発達障害息子、災害や避難生活の予行練習にも!?感覚過敏、こだわりがあるからこその【ファミリーキャンプのすすめ】
ライター:丸山さとこ
現在中学生の息子のコウにはASDとADHDがあります。小さな頃は少し感覚過敏がありました。わが家ではそんな彼にとっての『今では平気になった刺激』をときどき暮らしに取り入れるようにしており、その一環として家族でキャンプに行くことがあります。
監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
年に数回キャンプへ行くわが家です
少し感覚過敏があったコウ
現在中学2年生の息子のコウにはASDとADHDがあり、発達障害の特性からか小さな頃は少し感覚過敏がありました。音や光のほかに『肌に触れるもの』への過敏さがあり、1~3歳の頃は食事中に何度も手を拭きたがったりしました。保育園に入ってからは、砂場の砂がつく度に何度も手や服を払う姿が見られたこともありました。
多くの過敏さは年齢と共に緩和されていきましたが、それで「平気になってよかったね!」とは言えないのがコウです。コウは、一度平気になったはずのものでも、しばらく触れることがないと再び受けつけなくなることがしばしばあります。そのため、平気な状態が持続するように『かつて過敏が見られたが一度平気になった刺激』を定期的に彼の暮らしに取り入れるようにしています。
その一環として、わが家は年に数回キャンプに行くようにしています。
多くの過敏さは年齢と共に緩和されていきましたが、それで「平気になってよかったね!」とは言えないのがコウです。コウは、一度平気になったはずのものでも、しばらく触れることがないと再び受けつけなくなることがしばしばあります。そのため、平気な状態が持続するように『かつて過敏が見られたが一度平気になった刺激』を定期的に彼の暮らしに取り入れるようにしています。
その一環として、わが家は年に数回キャンプに行くようにしています。
感覚過敏が再び現れないための「予防的アウトドア活動」
読書やゲームやプログラミングなど、小学生になったコウの好きな遊びはインドアなものが多いです。そのため、学校がない日の彼は、一日中空調の効いた部屋で汗や砂埃とは無縁の暮らしをしています。
夏休み中は、1週間家から一歩も出ないことも珍しくありません。
夏休み中は、1週間家から一歩も出ないことも珍しくありません。
そんなコウを見て、「このままだと、光や汗や砂埃の刺激で無自覚に疲れやすくなっていくだろうな」と思ったことから始まったのがわが家のファミリーキャンプでした。キャンプに初めて行った4歳頃は虫のいるトイレや岩の段差などを怖がっていたコウでしたが、少しずつ慣れてきて楽しむようになってきました。
キャンプに行き始めて10年の今では、自分のお年玉でテントやチェアを買うくらいキャンプが好きになったコウと共に、災害への備えの点検も兼ねてキャンプに行っています。
キャンプに行き始めて10年の今では、自分のお年玉でテントやチェアを買うくらいキャンプが好きになったコウと共に、災害への備えの点検も兼ねてキャンプに行っています。
無理強いしないように負担は少なく、少しずつ…
まずはデイキャンプから
家族でキャンプへ行くにあたって、まずは「親も子も無理がないように」を指針にしました。そのため、最初はデイキャンプ(日帰りのキャンプ)から始めるようにしました。
子どもの頃は外遊びも好きだった私ですが、大人になってからはインドアな趣味が多く、長時間の野外での活動には自信がありませんでした。コウを見ながら遊びや食事の段取りをすれば、どこかでミスが出るだろうと思いました。
子どもの頃は外遊びも好きだった私ですが、大人になってからはインドアな趣味が多く、長時間の野外での活動には自信がありませんでした。コウを見ながら遊びや食事の段取りをすれば、どこかでミスが出るだろうと思いました。
また、キャンプ場は自宅から1時間半以内のところを選ぶようにしました。何かあっても自宅やかかりつけ医に行きやすく、移動の負担も少ないからです。
コウが怖がることは無理強いしないようにも意識していました。悪い印象がついたら、あとあと凄く困ることが予想できたからです。
不安定な足場や少し高い段差やお肉を食べることなど、キャンプ中にコウが嫌がることはいろいろありました。そんなときは、「1回試してみる?」とすすめるようにはしていました。それで彼が拒否しても、「そっかー。『やってもいいよ』って思うときがあったら教えてね」とすぐ退くようにしていました。
コウが怖がることは無理強いしないようにも意識していました。悪い印象がついたら、あとあと凄く困ることが予想できたからです。
不安定な足場や少し高い段差やお肉を食べることなど、キャンプ中にコウが嫌がることはいろいろありました。そんなときは、「1回試してみる?」とすすめるようにはしていました。それで彼が拒否しても、「そっかー。『やってもいいよ』って思うときがあったら教えてね」とすぐ退くようにしていました。
キャンプは楽しいけれど危険もたくさん!
キャンプは楽しいものですが、水難事故・虫さされ・野生生物との接触など危険もたくさんあります。タープはワンタッチで広がるものにし、食事は家でつくってくるか道中で買うなどしてできるだけ省力化し、コウから極力目を離さないようにしました。
事前にキャンプのリスクを説明し、コウがルールを守って動けるかを見ながらキャンプの内容を少しずつ発展させていきました。迷子になったときのために、キッズケータイ(GPSの探知機能つき)をウエストポーチに入れたりもしました。
事前にキャンプのリスクを説明し、コウがルールを守って動けるかを見ながらキャンプの内容を少しずつ発展させていきました。迷子になったときのために、キッズケータイ(GPSの探知機能つき)をウエストポーチに入れたりもしました。
『キャンプ中の危険』には、火を扱うことも含まれていると思います。焚火や炭火焼によるやけどや延焼の危険のほか、「火への恐怖心が薄れすぎて火遊びをしたりしないだろうか?」という可能性も気になりました。ですが、いずれ学校で火を扱うことになることを考えて、先に家庭で火の危険性を教えておくことにしました。
焚火に薪や葉をくべながら火の危険性を説明していくと、コウは「火は『全然燃えないな』と思った後でも気がついたらあっという間に広がるし、消えたと思ってもまだ危ないことがあるのがよく分かる」と言いました。
焚火に薪や葉をくべながら火の危険性を説明していくと、コウは「火は『全然燃えないな』と思った後でも気がついたらあっという間に広がるし、消えたと思ってもまだ危ないことがあるのがよく分かる」と言いました。
キャンプでの経験は、理科の実験で役に立つ?
そうして薪のくべ方や火に近づきすぎないことなどを何度も練習した結果、コウは「火は楽しくて危ないものと分かった」と言うようになりました。今では親の許可のもとで自分用の小さな焚火台を使うこともあります。マシュマロなどを炙って食べる彼を見ていると、火の扱い方に危なげなところはなくなってきたなと思います。
また、理科の実験でアルコールランプを使った際には、マッチを擦ったり火を消したりして周囲から頼られたと喜んでいました。
また、理科の実験でアルコールランプを使った際には、マッチを擦ったり火を消したりして周囲から頼られたと喜んでいました。
燃焼の仕組みについても説明しながら焚火をしたため、「芯じゃなくて、気化したアルコールが燃えているんだってこともよく分かったよ」とニコニコ話すコウを見て、『こんな風に物事が上手く噛み合うこともたまにはあるんだなぁ…』としみじみしました。
大抵はやることなすこと噛み合わずに空振りなので、たまに上手く噛み合うと驚きます。支援も経験も「何でそうなる?」と「あ~、そうきたか~!」の繰り返しの毎日ですが、たまに訪れる「上手いこと噛み合いましたね」を少しずつ積み重ねていけたらいいなと思います。
大抵はやることなすこと噛み合わずに空振りなので、たまに上手く噛み合うと驚きます。支援も経験も「何でそうなる?」と「あ~、そうきたか~!」の繰り返しの毎日ですが、たまに訪れる「上手いこと噛み合いましたね」を少しずつ積み重ねていけたらいいなと思います。
執筆/丸山さとこ
(監修:井上先生より)
ファミリーキャンプ は、日常生活のなかで体験できない貴重な経験ができる機会です。ともすれば、親にとっても大きな負担にもなるファミリーキャンプをデイキャンプからステップアップされたのは、すばらしい発想ですね。
さとこさんもコラムのなかで触れられていたように、キャンプ経験は災害時の避難場所での予行演習にもなるのではないかと思います。
今後も年齢に応じたステップアップやバリエーションを考えてみると良いかもしれません。
(監修:井上先生より)
ファミリーキャンプ は、日常生活のなかで体験できない貴重な経験ができる機会です。ともすれば、親にとっても大きな負担にもなるファミリーキャンプをデイキャンプからステップアップされたのは、すばらしい発想ですね。
さとこさんもコラムのなかで触れられていたように、キャンプ経験は災害時の避難場所での予行演習にもなるのではないかと思います。
今後も年齢に応じたステップアップやバリエーションを考えてみると良いかもしれません。
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如・多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。