保護者の頑張りすぎな心を「見える化」・子どもの「やだ」の受け止め方は?【小児科医・山口有紗先生×発達ナビ編集長対談】

ライター:発達ナビ編集部
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子育てをしていると、ついイライラしてしまい、そんなご自分を責めて落ち込んでしまう保護者の方も少なくないのではないでしょうか。
今回のコラムでは「あ、私イライラしているな」と自分自身の状態に“気づく”ことの大切さ、イライラしている自分を嫌うのではなく「よく気づけたな」と、まずはそう気づけた自身を抱きしめ、労ってあげることの重要性など、自分の心のセルフケアや日々の具体的な困りごとの解決のヒントについて小児科専門医、子どものこころ専門医・山口有紗先生に発達ナビ編集長がインタビューを行いました。

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監修: 山口有紗
小児科医
児童精神科医
小児科専門医・子どものこころ専門医、公衆衛生学修士。高校中退後、イギリスでの単身生活や国際関係学部での学びを経て医師となる。現在は子どもの虐待防止センターに所属し、地域の児童相談所などで相談業務に従事。国立成育医療研究センター共同研究員、こども家庭庁アドバイザー。

「もう限界……」イライラする自分を嫌いにならないで。まず“気づけた私”を抱きしめる、保護者自身のメンタルケア

この記事で分かること

  • 子育て中のイライラやモヤモヤに気づき、自分を大切にするメンタルケアの具体的なヒント
  • 子どもの体調や感覚の変化、「やだ」という言葉から読み取れるSOSサイン
  • 子どもの「やだ」を「大切なコミュニケーション」と捉え、寄り添うためのヒント
  • 家庭だけで抱えきれない悩みや「しんどさ」の整理方法と、相談できる場所、相談先
小児科専門医、子どものこころ専門医・山口有紗先生。現在は子どもの虐待防止センターに所属し、地域の児童相談所などで相談業務に従事。国立成育医療研究センター共同研究員、こども家庭庁アドバイザー。
小児科専門医、子どものこころ専門医・山口有紗先生。現在は子どもの虐待防止センターに所属し、地域の児童相談所などで相談業務に従事。国立成育医療研究センター共同研究員、こども家庭庁アドバイザー。
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発達ナビ編集長 牟田(以下ーー):山口先生は、さまざまなお子さんや養育者の方と関わっていらっしゃいます。子育てに悩んだり不安を感じている親御さんの相談にも乗っていらっしゃると思います。私自身の経験からも、親が健やかでないと子育ても行き詰ってしまうと感じています。親御さん自身、どうやって気持ちを切り替えたらいいか、メンタルのケアについて、先生はどのようにアドバイスをされているか、お伺いしたいです。

山口先生(以下山口):子育てしていると、どうしてもイライラするときってありますよね。牟田さんの場合はどうされていますか?

ーーそうですね、私の場合はヨガをしますかね。ヨガをしている間はいろいろ考えないでいられるので。自分の心身がギリギリで余裕がなくなると、子どもにも冷静に接することができなくなりそうなので、自分をまずケアしたほうがいいのかなと感じていて。

山口:そうですね。イライラするときの対応方法は、人によってさまざまです。実は、自分がイライラしているときに「あ、私イライラしているんだな」って気づくっていうところが大切なんです。自分がイライラしていると、なんだかそんな自分も嫌になってしまうことってあるじゃないですか。イライラしている自分に気づいて落ち込むみたいな。
でも、「今、自分はイライラしている」ということ自体に気づけて、名前が付けられたことをまず大切にしてほしいと思います。そう気づけた自分に感謝する。「自分はイライラに気づけたな」って自分を労ってほしい。そのうえで、今の自分にとってそうした状態に対応する方法をいくつか持っておく。例えば、牟田さんにとってのヨガみたいに。

とはいっても、目の前でお子さんがワーワーなっているときに「さぁヨガしましょう」とはいかないじゃないですか。だから、まずはその場からすっと離れるのでもいいし、トイレに行くのでもいいし、その状態から距離をとってみるのもいいと思います。
ただ、わたしもイライラして離れたときに、戻っても状況が全く変わっていないことに余計にがっかりしたこともあります(笑)。ですので、その場でできることとして、身体を使うのも役に立つかもしれません。例えば、自分のこめかみをトントンと交互に軽くタッピングする。足の指をぎゅっと握ってみる。手を合わせて揉んでみて、その手のあたたかさを感じる。「あったかいな」と思うとそちらに意識が行くので、一度そのイライラとか怒りの感情を散らすことができるんですね。

そこにもう一段外部のものを入れてみる。例えば、あたたかいお茶をいれて飲む。お茶を入れる時間がないならお水を飲む。そういうのでもいいかもしれません。
あとは、暮らしの環境が自分を癒してくれることもあります。自分のお気に入りのものをお部屋においておいて、その環境にいることで自分をケアしてみる。少し余裕があるときに、好きなお花を買って活けておくとか、好きな絵を飾るとか、好きな言葉を壁に貼っておいて「わーっ」となったらその言葉を眺めてみるとか。そういうことを試行錯誤していくのがいいのかなと思います。

ーーなるほど、切り替えるための動作とか環境を用意しておくということですね。

山口:いろいろ試して、ご自分に合うものを見つけていっていただけたらと思います。

「やだ」は、大切なコミュニケーション。身体と感覚の小さな変化に気づく「子どものSOSの前兆」に寄り添うヒント

ーーお子さんのSOSサインについてもお伺いしたいです。お子さんが不登校や自傷などに至ったときには、お子さん自身がすでにかなりギリギリな状態に追い込まれているのではないかと思います。お子さんが元気そうに見えても実はギリギリな状態ではないか、親御さんが気づく前兆のようなものはあるんでしょうか。

山口:そうですね。特性がある子どもたちの場合、言葉にする力とかやり方もそれぞれユニークだと思います。そうしたお子さんの場合、身体に症状が出ることも多いのかなと思います。体調崩すというのは分かりやすい例ですけど、ほかにも、もともと感覚過敏がある方の場合その過敏さが強くなるといったことがあります。例えば、匂いや音などへの過敏さが強くなる、今まで食べられていたものが食べられなくなる、といった体調面でのサインです。そうした、体調や感覚の変化がヒントになるのかなと思います。

あとは「やだ」ですかね。「やだ」と言って、いつも行っているところにも行きたがらないとか、いつもは自分でできることをやりたがらないとか。そもそも「やだ」といってやらないことって、ネガティブに受け止められがちだと思うんですけど、実は最も大切なコミュニケーションじゃないかと考えています。

とはいえ、私も一緒に暮らしている子どもがやだやだとしか言わないときには結構けんかになるんですけど……。でもやはり「やだ」は大事なサインなんだなって、「やだ」といえるコミュニケーションを大切にしたいなと思いますね。
(左から)発達ナビ 牟田編集長・山口有紗先生
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子どもの「やだ」の向こうにある、言葉にならない「嘆き」と「本当の願い」

ーー私の娘は重度障害があって無発語なので「やだ」と言葉では言えないですが、拒否の気持ちを身体で表現するんですね。床に寝転がったりして。そういうとき、例えば支援者の方などに「ちゃんとしなさい」と叱られると余計イヤイヤし続けるんですけど、「いっぱい頑張ってたもんね、ちょっと疲れちゃったよね」なんて分かろうとしてくれると、そのうち切り替えて活動し始めたりする。

山口:うん、そうですよね。周囲も「やだ」の解像度が上がるといいですよね。やだっていうと大人側は「拒否」とか「NG」といった意味合いでとらえるじゃないですか。でもいろんな「やだ」がある。やだのバリエーションに私たちも気が付ける感覚を持てるといいですよね。

ーー「やだ」って言いやすい言葉ですよね。自分のつらいことーー例えばいじめられていたり勉強ができなかったりーーいろんなモヤモヤを言語化して家族に伝えるのってハードルが高かったり、恥ずかしかったりするかもしれない。私自身、親に自分の本当のところの悩みは言えなかった。「やだ」ということで、背景にあるいろんなモヤモヤやつらさを言わず、単に自分のワガママ的なものとしてとらえてもらえたほうが楽というか。

山口:そういう面もあるかもしれませんね。「やだ」っていうのは、頭とか認知からやってくるものよりも、もっと体感的・肉感的なものですよね。

例えば私たちが会社に行きたくないときって、頭で「またあの上司にこう言われるからいやなんだよなあ」って考える前に、多分この辺り(お腹のあたりを指して)から……はらわたがやだって言っている感じがある。だから、お子さんが「やだ」っていうときも、無理に言語化させず、「なんかいやなんだよね」「最近やだって教えてくれることが多いよね」って、それを慈しむと言うか。ある種「どういう“嘆き"のかな」って一旦受け止められたらいいのかなと思いますね。

ーーお子さんが「やだ」っていうと、親御さんはどうしてもお子さんに対して「なんでいやなの?」って深堀りしがちになっちゃうと思うんですが、やはりそういうときは根掘り葉掘り聞かないほうがいいのでしょうか。

山口:いや、そんなことはないと思います。自分が自分がその子を大切だからこそ、なんでやだと表現しているのか気になるし、だったらなんでわが子がやだと言っているのか気になるし、何がいやなのって聞きたいですよね。

「言わないとわからないよ。言ってくれたらなんかできることあるよ」っていう風に言いがちだと思うのですけど、それはつまり「あなたのことを分かりたくて何かしてあげられたらいいなって思う」ていう「わたし」の願いでもあるんですよね。 だから「あなたのことが心配だし、なにかできることないかな?って思うんだけど……もきっと、言葉にならないこともあるんだよね」っていう風に、問い詰めるのではなくて、自分の願いとして伝えてみる。

ーーなるほど。問い詰めたいわけじゃなく、こういう願いを私は持っているんだよ、ということのほうを伝える。ただ、毎日の生活の中では、どうしてもその「やだ」を受け止めきれない場面もあったりすると思います。最初は本当に寄り添いたくて寄り添っているのだけど、だんだん「やだやだやだやだ」がエスカレートしてくるとどうしたらいいか分からない……ということもあるかなぁと。

山口:そうですね、そういうときは、ある意味もうあきらめる!って割り切るのもありかなと思います。ただ、あきらめるときの手札はいくつか用意してたほうがいいですね。
例えば子どもが着替えないっていうのがあるじゃないですか。最初は自発的に着替えることを寄り添って待ったり、テンション上がるように声掛けしてみるけれど、どうにも着替えられない。

そしたら次の手段として、洋服を選べるように提示して、選んでもらう。それもできなかったら、ホワイトボードに、着替え・トイレといった項目を素敵なチェックボックスを作って、花とか飾ってみたりして、提示してみる。
そこまでしても難しかったら「あー今日はしたくないんだね。できるの分かってるけど今日はママが手伝います!」って言って、諦めて全部手伝う。こういう手札というか段階を決めず、ずっと「やだ」「着て」だと、自発的にできる打率も下がってくるかもしれません。

ーー選んでもらう、提案する、というのはすごくいいですね。

山口: 声をかける側もやっぱり手持ちの札があると安心するという効果もあると思います。次にすることの見通しが持てるので。

ーーお子さん自身も、こういうパターンだと次に提案がくるなっていう見通しがあると、気持ちの切り替えもしやすいかもしれませんね。

山口:あとは 古典的なことですけど、たまたまできたときに褒めるというか、一緒に喜ぶというか、「なんかなんかお着替えもごはんもいい感じにニコニコ進んで、気持ちのいい朝だったね」みたいな、なんかそういういい時間だったねっていうことを強調して伝えられるといいのかなと思います。
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