「みんなが同じ方向を向けるように」保護者・専門家・開発チームが一緒に作ったLITALICO発達特性検査
ライター:LITALICO発達特性検査 編集部

Upload By LITALICO発達特性検査 編集部
LITALICO発達特性検査は「認知的インタビュー」など、多くの方々の力を借りて完成しました。検査の尺度開発のコンサルティングを担当した佐藤秀樹先生と、実際に尺度開発を担当した野田遥さんは「保護者が検査の立役者」と語ります。今回は、専門家、保護者、そしてLITALICOの開発チームそれぞれの役割や大事にしたことなどを中心にお話を伺いました。(取材・構成:LITALICO発達特性検査編集部)

監修: 佐藤秀樹
福島県立医科大学 医学部災害こころの医学講座 助教
ふくしま国際医療科学センター 放射線医学県民健康管理センター 助教
「COSMIN Risk of Bias Checklist」の日本語翻訳や、COSMINの解説論文の執筆を行う。認知行動療法やうつ病の認知行動メカニズムに関わる心理学的研究を専門にし、東日本大震災後のメンタルケアなどの活動の取り組みも行う。
ふくしま国際医療科学センター 放射線医学県民健康管理センター 助教
多くの保護者、専門家の協力で開発できたLITALICO発達特性検査
LITALICO発達特性検査は、発達が気になるお子さまと保護者のための、オンライン完結の検査サービスです。尺度開発における品質担保に関するコンサルティングを担当した佐藤秀樹先生と、実際に尺度開発を担当した野田遥さん。
前編では、今回はLITALICO発達特性検査がどのように作られたのかのプロセスや、品質を担保する方法について伺いました。
前編では、今回はLITALICO発達特性検査がどのように作られたのかのプロセスや、品質を担保する方法について伺いました。

簡便に利用できるオンライン検査だからこそ信頼性を重視した。LITALICO発達特性検査の開発プロセスとは
※尺度:心理測定尺度。質問紙への回答を数値として定量的に扱い、測定したい概念を適切に測るための物差しの役割を果たす。
LITALICO発達特性検査を使いやすく信頼できる検査ツールとするため、多くの保護者の声や専門家の協力があったとのこと。後編では、保護者、専門家、開発チーム、それぞれの役割や大事にした考え方について、より詳しく伺います。
認知的インタビューでの保護者の役割
保護者目線で回答しやすい質問項目を目指して
野田さん:LITALICO発達特性検査では、専門家による検査の質問項目の素案ができた段階から、保護者の方に質問項目についてどう思ったか、違和感がないか、どう理解したかなどを「認知的インタビュー」という方法でヒアリングし、質問項目の改善を繰り返し行ないました。複数の保護者の方に個別とグループそれぞれでインタビューをして、その内容を反映したものを繰り返し見ていただく形で質問項目の内容をブラッシュアップしていきました。
認知的インタビューというのは、検査を受ける保護者の立場の方に、どのように理解したか、どのように感じたかということを主観で答えてもらうインタビューです。答えにくい質問がないか、質問の文章の意味が分かりにくいところや誤解しそうなところがないかということを洗い出し、改善するためのものです。
前回もお話ししましたが、この検査では多くの保護者の方にご協力いただきこのプロセスを踏んだことが、質問紙※の妥当性の担保につながっています。
ーー質問の文章や内容で、検査の妥当性は変わるのでしょうか?
佐藤先生:変わります。質問の内容で回答にばらつきが出たり、回答しやすさに違いが出るということがあると思います。例えば、質問が受検者の経験や困りごとにきちんと対応していて、回答もしやすい質問と比べて、「よく分からないな」と思うような質問では回答がばらつきやすくなるので、結果の精度も下がってしまいます。
ーーたしかに、何を聞かれているか分からない質問やイメージしにくい抽象的な質問は、どう答えていいか迷うかもしれません。ただ、あまり詳しくピンポイントで聞かれても、当てはまらないと感じることもありそうです。
佐藤先生:そうですね。質問が具体的すぎると、受検者によっては自身の経験とは関係がない場合や、判断できずに回答できないということもあり得るので難しいところです。質問の分かりやすさや具体性の程度は、保護者の方への認知的インタビューを通じて担保された部分だと思います。
野田さん:家庭やそのお子さまによって状況はさまざまです。例えば、未就学でも、通園されているお子さまもいれば、自宅で養育されているお子さまもいます。お子さまを観察できる時間や場面も保護者の方によって違うと思います。それでも、保護者の方への認知的インタビューを行なうことで、ご意見を伺い、修正することができ、それによって回答しやすくなった質問項目がたくさんあります。
「この聞き方だと具体的に限定されて当てはまらない」「抽象的すぎて答えにくい」というような質問内容の改善について、意思決定に非常に役立ちました。使う方の声を直接聞くことが大事なんだなということが、当たり前ではあるのですが、プロセスの中での学びになりました。
※質問紙…質問項目の文章と、回答の選択肢で構成された調査票。質問紙形式の検査では、対象となる受検者は、自ら質問文を読んで回答する。
認知的インタビューというのは、検査を受ける保護者の立場の方に、どのように理解したか、どのように感じたかということを主観で答えてもらうインタビューです。答えにくい質問がないか、質問の文章の意味が分かりにくいところや誤解しそうなところがないかということを洗い出し、改善するためのものです。
前回もお話ししましたが、この検査では多くの保護者の方にご協力いただきこのプロセスを踏んだことが、質問紙※の妥当性の担保につながっています。
ーー質問の文章や内容で、検査の妥当性は変わるのでしょうか?
佐藤先生:変わります。質問の内容で回答にばらつきが出たり、回答しやすさに違いが出るということがあると思います。例えば、質問が受検者の経験や困りごとにきちんと対応していて、回答もしやすい質問と比べて、「よく分からないな」と思うような質問では回答がばらつきやすくなるので、結果の精度も下がってしまいます。
ーーたしかに、何を聞かれているか分からない質問やイメージしにくい抽象的な質問は、どう答えていいか迷うかもしれません。ただ、あまり詳しくピンポイントで聞かれても、当てはまらないと感じることもありそうです。
佐藤先生:そうですね。質問が具体的すぎると、受検者によっては自身の経験とは関係がない場合や、判断できずに回答できないということもあり得るので難しいところです。質問の分かりやすさや具体性の程度は、保護者の方への認知的インタビューを通じて担保された部分だと思います。
野田さん:家庭やそのお子さまによって状況はさまざまです。例えば、未就学でも、通園されているお子さまもいれば、自宅で養育されているお子さまもいます。お子さまを観察できる時間や場面も保護者の方によって違うと思います。それでも、保護者の方への認知的インタビューを行なうことで、ご意見を伺い、修正することができ、それによって回答しやすくなった質問項目がたくさんあります。
「この聞き方だと具体的に限定されて当てはまらない」「抽象的すぎて答えにくい」というような質問内容の改善について、意思決定に非常に役立ちました。使う方の声を直接聞くことが大事なんだなということが、当たり前ではあるのですが、プロセスの中での学びになりました。
※質問紙…質問項目の文章と、回答の選択肢で構成された調査票。質問紙形式の検査では、対象となる受検者は、自ら質問文を読んで回答する。
インタビューから見えてきた保護者の困り
野田さん:認知的インタビューについてはすべて文字起こしをして目を通して、実際にいただいた意見を踏まえて質問項目を改善しています。保護者の方にはサービスに関するユーザーインタビューもしています。その中で「保護者の方が本当に困っている」というのをすごく実感しました。発達や子育てに関する本はたくさんある、インターネットでも検索すれば情報はたくさん出てくる。でも、何が正しく、どれが自分の子どもに合う情報か分からないという声がたくさんありました。
こうした情報の中にはあまり信憑性のないものが混じっている可能性もあるので、なるべく適切で、専門家の合意が取れているような情報に最初に触れていただけるということが非常に重要だと感じました。できるだけ早い段階でこの検査が届けられるようにしたいと強く思うようになりました。
佐藤先生:保護者の方の中でも悩みや感じ方は多様ですので、かなり幅広い意見があったと思います。そういった意見を集約して議論をしながらどう改訂するのかを、専門家や開発チームで合意を取るというのは、かなり難しかったのではないでしょうか。
野田さん:いただいた意見は、保護者も専門家もそれぞれの立場によってかなりばらつきがありました。今回の検査対象が3歳から18歳とかなり広くて、未就学用と学齢用、例えば算数に関する質問項目は学年に応じてバラエティをつけるということもしているので、より難しかったです。意見もさまざまで、どうしてもすべての意見や懸念を100%反映して解消するのは難しいこともあるな、と。ある方はこうしてほしい、別の方はその反対の意見を出されていて、その場合にどう合意をとって意思決定するか、項目選定や表現の修正がたくさん出てきました。最終的なプロセスで合意をとれたのでよかったです。
こうした情報の中にはあまり信憑性のないものが混じっている可能性もあるので、なるべく適切で、専門家の合意が取れているような情報に最初に触れていただけるということが非常に重要だと感じました。できるだけ早い段階でこの検査が届けられるようにしたいと強く思うようになりました。
佐藤先生:保護者の方の中でも悩みや感じ方は多様ですので、かなり幅広い意見があったと思います。そういった意見を集約して議論をしながらどう改訂するのかを、専門家や開発チームで合意を取るというのは、かなり難しかったのではないでしょうか。
野田さん:いただいた意見は、保護者も専門家もそれぞれの立場によってかなりばらつきがありました。今回の検査対象が3歳から18歳とかなり広くて、未就学用と学齢用、例えば算数に関する質問項目は学年に応じてバラエティをつけるということもしているので、より難しかったです。意見もさまざまで、どうしてもすべての意見や懸念を100%反映して解消するのは難しいこともあるな、と。ある方はこうしてほしい、別の方はその反対の意見を出されていて、その場合にどう合意をとって意思決定するか、項目選定や表現の修正がたくさん出てきました。最終的なプロセスで合意をとれたのでよかったです。
専門家の協力と開発チームの思い
専門家による質問項目のブラッシュアップ
野田さん:専門家も多くの方にご協力いただきました。
質問項目については、保護者の方にお見せする前のプロセスで、お子さまの発達に関する専門家のチームがデルファイ法という方法で改善を行なっています。デルファイ法は、複数の専門家にそれぞれチェックと意見をいただき、その内容を専門家チームで合議し、すり合わせて修正、再度チェックと修正を繰り返すことで、質問項目を磨いていく方法です。今回はデルファイ法だけでも医師、公認心理師・臨床心理士、作業療法士などさまざまな専門家の方にご協力いただきました。
質問項目については、保護者の方にお見せする前のプロセスで、お子さまの発達に関する専門家のチームがデルファイ法という方法で改善を行なっています。デルファイ法は、複数の専門家にそれぞれチェックと意見をいただき、その内容を専門家チームで合議し、すり合わせて修正、再度チェックと修正を繰り返すことで、質問項目を磨いていく方法です。今回はデルファイ法だけでも医師、公認心理師・臨床心理士、作業療法士などさまざまな専門家の方にご協力いただきました。
繰り返し協力してもらえたことでブラッシュアップできた質問項目
佐藤先生:専門家の方も、保護者の方も、同じ方に繰り返しインタビューができたのは、検査の品質を担保するうえでとても大きな強みだと思います。バージョン1、2、3とアップデートしていくのですが、そのアップデートした内容をもとに再度意見をもらうという手続きを取ったことがすごいですね。
一般的な予備的調査だと、どうしても1回だけ意見を聞いて、それを質問紙に反映するのが多い印象があります。今回は繰り返し質問紙の改定案を見ていただき、意見をふまえて修正して、というのを繰り返すことができたということですね。
野田さん:アップデート版を見ていただいて合意をとったり、さらに気になったことを意見していただく、というプロセスを数回繰り返します。それを複数のプロセスで行なう、ということをしました。このような方法はあまり多くの開発で取られておらず、方法論もまだ確立されていない部分でもあり、COSMINチェックリストを参考にし、佐藤先生にアドバイスをいただきながら実施しています。
一般的な予備的調査だと、どうしても1回だけ意見を聞いて、それを質問紙に反映するのが多い印象があります。今回は繰り返し質問紙の改定案を見ていただき、意見をふまえて修正して、というのを繰り返すことができたということですね。
野田さん:アップデート版を見ていただいて合意をとったり、さらに気になったことを意見していただく、というプロセスを数回繰り返します。それを複数のプロセスで行なう、ということをしました。このような方法はあまり多くの開発で取られておらず、方法論もまだ確立されていない部分でもあり、COSMINチェックリストを参考にし、佐藤先生にアドバイスをいただきながら実施しています。

COSMINに準拠したLITALICO発達特性検査の開発とは?信頼性や妥当性のある尺度開発のガイドラインについて解説します
専門家だからこそのこだわり、カバー範囲が広い検査ならではの調整の難しさ
佐藤先生:専門家同士でも意見が違うこともよくあります。専門家の専門分野やこれまでの経験が異なれば、それだけ多様な意見が出てきますので、合意を取る難易度は高くなります。専門家だからこその意見があって、ここは譲れないという部分もあったりするので、合意を得るのはとても大変だったんだろうなと想像しますね。
野田さん:今回の検査では、いわゆるDSM-5の神経発達症群に含まれる部分のほとんどをカバーしています。そのために質問項目数も多くなっています。それぞれの浅さ・深さもなるべくおさえて取れるようにバランスをとっていくと、専門性のある方にとってはもっと細かく聞きたい部分や、逆に質問数が多すぎるという意見が出てくることがありました。デルファイ法のプロセスでも、専門家への認知的インタビューでも、意見が割れることもあり、本当に難しかったですね。
佐藤先生:全員が同じ意見で合意できないからと言って、それだけで検査の質が低いということにはならない場合もあると思います。意見が割れた部分を議論して、それが例えば出力レポートのアドバイスなど、このプロダクトに反映されているなと感じます。専門家にとっても、こうした議論をすることはスキルアップにつながります。どういったところに問題意識をもつべきかが明確になったり、どう優先順位をつけるか、支援をする時の視点としても役に立ちますよね。プロダクトの開発が支援にも還元されればとてもうれしいです。
野田さん:今回の検査では、いわゆるDSM-5の神経発達症群に含まれる部分のほとんどをカバーしています。そのために質問項目数も多くなっています。それぞれの浅さ・深さもなるべくおさえて取れるようにバランスをとっていくと、専門性のある方にとってはもっと細かく聞きたい部分や、逆に質問数が多すぎるという意見が出てくることがありました。デルファイ法のプロセスでも、専門家への認知的インタビューでも、意見が割れることもあり、本当に難しかったですね。
佐藤先生:全員が同じ意見で合意できないからと言って、それだけで検査の質が低いということにはならない場合もあると思います。意見が割れた部分を議論して、それが例えば出力レポートのアドバイスなど、このプロダクトに反映されているなと感じます。専門家にとっても、こうした議論をすることはスキルアップにつながります。どういったところに問題意識をもつべきかが明確になったり、どう優先順位をつけるか、支援をする時の視点としても役に立ちますよね。プロダクトの開発が支援にも還元されればとてもうれしいです。
