「好き」を原動力へ!多様な学びの最前線「日本LD学会第34回大会」レポート。阿部利彦大会会長インタビューも【アーカイブ配信中】

ライター:発達ナビ【編集部Eye】
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2025年10月18日・19日の2日間にわたって日本LD学会の第34回大会が開催されました。一般公開講演会、特別講演、8つの大会企画シンポジウム、4つのワークショップ、8つの学会企画・各委員会企画、72の自主シンポジウム、その他多数のポスター発表や常設展示等が行われ約4,000名の来場がありました。この記事では大会初日の10月18日の様子を中心に、大会会長・星槎大学大学院教授の阿部利彦先生への取材や、子どもたちの学びや育ちのために真摯に向き合う支援者の方たちの実践や研究の一端をお伝えします。

目次

「好き」を原動力へ!多様な学びの最前線「日本LD学会第34回大会」レポート

2025年10月、日本LD学会の第34回大会が開催されました。

18日・19日の2日間にわたって国立オリンピック記念青少年総合センターで開催された大会では、 一般公開講演会、特別講演、8つの大会企画シンポジウム、4つのワークショップ、8つの学会企画・各委員会企画、72の自主シンポジウム、その他多数のポスター発表や常設展示等が行われ、約4,000名の来場がありました。

大会の参加者は、研究者・教育や発達支援に携わる人だけでなく、特性があるお子さんの保護者や大学生など幅広く、シンポジウムや体験型ワークショップ、ポスター展示など、さまざまな切り口で発達特性がある子どもたちの学びや生活をどう支えるかについて考える機会となる、多様な学びの場でした。

この記事では、その大会の熱気あふれる様子をレポート。また、大会会長である星槎大学大学院教授の阿部利彦先生にも取材をいたしました。大会初日の10月18日の様子を中心に、子どもたちの学びや育ちのために真摯に向き合う支援者の方たちの実践や研究の一端をお伝えします。

なお、一部講演・シンポジウムについては、2025年11月下旬よりアーカイブ配信が予定されています。会場に足を運べなかった方も、主要なシンポジウムをご自宅で視聴できます。
※DSM-5における学習障害は現在「SLD・限局性学習症」と呼ばれるようになりましたが、この記事では大会名に合わせて「LD・学習障害」と記載しています。
※アーカイブ視聴の申し込み詳細は日本LD学会第34回大会Webサイトをご確認ください。
※ボタンをクリックすると日本LD学会第34回大会公式Webサイトに遷移します

開会式は、大会会長・阿部利彦先生の言葉から幕をあける

開会式では、第34回大会の大会会長である、星槎大学大学院教授の阿部利彦先生が、この大会に際しての思い、子どもたちへの思いを語られました。続いて、理事長 海津亜希子先生による挨拶がありました。LD学会の会員数は1万2,000人をこえる中、実施プログラムにもさまざまな検討があったことなどのお話がありました。

大会場では、開会式はもちろん、シンポジウム開催時も壇上での発言がUDトークでスクリーンに字幕表示され、細やかな配慮を感じることができました。
星槎大学大学院教授の阿部利彦先生、理事長 海津亜希子先生による挨拶のあった開会式
星槎大学大学院教授の阿部利彦先生、理事長 海津亜希子先生による挨拶のあった開会式
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大会会長阿部利彦先生(星槎大学大学院教授)に、今大会についての思いを聞く

大会開催の舞台裏で、大会会長をつとめる阿部利彦先生にその思いを伺いました。
大会会長・阿部利彦先生(星槎大学大学院教授)
大会会長・阿部利彦先生(星槎大学大学院教授)
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(発達ナビ編集部、以下ーー):今大会の開催に際しての思いを教えていただけますか?

阿部利彦先生(以下、阿部):困っている子どもたちを主役にした、子どもを中心においた大会にしたいと考えて企画してきました。発達特性、学び方に特性のある子どもたちが、定型発達に近づければいいのではなく、どの子もその子らしく学びやすく、生きやすい環境をどう整えるのか?という視点を大切にしています。その子の課題だけにシングルフォーカスせず、学びの環境との相互作用で考えていくことが大切だと思っているんですね。そういった思いを込めて企画してきました。

大会企画シンポジウムでは、幼児期から就労・自立までを網羅したテーマで構成しました。そこで軸となっているのは「自己理解」「セルフアドボカシー(※)」です。自己理解は、合理的配慮を勝ち取っていくためにも必要だと考えています。
編集部注:セルフアドボカシーとは「自己権利擁護」を意味し、障害や困難のある当事者が、自分の利益や欲求、意思、権利を自ら主張することです。

学ぶというのは、やはり楽しくないと身につきづらい。ですから、今大会に参加される方々にも楽しんでいただけるしかけをたくさん設定させていただいています。
大会会長・阿部利彦先生(星槎大学大学院教授)
大会会長・阿部利彦先生(星槎大学大学院教授)
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ーーシンポジウムも、大きな会場で2つ同時に開催されますし、本当にたくさんのワークショップも企画されていますよね。どれも参加したいけれど、全部まわりきれないほどです。

阿部:これだけ多くのワークショップが開催されるのはLD学会でも初めての試みです。感覚過敏、UDフォント、TRPGなど、さまざまな体験型ワークショップもご用意しています。

ーー学会には1万2,000人の会員がいらっしゃるそうで驚きました。そして、今大会には4,000人が参加されるとのこと。どのような立場の方が多いのでしょう?やはり教育関係の方なのでしょうか。

阿部:さまざまな立場の方に参加をいただいています。全国LD親の会の会員の方や、星槎親の会の保護者の皆さん、当事者学生の方も参加しています。制限を設けず、いろいろな方に参加いただいて、学び合っていただける機会にしたいと考えています。
また、ここで学んだことに何か一つの正解があるわけではないとも考えています。それぞれ心に留まったことをそれぞれの現場ー学校や支援機関や、ご家庭などーに持ち帰っていただいて、それぞれの最適解を見つけていっていただけたらと思っています。

ーーご家族や学生さんの参加もあるのですね。

阿部:大会の運営では、星槎国際高校の先生方を中心に、星槎の先生方がスタッフとして数多く参加しています。

大会で配布しているうちわは、星槎国際高校の生徒中心に行われたイラストコンテストの受賞作品がデザインされています。また、星槎国際高校にはキッチンカーのゼミがあるのですが、ゼミに参加している生徒によるキッチンカーも会場前に出店し、お弁当屋やカレーを販売しています。こうした取り組みが、子どもたちにとっても学びの機会のひとつとなればと考えています。
左:星槎国際高校キッチンカーゼミ/右:大会で配布されたうちわ
左:星槎国際高校キッチンカーゼミ/右:大会で配布されたうちわ
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ーーすばらしい取り組みだと思います。今大会では、アーカイブ配信もあります。大会に参加できなかった方も、ご自宅などで、大会企画シンポジウムなどは視聴ができますよね。
一般公開講演、特別講演、13のオンデマンド限定教育講演、8つの大会企画シンポジウム、8つの大会推薦自主シンポジウム」がアーカイブで視聴可能です
一般公開講演、特別講演、13のオンデマンド限定教育講演、8つの大会企画シンポジウム、8つの大会推薦自主シンポジウム」がアーカイブで視聴可能です
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阿部:どれも魅力的な、学びとなるものばかりです。日本でも最先端の内容をお伝えできていると自負しています。ぜひ皆さんに見ていただけたらと思っています。
大会会長・阿部利彦先生(星槎大学大学院教授)
大会会長・阿部利彦先生(星槎大学大学院教授)
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今大会ではさまざまなシンポジウムやワークショップなどが行われましたが、そのいくつかを取材しました。会場の熱気や意義ある研究発表についてレポートします。
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通信制高校における多様な学びの実践 好き、楽しいを強みにつなげる実践報告【レポート】

現在、高校生の11人に1人が通っていると言われている通信制高校。通信制高校・星槎国際高校の「好き、楽しいを強みにつなげる実践報告」は通信制高校の柔軟なシステムを活かし、不登校経験や特性のある生徒さんがイキイキと学ぶ姿がとても印象的でした。4つの具体的な実践報告をそれぞれご紹介します。
通信制高校における多様な学びの実践 好き、楽しいを強みにつなげる実践報告
通信制高校における多様な学びの実践 好き、楽しいを強みにつなげる実践報告
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豊かな自然と伝統文化から「今」を学ぶ/山下峻先生

星槎国際八王子は、高尾の自然や伝統文化そのものが教材。職人さんに取材する「KATARIBE(語り部)ゼミ」など、地域の人々と深く関わりながら文化を通して実社会を学びます。地域での学びは自分の強みを知ることや自己肯定感の向上、そしてその後の未来の進路にも繋がっていきます。その他、さまざまなゼミについても紹介があり、今回のLD学会大会にも実際にキッチンカーゼミが出店しているなどの報告もありました。

子ども食堂からみんな食堂へ~地域のコミュニケーションの場づくり /前田啓介先生

ご自身も不登校の経験をし、星槎国際高校の卒業生だという前田先生。そんな前田先生の取り組みは「子ども食堂」の設立。星槎国際立川の生徒さんが、地域の「孤立・孤食」問題を知り「みんな食堂」を開始し、今や地域の重要な交流拠点になっています。学校が社会と繋がり、生徒さん自身が主体的に「居場所」と「役割」をつくる。社会貢献が自信に繋がる素晴らしい実践です。

全国高等学校定時制通信制サッカー大会で日本1位に/飯田魁先生

2017年、5名の部員でスタートした星槎国際立川サッカー部。今では定時制・通信制高校内でも最大の部員数となり、令和6年に開催された全国定時制通信制サッカー大会では優勝に輝きました。しかし、それまでの道のりは甘くなく……体調不良や未経験の生徒もいる中、グラウンド探しから始め、個々の強み弱みを活かすチームワークの確立、困難があっても「やりたい」という想いを軸に、生徒と指導者が模索し続けた軌跡に胸が熱くなりました。

フィールドワークの実践~「珈琲開拓ゼミ」から得たパワー/原彩子先生

星槎国際厚木の「珈琲開拓ゼミ」。その活動内容は珈琲を調べるだけではなく、JICA本部でのインタビュー取材や、SAAB(アジアとアフリカをつなぐ星槎グループの国際的行事)で発表をしたりなど星槎のアクティブラーニングの実践となっています。人前での発表が不安だった生徒さんが「珈琲」という“好き”を軸に、自ら企画し取材を敢行。苦手を訓練するのではなく、興味ある分野で社会参加を重ねることで、自主性や企画力が自然に育まれる姿が印象的でした。
4つの実践報告を受けて、指定討論者の阿部利彦先生(星槎大学)から、登壇された先生方へさらに深い質問がありました。
テーマは「多様な学び」を実現するための3つの視点について。
  • 多様な生徒への対応(不登校経験や特性のある生徒たちにどう向き合っているか)
  • 個別最適な学び(一人ひとりに本当に合った学びをどう見つけ、提供しているか)
  • 共に生きる力の育成(学校内だけでなく、社会で他者と生きていく力をどう育むか)

これらの点について、現場の先生方から具体的な工夫や考え方が次々と語られ、非常に活発な意見交換となりました。
通信制高校における多様な学びの実践 好き、楽しいを強みにつなげる実践報告
通信制高校における多様な学びの実践 好き、楽しいを強みにつなげる実践報告
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・シンポジウム概要
通信制高校における多様な学びの実践
好き、楽しいを強みにつなげる実践報告
企画者,司会者: 武隈 智美1, 2
話題提供者: 飯田 魁1、前田 啓介1、原 彩子1、山下 俊1
指定討論者: 阿部 利彦3
(1. 星槎国際高等学校、2. 特定非営利活動法人ゲートキーパーTONARINO、3. 星槎大学)

子どもの興味を出発点にした関わりの成功体験 DIRフロアタイム®で育む発達と学び【レポート】

DIRフロアタイム® とは、遊びなどを通じて子どもの発達を促す米国発の支援法です。このDIRフロアタイム®で育む「子どもの興味を出発点にした関わり」をテーマにしたシンポジウム。「DIRフロアタイム®」が、ニューロダイバーシティ(脳神経系の多様性)の視点とどう結びつくのか、国内外の実践者から熱い報告がありました。4つの発表のポイントをご紹介します。
子どもの興味を出発点にした関わりの成功体験 DIRフロアタイム®で育む発達と学び
子どもの興味を出発点にした関わりの成功体験 DIRフロアタイム®で育む発達と学び
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DIRフロアタイム®とは?: 子どものリードに従うアプローチ/Jeff Guenzel氏

個人の発達を促進するために活用されるアプローチで、尊重され、楽しく、喜びに満ち、魅力的なプロセスを通じて行われる、DIRフロアタイム®。そんな基本理念をICDLのJeff氏が解説。豊かな感情が心と脳の成長に重要であり、子どもの「好き」なことが発達の入り口。尊重され、楽しく喜びに満ちた関わりで、自己調整やコミュニケーションを育む、エビデンスに基づいたこれらのアプローチは子どもが発達し成長するための最良の方法を教えてくれることでしょう。

Rebecca School NYC(レベッカ・スクール)におけるDIRフロアタイム®の実践/ 佐藤エマ先生

アメリカ・NYにある私立の特別支援学校「レベッカ・スクール」ではDIRフロアタイム®を学校全体で実践し、3歳から21歳までの生徒が学んでいます。授業中だけでなく、遊びや食事、移動中も全スタッフがチームで関わり、感情的な繋がりと自発性を引き出します。DIRフロアタイム®の実践環境や、「一人の子どもをチームで支える」という言葉が印象的でした。

ニューロダイバーシティ・スクール・イン東京(NSIT)でのDIRフロアタイム®の実践 /大庭亜紀先生

ニューロダイバーシティ・スクール・イン東京(NSIT)では、DIRフロアタイム® の理念に基づき子ども一人ひとりに寄り添った支援が行われています。「カリキュラム」ではなく「アプローチ」という言葉が印象的です。それぞれの子どもの異なる発達ペースや興味、強みに目を向け、マイジャーニーを作成し、スタッフ間で共有。「次の1つ上」をゴールに設定し、成長をサポートします。

保護者から見たDIRフロアタイム® /Bowen Miho氏

NSITに通うお子さんの保護者・Bowen氏の報告です。DIRフロアタイム®の丁寧な関わりで、お子さんのコミュニケーション能力に著しい成長があったことなどを紹介。強制的な訓練ではなく、本人の内発的動機に寄り添い「学びたい」環境を整える。ご家族の喜びが伝わる発表でした。

シンポジウムの最後には、指定討論者の加藤浩平先生(金子総合研究所/東京学芸大学)より、余暇活動支援の研究者の立場から、「DIRフロアタイム®を実践する上での心構え」について質問がありました。それに対し、登壇者の方々からは「一方的に教えるのではなく、本人とコミュニケーションのあり方を一緒に考えていくこと」「本人が『好きなこと』『幸せに感じること』を何よりも大切にする」といった、温かい答えが返ってきました。

テクニック以前に、まず本人の「好き」や「楽しい」という喜びを原動力にすること。そのシンプルながらも奥深い考え方に、DIRフロアタイム®の本質を学んだ気がします。

・シンポジウム概要
子どもの興味を出発点にした関わりの成功体験 DIRフロアタイム®で育む発達と学び
企画者,話題提供者: 大庭 亜紀1, 2
司会者: 加地 はるみ2, 1
話題提供者: Guenzel Jeff3、佐藤 エマ4、Bowen Miho2
指定討論者: 加藤 浩平5, 6
(1. ニューロダイバーシティ・スクール・イン東京(NSIT)、2. NPO 法人ニューロダイバーシティ、3. ICDL、4.Rebecca School NYC(レベッカ・スクール)、5. 金子総合研究所、6. 東京学芸大学)

大学と行政の連携・協働を通じたインクルーシブな生涯学習プログラムの開発・その4 当事者主体で開発・活動する意義について考える 【レポート】

文部科学省の生涯学習プログラム事業の一環として、相模原市の委託により相模女子大学が開発しているインクルーシブ生涯学習プログラムの紹介を中心に、実際にプログラムの推進役として活躍されている当事者による発表、行政との連携、大学での当事者主体の研究や活動の意義についてお話しいただきました。
インクルーシブ・プログラム開発協力者による発表
インクルーシブ・プログラム開発協力者による発表
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インクルーシブ・リサーチへの当事者参加と、行政との連携で広がる取り組みの輪

特に印象深かったのは、当事者の方の「中学生の時に、進路として特別支援学校を選んだが、卒業後の選択肢が少ないことが課題。通信制高校・サポート校という選択肢があることを中学生の時点で知っておくことで、就職以外の選択肢も増えてくるのではないか」という言葉です。そして、「特別支援学校の生徒にもっと学びたいというニーズがあること、このような取り組みがあることがもっと広まっていくように、広報活動も頑張っていきたい」と話していらっしゃる姿はとてもイキイキと輝いており、充実した時間を過ごされていることが伝わりました。

また、「特別支援学校を卒業し就職すると、家と職場の往復になりがち。学びや余暇の場がなく、地域との繋がりが希薄になる」という保護者の不安の声を受け止め、文部科学省の旗振りで、現在では多くの団体にこの取り組みが広がっているとのことです。発達支援センターも、本事業の一環として、啓発講座の開催や社会福祉協議会との橋渡しなど、地域への認知拡大に寄与しています。

学校を卒業して就職しても、学びたいという気持ちを受け止める場所があること、そして職場以外に社会での居場所があることは、障害のあるお子さんを育てるうえで大きな安心に繋がると感じられる発表でした。

活動の実践から見えた、当事者主体の研究がひらく「障害観」の新しい未来

神戸大学の津田先生からは、大学側の視点から見た知的障害(知的発達症)のある人が大学で学ぶ意義についての発表がありました。神戸大学で2019年から行われている「KUPI(学ぶ楽しみ発見プログラム)」の活動で、当事者と神戸大学の学生が共に学ぶ中で得られた「当たり前」を崩される経験から、他者との共同的な学習プロセスを実践することの重要性をお話しいただきました。

障害のある人が一方的な研究対象とされてきた歴史から脱却し、当事者主体の研究へと変化してきた障害学が、これからの社会における「障害観」を変えていく力になると感じられる、貴重な機会となりました。
大学と行政の連携・協働を通じたインクルーシブな生涯学習プログラムの開発・その4 当事者主体で開発・活動する意義について考える
大学と行政の連携・協働を通じたインクルーシブな生涯学習プログラムの開発・その4 当事者主体で開発・活動する意義について考える
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・シンポジウム概要
大学と行政の連携・協働を通じたインクルーシブな生涯学習プログラムの開発・その4
当事者主体で開発・活動する意義について考える
企画者, 話題提供者:武部 正明1
司会者, 話題提供者:日戸 由刈1
話題提供者:今藤 孝拓2、岩本 健吾2、後藤 成海3
指定討論者:津田 英二4、別田 果菜子5
(1.相模女子大学人間社会学部、2.インクルーシブ・プログラム開発協力者、3.相模原市発達障害支援センター、4.神戸大学国際人間科学部、5.文部科学省障害者学習支援推進室)

「体験」が支援のヒントに。ワークショップに見る当事者視点の学び

興味・関心を活かす「余暇活動」からのアプローチ

従来のSST(ソーシャルスキル・トレーニング)のような訓練とは別に、本人の興味・関心を活かした「余暇活動」を通じてコミュニケーションの土台を育むアプローチが、今、注目されています。その一つ「テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)」を推進する、加藤浩平先生(金子総合研究所、東京学芸大学)のワークショップ「テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)――対話で物語を紡ぐ『楽しいコミュニケーション』の世界」に参加しました。
テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)
テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)
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TRPGとは、コンピューターを使わず、参加者同士の対話で物語を紡いでいくゲームです。使うのはルールブックや、キャラクターシート、紙と鉛筆、サイコロ、そして参加者自身の想像力。勝ち負けではなく、「参加者全員がどれだけ物語を楽しめたか」が一番の目的となります。今回は、加藤先生がゲームマスター(シナリオを作成・準備し、活動中はTRPGの進行・審判役)を務め、「桃太郎の子孫として鬼ヶ島へ鬼退治に行く」物語へと誘いました。

まずは、「武者」「呪術師」「忍者」といった自分の分身となるキャラクターを作成。するとさっそく、テーブルが同じになった参加者同士で「私は忍者で、アイテムは刀を持っています」などの自己紹介が始まり、自然なコミュニケーションが生まれます。
物語が進むと、「団結力を上げるには?」といった試練に対し、「『えいえいおー!』と声を出す」「『同じ釜の飯を食う』」などのユニークなアイデアが続出。壁が立ちはだかるたびにチームで話し合い解決策を導いていく様子は、まさに参加者全員が主体的に物語に参加し、楽しみながら課題に挑む姿そのものでした。

ワークショップの最後、加藤先生は「集団が苦手、コミュニケーションが苦手だという子も楽しんでくれるのがTRPG。その背景には、あくまでも仮説ですが、自分の分身であるキャラクターを介するため、大胆にチャレンジできる安心感があります。また、ルールの枠組みの中で自由な行動・想像力を発揮できるのも特徴です。ASD(自閉スペクトラム症)など発達障害のある子の中には何をしても良いよと言われると困ってしまうお子さんもいるのですが、TRPGでは役割が明確なので、分からないという不安もありません」と語られ、TRPGが持つ支援への可能性を示されていました。
加藤浩平先生(金子総合研究所、東京学芸大学)
加藤浩平先生(金子総合研究所、東京学芸大学)
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多彩な切り口から「感覚」の理解を深める

「LD学会大会」では、加藤先生によるTRPG体験のほかにも、多様なワークショップが展開されました。例えば、井手正和先生(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)、渥美剛史先生(杏林大学)、近藤鮎子先生(株式会社エルチェ、江戸川区篠崎児童発達支援センター) 、松島佳苗先生(関西医科大学)による、感覚過敏に関するワークショップでは、ノイズキャンセリングヘッドホンや心理物理学による体験、アセスメントツールの紹介、一人ひとりの感覚体験をシェアする語りの森など、多角的な内容が印象的でした。

このように最新の研究知見に基づいた多様な支援実践に触れ、参加者が楽しみながら当事者の視点や支援を深く学べる場は「LD学会大会」ならではの魅力であり、非常に有意義な時間となりました。

【ポスター発表レポート】大人の読み書き困難と就労の実態とは?

「LD学会大会」で毎回大きな注目を集める「ポスター発表」。大学教員や医療機関の研究者、支援機関の専門家、大学院生など、LD・SLD(限局性学習症)や発達障害に関する研究・実践を行う人々が、その成果を大きなポスターにまとめ、参加者と発表者が直接対話をしながら理解を深められる貴重な機会です。
ポスター発表
ポスター発表
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今大会では、「読み書き支援」「インクルーシブ教育」「就労支援」などさまざまなテーマのポスターが並び、会場の混雑ぶりからも多くの人々が関心を寄せていることが伝わりました。

調査が示す、職場での読み書き困難と課題

佐々木銀河先生(筑波大学)と株式会社Kaienの共同研究による発表「就業者の読み書き支援ニーズの様相 職種・業務内容および発達障害診断との関連」についてのポスター発表もありました。

佐々木先生は、「働く人のLD・SLD(限局性学習症)の問題はあまり取り上げられておらず、職場での読み書き支援ニーズと実態が分かっていない」という問題意識から、発達障害のある方808名を含む1474名の就業者を対象に、大規模な調査を実施。発達障害がある方の中で「LD・SLD(限局性学習症)の診断がある」と答えた方はわずか40名で、大人のLD・SLD(限局性学習症)の診断がいかに難しいか、あるいは診断を受けないまま社会で奮闘されている方がいかに多いかを示唆しています。

また、LD・SLD(限局性学習症)の診断がある40名のうち、実に7割以上がASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)などの発達障害を併存しており、読み書き困難の背景は、一人ひとり異なることが分かります。会社から「合理的配慮」として支援を受けている方は非常に限られ、多くが会社のマニュアルを自分の分かりやすい形でつくり直すといった自己対処で乗り越えていました。その一方で、マニュアル等が修正できないPDF形式で配布されるなど、自己対処が難しい現実もあります。

佐々木先生は、「職場での読み書き困難への工夫に関するノウハウはまだ社会に蓄積されていない。こうした知恵を集め、広める必要がある」と話します。
就業者の読み書き支援ニーズの様相 職種・業務内容および発達障害診断との関連
就業者の読み書き支援ニーズの様相 職種・業務内容および発達障害診断との関連
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書籍や教育関連のツール、支援を支える40を超えるさまざまな出展ブースも

LD学会大会の会場には、研究発表以外にも、教育や支援に役立つさまざまなツールや書籍の出展ブースがあり、こちらも大盛況でした。

「LITALICO教育ソフト」のブースでは、「みんなで創るインクルーシブ教育」をテーマに、教育現場の「今」を支えるソフトを紹介していました。すでに全国約270の自治体で導入実績があり、特性のあるお子さんへの「合理的配慮」や、「学校全体での特別支援教育」の基盤を支える役割を担っているとのこと。現場の先生方を力強くサポートするツールとして利用されています。
「LITALICO教育ソフト」ブース
「LITALICO教育ソフト」ブース
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LITALICO教育ソフト
https://s-edu-soft.litalico.jp/

閉会式では次回大会が宮崎県にて開催されることが発表!テーマは“「ともに学ぶ」を支える”

閉会式では、大会会長星槎大学大学院教授の阿部利彦先生と理事長 海津亜希子先生による挨拶の後に次回・2026年開催の第35回大会についての発表も行われました。
次回大会が宮崎県にて開催されることが発表
次回大会が宮崎県にて開催されることが発表
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  • テーマ:「ともに学ぶ」を支える-多様な学びと支援のシステムづくり-
  • 会期:2026(令和8)年12月19日(土)~20日(日)
  • 会場:シーガイアコンベンションセンター+オンデマンド
  • 開催:宮崎大学

大会会長は宮崎大学の若林上総先生。来年度に向けての抱負などをお話しされました。

LD・SLD(限局性学習症)だけではなく発達障害についてさまざまな学びを感じることができた日本LD学会の第34回大会。会場参加は終了しましたが、アーカイブ視聴の申し込みは11月19日(水)まで受付中となっております。レポート第二弾はアーカイブ視聴もできる保護者向けのシンポジウムの見どころをまとめてお伝えいたします!
※アーカイブ視聴の申し込み詳細は日本LD学会第34回大会Webサイトをご確認ください。
※ボタンをクリックすると日本LD学会第34回大会公式Webサイトに遷移します
「好き」の伸ばし方、余暇活動、セルフアドボカシー…当事者の声と専門家の解説から学ぶ「日本LD学会」レポート【アーカイブ配信中】のタイトル画像

「好き」の伸ばし方、余暇活動、セルフアドボカシー…当事者の声と専門家の解説から学ぶ「日本LD学会」レポート【アーカイブ配信中】

子どもの「好きをとことん」どう支える?精神科医・本田秀夫先生と漫画家・沖田×華さんが語るヒント【日本LD学会第34回大会レポート】のタイトル画像

子どもの「好きをとことん」どう支える?精神科医・本田秀夫先生と漫画家・沖田×華さんが語るヒント【日本LD学会第34回大会レポート】

インクルーシブ教育、幼保小連携、教員の専門性…支援の最前線を学ぶ!「日本LD学会」レポート【アーカイブ配信中】のタイトル画像

インクルーシブ教育、幼保小連携、教員の専門性…支援の最前線を学ぶ!「日本LD学会」レポート【アーカイブ配信中】

【10/18.19開催】学習障害の子どもの好奇心や自己肯定感の育み方は?【日本LD学会第34回大会長・星槎大学阿部利彦先生に聞く】のタイトル画像

【10/18.19開催】学習障害の子どもの好奇心や自己肯定感の育み方は?【日本LD学会第34回大会長・星槎大学阿部利彦先生に聞く】

「こだわり」を強みに変える!支援者や家族ができること【10/18.19 日本LD学会大会登壇・東京学芸大 藤野博先生に聞く】のタイトル画像

「こだわり」を強みに変える!支援者や家族ができること【10/18.19 日本LD学会大会登壇・東京学芸大 藤野博先生に聞く】

(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。
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