障害のあるわが子の「働き方」基礎知識。親が今から知っておきたい多様な選択肢【親なきあと相談室 渡部伸先生に聞く】

ライター:発達ナビ編集部
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お子さんの将来を考えた時に一番に不安に感じることは「就労先」についてではないでしょうか。今回は、障害のあるお子さんが高校や大学を卒業後、どのような就労先があるのかについて、発達ナビ編集長が行政書士、社会保険労務士で親なきあと相談室主宰の渡部 伸先生にインタビューをいたしました。

監修者渡部伸のアイコン
監修: 渡部伸
行政書士
親なきあと相談室主宰
社会保険労務士
慶應義塾大学法学部卒後、出版社勤務を経て、行政書士、社会保険労務士、2級ファイナンシャルプランニング技能士などの資格を取得。現在、渡部行政書士社労士事務所代表。自身も知的障害の子どもを持ち、知的障害の子どもをもつ親に向けて「親なきあと」相談室を主宰。著作、講演など幅広く活動中。

この記事で分かること

  • 障害のある方の働き方には「一般就労」「障害者雇用」「福祉的就労」など多様な選択肢があること
  • 就労に向けた訓練を行う「就労移行支援」や、支援を受けながら働く「就労継続支援A型・B型」のそれぞれの役割と違い
  • お子さんの将来の選択肢を広げるために、保護者が早い段階からさまざまな働き方のルートを知っておくことの重要性
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障害のあるわが子の就労先にはどのようなものがあるの?

障害者総合支援法における就労系障害福祉サービスには、就労継続支援A型、就労継続支援B型、就労移行支援、就労定着支援と4種類のサービスがあります。これに加えて2025年10月より就労選択支援も施行されます。

2024年3月の厚生労働省のデータによると、就労移行支援の利用者は約3.6万人、就労継続支援A型の利用者は約9.0万人、就労継続支援B型の利用者は約35.3万人となっています。
また、一般就労への移行の現状としては特別支援学校から一般企業への就職は約29.6%、就労系障害福祉サービスの利用は約33.3%となっています。就労系障害福祉サービスから一般企業への就職は増加傾向にあり、2023年には約2.7万人が一般就労へ移行しています。

このコラムでは障害のあるお子さんの就労先として、一般就労や福祉的就労の種類や内容などを社会保険労務士で親なきあと相談室主宰の渡部 伸先生に具体例などと共にお聞きしました。
参考:障害者の就労支援対策の状況|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40524.html

一般就労、福祉的就労……その違いは?

LITALICO発達ナビ牟田暁子編集長(以下――)将来に向けて、障害のあるお子さんの就労の形もいろいろあると思います。発達ナビの読者の方のお子さんはまだ小さい場合も多く、まだイメージがわかないこともあるかと思います。そのあたりをご説明いただけますか?

渡部先生(以下、渡部):そうですね。障害のある方の働き方には
  • 一般就労
  • 障害者雇用
  • 就労継続支援A型
  • 就労継続支援B型
  • 就労移行支援
などがあります。これに加えて2025年の10月から就労選択支援というサービスも開始されます。

分かりやすく説明をすると、
一般就労というのは普通に一般企業に就職をするということです。あくまでもほかの従業員と同じ勤務条件で働く雇用形態なので、合理的配慮をしてもらえるかどうかは会社によってかなり違ってきます。それとは別に同じ一般企業でも「障害者雇用」というものがあって、これは障害者手帳があることで障害者雇用枠の中で働くことができます。

一般企業の法定雇用率は2025年の今は2.5%となっていますが、2026年には2.7%となることが決まっています。どんどん障害者も働けるようにしていこうと世の中も制度も変わってきているんですね。

そうは言ってもなかなか一般企業の中で働くのが難しい場合もあるので、一般の企業がつくった障害者の雇用に特化した「特例子会社」という企業もあります。そこでは障害がある方も働きやすい環境ーー例えば身体障害の方であれば車椅子でも動きやすくなっているとか、知的障害や精神障害の方であれば集中して働けるようにパーテションがしっかりと備わっているなど、支援員の方々が本人の特性に合わせた配慮をしてくれる環境が整っていて、手厚いサポートがある場合が多いです。
行政書士、社会保険労務士、親なきあと相談室主宰・渡部 伸先生
行政書士、社会保険労務士、親なきあと相談室主宰・渡部 伸先生
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――そうなのですね!障害者雇用や特例子会社で働くことは一般就労にあたると思いますが、福祉的就労はどのようなものなのでしょうか?

渡部:まずは就労移行支援というものがあります。例えば特別支援学校などを卒業して、そこからすぐに就労をしても良いのですが、すぐに就労するのが難しかったり、就労に向けてスキルを取得したい場合に通う場所になります。仕事に臨むためのいろいろなことを教えてもらえる「仕事につながるための訓練期間」のようなイメージでしょうか。通える期間は原則2年間となります。

それ以外には就労継続支援A型とB型ですね。就労継続支援とは賃金や工賃をもらいながら無理のないペースで働けるという場所です。A型では、いわゆる就労雇用契約を結んで、最低賃金を確保して働くことができます。B型は、雇用契約を結んで働くのは難しいという方が、A型よりは安くなってしまうのですが、工賃をもらいながら本人の状況に合わせた仕事ができます。

――就労継続支援A型とB型の事業所数は全国にどのくらいあるのでしょうか?
渡部 伸先生・LITALICO発達ナビ編集長
渡部 伸先生・LITALICO発達ナビ編集長
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渡部:B型のほうが事業所数ははるかに多いですね。(※)A型は、利用者の状況に合い、かつ最低賃金の保証が可能な仕事を用意するのが難しいという現状もあるようです。

(※)令和6年現在
就労継続支援A型事業所数:4,389
就労継続支援B型事業所数:18,317
参考:障害福祉サービス等の最近の動向(令和6年12月まで)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001508091.pdf
渡部:そのほかにも、重度の障害があり働くことが難しい方が利用する生活介護などもあります。午前中は散歩、午後は少し作業や工作などを行って……活動内容としては高齢者のデイサービスに近いでしょうか。日中にゆったり過ごすことができる場所になります。

――一言で「障害のある方の就労」といってもさまざまな道がありますね。お子さんが学齢期の頃から保護者の方が就労について考えておいたほうがいいことなどありますか?

渡部:そうですね、就労先は一つに決まっている訳でもありません。最初は一般就労だったけれど、少し働くのが難しくなってきた場合には障害者雇用や就労移行支援などの別の道もあります。そのようないろいろなルートを知っておくことが重要だと思います。あらかじめ障害者手帳を取得しておいたり、地域の就労移行支援や就労継続支援事業所などを知識として知っておいたりすると良いと思います。

――重要なのは「知っておくこと」ですね。ありがとうございました。
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
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