知的障害(知的発達症)の子どもの接し方は?子育ての困難と対処法まとめ【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン
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知的障害(知的発達症)のある子を育てる場合、どのような困りごとがあるのでしょうか?
知的障害(知的発達症)の場合、個人差が大きいため症状や苦手なことは人それぞれですが、共通してみられることの多い困りごともあり、対処法を知ることで乗り越えられることもあります。今回は知的障害(知的発達症)のある子どもの困難をふまえ、接し方や外出先での対処方法、子育てのコツ、注意点などをご紹介します。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
目次

知的障害(知的発達症)とは

知的障害(知的発達症)とは、発達期までに生じた知的機能障害により、認知能力の発達が全般的に遅れた水準にとどまっている状態を指します。

厚生労働省は知的障害(知的発達症)を以下のように定義しています。
知的障害は精神遅滞とも表される、知的発達の障害です。知的機能や適応機能に基づいて判断され、知能指数により分類されます。様々な中枢神経系疾患が原因となるため、正しい診断を受けて、早期に治療・療育・教育を行う必要があります。本人のみならず、家族への支援もかかせない発達障害のひとつです。

知的障害(ID: Intellectual Disability)は、医学領域の精神遅滞(MR: Mental Retardation)と同じものを指し、「知的発達の障害」を表します。すなわち「1. 全般的な知的機能が同年齢の子どもと比べて明らかに遅滞し」「2. 適応機能の明らかな制限が」「3. 18歳未満に生じる」と定義されるものです。中枢神経系の機能に影響を与える様々な病態で生じうるので「疾患群」とも言えます。
出典:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html
知的障害(知的発達症)を引き起こす原因はさまざまです。病気や障害の合併症としてあらわれることもあり、その症状や知的障害(知的発達症)の程度、苦手なことも一人ひとり異なります。

LD・SLD(限局性学習症)と同じ障害だと思われることがありますが、LD・SLD(限局性学習症)は知的発達に遅れがない発達障害です。

知的障害(知的発達症)は「知的機能(IQ)」の数値のみによって診断されるという印象がありますが、「適応機能」という日常生活能力、社会生活能力、社会的適応性などの能力を測る指数とも合わせて診断されます。アメリカ知的・発達障害学会(AAIDD)では、適応能力を知的機能と別に考え、適応機能の程度を実生活に必要なサポートの大きさによって定義することを提案しています。

適応能力をアセスメントするため、日本でもVineland-Ⅱ適応行動尺度やASA旭出式社会適応スキル検査、S-M社会生活能力検査など、評価ツールも活用されるようになってきています。

このように、現在では知的機能だけではなく知的障害(知的発達症)のある人の適応能力を重視し、支援を行っていこうという流れになりつつあります。家庭においても子ども一人ひとりの適応能力を伸ばしたり、より生活しやすいように環境調整をすることで、日常生活の困りごとを減らしていくことが大切です。
参考文献:Intellectual Disability: Definition, Classification, and Systems of Supports (12th Edition) (AAIDD,2021)
https://www.aaidd.org/intellectual-disability
知的障害(知的発達症)とは?「IQ」と「適応機能」の関係、程度別の特徴や症状、診断基準について解説します【専門家監修】のタイトル画像

知的障害(知的発達症)とは?「IQ」と「適応機能」の関係、程度別の特徴や症状、診断基準について解説します【専門家監修】

知的障害(知的発達症)の子どもの生活における4つの困難とは

知的障害(知的発達症)の子どもを育てる場合、どのような困りごとがあるのでしょうか?

知的障害(知的発達症)の場合、個人差が大きいため症状や苦手なことは人それぞれですが、以下に共通してみられることの多い困りごとをご紹介します。

集中力や注意力を持続することの困難

注意力が散漫で、今行っている作業に集中できないこともあります。また、落ち着きがなかったり、人の言うことを集中して聞くのが難しいこともあります。

物事の記憶の困難

知的障害(知的発達症)の人は、記憶していられる量が比較的少ないと言われています。そのため一度に複数のことを伝えても、一部しか覚えていられなかったり、長期間覚えているのが難しかったりします。

知的障害(知的発達症)の程度によっても異なりますが、学校の授業についていくのが難しかったり、書類の意味が分からない、お金の計算が分からないなど、覚えられないことで日常生活で困ってしまうこともあります。

一度聞いただけでは忘れてしまうが何回か絵カードを見れば覚えられるなど、その子がどれくらい覚えていられるか、どうしたら覚えやすいかといった記憶の特徴も一人ひとり異なります。

抽象的な概念や経験していないものの理解の困難

知的障害(知的発達症)のある子どもは、自分の身の回りにある具体物を基本として外界を認識する傾向があります。そのため、時間や数といった概念的なものごとの理解や、いま目の前にないものを頭のなかで考えることが難しい場合があります。

たとえば「静かに」と伝えても話し続けてしまう子どももいます。静かに、という抽象的な注意では「何をしたらいいのか」が分かりにくく、結果的に手持ち無沙汰になり話し始めてしまう場合があるのです。

コミュニケーションの障害

言葉という概念が理解することがなかなか難しく、言葉がスムーズに覚えられない場合があります。知的障害(知的発達症)のある子どもの中には、言葉の遅れが目立ったり、自分の気持ちを上手く言えずに手を出してしまう子もいます。

知的障害(知的発達症)の子どもへの接し方は?子育てのコツ7選

知的障害(知的発達症)のある子どもへの接し方で基本となるのは、以下の3つのステップです。

1.具体的な指示を出す
子どもにとって分かりやすく、具体的な指示を出します。課題はスモールステップで難しくない、興味があるものだと取り組みやすく、成功を実感しやすくなります。

2.行動
子どもがやってみて、できない場合は少し待ってから成功に導くための適度なサポートをします。

3.褒める
「できた」ときに褒めることで、子どもは「いいことをした」「うまくできた」と感じます。この成功体験を繰り返すことで、習慣化し、さまざまなことが身につきます。

さらに具体的なコツを以下にご紹介します。

絵や写真を使って伝える

知的障害(知的発達症)のある子どもは、目に見えないことや抽象的なことを理解するのが苦手な場合もあります。そのような時は、絵や写真などの視覚的情報を用いて伝えると理解しやすくなるかもしれません。

たとえば、物のしまってある場所を覚えられないとき、引き出しにアイテムの写真を貼ってあげるのも一つの工夫になります。また、手順が覚えられないときには絵カードを使うのもおすすめです。

できるだけ具体的に伝える

知的障害(知的発達症)の子どもの中には、曖昧な表現が苦手な子どももいます。できるだけ抽象的な表現や曖昧な表現は避けて具体的な手順や方法を伝えることも大切です。記憶しておくことが苦手な場合は紙に書いて壁に貼っておくなどの方法もよいでしょう。

その場合、絵や写真で理解できる、文字が読める、簡単な文章が読めるなど、本人の発達に合わせて伝える工夫をしましょう。

スモールステップでパターンを覚え、経験を重ねる

複雑な状況判断を求めるよりも、パターンを繰り返してある程度覚えるほうが得意なこともあります。

何かを習得してもらいたいときは、スモールステップで一つずつ伝え、パターンを繰り返すとよいでしょう。少しずつ、パターンを学ぶことで比較的記憶に結びつきやすく、何度も繰り返すことで定着していきます。お金や時間といった生活や自立に必要なスキルは生活の中で根気よく教えていきましょう。

その際に分かりやすいルールを設けることも覚えやすさにつながります。大切なことは、ルールを設けるのに終始せず、「ルールを守ったから上手にできた!」という経験を多く積んでいくことです。

また、コミュニケーションの場面でも、気持ちを伝えるフレーズをいくつかパターンで学ぶという方法があります。気持ちがいっぱいいっぱいになっている時に、あれこれ考えるのは大人でも難しいことです。「そういうこというのやめて」「僕のだから返して」など短めの文章でいくつか引き出しを持てるとよいかもしれません。伝えても分かってもらえない場合には先生に相談する、など次の方法までパターンで学べるとより良いでしょう。

次第に自分が経験したことであれば、その経験を通してものごとを理解したり考えるなどできるようになります。そのような体験を積むことで、認識できる世界を広げていきましょう。

スモールステップの練習で不器用さを克服

知的障害(知的発達症)のある子どもの中には運動の発達の遅れから、手先が極端に不器用な子どももいます。作業療法など訓練をしてもよいですが、練習をするときは、日々の生活を通して、日常的に手先を使うのもおすすめです。その際も、スモールステップに分けて子ども自身がやりやすい方法で、「できた」を実感できるようにすることが大切です。

服の脱ぎ着なども大きなボタンとボタンホールの服を用意して、「ボタンが難しい場合は、最初の一つだけはずす」など、少し頑張れば達成できる目標を段階的に設定できるとよいでしょう。できないこと全てできるまで練習する、など過度な練習にならないようにします。

はっきりと褒める

子どもに成功体験を味わって自信をつけてもらうことが大切です。

できたことは、明確に褒めることを意識していきましょう。「靴下は上手にはけたけど、ズボンはもっと頑張らないとダメだね」など、褒められたのか注意されたのか曖昧では「できた! これで合ってるんだ!」と確信を持ちにくくなってしまいます。一つひとつできたものから子どもにとって分かりやすい表現と態度で褒めましょう。できたら「ごほうびシール」を貼るなど、視覚的なものを使う「トークンエコノミー」という方法もおすすめです。

できないこと、苦手なことに目をむけてばかりいると自信をなくしてしまうかもしれません。夢中になれることや、得意なことを見つけたら存分に取り組める環境を用意したり、本人に伝わるように思い切り褒めましょう。「できることがある」「これは大丈夫!」という気持ちは、苦手に取り組んでいける自信にもつながっていくのではないでしょうか。

問題行動を減らしていく

知的障害(知的発達症)の子どもに限りませんが、ほしいものを得られないとひっくり返って大泣きしたりしてしまう子どももいます。根負けしてお子さんの望みを受け入れるしかない場面もあるでしょう。しかし、何度かそのような経験をすると、今後の生活でもかんしゃくを起こせば要求がかなえられる、と誤って学んでしまうことがあります。

たとえば「お菓子がほしい」とねだっている時の対処法として、事前に「今日はお菓子は買わないよ」と伝えておきましょう。しかし、事前によく約束しても、いざ目の前にお菓子があればほしくなってしまうものです。そこで、次の対処法としては、買い物リストを子どもに渡し、かごに入れる役割を任せたり夢中になって取り組める仕事をお願いしましょう。

ただ、どんな対処法をとっても、思い通りにならない状況に泣き出してしまうこともありますよね。その時は、泣くことに対して叱ったりする前に、「そうだよね、ほしかったんだよね」と一言共感するというのも大切です。

環境調整や補助ツールを使って経験値をあげていく

適応能力を上げるためにできることとして、子どもの能力をトレーニングするだけでなく、環境をやりやすいように整えたり、さまざまな便利なツールを使うことで「できる」を増やすという方法もあります。

集中力がない場合はおもちゃを勉強部屋から片づけるなどの集中しやすい環境を作ったり、タイマーやスケジュールを利用して一つの作業を短時間で切り替えるなどの工夫をするのもよいでしょう。

また、今はさまざまな便利なツールがサポートしてくれます。たとえば、かつては電車に乗る、ということも、行き先を路線図から探して窓口で切符を現金で買い、駅員さんに切符を切ってもらうという複雑な能力が必要でした。現在はスマートフォンの音声機能とアプリを使えば経路と乗り場を教えてくれますし、ICカードがあればタッチするだけで改札を通れます。

こういった補助ツールを積極的に使うことで適応度を上げ、社会的経験値を上げていくことができるのです。

スマートフォンの地図アプリや録音機能をメモ代わりに使ったり、デジカメでメモをとるなど、本人が活動しやすくなるツールを積極的に使いましょう。
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