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ASDと命令的コミュニケーション

◆道具扱いされているように感じてしまう

 「欲しいものがあるときだけ手を引いてくる。要求が通ると、もう振り向かない。目が合わない」——ASDのお子さまを育てる保護者から、こうした言葉を聞くことがあります。「この子にとって、私はただの"手"なんだろうか」と感じてしまう瞬間が、正直あると話してくれる方も少なくありません。

これは親の愛情が足りないわけでも、関わり方が間違っているわけでもありません。ASDの特性に由来する、コミュニケーションの質の問題です。

◆「要求のため」と「共有のため」——2種類のコミュニケーション

 発達心理学では、コミュニケーションを大きく二つに分類します。一つは「命令的コミュニケーション」——ジュースをとってほしい、ドアを開けてほしい、といった要求を伝えるためのやりとりです。もう一つは「宣言的コミュニケーション」——「見て!すごいね!」「ねえ、あれ面白くない?」といった、感動や発見を誰かと共有するためのやりとりです。

 ASDでは、前者(要求)のコミュニケーションは比較的保たれやすい一方、後者(共有)のコミュニケーションが著しく育ちにくいことが、多くの研究で繰り返し示されています。

 「道具にされている」と感じるのは、お子さまが保護者を「要求を叶えてくれる存在」としては認識できていても、「一緒に世界を楽しむ存在」としてまだ認識できていないからです。これはASDの中核的な特性であり、保護者の関わり方や愛情の問題ではまったくありません。

◆「共有する体験」が、ことばの土台になる

 この宣言的コミュニケーションは、言語発達とも深く結びついています。「見て!」と誰かと何かを共有しようとする体験の積み重ねが、ことばを使う動機をつくり、言語発達の土台を育てていきます。

 「要求には応えられるのに、なぜことばが育たないのだろう」と感じている保護者の方は、この視点を知っておくことが大切です。次回は、この「共有するコミュニケーション」と言語発達の関係を、研究データとともにお伝えします。

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