【精神科医・本田秀夫】「勉強が苦手なだけでは専門家に相談できない」は誤解。気づきにくい軽度知的障害と境界知能の子どもの困難

ライター:本田秀夫
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もしもお子さんに「勉強が苦手」という悩みがある場合、「家庭で対処しなければ」と思っていませんか? 「勉強が苦手というのは、医療につながるような大きな問題ではない」と考えていませんか? そう考えずに、ぜひ地域の教育相談窓口や医療機関などに相談してもらえればと思います。

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執筆: 本田秀夫
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授
附属病院こどものこころ診療部長
発達障害に関する学術論文多数。日本自閉症スペクトラム学会会長。

小学校に入って、勉強面で苦労する

中等度以上の知的障害がある場合、幼児期に気づかれやすく、小学校から特別支援教育を受けることもあります。一方、軽度知的障害や境界知能(知的機能が「知的障害」と「正常知能」の境界域にある状態)の場合、幼児期には気づかれず、小学校で通常学級に入ることもあります。その場合、入学後に勉強面で苦労することになりがちです。結果として失敗体験を繰り返し、自信を失ってしまう子もいます。本人が毎日を楽しく過ごせているか、学校の授業や活動で達成感を持てることがあるか、丁寧にみていく必要があります。
・軽度知的障害の場合
軽度知的障害の子が、小学校で通常学級の授業についていくのは、簡単ではありません。入学当初から、授業を理解することに苦労する場合が多いのです。

小学校低学年くらいまでは、親につきっきりで宿題をみてもらったりして、授業にどうにかついていく子もいます。しかし多くの場合、中学年くらいからはそれも難しくなってきます。時間をかけて各教科の内容を覚えても、何日かたつと忘れてしまっていたりして、本人が挫折を感じることが増えていきがちです。

そうなってしまう前に、なんらかの支援を受けたいところです。知的障害があることが分かれば、特別支援教育を受けることもできます。
小1の段階で、親がつきっきりで勉強をみないと、子どもがついていけないことも…… 『知的障害と発達障害の子どもたち』 (SB新書) 本田秀夫・著 イラスト:村山宇希
小1の段階で、親がつきっきりで勉強をみないと、子どもがついていけないことも…… 『知的障害と発達障害の子どもたち』 (SB新書) 本田秀夫・著 イラスト:村山宇希
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・境界知能の場合
境界知能の子も通常学級の授業についていくのは難しいのですが、それでも時間をかけて勉強すれば、ある程度は内容を理解できて、テストで一定の点を取れたりもします。その場合、本人は何を学ぶにしても人一倍頑張っているのですが、その苦労が親や先生にはなかなか理解されません。

大人たちには、むしろ「やればできる子」と思われていたりします。テストでいい結果が出なかったときには「勉強不足」とみなされたりもします。本人はすでに限界まで努力しているのに、親や先生から「もっと頑張って!」と言われてしまうことがあるのです。

このタイプの子は一生懸命頑張っても、いつも同級生よりも少し遅れをとるような形になりがちで、自信を持ちにくいです。早く支援を受けて、その子に合ったペースで学べるようにしていきたいところです。

しかし、境界知能では特別支援教育を受けられない地域もあります。境界知能の子は勉強面で苦労していても、補習を受ける程度のサポートしか受けられないこともあるのです。2024年現在では、そういった地域のほうが多いかもしれません。この問題は、早く解決しなければいけないことだと思っています。
境界知能の場合、勉強が苦しくなってきても、努力が足りないと思われてしまうことも 『知的障害と発達障害の子どもたち』 (SB新書) 本田秀夫・著 イラスト:村山宇希
境界知能の場合、勉強が苦しくなってきても、努力が足りないと思われてしまうことも 『知的障害と発達障害の子どもたち』 (SB新書) 本田秀夫・著 イラスト:村山宇希
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苦労しているけど、支援につながらない

軽度知的障害や境界知能の子は勉強面で苦労する場合が多いのですが、それがきっかけとなって支援につながるかというと、そうとは限りません。「勉強が苦手」ということで、医療機関に相談にくる家庭は多くないのです。

子どもが、「授業の内容が分からない」「授業中に指名されたとき、うまく答えられない」「先生の指示を聞き逃して、出遅れてしまう」といった場面を何度も経験して困っているのであれば、地域の教育相談窓口や医療機関に相談してもいいのですが、その段階で支援につながるケースは少数です。

子どもが心身の調子を崩したり、不登校の状態になったりしてから、初めて相談窓口を利用するケースのほうが多くなっています。

「勉強が苦手なだけでは相談できない」という誤解

そうして相談にこられた親御さんと話していると、「勉強が苦手なだけでは、こういうところで相談できないと思っていました」と言われることがあります。そして、以下のような話になります。

「授業についていけないのは、本人の努力が足りないからだと思っていた」
「勉強時間を増やして、みんなに追いつけるようにしなければ、と焦っていた」
「親が宿題をみるようにして、家庭学習の習慣をつけてきた」
「この問題は、家庭内の工夫で解決していくことだと考えていた」
「でも時間をかけてもうまくいかなくて、困っていた」


このように「勉強ができないのは努力不足であって、人に相談するようなことではない」と考えるのは、大きな誤解です。いろいろと工夫をしてもうまくいかなくて困っているのであれば、「勉強が苦手で困っている」ということを相談してもいいのです。
次ページ「「勉強が苦手」ということを相談してもいい」

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