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運動は大事。でも、運動で言葉の発達はしない。

◆言語発達の心配に対する「わかりやすい説明」にご注意ください 「運動野の隣に言語野があるから、体を動かせば言語野も活性化して言葉が出る」「運動でBDNFが増えて海馬が大きくなり、発語につながる」——こうした説明をSNSで見かけることが増えています。希望が持てる話ですし、気持ちはよくわかります。しかし残念ながら、事実と異なる点がいくつかあります。 ◆「脳は近いから一緒に活性化する」わけではない  まず「隣同士だから一緒に働く」という説明ですが、脳はそういう仕組みで働いていません。運動によって血流が増えるのは、実際に活動した領域だけです。隣の領域がその"おこぼれ"で動き出すわけではないのです。  そもそも言語に関わる部位は、前頭葉・側頭葉・頭頂葉に広く分布し、それらをつなぐ神経ネットワーク全体で機能しています。「運動野の隣にある」という位置関係だけで説明できるほど、ことばの仕組みは単純ではありません。 ◆BDNF(脳由来神経栄養因子)と海馬も子どもの発語には直結しない  運動・BDNF・海馬の関係を示した研究の多くは、動物や成人・高齢者を対象にしたものです。「運動する→海馬が大きくなる→言葉を覚える→話し出す」という一本道の因果関係は、現在の研究では確かめられていません。子どもの発語促進への応用として語られるとき、元の研究からかなり飛躍があることを知っておいてください。 ◆「インプットを増やせばアウトプットにつながる」も要注意  「たくさん言葉を聞かせれば話し出す」という考え方にも注意が必要です。言葉は、浴びせた量に比例して出てくるものではありません。今どこまで意味を理解しているか、視線や指さし・身振りで人とやりとりできているか、音を聞き分けられているか、口や舌を思うように動かせているか——こうした土台が育って初めて、ことばは出てきます。 ◆それでも、体を使った遊びには意味がある——ただし理由が違う  体を動かす運動療育それ自体が無意味なわけではありません。ブランコを押してもらって「もっと」と伝える、追いかけっこで目が合って笑い合う。そこには要求・共感・順番といったコミュニケーションの芽があります。ただしそれは「運動が言語野を直接刺激するから」ではなく、「大人とのやりとりが自然に生まれるから」意味があるのです。理由が違うと、支援の方向性もまったく変わります。 ◆「運動で様子を見よう」の間に、時間が過ぎていく  ことばの遅れの背景は一人ひとり異なります。聞こえの問題、ことばの理解の育ち、対人的なやりとりの特性、口まわりの動かしにくさ——原因が違えば、必要な支援もまったく変わります。「運動を増やして様子を見よう」としている間に、本当に必要な支援の開始が遅れてしまうことがあります。  「何をすればいいか」を探し続けるより、「この子には今、何が必要か」を一緒に見つけませんか。言語聴覚士は、聞こえ・理解・表出・やりとりの力を丁寧に評価し、そのお子さまの今の段階に合った言語の発達を促す訓練を提供する専門職です。 ◆相模原市でことばの発達支援をお考えの方へ    リングア(相模原市南区・相模大野)では、言語聴覚士への相談・施設見学を随時受け付けています。

リングア/運動は大事。でも、運動で言葉の発達はしない。
言語発達
26/09/12 16:46 公開

知っているはずの「ことば」が、会話の中で出てこない

◆「あれ、なんだっけ……わかってるんだけど」  誰でも経験する「ど忘れ」。しかしこれが日常的・慢性的に起き、会話のたびにことばが詰まってしまう状態を「喚語困難(かんごこんなん)」と言います。  喚語困難の本質は、ことばを「失った」のではなく、記憶の中にあるはずのことばが「取り出せない」状態です。知識としてはあるのに、必要な瞬間にアクセスできない——この「知っているのに出てこない」という感覚こそが喚語困難の特徴であり、単なるボキャブラリー不足とは根本的に異なります。 ◆会話の中でどんな様子が見られるか  喚語困難が会話場面で現れるとき、特有のパターンがあります。ものの名前がとっさに出てこず「えーと」「あれ」「なんか」で時間を稼ぐ、指さしやジェスチャーで代替しようとする、「冷蔵庫」が出てこずに「ご飯冷やすやつ」と言い換える、ヒントを与えられるとすぐに思い出せる——こうした様子が日常的に繰り返されます。  特に注目すべきは「会話の中で」という点です。静かな場所で一対一のやりとりなら出てくることばが、集団での会話・緊張した場面・話題が次々と変わる状況では出てこない、というケースが多くあります。喚語困難は「どんな状況か」によって症状の現れ方が大きく変わるため、「家では話せるのに集団になると黙ってしまう」という様子の背景にこの問題が潜んでいることがあります。 ◆なぜ「会話の中で」出てこなくなるのか  私たちがことばを話すとき、脳では「伝えたい意味の活性化→対応する語彙の選択→発音の実行」というプロセスが瞬時に動いています。喚語困難はこの「語彙の選択段階」での滞りが中心です。  会話場面では、相手の話を聞きながら・次に言うことを考えながら・場の雰囲気を読みながら、同時に複数の処理が求められます。この認知的な負荷が高い状態では、語彙へのアクセスがさらに不安定になります。落ち着いた場面では出てくることばが、会話の中では出てこない——この差が生まれるのはこのためです。  脳の角回やブローカ野周辺の機能と深く関わっており、言語発達に遅れのあるお子さまや語彙の定着が不十分なお子さまにも見られます。ASD・ADHD・学習障害との併存も多く、「コミュニケーションが苦手な子」として一括りにされてしまい、喚語困難そのものへの支援が行われないまま時間が過ぎるケースが少なくありません。 ◆「黙る」「固まる」の裏側にあるもの  喚語困難が続くと、二次的な問題が生じます。「また出てこない」という経験が積み重なると、話す場面そのものを避けるようになります。集団活動で発言しない、質問に答えない、黙り込む——これらは「やる気がない」のではなく、ことばが出てこないことへの自己防衛です。  さらに、うまく伝えられない焦りと悔しさが限界に達したとき、手が出る・物を投げる・かんしゃくを起こすといった行動につながることもあります。「なぜ急に暴れるのか」と思われがちですが、その背景にことばの詰まりへのいら立ちが潜んでいるケースがあります。 ◆言語聴覚士による評価と支援  支援の出発点は「どの段階で詰まっているか」の評価です。語音のヒントで出てくるか、文字を見れば言えるか、ゆっくりした一対一の場面では出るか——こうした反応を丁寧に確認することで、アクセスの滞りがどこにあるかを特定します。  そのうえで、意味カテゴリーを使った連想練習・語音の手がかりを活用した想起訓練・会話場面に近い自然なやりとりの中での反復練習を組み合わせ、ことばへのアクセス経路を複数の方向から強化していきます。同時に、話す場面への回避や感情的な爆発といった二次的な問題にも並行してアプローチすることが、根本的な改善への近道です。 「話せるのに、会話になるとことばが出てこない」「集団になると急に黙ってしまう」と感じたら、まず専門家へご相談ください。 ◆相模原市でことばの発達支援をお考えの方へ  リングア(相模原市南区・相模大野)では、言語聴覚士への相談・施設見学を随時受け付けています。

リングア/知っているはずの「ことば」が、会話の中で出てこない
言語発達
26/08/25 16:24 公開

言語訓練に服薬治療は必要?

◆不注意や多動、癇癪といった行動の問題と療育  発達支援の現場では「療育によって不注意や多動、癇癪の問題を改善する」という期待を持たれる保護者の方が多くいます。しかし、残念ながら難しいというのが本当のことです。  ADHDの不注意や多動、ASDの癇癪といった行動面の問題は、脳の神経発達の問題であり、成長とともに脳が成熟することで自然に落ち着いていくケースはありますが、それは療育の効果ではなく発達の結果です。療育によって「治る」ものではありません。このことを保護者の方と正しく共有することが、適切な支援への第一歩だと考えています。 ◆不注意・癇癪がある状態では、訓練効果を得ることが難しい  ADHDの強い不注意があるお子さまの場合、着席して課題に集中できる時間が短い、指示を最後まで聞けない、衝動的に答えてしまう——こうした状態では、どれだけ優れたアプローチを準備しても、訓練の構造そのものが成立しにくくなります。  ASDに伴う激しい癇癪や強い不安がある場合も同様です。ことばの訓練場面そのものが強いストレスになり、わずかな課題の負荷にさえ耐えられないケースが実際に多くあります。癇癪を起した途端、学習した内容もどこかに飛んで行ってしまいます。なかなか出来るようにならない悪循環が続いてしまい、言語訓練は十分に機能しません。 ◆服薬は「治す」ためではなく「取り組める状態をつくる」ため  こうした状況で検討したいのが、薬物療法です。ADHDに対するメチルフェニデート・アトモキセチンなどは注意の持続・衝動のコントロールに効果が認められており、ASDの激しい行動問題に対してはリスペリドン・アリピプラゾールが日本でも承認されています。  重要なのは、服薬の目的です。「薬でことばを伸ばす」のではなく、「訓練に取り組める状態をつくることで、お子さま自身の言語習得能力を発揮させる」——これが服薬の正しい位置づけです。行動が落ち着いてきたとき、それは服薬の効果が出ているサインであり、そこからが言語訓練の本番とも言えます。 ◆行動が落ち着いても、それだけでは上手くいかない  ここで見落とされがちな重要な点があります。服薬によって行動が落ち着いたとしても、それだけで言語やコミュニケーションの問題が解決するわけではありません。落ち着いた状態になって初めて、「では実際にどう関わればいいのか」「どんな場面でどう対応すればいいのか」を、専門的な視点から丁寧に教えていく段階が始まります。  行動の安定は、言語療育のスタートラインです。服薬で取り組める状態を整え、言語療育でことばとコミュニケーションの力を育て、保護者の方と日常場面での関わり方を一緒に考えていく——この三つが揃って初めて、支援が本来の力を発揮します。  なお「一度飲み始めたら止められない」という誤解もよく聞きますが、脳の成熟とともに症状が落ち着き、服薬の必要がなくなるケースもあります。中止の判断は必ず医師と相談のうえで行ってください。 ◆相模原市でことばの発達支援をお考えの方へ  リングア(相模原市南区・相模大野)では、言語聴覚士への相談・施設見学を随時受け付けています。服薬に関するご不安もお気軽にご相談ください。

リングア/言語訓練に服薬治療は必要?
言語発達
26/08/21 14:03 公開

心理士と言語聴覚士は何が違う? 発達支援の専門職について

◆相談したいけど、誰に行けばいいかわからない  「発達が気になる」と感じたとき、まず壁になるのが「どこに相談すればいいかわからない」という問題です。療育を調べていると「心理士」「言語聴覚士」という言葉が出てきますが、何が違うのか迷われる保護者の方はとても多いです。この記事で、2つの専門職の役割を正確に整理します。 ◆心理士は「こころ・認知・行動」の専門家  公認心理師・臨床心理士などの心理士は、こころと認知の専門家です。発達支援の場では、WISC・新版K式などの発達検査・知能検査を実施し、お子さまの認知・情緒・行動面の特性を評価・見立てします。そしてその見立てをもとに、ABAを活用した行動支援・認知行動療法(CBT)・SSTなどの直接支援も担います。「感情のコントロールが難しい」「不安が強くて活動に参加できない」「衝動が抑えられない」といった行動・情緒面の困りごとが主な専門領域です。また、保護者自身の不安や養育上の悩みへのカウンセリングも重要な役割の一つです。  注意したいのは、心理士の養成課程は心理学・精神医学・行動科学が中心であり、口腔器官の構造・脳の言語野・神経発達といった生理学的・医学的な知識は専門領域に含まれないという点です。 ◆言語聴覚士は「ことば・認知・コミュニケーション」の医療専門職  言語聴覚士(ST)は、ことば・コミュニケーション・聴覚・口腔機能を専門とする国家資格の医療専門職です。心理士と同様に、言語発達検査・知能検査などを用いた評価・見立てを行い、その結果をもとに直接支援まで一貫して担います。  言語聴覚士が他の専門職と大きく異なるのは、口腔器官(舌・唇・軟口蓋など)の構造と運動機能から、脳の言語野・ブローカ野・ウェルニッケ野といった神経学的メカニズムまでを熟知している点です。「なぜことばが出ないのか」を、脳と身体の両面から読み解く視点を持っています。  また、言語と認知は切り離せません。記憶・注意・概念理解・実行機能といった認知機能はことばの発達と密接に関わっており、言語聴覚士はこれらの認知面も評価・支援の対象として扱います。「ことばの問題だから心理士ではなくSTへ」というわけではなく、認知の問題もSTの専門領域に含まれるのです。 ◆「ことばも診る」は、誰でもできるわけではない  ことばの発達の問題は、脳の言語機能・口腔運動・聴覚処理・認知発達が複雑に絡み合っています。この領域への介入には、生理学的・神経学的な背景知識が不可欠です。発達支援の現場では様々な職種がことばに関わる場面がありますが、その背景メカニズムまで踏まえた専門的な評価と介入は、言語聴覚士の固有の領域です。  両職種はそれぞれ異なる専門性を持ち、連携することでお子さまの発達をより多角的に支えることができます。どちらに相談すればよいかわからない段階からでも、まずお気軽にご相談ください。 ◆相模原市でことばの発達支援をお考えの方へ  リングア(相模原市南区・相模大野)では、国家資格を持つ言語聴覚士が評価から直接支援まで一貫して担当しています。見学・ご相談は随時受け付けています。

リングア/心理士と言語聴覚士は何が違う? 発達支援の専門職について
言語発達
26/08/18 13:42 公開

SSTは万能ではない。ASDの子どもに本当に必要な支援とは?

◆SSTの「本来の目的」を知っていますか?  発達支援の現場でよく耳にするSST(ソーシャルスキルトレーニング)。実はこのプログラムは、元々は統合失調症の精神科リハビリテーションとして体系化されたものです。つまりその本質は、「かつて持っていたスキルを疾患によって失った人が、再び習得するためのプログラム」なのです。  ASDへの支援とは出発点がまったく異なります。 ◆ASDは「スキルを失った」のではない  ASDの場合、社会的なスキルを「失った」のではありません。社会的認知の発達そのものが、神経学的に多数派とは異なるプロセスをたどっています。その結果として、多数派に最適化された「コミュニケーションの作法」との間にズレが生じているのです。  失ったものを取り戻すためのプログラムを、そもそも異なる発達プロセスをたどるお子さまにそのまま適用することには、根本的な無理があります。実際、ASDへのSSTの効果は「限定的」または「効果なし」とする研究結果も報告されています。 ◆それでも、SSTに意味がないわけではない  ただし、ASDのお子さまにSSTを行うことが無意味というわけではありません。安全な環境での対人体験を積み重ねること・特定の社会的ルールを明示的に学ぶこと——これらには一定の意義があります。重要なのは、統合失調症向けのモデルをそのまま転用せず、神経発達の特性を理解したうえで支援の一部として適切に位置づけることです。 ◆言語発達・言語訓練とSSTの関係  SSTと言語発達・言語訓練の関係はどうでしょうか?  社会的なやりとりとことばの発達は切り離せません。「見て!」「一緒にやろう」といった共有のコミュニケーションが育つことで、ことばを使う動機が生まれ、語彙・文法・語用が自然と発達していきます。逆に言えば、対人的なやりとりの土台が育っていない状態でことばの訓練だけを進めても、効果には限界があります。  言語訓練の観点からは、SSTは「ことばを使う場面をつくる練習」として機能します。特定のことばを正しく発音・表出できるようになっても、実際のコミュニケーション場面で使えなければ意味がありません。SSTを通じて対人場面での経験を積むことが、言語訓練で身につけたスキルの「般化」——日常場面での定着——を促す橋渡しになり得るのです。  SSTは目的ではなく、手段の一つ。言語発達・言語訓練・社会性の支援を統合的に考えることが、お子さまの本質的な成長につながります。 ◆相模原市でASD・ことばの発達支援をお考えの方へ  リングアでは言語聴覚士への相談・施設見学を随時受け付けています。

リングア/SSTは万能ではない。ASDの子どもに本当に必要な支援とは?
言語発達
26/08/14 18:17 公開
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