父親が子育ての戦力になるには?「子どもが発達障がいだとわかったとき パパがやること全部」【著者インタビュー】

ライター:発達ナビBOOKガイド
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合同出版
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「保育園の保護者会にはパパの姿がほとんど見えない。パパはどこにいるんだろう?」 これは、橋謙太さんが『子どもが発達障がいだとわかったとき パパがやること全部』(合同出版)を書いた、大きなきっかけでした。日本の父親の育休取得率は17.13%(令和4年厚労省)にまで上がったものの、まだまだ育児の現場にはママの姿が多いというのが現状です。「パパたちはどこにいるの?」を考え続ける著者・橋さんにお話を伺いながら、本書をご紹介します。

子育てで「パパがやること」を具体的に提示しながら、パパもママも「働き方」を考える本

本書は、著者の橋さん自身が、今22歳の娘さんが3歳のときに発達障害ということがわかったときから就職するまでの実際の道のりを追いながら、父親としてどう行動したらいいのか、を書いた本です。橋さん自身は、20代のころにバックパッカーを経験し、その後ブラジルで働いていた時代があり、そのことが自身の子育て観や、「何のために働くのか」という意識にも大きく影響しているといいます。父親・母親関係なく、日本で働く一人の人間として、どう生きたらいいのか、ということまで掘り下げて考えるのが本書です。

ただ人生について掘り下げて考えると言っても、哲学的・抽象的なことだけを述べているのではありません。
「家族はチーム!みんなで助け合う」という考え方の図。パパ・ママ・子どもの三角形で、それぞれお互いに助け合えることを図化して見せている。
57ページより
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「家族はチーム」という考え方をベースにして、「では実際にどうしたらいいのか」について、「chapter 3家族というチームを動かす」、「chapter4パパができる子育て」の中で、具体的に書かれています。「父親から「親」になるアイディア1~3」、「パパができる子育て1~5」については、今日・今からすぐ実践できることばかりです。
「chapter4 パパができる子育て」より、マンガで、保育士さんとパパ(著者)が子どもの様子についての面談をしている様子が描かれている。
95ページより
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本書では要所要所に橋家の子育ての様子がマンガで紹介されています。そこに登場する橋さんは、保育園と家庭の連携役もできる人。そんな橋さんだからできることなのでは?と思われそうですが、どうしたらできるのか、何がポイントなのかを細かく解説しています。
園(保育園、こども園等)と情報共有するときのポイントが書かれている。①配布物で共有 ②連絡帳で共有 ③保育士さん・先生との面談で共有、それぞれのポイントの解説がある。
110ページより
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とはいえ、一つひとつの具体的な行動も、日本で働く個人として、そして発達障害のある子どものパパとして、今のままでほんとうにいいのか?という根本的な問いが重要になります。

保護者会に「代理」で来るパパ

ここからは、著者の橋さんへのインタビューで、発達障害のある子どもを育てるパパの「生き方」について考えていきます。

発達ナビ編集部(以下――)発達障害のあるお子さんを育てるパパのための本を書く、きっかけとなったことを、まずは教えてください。

橋謙太さん(以下、橋):私が娘を育て始めたころ、周りのパパたちは保育園の運動会や発表会には喜んで来るのに、保護者会には滅多に来ない、という状況でした。もちろん、送り迎えをするパパや赤ちゃんを抱っこして外出するパパは年々増えていると思います。ですが、最近も周りの若いパパたちに聞いてみましたが、保育園や学校などではパパの姿を見ないという状況はあまり変わっていないそうです。

特に、療育センターや特別支援学級では、パパの姿はほとんど見かけませんでした。

ある時、小学校の保護者会に、僕以外のパパが初めて来たので話しかけたことがありました。するとそのパパは、「今日は代理で来ました」と言うのです。びっくりしました。父親だって「親」なのに「代理」ってどういうこと!? と思ったのです。
著者
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またあるとき、発達障害のある子を育てるお母さんのうつ病率が高いという情報を読んだのです。これは大変な問題だと思い、以前から参加していたファザーリング・ジャパン(※)の中で、メインマン・プロジェクトを始めました。そして、これが本を書くきっかけにもつながっています。

(※)ファザーリング・ジャパンとは、「Fathering」の理解・浸透を目的として2006年に設立された特定非営利活動法人です。現在、250名以上の方が所属していて、男性の子育て・家事支援や父親学校「パパスクール」運営など、幅広く活動しています。
NPO法人ファザ―リング・ジャパンのメインマン・プロジェクトについての解説。活動内容も示されている。
11ページより
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ママの固定観念が、パパの育児に対する当事者意識を下げているのかも

――どうして、育児を自分ごととする父親は、なかなか増えないのでしょうか。

橋:私は、日本のジェンダー観に関係しているのではないかと感じています。
日本のママたちは母であることの責任感というか、意識が強いのではないかと思います。母親である前に女性であるし、人間でもあるけれど、何より優先するのは母であること、そういう人が多いのではないかなと。
あれもこれも、母親だから私がやらなきゃいけない、母親だから自分でなんとかしなきゃと思いすぎていて、苦しいんじゃないかと思います。

今のパパたちは、20年くらい前と比べると家事をする人もずいぶんと増えてきていますが、育児の現場ではまだ「ママ優先」になっているのでは。例えば保育園(幼稚園)の連絡帳を書いたり、子どもの病気や保護者会等で会社を休んでいるのは、どちらがやっているのか、と考えてみてください。

パパとママ、どっちが仕事を休んで保護者会に出る?という時に、ママが休むのが大前提というご家庭が、まだ多いのではないでしょうか。ママが仕事を休めなかったら、パパが休む、という順番だから、「代理」で休むという言葉が出るんですよね。

状況は、20年前よりも変わってきてるとは思います。それでも保護者会の出席者は、ママとパパ半々にはなっていません。

もちろん、保護者会の当日や翌日が大きなプレゼンと重なっている、なんていう場合は無理ですよ。でもそんなこと、年のうちに何回あるでしょうか。だから、「この日はパパとママどっちが休みをとりやすいのか」という話し合いからスタートしたらいいと思うんです。
著者
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仕事があるから、を言い訳にしないでほしい。仕事に対する日本人のアイデンティティ、向き合い方

――仕事を言い訳にしてパパたちは保護者会から逃げている、ということなのでしょうか。

橋:実は、仕事があるから無理だと最初から諦めているのは、保護者会に来ないパパ本人ではなく、ママの方ということもあるのではないでしょうか。たとえば、親子キャンプの企画をしたときに、ママたちに「楽しいイベントだから、パパに来てって誘ってみて」と言うと、「パパ、その日仕事だから無理だわ」と言うんですよね。

その後、僕がパパを直接誘ったらキャンプに参加して、「ほんとうに楽しかった!」と言って、翌年はみんなが来るようになった、ということがあります。

楽しいことだし、なにより子どもにとって重要だということがわかったら、仕事は休んででも行く、と言うようになる人も多いと思うんです。楽しさ・重要さを知らないだけ。ママは「パパはお仕事なので」とあきらめてしまっているのかもしれません。

子育てを通じて働くということを考え直す、ある意味、自己啓発本

――この本を読むと、発達障害のある子どもをパパがどう育てるか、ということ以前に、働き方を変えよう、と言われている感じがします。

橋:そうですね。子育てをきっかけにして、自分が生きていく中で何が主となるのかということをもう一回考えてみようよ。と、これは常に思っていることです。日本では人生哲学について考えることが少ないかもしれません。「働くために生きてるんですか? 本当にそれでいいの?」と問いたいです。これは男女関係なく。

日本人はあたかも1日が24時間以上あるような働き方をしている人が多いのではないでしょうか。そうするとプライベートを犠牲にしてでも残業しなくては……という発想になってしまう。業務効率を上げて、それで早く帰るというのもいいけれど、そうではなくて就業時間は8時間ということを思い出してほしいのです。1日を例えば36時間にすることはできないのですから。

定時に帰って家族と過ごす。せっかく家族、子どもがいるのですから、家で過ごすことが人生の中でとても意味のあることなのではないかな、と思うんです。仕事はもちろん大切ですが、何のために働いているのか、仕事そのものが目的化していないか、と。

これがこの本で一番伝えたかったことです。

家事を夫婦でやっていくことも大事です 。そこから働き方についてのマインドが変わってゆく可能性があるからです。でも、マインドの切り替えをしない限り、「パパは仕事だから」という発想になり、ママはワンオペですべてを背負い込み、心身への負担が過剰となってしまうのではないでしょうか 。
『子どもが発達障がいだとわかったとき パパがやること全部』
『子どもが発達障がいだとわかったとき パパがやること全部』
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子どもが発達障がいだとわかったときパパがやること全部
橋謙太 (著), 高祖常子 (著), 星山麻木 (監修)
合同出版
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小1の壁は、情報網があれば超えられる

――ところで、いわゆる「小1の壁」についても書かれていますね。

橋:これもパパが育児することで一般的に言う「小1の壁」については超えられると思っています。先輩たちと情報交換ができていれば、解消される部分が多いからです。

年長クラスの時点で、子どもが小学校に入ってからどうなるかを見通すことは、初めての子どもについては見えづらいものです。だから、今のまま夏休みを迎えたらどうなる? などが心配になりますし、それは当たり前のことです。

でも、小学生になると子どもは成長しますし、先輩パパ・ママからその経験を聞くことができれば、「小1の壁」はそれほど高く感じなくなると思います。発達障害の世界では「見通しが大切」ということがよく言われますが、発達障害に関わらず一般的に見通しを知ることは大切です。

ただし、発達障害のある子どもについては、選択肢が多いため健常児にはない「小1の壁」があります。特別支援学級や特別支援学校、私立校など選択肢が多岐にわたるため、その情報をどう得るかが大事になります。また、放課後の選択肢も、学童保育だけでなく、放課後等デイサービスなどの選択肢があります。

こうしたことは、インターネットの情報よりも、地域の先輩保護者から直接聞くのが一番です。地元のつながりが大事です。そして、自治体の福祉課や地域団体に相談すること。それでもやはり、情報だけでなく、先輩たちの体験談や口コミ情報が役に立つと思います。
著者
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子どもととにかく会話する! 保育園に行ってみよう

――少しでも時間をつくって子どもと関わるのは、子どものためであるのと同時に、パパ自身のためにも大事なことですよね。パパたちが 、子どもと関わるときにこれだけは毎日意識したほうが良いことって、どんなことですか?

橋:会話ですよね。だから早く帰ってこなきゃダメなんですよ。子どもが寝てしまう前に帰宅するって、いろんな意味で重要なんですね。

重要なのは触れ合う時間の長さだけではないので、本当に忙しいのであれば、朝でもいい。ちょっとでも子どもとの時間をつくってください。

ママが子どもの発達に悩んでいる様子だったら、なおさらです。そうしないと、子どもの特性がわからないから。本にも書きましたが、とにかく保育園に行ってほしいです。ほかの子との違いを見てみることが 大事です。
そして、ママの不安感がどこからくるのか、保育園に行ってみることで共感できること、あると思います。
著者
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ママたちには「あきらめないで」と伝えたい!

――発達ナビの読者もママが多いのですが、もしかしたらパパたちに期待しなくなってしまったママもいるかもしれません。そんなママたちに伝えたいことは?

橋:あきめないでください。
ママに伝えるとしたら、家庭にはもう一人戦力がいることを忘れないでほしい!です。

すでにパパ以外のリソースを使って日々の育児をしているでしょうけど、もう一度、すぐ側にいる、本来一番の戦力となるパパという人を思い出してほしいです。パパが戦力となるために、この本では具体的な方法も書いているし、僕だけじゃない6つの家庭の体験談も掲載しているので、参考にしてほしいです。

また、特に発達障害のあるお子さんを育てているパパ・ママ は、なんとなく漠然とした不安感があることでしょう。「この子、将来どうなるんだろう」という。なので、高校(特別支援学校高等部)卒業までのプロセスも書きました。不安感解消の一助になれば嬉しいです。
中学生の娘の運動会を見ながら会話するパパとママ。「障がいがあっても」「ゆっくり成長してるんだよね」と話している。
181ページより
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橋:そして、実は日本の社会、そんなに悪くないよ、ということを伝えたいです。比較論にはなりますが、障害のある方への対応が進んでいると思われているヨーロッパ諸国と比べても、制度としてはかなりいい線いっているんです。日本の福祉。だから今のところ、そこは心配しなくていいですよ、と言いたい。

だから、日本の発達障害の世界は、今後の経済状況に左右されるところはありますが、今のところ私は明るいと思ってます。真っ暗ではありません。今はみんな、目の前の子育てで手一杯だと思うけれど、特にママは、自信を持ってやっていってほしいです。

そしてパパは、ぜひ主体的に育児をしてほしいです。

――発達障害のある娘さんを楽しみながら育ててきた橋さんにとっての、一番楽しいポイントを教えてください。

橋:子どもの笑顔ですよね。だって、こんな自分をすごく信用してくれるんですよ。いつも無邪気に笑顔を向けてくれて。そりゃ成長すると、毒も入ってきますけど(笑)、それもひっくるめて可愛いし、楽しい。日々の子育ては、(若い時代の趣味でもあった)旅行に行くより楽しいです。

そして最後に。この本で伝えていることは、もう古いよ!と言われる時代が早く来てほしいです。
著者
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まとめ

「何のために働いているんだっけ」という人生哲学を考えたら、発達障害のある子どもを育てる家庭での「パパがやること」が見えてくる。橋さんのお話を伺っていると、かけ離れた話題に見えるかもしれないことが実は密接に関係していることに気づかされます。具体的な「やること」は、本書に丁寧に書かれています。「子どもが発達障がいだとわかったとき パパがやること全部」(合同出版)は、パパに限らず、パートナーと一緒に読んでほしい考え方と行動のヒント集です。
取材・文:関川香織
子どもが発達障がいだとわかったときパパがやること全部
橋謙太 (著), 高祖常子 (著), 星山麻木 (監修)
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