「体験」が支援のヒントに。ワークショップに見る当事者視点の学び
興味・関心を活かす「余暇活動」からのアプローチ
従来のSST(ソーシャルスキル・トレーニング)のような訓練とは別に、本人の興味・関心を活かした「余暇活動」を通じてコミュニケーションの土台を育むアプローチが、今、注目されています。その一つ「テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)」を推進する、加藤浩平先生(金子総合研究所、東京学芸大学)のワークショップ「テーブルトーク・ロールプレイングゲーム(TRPG)――対話で物語を紡ぐ『楽しいコミュニケーション』の世界」に参加しました。
TRPGとは、コンピューターを使わず、参加者同士の対話で物語を紡いでいくゲームです。使うのはルールブックや、キャラクターシート、紙と鉛筆、サイコロ、そして参加者自身の想像力。勝ち負けではなく、「参加者全員がどれだけ物語を楽しめたか」が一番の目的となります。今回は、加藤先生がゲームマスター(シナリオを作成・準備し、活動中はTRPGの進行・審判役)を務め、「桃太郎の子孫として鬼ヶ島へ鬼退治に行く」物語へと誘いました。
まずは、「武者」「呪術師」「忍者」といった自分の分身となるキャラクターを作成。するとさっそく、テーブルが同じになった参加者同士で「私は忍者で、アイテムは刀を持っています」などの自己紹介が始まり、自然なコミュニケーションが生まれます。
物語が進むと、「団結力を上げるには?」といった試練に対し、「『えいえいおー!』と声を出す」「『同じ釜の飯を食う』」などのユニークなアイデアが続出。壁が立ちはだかるたびにチームで話し合い解決策を導いていく様子は、まさに参加者全員が主体的に物語に参加し、楽しみながら課題に挑む姿そのものでした。
ワークショップの最後、加藤先生は「集団が苦手、コミュニケーションが苦手だという子も楽しんでくれるのがTRPG。その背景には、あくまでも仮説ですが、自分の分身であるキャラクターを介するため、大胆にチャレンジできる安心感があります。また、ルールの枠組みの中で自由な行動・想像力を発揮できるのも特徴です。ASD(自閉スペクトラム症)など発達障害のある子の中には何をしても良いよと言われると困ってしまうお子さんもいるのですが、TRPGでは役割が明確なので、分からないという不安もありません」と語られ、TRPGが持つ支援への可能性を示されていました。
まずは、「武者」「呪術師」「忍者」といった自分の分身となるキャラクターを作成。するとさっそく、テーブルが同じになった参加者同士で「私は忍者で、アイテムは刀を持っています」などの自己紹介が始まり、自然なコミュニケーションが生まれます。
物語が進むと、「団結力を上げるには?」といった試練に対し、「『えいえいおー!』と声を出す」「『同じ釜の飯を食う』」などのユニークなアイデアが続出。壁が立ちはだかるたびにチームで話し合い解決策を導いていく様子は、まさに参加者全員が主体的に物語に参加し、楽しみながら課題に挑む姿そのものでした。
ワークショップの最後、加藤先生は「集団が苦手、コミュニケーションが苦手だという子も楽しんでくれるのがTRPG。その背景には、あくまでも仮説ですが、自分の分身であるキャラクターを介するため、大胆にチャレンジできる安心感があります。また、ルールの枠組みの中で自由な行動・想像力を発揮できるのも特徴です。ASD(自閉スペクトラム症)など発達障害のある子の中には何をしても良いよと言われると困ってしまうお子さんもいるのですが、TRPGでは役割が明確なので、分からないという不安もありません」と語られ、TRPGが持つ支援への可能性を示されていました。
多彩な切り口から「感覚」の理解を深める
「LD学会大会」では、加藤先生によるTRPG体験のほかにも、多様なワークショップが展開されました。例えば、井手正和先生(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)、渥美剛史先生(杏林大学)、近藤鮎子先生(株式会社エルチェ、江戸川区篠崎児童発達支援センター) 、松島佳苗先生(関西医科大学)による、感覚過敏に関するワークショップでは、ノイズキャンセリングヘッドホンや心理物理学による体験、アセスメントツールの紹介、一人ひとりの感覚体験をシェアする語りの森など、多角的な内容が印象的でした。
このように最新の研究知見に基づいた多様な支援実践に触れ、参加者が楽しみながら当事者の視点や支援を深く学べる場は「LD学会大会」ならではの魅力であり、非常に有意義な時間となりました。
このように最新の研究知見に基づいた多様な支援実践に触れ、参加者が楽しみながら当事者の視点や支援を深く学べる場は「LD学会大会」ならではの魅力であり、非常に有意義な時間となりました。
【ポスター発表レポート】大人の読み書き困難と就労の実態とは?
「LD学会大会」で毎回大きな注目を集める「ポスター発表」。大学教員や医療機関の研究者、支援機関の専門家、大学院生など、LD・SLD(限局性学習症)や発達障害に関する研究・実践を行う人々が、その成果を大きなポスターにまとめ、参加者と発表者が直接対話をしながら理解を深められる貴重な機会です。
今大会では、「読み書き支援」「インクルーシブ教育」「就労支援」などさまざまなテーマのポスターが並び、会場の混雑ぶりからも多くの人々が関心を寄せていることが伝わりました。
調査が示す、職場での読み書き困難と課題
佐々木銀河先生(筑波大学)と株式会社Kaienの共同研究による発表「就業者の読み書き支援ニーズの様相 職種・業務内容および発達障害診断との関連」についてのポスター発表もありました。
佐々木先生は、「働く人のLD・SLD(限局性学習症)の問題はあまり取り上げられておらず、職場での読み書き支援ニーズと実態が分かっていない」という問題意識から、発達障害のある方808名を含む1474名の就業者を対象に、大規模な調査を実施。発達障害がある方の中で「LD・SLD(限局性学習症)の診断がある」と答えた方はわずか40名で、大人のLD・SLD(限局性学習症)の診断がいかに難しいか、あるいは診断を受けないまま社会で奮闘されている方がいかに多いかを示唆しています。
また、LD・SLD(限局性学習症)の診断がある40名のうち、実に7割以上がASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)などの発達障害を併存しており、読み書き困難の背景は、一人ひとり異なることが分かります。会社から「合理的配慮」として支援を受けている方は非常に限られ、多くが会社のマニュアルを自分の分かりやすい形でつくり直すといった自己対処で乗り越えていました。その一方で、マニュアル等が修正できないPDF形式で配布されるなど、自己対処が難しい現実もあります。
佐々木先生は、「職場での読み書き困難への工夫に関するノウハウはまだ社会に蓄積されていない。こうした知恵を集め、広める必要がある」と話します。
佐々木先生は、「働く人のLD・SLD(限局性学習症)の問題はあまり取り上げられておらず、職場での読み書き支援ニーズと実態が分かっていない」という問題意識から、発達障害のある方808名を含む1474名の就業者を対象に、大規模な調査を実施。発達障害がある方の中で「LD・SLD(限局性学習症)の診断がある」と答えた方はわずか40名で、大人のLD・SLD(限局性学習症)の診断がいかに難しいか、あるいは診断を受けないまま社会で奮闘されている方がいかに多いかを示唆しています。
また、LD・SLD(限局性学習症)の診断がある40名のうち、実に7割以上がASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)などの発達障害を併存しており、読み書き困難の背景は、一人ひとり異なることが分かります。会社から「合理的配慮」として支援を受けている方は非常に限られ、多くが会社のマニュアルを自分の分かりやすい形でつくり直すといった自己対処で乗り越えていました。その一方で、マニュアル等が修正できないPDF形式で配布されるなど、自己対処が難しい現実もあります。
佐々木先生は、「職場での読み書き困難への工夫に関するノウハウはまだ社会に蓄積されていない。こうした知恵を集め、広める必要がある」と話します。
書籍や教育関連のツール、支援を支える40を超えるさまざまな出展ブースも
LD学会大会の会場には、研究発表以外にも、教育や支援に役立つさまざまなツールや書籍の出展ブースがあり、こちらも大盛況でした。
「LITALICO教育ソフト」のブースでは、「みんなで創るインクルーシブ教育」をテーマに、教育現場の「今」を支えるソフトを紹介していました。すでに全国約270の自治体で導入実績があり、特性のあるお子さんへの「合理的配慮」や、「学校全体での特別支援教育」の基盤を支える役割を担っているとのこと。現場の先生方を力強くサポートするツールとして利用されています。
「LITALICO教育ソフト」のブースでは、「みんなで創るインクルーシブ教育」をテーマに、教育現場の「今」を支えるソフトを紹介していました。すでに全国約270の自治体で導入実績があり、特性のあるお子さんへの「合理的配慮」や、「学校全体での特別支援教育」の基盤を支える役割を担っているとのこと。現場の先生方を力強くサポートするツールとして利用されています。