障害のある子ども以外へのサポートは?

ー今回の提言が、障害のある子どもに対する支援をより一層推進するものであることはわかりました。

ですが、障害がなくとも、さまざまな理由で不登校であったり、日本語での学習・コミュニケーションが困難な子どもなど、他にも特別な支援が必要な子どもたちはいるのではないでしょうか。
田中調査官 障害のある子どもへの支援に関しての報道が目立っていますが、教育再生実行会議の提言では、不登校であったり、日本語能力が十分でない子どもたちへの支援の推進も、同様の議論がなされています。

また、これまでもすでに、不登校等の子どものための「児童生徒理解・教育支援シート」、日本語能力が十分でない子どものための「個別の指導計画」というものの作成・活用が推奨されてきています。
障害のある子の「個別カルテ」ってどういうこと?文科省に聞いてみたの画像
さまざまな境遇にある子どもたちへの支援
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ーなるほど。

名前や対象の違いはさておき、多様な個性を尊重し活かしていくための個別の支援は、障害の分野に限らず、同列に議論・提言されているようです。
(2)不登校等の子供たちへの教育

 (中略)


〔不登校児童生徒についての情報の適切な引継ぎ〕
○ 国は、(1)と同様に、不登校等の子供について各学校段階で個別の支援情報に
関する資料7を作成し、進級、進学、就労の際に、記載された情報の取扱いについて
十分に配慮した上で、その内容が適切に引き継がれる仕組みを構築する。

7 平成 27 年8月に文部科学省の不登校に関する調査研究協力者会議が中間報告の中で提案している「児童生徒理解
・教育支援シート」を活用することが考えられる。

(5)日本語能力が十分でない子供たちへの教育

 (中略)

〔日本語能力が十分でない子供についての情報の適切な引継ぎ〕
(1)と同様に、国は、日本語能力が十分でない子供について、必要に応じて、
各学校等が個別の指導に関する支援情報資料13を作成し、進級、進学、就労の際に、
記載された情報の取扱いについて十分に配慮した上で、その内容が適切に引き継が
れる仕組みを構築する。

---
教育再生実行会議, 「全ての子供たちの能力を伸ばし可能性を開花させる教育へ」(第九次提言)より, 2016年5月20日公開, 2016年5月30日アクセス
※太字は筆者強調。(1)とは、発達障害など障害のある子供たちへの教育のこと
出典:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/pdf/dai9_1.pdf

個別の指導計画・個別の教育支援計画の作成対象をどうやって決める?

障害のある子の「個別カルテ」ってどういうこと?文科省に聞いてみたの画像
出典 : http://amanaimages.com/info/infoRF.aspx?SearchKey=28174007540
第9次提言にいう個別カルテ(仮称)の目的や位置づけについては整理できてきました。

所属や学校の違いによらず、一貫した個別の支援を行うことは非常に重要です。

ですが、支援計画の作成対象となる子どもはどこからどこまでなのか、どのように線引きするのか?という難しい問いが残ります。


医療の世界における病気についてのカルテは、客観的な根拠があり、どの医師が判断してもまずは、ぶれることはないでしょう。しかし、軽い障がいや発達障がいについて、きちんと普遍的に判断できる医師や、ましてや、教員はいるのでしょうか。

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水谷修オフィシャルブログ「夜回り先生は、今!」, 「障がい児「カルテ」の報道について」, 2016年5月15日公開, 2016年5月30日アクセス
出典:http://www.mizutaniosamu.com/blog/010diary01/post_411.html
ー上記のように、計画を作成するべき子どもの線引きについては、Twitterやブログなどでも懸念が寄せられていますが、この点についてはどのようにお考えでしょうか。

森下企画官 個別の指導計画や個別の教育支援計画の作成の義務づけが提言されている、通級による指導の対象とするか否かの判断に当たっては、

医学的な診断の有無のみにとらわれることなく、総合的に判断するようお願いしています。

また、これらの計画は、切れ目のない一貫した支援を行うためのものですから、

通級による指導を受けていなくとも、学習上や生活上の課題や困難の状況に応じて学校や教育委員会等が計画の作成を検討することは有意義だと思います。

検査や診断の結果や医師の意見書も参考材料のひとつとはなりますが、

あくまで子どもと保護者の意思を尊重しながら、一人ひとりにとって最も望ましい学習環境や支援の方法を考えていくことが重要です。


ーこの論点は、表面に現れにくい発達障害のある子どもの支援を考える上では、特に重要ですね。

明確な診断がつきにくい子どもたちの中にも、学習やコミュニケーションに困難のある子どもは少なくありません。

診断の有無ではなく、具体的な教育的ニーズに応じてカルテを作成するという方針は、一人ひとりに必要な支援を届ける上では大切な観点でしょう。

教育再生実行会議の有識者委員である小林りんさんの提言資料にもありますが、支援が必要な子どもを早期発見するための明確な判断基準や、チェックリスト等の作成が望まれるところです。
①異なる能力を持つ子供に「特別の教育課程」を活用する

【具体的政策について】
①特別なニーズを持つ児童の判断基準を明確化・共有する
  ・10%程度見込まれるの特別なニーズを持つ子供の早期発見のための判断基準を明確化し、教員、保護者と共有する。
  ・判断は障害の有無ではなく学習における困難さがあるかどうかを基準にする。
  ・判断基準、発見のためのチェックリスト作成。
  ・また就学前に特別なニーズを持つ子供を早期発見するために就学前健診の項目を見直し、特別な教育的手立ての方針を明確にした上で進学する仕組みとする。

---
第33回教育再生実行会議 小林りん委員(有識者)提出資料より
出典:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouikusaisei/dai33/siryou2.pdf

まとめ

これまでの取材の内容をまとめると、今回報道された個別カルテについてのポイントは以下の通りです。

・「個別カルテ(仮称)」の義務化の方針は、教育再生実行会議の提言が報じられたものであり、現在、提言を受けた文部科学省において検討中。

・「個別カルテ(仮称)」の目的・役割である「障害のある子どもへの「切れ目のない支援」は、これまでも求められており、特別支援学校において作成が義務づけられている「個別の指導計画」・「個別の教育支援計画」と趣旨は同様。提言は、小・中学校の特別支援学級や通級による指導の対象となる子どもについても作成の義務づけを提言。

・障害のある子ども以外のさまざまな境遇・教育的ニーズがある子どもに対する支援についても同じく提言されている。

・計画を作成する対象は、診断の有無にとらわれることなく、学習上や生活上の課題や困難の状況や具体的な教育的ニーズをもとに学校や教育委員会において適切に検討するべき。


名称はともかく、大切なことは、一人ひとりの困りごとに合わせた個別の支援を、学級や学校の枠を越えて一貫して行っていくという、その目的にあります。

もちろんそのためには、法制度の詳細な見直しや、現場での運用体制の確立など、さまざまな課題があります。発達ナビでは今後もこのテーマについて、最新の議論の様子や現場での取り組みを追っていきたいと思います。
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