本当の卒業は、過去からの卒業だった

卒業式当日の放課後、私と息子は特別支援学校へと向かいました。教室では、担任の先生だけではなく、これまでお世話になった1年生や2年生の時の担任の先生まで来てくださいました。息子の到着に合わせて、校長先生が教室まで来てくださり、卒業証書授与が行われました。名前を呼ばれると、息子が大きく「はい!」と返事をして前に出て、証書を受け取りました。一度も練習したことがないのに、しっかりとした大きな声で、最後にはガッツポーズまでして。その様子に涙ぐんでいる先生もいらっしゃいました。

そのあとは先生方と写真を撮ったり、思い出話をしたり。息子と先生方の思い出は、ほとんどが家庭訪問の時のものでしたが、担任の先生は数少ない登校日に撮った写真を、手作りのアルバムにまとめて「息子くんの卒業アルバムだよ」と渡してくださいました。そこには、先生方の思いがしっかりと感じられました。

「息子くんなら大丈夫だよ」「パソコンでゲーム作ったらまた教えてな」「学校にもいつでも遊びに来てくれていいんやで」と楽しく笑いながら、正門前に呼んだタクシーのところまで、先生方がお見送りしてくれました。小学校の卒業式では複雑な思いを抱えながら帰った道を、今度は未来への希望と共に息子と帰りました。

今度は間違いなく『卒業』したと思いました。小学校の卒業式の時に感じた、孤独や失望感、学校への未練のようなものも全てこの卒業式で取り払われたような気がしています。

卒業式はこれまでの信頼の積み重ね

節目として、卒業式というのは大切なものです。もちろん、学校式典としての卒業式に参加できることが理想ではありますが、うちの息子のように集団が難しかったり、人が多い場所とだとパニックになってしまったり、長時間の待機や雑音が気になってじっとしていられない子どももいると思います。多くの児童が在籍する学校では、対応が難しいケースもあるかもしれませんが、「誰のための卒業式か」というのを考えていただけたらなと思います。「ぜひ卒業式に!」と言うならば出席を前提とせず、無理なら無理で、本人の状況に合わせて、『できそうなこと』と『難しいこと』を丁寧に検討していただきたいです。

3学期を迎え、いよいよ卒業式のことを学校と話し合う時期になったという方もいらっしゃるかもしれません。全ての子どもにとって卒業式は大切なもので、その気持ちは尊重されるものです。「卒業式に出ない」という選択も、同じように尊重されるべきだと思います。

私が学校側に提案していただいたような部分参加や、少人数での卒業式、別室での卒業証書授与、卒業式にもいろいろな形があります。過去の事例なども含め、実現可能なものがあるかどうか学校管理職の方に一度相談してみるのも良いと思います。今春、卒業を控えた子どもたちが後悔のない卒業式が迎えられるよう、心から願っております。
執筆/花森はな
(監修:鈴木先生より)
私は、学校の先生方に「子どもファースト」で物事を考えてほしいと常々感じています。例えば、対人・視線恐怖や社交不安により人前に出るのがはばかれる場合は、個別で卒業式をやるという選択肢があるのです。また、卒業式に参加しなければ証書がもらえないわけではありません。宿題についても一律で出すのではなく、不登校などで授業に遅れているお子さんの場合は、その子のレベルに合った宿題を出すことが望ましいのです。少しでもハードルを下げてできた達成感を味わえることが重要です。また、「中学進学にあたり、IQの結果がないと特別支援の教育委員会で議論できない」といった理由で2年前にやったばかりのIQテストを受けるように言うなど、本人のためを思っているとは考えられないケースも見受けられます。型にはめた教育の時代はもう終わりなのです。
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https://h-navi.jp/column/article/35030405
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
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