ASD視覚体験シミュレータ 開発者のコメント

情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センターの長井志江先生

「発達障害者の認知メカニズムの解明とそれに基づく支援設計」

従来の発達障害者に対する支援や療育は、第三者の視点から社会的能力の困難さに着目して設計されてきました。しかし、発達障害者の抱える困難さが社会性のレベルだけではなく、それ以前の知覚や運動、そしてそれらと環境の相互作用によって生じうることが、近年の当事者研究によって指摘されています。

ASD視覚体験シミュレータは、ASD者の視覚過敏や鈍麻がどのような環境要因(動きや音など)によって誘発され、それが常同行動や他者とのコミュニケーションの難しさなどの社会性の問題に結びつくのかを、第一人称視点から理解し共有することを可能にします。

特に、画像・音声処理技術を駆使した計算論的アプローチによって、発達障害者の非定型性を生み出す認知・神経メカニズムを明らかにし、それに基づいた当事者視点からの支援を実現します。

本シミュレータを通して発達障害の特性を個人に帰属するものと社会環境に帰属するものとに分類することで、真に役立つ支援と合理的配慮の設計に貢献します。

東京大学先端科学技術研究センター 熊谷晋一郎先生

「見えにくい障害にとってのバリアフリーな社会を目指して」

多数派と、ものの見え方、聞こえ方などの認知スタイルが異なる少数派は、生活の様々な場面で、「なぜ自分は他の人と同じように感じたり、行動したりできないのだろう」と、違和感をもつことがしばしばあります。

しかし、こうした認知的な違いは、周囲からは気づかれにくいものです。そして周囲から気づかれにくい差異は、たいていの場合、自分も気づきにくいのです。

理由もわからず、周囲と同じようにできないとき、「自分の努力不足なのだろうか」「自分がおかしいのだろうか」など、あいまいに自分を責める状況になりかねません。

差異が具体的に捉えにくい場合、社会に対してニーズを主張しようにも、うまく伝えられないという場合もあります。

そうした、気づかれにくい認知的な個性を、認知発達ロボティクスや当事者研究、計算論的神経科学の協働によって可視化し、自己理解と社会的共有を支援しようというのが、ASD視覚体験シミュレータの開発の目的です。

ASD視覚体験シミュレータ

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