通信制高校における多様な学びの実践 好き、楽しいを強みにつなげる実践報告【レポート】

現在、高校生の11人に1人が通っていると言われている通信制高校。通信制高校・星槎国際高校の「好き、楽しいを強みにつなげる実践報告」は通信制高校の柔軟なシステムを活かし、不登校経験や特性のある生徒さんがイキイキと学ぶ姿がとても印象的でした。4つの具体的な実践報告をそれぞれご紹介します。
通信制高校における多様な学びの実践 好き、楽しいを強みにつなげる実践報告
通信制高校における多様な学びの実践 好き、楽しいを強みにつなげる実践報告
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豊かな自然と伝統文化から「今」を学ぶ/山下峻先生

星槎国際八王子は、高尾の自然や伝統文化そのものが教材。職人さんに取材する「KATARIBE(語り部)ゼミ」など、地域の人々と深く関わりながら文化を通して実社会を学びます。地域での学びは自分の強みを知ることや自己肯定感の向上、そしてその後の未来の進路にも繋がっていきます。その他、さまざまなゼミについても紹介があり、今回のLD学会大会にも実際にキッチンカーゼミが出店しているなどの報告もありました。

子ども食堂からみんな食堂へ~地域のコミュニケーションの場づくり /前田啓介先生

ご自身も不登校の経験をし、星槎国際高校の卒業生だという前田先生。そんな前田先生の取り組みは「子ども食堂」の設立。星槎国際立川の生徒さんが、地域の「孤立・孤食」問題を知り「みんな食堂」を開始し、今や地域の重要な交流拠点になっています。学校が社会と繋がり、生徒さん自身が主体的に「居場所」と「役割」をつくる。社会貢献が自信に繋がる素晴らしい実践です。

全国高等学校定時制通信制サッカー大会で日本1位に/飯田魁先生

2017年、5名の部員でスタートした星槎国際立川サッカー部。今では定時制・通信制高校内でも最大の部員数となり、令和6年に開催された全国定時制通信制サッカー大会では優勝に輝きました。しかし、それまでの道のりは甘くなく……体調不良や未経験の生徒もいる中、グラウンド探しから始め、個々の強み弱みを活かすチームワークの確立、困難があっても「やりたい」という想いを軸に、生徒と指導者が模索し続けた軌跡に胸が熱くなりました。

フィールドワークの実践~「珈琲開拓ゼミ」から得たパワー/原彩子先生

星槎国際厚木の「珈琲開拓ゼミ」。その活動内容は珈琲を調べるだけではなく、JICA本部でのインタビュー取材や、SAAB(アジアとアフリカをつなぐ星槎グループの国際的行事)で発表をしたりなど星槎のアクティブラーニングの実践となっています。人前での発表が不安だった生徒さんが「珈琲」という“好き”を軸に、自ら企画し取材を敢行。苦手を訓練するのではなく、興味ある分野で社会参加を重ねることで、自主性や企画力が自然に育まれる姿が印象的でした。
4つの実践報告を受けて、指定討論者の阿部利彦先生(星槎大学)から、登壇された先生方へさらに深い質問がありました。
テーマは「多様な学び」を実現するための3つの視点について。
  • 多様な生徒への対応(不登校経験や特性のある生徒たちにどう向き合っているか)
  • 個別最適な学び(一人ひとりに本当に合った学びをどう見つけ、提供しているか)
  • 共に生きる力の育成(学校内だけでなく、社会で他者と生きていく力をどう育むか)

これらの点について、現場の先生方から具体的な工夫や考え方が次々と語られ、非常に活発な意見交換となりました。
通信制高校における多様な学びの実践 好き、楽しいを強みにつなげる実践報告
通信制高校における多様な学びの実践 好き、楽しいを強みにつなげる実践報告
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・シンポジウム概要
通信制高校における多様な学びの実践
好き、楽しいを強みにつなげる実践報告
企画者,司会者: 武隈 智美1, 2
話題提供者: 飯田 魁1、前田 啓介1、原 彩子1、山下 俊1
指定討論者: 阿部 利彦3
(1. 星槎国際高等学校、2. 特定非営利活動法人ゲートキーパーTONARINO、3. 星槎大学)

子どもの興味を出発点にした関わりの成功体験 DIRフロアタイム®で育む発達と学び【レポート】

DIRフロアタイム® とは、遊びなどを通じて子どもの発達を促す米国発の支援法です。このDIRフロアタイム®で育む「子どもの興味を出発点にした関わり」をテーマにしたシンポジウム。「DIRフロアタイム®」が、ニューロダイバーシティ(脳神経系の多様性)の視点とどう結びつくのか、国内外の実践者から熱い報告がありました。4つの発表のポイントをご紹介します。
子どもの興味を出発点にした関わりの成功体験 DIRフロアタイム®で育む発達と学び
子どもの興味を出発点にした関わりの成功体験 DIRフロアタイム®で育む発達と学び
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DIRフロアタイム®とは?: 子どものリードに従うアプローチ/Jeff Guenzel氏

個人の発達を促進するために活用されるアプローチで、尊重され、楽しく、喜びに満ち、魅力的なプロセスを通じて行われる、DIRフロアタイム®。そんな基本理念をICDLのJeff氏が解説。豊かな感情が心と脳の成長に重要であり、子どもの「好き」なことが発達の入り口。尊重され、楽しく喜びに満ちた関わりで、自己調整やコミュニケーションを育む、エビデンスに基づいたこれらのアプローチは子どもが発達し成長するための最良の方法を教えてくれることでしょう。

Rebecca School NYC(レベッカ・スクール)におけるDIRフロアタイム®の実践/ 佐藤エマ先生

アメリカ・NYにある私立の特別支援学校「レベッカ・スクール」ではDIRフロアタイム®を学校全体で実践し、3歳から21歳までの生徒が学んでいます。授業中だけでなく、遊びや食事、移動中も全スタッフがチームで関わり、感情的な繋がりと自発性を引き出します。DIRフロアタイム®の実践環境や、「一人の子どもをチームで支える」という言葉が印象的でした。

ニューロダイバーシティ・スクール・イン東京(NSIT)でのDIRフロアタイム®の実践 /大庭亜紀先生

ニューロダイバーシティ・スクール・イン東京(NSIT)では、DIRフロアタイム® の理念に基づき子ども一人ひとりに寄り添った支援が行われています。「カリキュラム」ではなく「アプローチ」という言葉が印象的です。それぞれの子どもの異なる発達ペースや興味、強みに目を向け、マイジャーニーを作成し、スタッフ間で共有。「次の1つ上」をゴールに設定し、成長をサポートします。

保護者から見たDIRフロアタイム® /Bowen Miho氏

NSITに通うお子さんの保護者・Bowen氏の報告です。DIRフロアタイム®の丁寧な関わりで、お子さんのコミュニケーション能力に著しい成長があったことなどを紹介。強制的な訓練ではなく、本人の内発的動機に寄り添い「学びたい」環境を整える。ご家族の喜びが伝わる発表でした。

シンポジウムの最後には、指定討論者の加藤浩平先生(金子総合研究所/東京学芸大学)より、余暇活動支援の研究者の立場から、「DIRフロアタイム®を実践する上での心構え」について質問がありました。それに対し、登壇者の方々からは「一方的に教えるのではなく、本人とコミュニケーションのあり方を一緒に考えていくこと」「本人が『好きなこと』『幸せに感じること』を何よりも大切にする」といった、温かい答えが返ってきました。

テクニック以前に、まず本人の「好き」や「楽しい」という喜びを原動力にすること。そのシンプルながらも奥深い考え方に、DIRフロアタイム®の本質を学んだ気がします。

・シンポジウム概要
子どもの興味を出発点にした関わりの成功体験 DIRフロアタイム®で育む発達と学び
企画者,話題提供者: 大庭 亜紀1, 2
司会者: 加地 はるみ2, 1
話題提供者: Guenzel Jeff3、佐藤 エマ4、Bowen Miho2
指定討論者: 加藤 浩平5, 6
(1. ニューロダイバーシティ・スクール・イン東京(NSIT)、2. NPO 法人ニューロダイバーシティ、3. ICDL、4.Rebecca School NYC(レベッカ・スクール)、5. 金子総合研究所、6. 東京学芸大学)

大学と行政の連携・協働を通じたインクルーシブな生涯学習プログラムの開発・その4 当事者主体で開発・活動する意義について考える 【レポート】

文部科学省の生涯学習プログラム事業の一環として、相模原市の委託により相模女子大学が開発しているインクルーシブ生涯学習プログラムの紹介を中心に、実際にプログラムの推進役として活躍されている当事者による発表、行政との連携、大学での当事者主体の研究や活動の意義についてお話しいただきました。
インクルーシブ・プログラム開発協力者による発表
インクルーシブ・プログラム開発協力者による発表
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インクルーシブ・リサーチへの当事者参加と、行政との連携で広がる取り組みの輪

特に印象深かったのは、当事者の方の「中学生の時に、進路として特別支援学校を選んだが、卒業後の選択肢が少ないことが課題。通信制高校・サポート校という選択肢があることを中学生の時点で知っておくことで、就職以外の選択肢も増えてくるのではないか」という言葉です。そして、「特別支援学校の生徒にもっと学びたいというニーズがあること、このような取り組みがあることがもっと広まっていくように、広報活動も頑張っていきたい」と話していらっしゃる姿はとてもイキイキと輝いており、充実した時間を過ごされていることが伝わりました。

また、「特別支援学校を卒業し就職すると、家と職場の往復になりがち。学びや余暇の場がなく、地域との繋がりが希薄になる」という保護者の不安の声を受け止め、文部科学省の旗振りで、現在では多くの団体にこの取り組みが広がっているとのことです。発達支援センターも、本事業の一環として、啓発講座の開催や社会福祉協議会との橋渡しなど、地域への認知拡大に寄与しています。

学校を卒業して就職しても、学びたいという気持ちを受け止める場所があること、そして職場以外に社会での居場所があることは、障害のあるお子さんを育てるうえで大きな安心に繋がると感じられる発表でした。

活動の実践から見えた、当事者主体の研究がひらく「障害観」の新しい未来

神戸大学の津田先生からは、大学側の視点から見た知的障害(知的発達症)のある人が大学で学ぶ意義についての発表がありました。神戸大学で2019年から行われている「KUPI(学ぶ楽しみ発見プログラム)」の活動で、当事者と神戸大学の学生が共に学ぶ中で得られた「当たり前」を崩される経験から、他者との共同的な学習プロセスを実践することの重要性をお話しいただきました。

障害のある人が一方的な研究対象とされてきた歴史から脱却し、当事者主体の研究へと変化してきた障害学が、これからの社会における「障害観」を変えていく力になると感じられる、貴重な機会となりました。
大学と行政の連携・協働を通じたインクルーシブな生涯学習プログラムの開発・その4 当事者主体で開発・活動する意義について考える
大学と行政の連携・協働を通じたインクルーシブな生涯学習プログラムの開発・その4 当事者主体で開発・活動する意義について考える
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・シンポジウム概要
大学と行政の連携・協働を通じたインクルーシブな生涯学習プログラムの開発・その4
当事者主体で開発・活動する意義について考える
企画者, 話題提供者:武部 正明1
司会者, 話題提供者:日戸 由刈1
話題提供者:今藤 孝拓2、岩本 健吾2、後藤 成海3
指定討論者:津田 英二4、別田 果菜子5
(1.相模女子大学人間社会学部、2.インクルーシブ・プログラム開発協力者、3.相模原市発達障害支援センター、4.神戸大学国際人間科学部、5.文部科学省障害者学習支援推進室)

次ページ「「体験」が支援のヒントに。ワークショップに見る当事者視点の学び 」

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