知能指数(IQ)とは?定義や知能検査の種類、知能指数の値と疾患・障害の関係は?

知能指数(IQ)とは人の知能の基準を数値化したものです。一般的にIQが「高い」「低い」という言葉をよく聞きますが、知能指数の値は子どもの成長とどのように関係があるのでしょうか。今回は知能指数に対する正しい理解について、知能指数を知る目的や検査、関係する疾患などについて紹介します。

- 知能指数(IQ)とは
- 知能指数を調べる目的は?
- 知能指数の値は、どのように評価されるの?
- 知能指数が高い=頭が良い?―心理学からみる「知能」の広がり
- 知能指数における「境界領域」とは
- 知能指数を調べることは、障害の有無を見極める上でどのように扱われるのか
- 知能指数の値に応じて受けられる支援は?
- 知能指数を知りたい時は?
- 知能検査の内容
- まとめ
知能指数(IQ)とは
知能指数は、知能検査と呼ばれる検査によって計ることができます。小学校入学後のお子さんが受検する場合が多いですが、知能検査の種類によっては2歳から受検することができます。また検査結果は、一人ひとりに合った支援や学習指導の方向性を検討するヒントとして使われます。
知能指数の値として、現在は偏差IQというものが使われています。偏差IQは「同年齢の集団においてどの程度の発達レベルなのか」を把握するために、年齢別の平均値を基準として知能指数を算出したものです。
以前は精神年齢(知的発達を示す年齢)/ 生活年齢(実年齢)×100という数式が使われていました。しかし年齢が高くなるにつれて値が低く算出されるという問題が発見されたため、単純な計算式で知能指数を算出することはなくなりました。
知能指数を調べる目的は?
1. 適切な学習指導や支援を受ける際のヒントを知る
2. 疾患や障害の有無を鑑別をするヒントを得る
3. 知的機能の遅れがあるかどうかを知る
知能指数の結果は、療育手帳を取得する際や、特別支援学校での教育を受ける際の判断材料の一つとして使われています。自閉症スペクトラム障害やADHDと知的障害が合併していないかや認知特性の偏りを調べる際、学習障害(LD)知的障害を見分ける際などにも、知能指数を用います。
しかし、知能指数だけ疾患や障害の有無を判断することはありません。医師の診断を受ける際には、知能検査の結果だけでなく、直接の問診や行動観察、その他の検査結果などが参考にされます。そうして見えてきた個人の特性や困難状況を総合的に判断して、疾患・障害の診断が下されたり、支援、治療の判断がなされるのです。
知能指数の値は、どのように評価されるの?
一方で、一口に「知能指数」と言っても、その数値に対する評価基準はさまざまです。ここでは一般的な知能指数の評価分類、WHOが定める知的障害の基準、厚生労働省が定める障害の程度・判定基準をご紹介します。
知能指数(IQ)による評価分類
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4750333271・130以上 きわめて優秀
・120~129 優秀
・110~119 平均の上
・90~109 平均
・80~89 平均の下
・70~79 境界線級/ ボーダーライン
・70未満 知的障害
WHOが定める知的障害の程度・判定基準
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4521737056・50~69 軽度知的障害
・35~49 中度知的障害
・20~34 重度知的障害
・20未満 最重度知的障害
厚生労働省が定める知的障害の程度・判定基準
◇知的障害の程度の判定に、基準となる知能指数の範囲
・51~70 軽度知的障害
・36~50 中度知的障害
・21~35 重度知的障害
・20以下 最重度知的障害
◇障害の程度及び判定基準: 重度(A)とそれ以外(B)に区分
重度(A)の基準
① 知能指数が概ね35以下であって、次のいずれかに該当する者
・食事、着脱衣、排便及び洗面等日常生活の介助を必要とする。
・異食、興奮などの問題行動を有する。
② 知能指数が概ね50以下であって、盲、ろうあ、肢体不自由等を有する者
それ以外(B)の基準
重度(A)のもの以外
◇療育手帳取得の際に、基準となる知能指数の値
標準化された知的検査によって測定された知能指数(IQ)が75以下であること。
(70以下に規定している自治体もある)

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知能指数が高い=頭が良い?―心理学からみる「知能」の広がり
心理学の視点から「知能」というものを見てみると、一概にそうとは言いきれない広がりを持っています。
そのため、「知能とは何か」その定義については時代や学者によっても様々な説があり、現在でも結論は出ていません。ここでは、知能の様々な定義のうち、いくつか例をご紹介します。
・「言語、数、空間、記憶、推論、語の流暢さ、知覚」…アメリカの心理学者・サーストン(1887-1955)による定義
・「言語的知能、論理的数学的知能、空間的知能、音楽的知能、身体運動的知能、対人低知能、博物的知能、内省的知能」…アメリカの心理学者・ガードナー(1943-)による定義
・「目的別に行動し、合理的に思考し、効率的に環境を処理する個人の総体的能力」…アメリカの心理学者・デイヴィッド・ウェクスラー(1896-1981)による定義
既存の知能検査で測定できるのは、主に言語的機能や論理数学的機能と定義される能力です。
しかし、上記で示した心理学的アプローチから「知能」を捉えると、知能検査で計ることができる能力は知能の一部でしかないとも考えられます。
つまり知能指数が高いと「頭が良い」とは単純に言い切ることはできず、「言語的・論理数学的機能において優れている」ということなのです。逆に知能指数の値が低いからといって、知能指数で測定できる能力以外の領域で、高い能力を発揮する子どももいます。
知能指数の値だけに振り回されることなく、知能指数を参考に、一人ひとり得意分野・不得意分野を上手に把握していくことが大切です。
知能指数における「境界領域」とは
前述した判定基準の通り、知能指数が70以上である場合は知的障害とは判定されにくいため、「境界領域」の方は療育手帳が取りづらいといった現状があります。
また、知能指数では「境界領域」にあたり知的障害とは判定されない子どもでも、発達障害の特性がある場合もあります。例えば学習障害や注意欠如・多動性障害、広汎性発達障害が挙げられます。発達障害があるかどうかは、知能検査や心理検査の結果、普段の様子を長期的に見て判断する必要があります。
藤永保・森永良子/著『子育ての発達心理学』において、以下のような例が挙げられています。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4469212962ADHDの子どもの中にはWISC-III検査で低学年からの高い評価をされる者も少なくないが、就学前は境界領域の知能レベルを示すものは多い。これらのADHDの多くはADHDがコントロールされるにしたがって境界領域知能から平均範囲、あるいは高機能に入っていく例もある。したがってADHDを伴う知的境界領域児は経過観察が必要である。ADHDは刺激に過反応する傾向があり、適切な刺激をインプットすることが困難である。このタイプのADHDではADHDへのコントロールの発達が認知の発達、社会的適応に影響を与える。
(藤永保・森永良子/著『子育ての発達心理学』2005年大修館書店/刊 p.178より引用)
成長が遅れがちな部分だけに焦点を当てるのではなく、持っている能力を評価し、伸ばしていく支援が大切です。

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疾患・障害を見分けるアセスメント時に知能指数が使われる場合
自閉症スペクトラム障害とは対人コミュニケーションに困難さがあり、限定された行動、興味、反復行動がある障害です。
知的障害を伴わない自閉症スペクトラム障害では、知能検査の言語性IQが正常範囲であるにもかかわらず、日常生活では適切なコミュニケーション行動が難しいといった場合が多いです。このような子どもはITPA(言語学習能力診断検査)において、「ことばの類推」「ことばの表現」「文の構成」といった項目の点数が低くなる傾向があります。
◇注意欠如・多動性障害(ADHD)
ADHDは不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考えずに行動してしまう)の3つの症状がみられる発達障害のことであり、自閉症スペクトラム障害と併存する場合もあります。WISC-Ⅳ(ウェクスラー式知能検査。詳細は後述)では、ADHDのある人は、注意集中の維持の困難さから、「数唱」「迷路」といった検査項目において点数が低くなる傾向があります。
治療・療育の効果を見極める指標として知能指数が使われる場合
◇ダウン症
たとえば、ダウン症のある子どものほとんどは、生後1ヶ月以内に診断されるため、早期療育の対象となることが多いです。早期療育によって、ダウン症の子どもの能力がどの程度発達したかは、例えばウェクスラー式知能検査の幼児版であるWPPSIの言語性IQによって測定されます。

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発達障害のリスクを予想する指標として知能指数が使われる場合
学習障害は、全般的な知的発達に遅れがないものの、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」能力のうちいずれかまたは複数のものの習得・使用に著しい困難を示す発達障害のことで、知的障害とは区別されます。
児童期において、WISCの全検査IQが正常範囲であるものの、言語性IQと動作性IQの得点の差が15点以上ある場合に学習障害のリスクが高いとされています。学習障害は知能の部分的な偏りが学習の遅れに結びついています。測定したIQに対して、実際の学習到達度にギャップが大きい場合、学習障害の可能性が疑われます。学校での子どもの学習の様子と対応させて、困難が大きい部分に対して適切な支援をしていくことが大切です。

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