レポートで目指したのは「前に進めるための情報」

LITALICO発達特性検査のレポートを読む佐藤秀樹先生
LITALICO発達特性検査のレポートを読む佐藤秀樹先生
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佐藤先生今回のプロダクトは質問項目やアンケート形式という点も強みですが、結果の出力、レポートが出てくるというのがいいですよね。そこは具体的にどういった内容・情報をお伝えしようと心がけられたのですか?

野田さん:まず大事にしたのは、「検査をしたら終わり」ではなくて、「次に何をしたらいいかが分かる」ことです。「サポートの方向性」という機能で担保しているのですが、お子さまの状況や特性に合わせて、具体的な対応方法の候補がリストの形で示されます。それも、家庭と、園・学校といった外部でのやり方がそれぞれ出力される仕組みになっています。

もう一つ、「なぜそれがいいのか」「どういう理由でお子さまが困っているのか」をしっかりお伝えするということです。支援方法などの意思決定をする際にも、お子さまに合うようにカスタマイズするためにも、それを把握していることがとても重要になるからです。「困りや特性の背景の要因」というパートがあるのですが、その部分を丁寧に説明しているというのが、この検査のレポートならではの強みになっていると思います。

ーーLITALICO発達特性検査の編集部でも、保護者の方が一人でどうしていいか分からずに抱え込まれて袋小路に入って立ちどまらないように、ということを大事にしています。編集部内や監修者の方々と話し合いながら、レポートの内容にもこだわって制作しました。

例えば、保護者の方が読んで理解しやすく、取り組んでみたいと思えるような具体的な方法を紹介するなどです。できるだけ負担なく受け止められるような内容や伝え方を心がけています。お子さまにとってもうまくいきやすい方法で、親子の成功体験が積めるようにしたいという思いもありました。


野田さん:不安やネガティブな気持ちを感じる方もいらっしゃると思うのですが、検査はレッテルを貼るものではなくて、「そうだったんだ」と気づいたり、「ちょっと試してみようか」「相談してみようかな」と思っていただけることが一番大事だと思っています。目指しているのは「前に進んでいただくためのプロダクト」です。

佐藤先生:それは素晴らしいですね。回答される保護者の方は、お子さまの状態を知りたいという気持ちがある一方で、知ってしまうことへの不安もあると思います。そうした気持ちに寄り添って、不安な部分をできるだけ小さくしたり、サポートできるような工夫がされています。その先の支援や見通しにつなげられるようにするのはとても大事ですね。

できるだけ個別最適な情報を目指した検査結果レポート

野田さん:テキスト監修も、それぞれの分野で7人の専門家の方に入っていただいて、企画構想の段階から丁寧に見ていただきました。受検されたユーザーさんがお子さまの検査結果として目にされるのはPDFにして40ページから100ページほどの分量なのですが、実は未就学から高校生、それぞれの年齢群ごと、それから知的障害(知的発達症)のあるお子さまの場合には適切なサポート方法が提示されるなど、テキストはお子さまに合うように出し分けられる仕組みになっています。ですので、システム側で準備したテキストは170万字を超える量になりました。

お子さまの成長や状況に合うよう、できる限りの個別最適な情報にしたいという思いでこの形式を取りました。

佐藤先生検査結果を出力できるのは、利便性の面でも大事ですよね。年齢群ごとにアドバイスや提示する視点が変わるというのも素晴らしいです。こうしたシステムを構築するのもかなりの苦労があったように思います。

ーー特性は同じでも、年齢によってライフステージや求められるスキルが変わり、新たな困りごとが出てくることもあるという考え方からの配慮で、重要な観点だったと思っています。

佐藤先生:それも踏まえて、発達に関する検査では質問紙の内容的妥当性が非常に重要ですよね。発達過程、年齢によって悩みが出てくるということもありますし、それに加えてお子さまごとの特性に関することも入ってくるので、内容的妥当性の合意を取るのは本当に大変です。一方で、受検される保護者の方にとっては、そこが一番大事な点ですので、今回の開発プロセスで合意を取ったことには本当に頭が下がります。

野田さん:いただいた意見はなるべく反映しました。どうしても質問紙という形の限界もあって、個人個人の状況によっては回答が難しいという場合もあるかもしれないですが、なるべくスムーズに答えていただけるといいなと思っています。

データの蓄積が今後の可能性を広げる

「みんなが同じ方向を向けるように」保護者・専門家・開発チームが一緒に作ったLITALICO発達特性検査の画像
LITALICO発達特性検査を出発点として、今後の展開について話し合う佐藤先生と野田さん
Upload By LITALICO発達特性検査 編集部
野田さん:少し話は変わりますが、今回デジタルのオンラインでの検査という形式だと、データが積みあがることもメリットの一つだと考えています。

研究などでのデータの活用や、この検査自体を改善する、あるいは同じプロダクト形態の別の領域に展開するということも今後の展開として考えられる
のではないかということです。例えば、蓄積されたデータを研究することで、検査自体の品質をさらに改善したり、経時的な変化のパターンを見出したりできます。それにより、適切な情報提供やフォローアップがしやすくなる可能性があります。

佐藤先生:さまざまな可能性があると思います。たくさんの方に回答いただいて知見が蓄積されれば、質問紙自体の精度を上げることができます。検査結果としてフィードバックする時の内容、得点をもとにどれくらい困りを感じているか、支援を必要としているかといった判断がより正確になってくると思います。

それと合わせて、今回の検査項目の中で、精度がいいものとそこまでではないものが分かってくることもあると思います。より精度がいいものだけに絞って短縮版の検査をつくることもできますね。質問項目の数が少ないと、受検者の負担が減りますし、より多くの方に受検していただきやすくなるというメリットがあります。

また、検査結果をもとにどのような支援が必要かという部分が明確になってくると思います。「こういう検査結果のパターンが出た方には、こういう支援だとうまくいきやすい」だとか、お子さまの状態像が具体的に理解できるようになることで、より適切な支援をピンポイントで提供し、その後の見通しがクリアになってくると思います。

短縮版の話とも関連しますが、そういった適切な支援につながりやすくなるよう、より詳しく調べたい部分の質問項目を細分化したり、対象や領域を絞っていくということを考える材料にもなるはずです。

野田さん:たしかにそうですね。ぎゅっとフィルタリングできるような項目を先に回答していただいて、そのうえで、困りの強いものをより厚めに回答していただくなど、簡便にしつつ必要な場所で情報を厚めにとるような仕組みにできるかもしれません。

どうしても質問項目が多いと、ご家庭で保護者の方が回答するのは大変だと思うので、そういった形で改善していけるとすごくいいなと思いました。

佐藤先生:基本的には項目数が多いと、検査としての妥当性や信頼性の質は上がります。その一方で、項目を減らすと精度が下がってしまうリスクが出てきます。回答データを蓄積させることで、本当に精度のいい項目だけを使うなどして、検査の質自体は下げずに、回答者の負担を減らせるといいですよね。

野田さん今回のプロダクトはWebアプリで提供されていることが強みだと思っています。従来の質問紙と違って、アプリの変更という形で柔軟に改善していきやすいという点です。もちろん研究が伴っての話にはなりますが、先ほどおっしゃっていただいた短縮版や切り出して詳しく調べるといった改善が可能になります。そういった柔軟性はユーザーにとってもメリットが大きいと感じました。

佐藤先生:まずはLITALICO発達特性検査を広くたくさんの方に使っていただいて、その中でいろいろな声を汲み取れると次につながっていくのかな、と思いますね。

開発でも検査受検でも、保護者が一番の立役者

ーー今日お話しを伺っていて、保護者・専門家・開発チームそれぞれの立場から意見を出し合ってLITALICO発達特性検査ができていったことが分かりました。違う意見であったり、同意できないという部分でも、出しあって話し合うこと自体でブラッシュアップできるんだなと感じました。

佐藤先生:そうですね。何より、インタビューに協力してくださった保護者の方々が何よりこの検査の開発の功労者だと思います。ご協力いただいた方には、私からも感謝の気持ちでいっぱいです。

野田さん:延べ人数ですが、質問紙の開発で2,000人を超える方、プロダクトを磨くためのユーザーインタビューでも50人以上は参加していただいていると思います。たくさんの方のお話しを聞けたことで、開発チームとしても認識が深まりましたし、いいものを作らなきゃというやりがいも感じましたね。

ーー保護者の方も開発者ですね。

佐藤先生:今回、品質担保のために用いたCOSMINでは、そういった方の意見がないと質の担保ができないプロセスになっているんです。プロダクトの開発にご協力いただけたこと、また研究としてLITALICOの開発チームが開発まで着実に進めてこられたことが素晴らしいと思いますね。
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