【ヘラルボニー主催イベントレポ】「世界ダウン症の日」に岸田奈美さん・良太さんと考える「きょうだい」が"個"として生きるヒント

ライター:発達ナビ【編集部Eye】
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国連により制定された3月21日の「世界ダウン症の日」、銀座にあるHERALBONY LABORATORY GINZAにて、スペシャルトークイベント「きょうだいと、社会の話。」が開催されました。登壇したのは、NHKでドラマ化もされた『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』などで知られる作家・岸田奈美さんと、弟の良太さん、ヘラルボニー代表・松田崇弥さん。ユーモア溢れる姉弟の日常が語られたイベントの様子に加え、後半では、奈美さんへの個別取材の内容をお届けします。

25歳を過ぎてから、弟がうなぎのぼりの成長期に!?

抽選で選ばれた約60名の参加者が集まったのは、国際デーのひとつとして2012年から国連により指定された「世界ダウン症の日」である3月21日。会場のHERALBONY LABORATORY GINZAには、お子さん連れのご家族や立ち見の方も多数並ぶ盛況ぶりで、ヘラルボニーのアイテムを自分らしく着こなす来場者の姿も目立ちました。
ヘラルボニー「世界ダウン症の日」特設サイト
https://worlddownsyndromeday.heralbony.com/2026/
左からヘラルボニー代表・松田崇弥さん、岸田良太さん、岸田奈美さん
左からヘラルボニー代表・松田崇弥さん、岸田良太さん、岸田奈美さん
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松田さん:奈美さんは、良太さんとこうして登壇する機会などはありますか?

奈美さん:ないよね?(良太さんのつぶやきに)「トイ・ストーリー2です」?

松田さん:お好きということですか?

奈美さん:脈絡とか関係なく言いたいことを話すんです(笑)。私でも1割ぐらいしか分からないですが、本人は「人前で喋りたい」という想いはすごくあるみたいで。

松田さん:来てくださった皆さんに、良太さんからお話ししたいことはありますか?

良太さん:みずきの誕生日会がありました。

奈美さん:(会場に向かって)みずきというのは私の夫です。ちょうど1年くらい前に結婚式を挙げまして。今日もイベントに来てくれている、ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』で良太役を演じてくれた、吉田葵くんも結婚式に参列してくれました。夫が私と同い年の34歳、良太は30歳で年下なんですが、なぜか良太は夫を舎弟扱いしていて(笑)。毎月2000円ほど就労継続支援B型事業所でお金を稼いでは、「みずきをスシローに連れていかなあかん」と言っていて。
「今日は良太が主役なので私は黒子」と裏方宣言していた奈美さん。時が進むに連れ、”普段通り”の姉弟の軽妙なやり取りに
「今日は良太が主役なので私は黒子」と裏方宣言していた奈美さん。時が進むに連れ、”普段通り”の姉弟の軽妙なやり取りに
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良太さん:奈美ちゃんが結婚してしまいました。

奈美さん:結婚してさみしい?

良太さん:うれしいです。

松田さん:素晴らしいですね。お二人の最近のエピソードで、印象深かったことは?

奈美さん:ホテルのチェックイン時に、良太が横から「2人です。僕、弟です」って言ってくれるんですよ。ほかにも、鹿児島の「しょうぶ学園」という障害者福祉施設に一緒に見学に行ったときは、私よりも弟のほうが質問していて。「なんでこんなに天井が高いんですか?」「ここはいくらもらえますか?」とか、インタビュー力が高かったんです。すごいですよ、25歳を超えてからコミュニケーション力がうなぎのぼり状態で。

松田さん:良太さんは、皆さんと喋るのは好きですか?

良太さん:いや、あれね、ハリー・ポッターで。こうすると怖いから。

奈美さん:う~ん、また言っていることが分からないなぁ……これが結構悔しいというか、悲しいんですけど。でも最近気づいたのは、「ハリー・ポッター」とか自分の中でどうしても人に喋りたいことがあると、どんな質問を受けてもそれを言うので、(姉弟間は特に)お互いにめっちゃ自分勝手な会話をしています(笑)。

「笑われる」のではなく「笑かしたい」。個性を引き出した環境の力

会場にはヘラルボニーの洋服や小物をアレンジし、思い思いの着こなしを楽しむ人々の姿がたくさん
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松田さん:世間の方々が知っているお二人と、家族で過ごすときのお二人とでは、何か違いは感じますか?

奈美さん:本当に普通の姉弟ですよ。「弟さん、すごく純粋で素晴らしくて天使のような方ですね!」とか、よくインスタグラムのDMをもらいますが、そんなことは全然。(良太さんを見て)むしろ、だまし合いやんな?日々(笑)。

最近良太はLINEを使えるようになったんですが、分かる言葉をコピペして単語だけ繋げたものを送ってくるから、ひたすらゲームソフトのタイトルだけが並んでいたりするんです。どういう意味なのか分からないし、私も忙しい場合は「だる!」とか返してまう(笑)。皆さんが思うよりもめっちゃ適当に扱っています。私と仲良い?

良太さん:いや……(考えこむ)。

松田さん:ちょっと考えてる(笑)。奈美さんの好きなところを教えてください。

良太さん:優しいところ。

奈美さん:ありがとう。嫌いなところはある?

良太さん:みんながいて、謝った。本当にやばかった。

奈美さん:(笑)私のことで謝ったことがあるみたいです。確かにな、姉ちゃんなんでも書くからな。でも最近、私がエッセイを書いているnoteを読んでくれて、弟の話題が出ると言ってくるんですよ。「俺のことや」みたいな。

松田さん:お二人の日常ではどういう会話が繰り広げられているんですか?

奈美さん:私と母が、ドラマの展開に対して悪口っぽいことをテレビに向かって喋ると、それに対して良太が「なんでやねん」とか「言いすぎやで」と突っ込んできます。母と3人で鹿児島に行ったときは、母は車椅子ユーザーなので飛行機に乗るのも結構大変なんですが、荷物検査場で車椅子の金属に反応して警告音が鳴った瞬間、弟が「あんた、それ(車椅子)捨てなあかんわ」みたいなことを言っていたり(笑)。

私は姉として強い責任感を持って弟を守ろうとしているけれど、弟は弟で、私がいろんなところに物を置き忘れるから「俺がしっかりせな」と思っているらしくて。母曰く、お互いに「こいつの面倒を見なきゃ」と思っているからこそ、うまいこといくねんなと。

松田さん:確かに、先ほど一緒にランチに行ったら、コース料理のテーブルマナーもしっかりされていましたよね。

奈美さん:障害がある方の中にはこだわりが強かったり、はじめてのものを食べるのが難しいこともあると思いますが、良太は他人の見よう見まねでやってみるんですよね。うちの夫は弟のことを「タモリ以来の形態模写の達人だ!」と言っています(笑)。夫は僧侶なのですが、良太は夫のまねをしてお念仏を唱えるようにもなりました。30歳を超えてからも目覚ましく成長しているので、伸びしろが半端ないです。

松田さん:私の兄も重度の知的障害(知的発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)なのですが、成長の部分でいうと兄は15歳ぐらいがピークでしたね。母が本当にすごくて、「朝7時半に起きる」「この時間から歯磨きをする」とか、兄のために行動を記したノートを書いていたんです。そのぐらい兄は時間に対して忠実で、母親の言うこと、書くことを必ず全部形にしていた。ある種「デスノート」みたいな感じなんですよ(笑)。でも15歳の頃から「断ってもいい」ということを覚えたんです。そこからは「何もやらないです」というスタンスに変わったので、家では「将軍様」と呼ばれるようになりました(笑)。でも、やりたくなかったのだから、あれは成長だったんだろうなと思って。
そういう意味でね、良太さんは25歳からどんどんみんなの前にも出て、すごいなと思ったんです。

奈美さん:良太は、みんなに「笑われる」のではなく「笑かしたい」想いが強いみたいです。特別支援学校を出て最初に入った事業所は、静かに粛々と作業をするような環境で、そういうの(人を笑わせようとする行為)を許してくれず、良太が「行きたくない」と言う理由もはじめは分からなかった。

それから母が、「この子がこれだけ動かないってことは、良太の人生にとって嫌なことなんだ」と気づいて、ある程度自由の効く、厳しくない事業所を2年ぐらいかけて探しました。

通訳しすぎないことで見えた、本人の底力

松田さん:今日来てくださった方々に、家族を見るうえで「こういう風にしていったら面白いかもしれない」など、お伝えしたいことはありますか?

奈美さん:弟について勘違いしていたことが結構あって。私は弟の代わりとして「通訳」をしすぎていたんです。例えば、ホテルでチェックインするときも「良太が相手に話しかけて伝わらないと傷つくだろうから」と、絶対に喋らせなかった。グループホームで暮らしはじめてからは、私の通訳なしでどうしているのかなと心配していたんですが、逆にめっちゃ喋るようになっていたり。

私たちはストレスをぶちまけたり、怒りを言葉で吐くことができるけど、彼は言葉でコミュニケーションが取れない分、身振り手振りや「ここから動かないぞ」という座り込みによって伝えようとする想いがすごくて。そこに圧倒されるというか。

私自身は人に拒絶されるのが怖いし、喋るのもすごく苦手。良太の、果敢に言葉で人とコミュニケーションを取ろうと、自分の心地良い場所を守ろうとしていく姿には勇気をもらえます。彼が30歳を超えてやっと分かったことですが、家族は一番そばにいるからこそ、本人の成長の妨げになっちゃっていることがあるんだなと最近気がつきました。

松田さん:なるほど。では、せっかくなので会場のお客さまからも質問をいただきましょう。葵くんが手を挙げてくれましたね。

吉田葵さん:奈美ちゃんに質問なんですけど、良太先輩って、いつから大人になったんですか?

松田さん:素敵な質問だね!

奈美さん:いつから大人になったんやろう。私が、今の弟の趣味や喋り方を見ると、高校3年生ぐらいの感覚なんですよ。高3の子が悩むようなことを悩んではるんで、3年前ぐらいかな?良太はどう?

良太さん:先輩って呼んでくれてありがとうございます。

奈美さん:葵くんが先輩って呼んでくれたときから大人度も増して。

松田さん:みずきくんと出会ったのも大きいのかもね。

奈美さん:ピラミッド的に自分の下の子たちが増えると、相対的にステージが上がっていくみたいで(笑)。

良太さん:もうね、だめなんですよ。

奈美さん:稼いでも稼いでも、おごらなあかんからな(笑)。
時折良太さんから奈美さんに突っ込みが入ると、会場は爆笑の渦に
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松田さん:ほかに質問のある方はいらっしゃいますか?

(客席):お二人の夢はなんですか?

良太さん:AKB(48)やりたいです。

奈美さん:良太はAKB派やけど、みずきくんはハロプロが大好きで。AKBとハロプロは毛色が全然違うから、「指導」と言って良太にハロプロの音楽を聴かせています(笑)。

私の夢はなんだろう……ロバを飼いたいですね。もともと馬が大好きで。馬は相手と同じことをする鏡のような存在で、こっちが怖がると向こうも怖がるし、言葉だけで「かわいいね」と言っても、「俺のことをコントロールしたいだけやろう」と心の中を見透かされるような感じがするんです。そこが、弟と一緒にいるときに学ぶこととも近い。自分の強さも弱さも浮き彫りにしてくれます。馬主になるのは大変やから、ロバがよさそうかな(笑)。

あとは最近、小説や映画の原作など、身の回りのこと以外の執筆オファーもいただいています。それも夢というよりは、やっていくことなんだろうなと。ただ、私がどれだけ書いても良太は『トイ・ストーリー2』しか見ないので(笑)、それを超える、良太が楽しいと思えるものをつくりたいです。
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