「完食指導」「三角食べ」で給食がトラウマに。発達障害の私が思う「食事」の意味

ライター:宇樹義子
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食欲の秋。今は食事を楽しんでぷくぷくしている私ですが、昔は少食でいつも痩せていました。ときどき、小学校時代の給食のつらい思い出を思い返すことがあります。今回は、ASD(自閉スペクトラム症)のある私の、小学校時代の給食の思い出についてお伝えします。

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監修: 鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
1959年東京都生まれ。1985年秋田大学医学部卒。在学中YMCAキャンプリーダーで初めて自閉症児に出会う。同年東京医科歯科大学小児科入局。 1987〜88年、瀬川小児神経学クリニックで自閉症と神経学を学び、栃木県県南健康福祉センターの発達相談で数々の発達障がい児と出会う。2011年、茨城県つくば市に筑波こどものこころクリニック開院。

三角食べができなかった理由

私はいわゆる「三角食べ」ができませんでした。三角食べとは、私が子どもだった数十年前に推奨されていた食事のしかたです。おかず→ごはん→汁物 のように、順序よく代わるがわる食べていって、すべてのお皿をほぼ同時に食べ終わるのがマナーがよく、身体にもいい、というように言われていました。

三角食べができなかった理由を自分なりに思い返すと、「食べ物の味や食感が混ざるのが嫌だった」「それぞれのお皿が『未完了』であることが気持ち悪かった」ことが思い当たります。

ごはんはごはんだけ、おかずはおかずだけを口に入れて、それぞれのシンプルな味を楽しみたかったし、ひとつのお皿に手をつけたらそれを食べ終わってお皿を空にするまで、何か中途半端なようで落ち着きませんでした。ASDの感覚過敏やこだわりからくるものだったのだろうと思います。

家では「ごはんをおかずにごはんを食べる」「コース料理のように食べる」などと揶揄され、学校ではお行儀が悪いとして叱責されました。

三角食べには、食べ残した際にもそれぞれの品が少しずつ残るので比較的栄養バランスが保てるなど、メリットもあるようですが、最近では「管理教育ではないか」という指摘もあり、下火になっているようですね。

楽しく食べることができなかった学校給食

私は学校での給食の時間を楽しめませんでした。三角食べができないことだけがその原因だったわけではありません。

戦後すぐの、栄養補給目的での脱脂粉乳が名残と思われる、給食に毎日ついてくる牛乳。これが私は嫌でしかたなかった……牛乳自体は好きなのですが、食事についてくるのが牛乳だけで、和食にも牛乳がついてくるので、味覚が敏感な私は、味覚上のミスマッチが許せなかったのです……。

今はメニューのほかの部分で栄養補給ができるようになったこともあり、和食にはお茶がついてきたりするようですね。

私が小学生だった当時、私の地域では厳しい完食指導がなされていました。ともかく全て食べ終わるまで席を立ってはいけない。給食のあとは掃除の時間なのですが、掃除で埃が立ち込める中で担任がびったりと机に張りついて、児童が食べ終わるまで監視したり、ひどい場合は無理やり口に入れて顎をつかんで噛ませたりと、まるで苦行のようでした。

当時、私はクラスメートからいじめられておりバイキン扱いされていたため、私が給食当番でよそったものを受け取ってもらえなかったり、私にだけ給食が配ってもらえなかったりも……。

そんなわけで、学校給食のことを思い返すと、いつもちょっと苦しくなります。

大人になって知った食事の楽しさ

今の私は、食事を存分に楽しんでいます。特に、うちでは夫が食事当番なので、夫が愛情込めてつくってくれる食事を、会話を楽しみながらゆっくり食べるのが何より幸せです。

食事とは、「行儀のよい、なんでもよく食べる立派な大人になる」ためのものではなく、そこに込められた愛や世界の美しさによって本人の心と身体を養い、人生を楽しませるためのものだと、今は思っています。

子どもが偏食が激しくて、白いものしか食べられないとか、特定のお菓子やチョコレートバーしか食べないとかだったりすると、保護者の方は本当に心配でしょうし、「甘やかしているのではないか」などといった周囲からの指摘にも苦しんでいるかもしれません。

でも、偏食はあるとき突然治ったり、年齢を重ねるごとにだんだん治っていくケースが多いとも聞きます。チョコレートバーだけでちゃんと大人になるまで成長したという偏食の子の例も知っています。身体の栄養が心配ならば、今は良い栄養剤やサプリ、栄養バランスに工夫をしたお菓子などの代替手段もありますし、心の栄養であれば、一緒に楽しくおしゃべりしながらテーブルを共にする時間があればそれで十分なのではないかと思います。

学校の先生や近所の人も含め、世の中にはいろいろな考えの人がいますが、わが子はかけがえのないわが子です。他人の意見に左右されたとて、残念ながらその誰かが結果に責任を負ってくれるわけでも、保護者さん以上にその子を思ってくれるわけでもありません。今ある環境の中で、保護者さんの思うベストを尽くしていければそれだけで素晴らしいことだと思います。

文/宇樹義子
(監修・鈴木先生より)

食育は教育の一環として日本では扱われています。給食の楽しさを追求するならアメリカのランチのように外で自由に何でも食べられる工夫も必要です。教室ではなく廊下にシートを敷いてみんなでワイワイと食べるのが楽しい食事なのかもしれません。
ただ、自閉スペクトラム症のお子さんは一人が好きな場合も多くみられ、そういう場合、孤立してしまう傾向があります。その時には担任を囲んで食べるという工夫もあります。
お弁当なら自分の好きなものを持ってきて食べることができます。親御さんは大変ですが食事を自由に選べる配慮も必要です。完食の強制ではなく、食べられるものが選択できるという時代に来たのではないでしょうか。
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https://h-navi.jp/column/article/35029667
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。


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