伝えても、「え?当たってる?」「あれ?何で?」と起きたことをなかなか認めてくれませんでした。
「感覚」と「実際に起きていること」が連動しにくい?
あまりに頻繁に服の袖が汚れるので、あるとき改めてコウに質問してみました。小学校5年生ごろだったと思います。「袖にごはんが当たっていても気づかないのはなぜ?」に対するコウの主張は以下の通りでした。
・食事中の姿勢において腕の下側の皮膚と服の間には空間があるため、ごはんが当たっている側の皮膚には何も感じない。
・食事中の姿勢では、わざわざ見ようとして腕を持ち上げない限り袖の下側は見えない。
・これらのことから、食事中の袖の下で起きていることなど、感じることも見ることもできないのに分かるはずがないのは明らかだ。
・食事中の姿勢において腕の下側の皮膚と服の間には空間があるため、ごはんが当たっている側の皮膚には何も感じない。
・食事中の姿勢では、わざわざ見ようとして腕を持ち上げない限り袖の下側は見えない。
・これらのことから、食事中の袖の下で起きていることなど、感じることも見ることもできないのに分かるはずがないのは明らかだ。
コウの話を聞いた私は、「彼からすれば自分の体験に基づいた根拠のある言い分があるのだな」と思いました。
「自分が動かしている物」から伝わる感覚を理解しよう!
袖にごはんが触れたとき、感覚が伝わるのは主に「腕の上側や横側」!
確かにコウの言う通り、ごはんは腕の下側には当たりません。ですが、『服に何かが触れた感覚』は分かるはずです。そう話してもコウは「そんなの分かるわけない」といぶかしんでいるので、彼の袖の下側に触れながら改めて説明をしてみました。
「服の布は、腕の上や横には当たっているでしょう?目を閉じて、そこの布が動くのを感じてみて」と促すと、彼は「…本当だ!袖に当たったり離れたりしているのが分かる!」と驚きました。
「服の布は、腕の上や横には当たっているでしょう?目を閉じて、そこの布が動くのを感じてみて」と促すと、彼は「…本当だ!袖に当たったり離れたりしているのが分かる!」と驚きました。
「物は袖の下に当たっているのに、感触は上側に生まれるんだねぇ…」と不思議そうに感心していたコウは、それ以降「皮膚に直接当たってないのに分かるわけないじゃん!」と突っぱねることはなくなりました。
こうして理屈と感覚は理解できたとはいえ、それまで意識していなかった『見えない位置の感覚』『間接的に当たっている物の手ごたえ』が急に分かるようになるはずはありません。そのため、この話をしてからも相変わらず袖を汚すことはありました。
ですが、「できるはずがないことを無理強いされている」という不信感は和らいだようでした。
こうして理屈と感覚は理解できたとはいえ、それまで意識していなかった『見えない位置の感覚』『間接的に当たっている物の手ごたえ』が急に分かるようになるはずはありません。そのため、この話をしてからも相変わらず袖を汚すことはありました。
ですが、「できるはずがないことを無理強いされている」という不信感は和らいだようでした。
見えないところには不思議がいっぱい!(かもしれない)
自分が直接触れて動かしている物ではない『間接的に触れている物』への影響を理解するのが難しいのは、私も何となく分かります。息子と同じく神経発達症がある私の場合は、自分の体であっても『見えていない部分』への意識がおろそかになりがちです。
定型発達とされる子どもであったとしても、幼児のころは『自分の体が影響する範囲』や『自分が持っている物が影響する範囲』がつかみきれておらず、動きにも不器用さが見られることは珍しくありません。
定型発達とされる子どもであったとしても、幼児のころは『自分の体が影響する範囲』や『自分が持っている物が影響する範囲』がつかみきれておらず、動きにも不器用さが見られることは珍しくありません。
コウや私は、今でもまだその部分において発達の途中にいるのかな?と思っています。今でも不器用な中年として毎日を送っている私ですが、子どものころによくあった『何もないところでコケる』現象は起きなくなりました。
でもこれは「単に活発に動かなくなっただけかもしれないな…?」という一抹の不安もあるので、たまには体を大きく動かすようなアクティビティをしてみようと思います。
でもこれは「単に活発に動かなくなっただけかもしれないな…?」という一抹の不安もあるので、たまには体を大きく動かすようなアクティビティをしてみようと思います。
執筆/丸山さとこ
(監修:初川先生より)
面白いですね。「『自分が動かしている物』が触れている物に意識を向ける難しさ」。そこまで意識(注意・関心)が向かないからこそ、ちょっとした事故(服を汚す、観葉植物を倒すなど)につながる。例えばこれは、ボディイメージの苦手さ(自分の「身体」がどこまでか、どう動いているかを認識することの苦手さ)でも説明されるかもしれません。
この場合のボディ・身体は単に皮膚に包まれた肉体のことに限らず、服やカバン、そして作用するものも含めた「拡張した身体」のことになります。こうしたことを考え始めると、身体とは何かという哲学的な問いに出合います(例えば、他人の身体を触ることは痴漢になるけれど、じゃあ、身体と洋服の間の空間に手を入れるのは痴漢じゃないのか…と考えてゆくと、身体は肉体よりも広い概念であると分かると思います)。
そんな哲学的な問い、身体論が私は頭に浮かびましたが、生活上必要なことでいえば、さとこさんがしてくださったように、感覚に意識を向けて、感じ取る練習をしてみるということですね。袖の下部の動きは袖の上部(肌と接するところ)の微細な動きで感じるなど、今まであまり意識してこなかったがゆえに意識に上りづらかったことを意識化してみるということ。
その練習は、発達的な特性ゆえにそうしたことへ注意を向けにくいお子さんには良さそうです。見えないものは「ない」、感じないものは「ない」となりがちなお子さん方に、これまで意識してこなかったから「見えない」ものを「あえてしっかり見る」、「その感覚に注意を向ける」。認識することで、「身体」が広がるかもしれませんね。
面白いですね。「『自分が動かしている物』が触れている物に意識を向ける難しさ」。そこまで意識(注意・関心)が向かないからこそ、ちょっとした事故(服を汚す、観葉植物を倒すなど)につながる。例えばこれは、ボディイメージの苦手さ(自分の「身体」がどこまでか、どう動いているかを認識することの苦手さ)でも説明されるかもしれません。
この場合のボディ・身体は単に皮膚に包まれた肉体のことに限らず、服やカバン、そして作用するものも含めた「拡張した身体」のことになります。こうしたことを考え始めると、身体とは何かという哲学的な問いに出合います(例えば、他人の身体を触ることは痴漢になるけれど、じゃあ、身体と洋服の間の空間に手を入れるのは痴漢じゃないのか…と考えてゆくと、身体は肉体よりも広い概念であると分かると思います)。
そんな哲学的な問い、身体論が私は頭に浮かびましたが、生活上必要なことでいえば、さとこさんがしてくださったように、感覚に意識を向けて、感じ取る練習をしてみるということですね。袖の下部の動きは袖の上部(肌と接するところ)の微細な動きで感じるなど、今まであまり意識してこなかったがゆえに意識に上りづらかったことを意識化してみるということ。
その練習は、発達的な特性ゆえにそうしたことへ注意を向けにくいお子さんには良さそうです。見えないものは「ない」、感じないものは「ない」となりがちなお子さん方に、これまで意識してこなかったから「見えない」ものを「あえてしっかり見る」、「その感覚に注意を向ける」。認識することで、「身体」が広がるかもしれませんね。
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コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如・多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如・多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。