低緊張とは?赤ちゃんの筋緊張低下の症状や関連する疾患、障害など【医師監修】

ライター:発達障害のキホン
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低緊張はフロッピーインファントとも呼ばれ、自らの体を支える筋肉の収縮が弱い状態です。子どもの体がふにゃふにゃしているように感じる、姿勢に違和感がある場合、それは低緊張が関係しているかもしれません。ここでは、低緊張の子どもの具体的な症状、発達障害との関連、治療法、相談先などをご紹介します。

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監修: 矢花芙美子
花クリニック 院長
東京都の渋谷区代々木で長年開業している(0歳から年齢制限なし)。 プレイセラピー、行動療法、対話精神療法などにより、発達の課題を持つ子ども、心理的な面での困難さを持つ子ども、養育に困難を持つ大人、社会生活に困難を持つ大人、生きにくさを持つ方々に対する治療や相談を行っている。
目次

低緊張とは? 具体的な症状や特徴は?

低緊張とは、自分の体を支えるための筋肉の張りが弱い状態のことをいいます。専門的には、筋緊張低下症といわれており、その状態の子どもをフロッピーインファント(floppy infant)ということもあります。フロッピー(floppy)とは「ぐにゃっとした」、インファント(infant)は「子ども」という意味で、それらをつなげた言葉です。

低緊張の子どもは、姿勢が保てなかったり、体がふにゃふにゃとしていたりする様子がよく見られます。体を支えるための筋肉の張りが弱いために、体の動きをコントロールすることができないためと考えられています。

体がふにゃふにゃしている、長い間立っていられない、など低緊張の状態に気付いた場合には、原因となる疾患や障害がないかどうか調べ、専門的なアプローチを行うことが必要です。疾患や障害の程度にもよりますが、適切なリハビリを行い、筋肉を十分に使うことで少しずつ改善されていきます。

低緊張の具体的な症状や特徴【乳児期】

低緊張の具体的な様子を知る前に、体の筋肉の緊張について理解しておくとよいでしょう。
筋肉の緊張は、テントの張りに例えられます。テントがきちんと立つためには、適切な力でロープを張らなければなりません。ロープが緩んでいる状態だとぐらぐらとしてしまいます。筋緊張が低いお子さんの場合は、ロープの役割をする筋肉の張りが弱いために、テントとなる体は不安定になります。

乳児期の低緊張の特徴としては以下のようなものが挙げられます。

◇姿勢
・座った状態から手をもって引き上げると頭が後方に倒れる
・お尻をついて座ったときに、手を前に投げ出し二つ折りの状態になる
・四つん這いになったときに頭を上げないで地面に下ろしたままにする

◇関節の極端な柔らかさ
・垂直に抱き上げたときに腕が抜けそうになる
・座った状態から踵が耳に届く

◇行動
・滑り台から降りられない、ジャンプ、階段の上り下りが3歳になっても支えないとできない、
よくころぶ、など
・手先が不器用で、細かい作業が苦手

低緊張の子どもは動くのを嫌がることがあります。筋肉の張りが弱く、体がぐらぐらとするために体を動かすことに対して不安を抱きやすいのです。
また、低緊張の子どもは、疲れやすいという特徴もあります。不安定になる姿勢をなんとかまっすぐに保とうとし、力が入る部分を過度に緊張させるためです。そのような行為が生活の中で幾度となく繰り返されるため、体の筋肉がアンバランスになることもあります。

低緊張の具体的な症状や特徴【幼児期以降】

低緊張のある子どもが学童期になると、学校生活など社会的な場面で困りごとが生じることがあります。

例えば
・授業中に同じ姿勢で座っていられない
・絵を描くなど細かい作業が苦手
・体育で他の生徒と同じ運動が難しい
・疲れやすく充分な学校生活を送れない

などがあります。
こういったことから学校への苦手意識を持ってしまうことも考えられるため、あらかじめ学校や支援機関に相談することが大切となります。

低緊張の原因は? 低緊張に関わる疾患、障害

低緊張には2つの場合があります。1つ目は、病気が原因ではなく、単に筋緊張や筋力が弱い場合です。このタイプの低緊張は、時間の経過とともに筋肉の緊張は年齢相応になることが多いでしょう。

2つ目は、疾患、障害の症状のひとつとして低緊張が現れている場合です。それらは、染色体異常・遺伝子異常による症候群、中枢神経系の障害と考えられる脳性麻痺、またASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)などの発達障害に伴うことがあります。

染色体異常・遺伝子異常

染色体異常・遺伝子異常には、
・先天性筋ジストロフィー
・先天性ミオパチー
・先天性筋強直性ジストロフィー
・ダウン症候群
・プラダー・ウィリー症候群 
などがあります。それぞれ説明していきます。

◇先天性筋ジストロフィー
骨格筋の壊死と再生を主とする遺伝性筋疾患を総称して、筋ジストロフィーと呼んでいます。筋ジストロフィーの中には多くの種類がありますが、その中で生まれつき生じるものが先天性筋ジストロフィーです。低緊張など運動機能障害が主な症状ですが、呼吸機能の低下や骨粗鬆症などの合併症も見られます。また、一部では知的障害、発達障害、けいれんなどを合併することがあると言われています。

◇先天性ミオパチー
先天的な骨格筋の構造異常によって、低緊張等の症状がみられるのが、先天性ミオパチーです。症状は新生児期または乳幼児期から現れていきます。
症状は低緊張以外にも、呼吸障害や心合併症、発育・発達の遅れが生じることもあるといわれています。

◇先天性筋強直性ジストロフィー
筋強直性ジストロフィーとは、成人に多く見られる筋ジストロフィーです。しかし、まれに先天性筋強直性ジストロフィーといって、先天的に低緊張など筋力の低下が見られる場合もあります。症状が軽い場合には、低緊張などの筋症状は顕著ではなく、白内障と耐糖能異常のみを示すこともあると言われています。

◇ダウン症候群
ダウン症候群は、何らかの原因により21番目の染色体が1本多くなっていることから「21トリソミー」とも呼ばれます。全般的に発達がゆっくりで、筋肉の緊張度が低い傾向があります。知的発達の遅れや心疾患などの合併症を伴うことも多くあると言われています。

◇プラダー・ウィリー症候群
ブラダー・ウィリー症候群では新生児期に低緊張や色素の低下、外性器低形成などが見られ、特に低緊張が顕著と言われています。ただ、低緊張など運動発達の遅れは段々と解消され、歩き始めるころには目立たなくなっていきます。

中枢神経系の障害

中枢神経系とは脳と脊髄を指し、全身から集まってくる情報を処理して、指令を発している場所のことです。この中枢神経系に何らかの異常があると低緊張が生じることがあります。
低緊張が引き起こる中枢神経系の障害には主に以下の2つが挙げられます。

◇脳性麻痺(まひ)
脳性麻痺は出生前、もしくは直後に脳のダメージを受けることにより起こる運動障害のことです。脳へのダメージの原因としては、感染症、低酸素、脳血管障害、核黄疸などがありますが、原因が不明なことも多くあります。脳性麻痺はてんかんや知的障害(知的発達症)を併発する場合もあります。

◇ASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如多動症)などの発達障害
ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)などの発達障害の子どもの中には、低緊張など運動機能の発達にも遅れがみられることがあります。
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乳児健診で運動発達遅延を指摘されたフロッピーインファントの神経学的予後について
https://ci.nii.ac.jp/naid/130005111625

低緊張の治療法って?

低緊張が、何らかの疾患が原因となっている場合には、もととなる疾患に対する治療行為を行うことで、体の機能を向上させることを目指します。
また、低緊張そのものを改善するために、理学療法士と作業療法士によるリハビリを行うことも多くあります。筋肉の緊張を含めて、体の機能全体の向上を目指した支援を受けることができます。

理学療法(PT)

理学療法は、運動機能に改善の余地のある人に対して、体を動かしたり、筋肉に電気や熱をあてたりするなどして、運動機能を向上させる治療法です。理学療法では、生活をする上で欠かせない基本的な動きをスムーズにこなせるようにリハビリを行います。例えば、歩く、座る、立ち上がる、寝返りをうつ、などです。

リハビリを行うことで、全身の筋肉の活動を活発にしていき、運動能力の向上や、血流の改善といった効果を目指します。
乳幼児期には、寝返り、お座り、ハイハイなどの基本動作をできるようになるための訓練を行います。そして、幼児期から学童期にかけては、歩行や走行、階段の上り下り、ボールを使った遊びなどをしながら、体を大きく動かす運動を中心に行い、体の不器用さを軽減するためにリハビリテーションを行っていきます。

また、施設によっては、リハビリだけではなく、ご自宅や学校などで行えるトレーニングや、生活で取り入れられる工夫の提案や、必要に応じて靴や椅子などの補装具の検討などを行う場合もあります。

作業療法(OT)

作業療法には、精神障害領域、高齢期障害領域、身体障害領域、発達障害領域の作業療法領域があり、それぞれの分野の作業療法士がいます。発達障害に対する作業療法は、作業療法士が感覚統合理論(脳に入ってくるさまざまな感覚情報を、目的に応じて、整理し、秩序だった構成にする理論)に従って、リハビリテーションを行います。簡単に言うと、「脳に入ってくる、さまざまな情報を交通整理する働き」を助けます。

例えば、発達障害があるお子さんで感覚過敏がある場合など、遊具を使った遊びが苦手なことがあります。あるお子さんは、一人で遊具で遊ぶことが苦手でしたが、作業療法士や保護者がサポートしながら一緒に遊具を使った遊びをすることで、徐々に感覚のバランスをつかめるようになりました。また別の例では、おままごと遊びなどをする中で、楽しみながら両手や指先がスムーズに動くように支援するなど、遊びの中で感覚の統合を促していくというのが作業療法の特徴です。
理学療法、作業療法は国家資格をもつ理学療法士、作業療法士のもとで行います。基本的には医師が必要性を判断し、地域の療育センターや医療機関のリハビリテーション科などで受けることができます。

理学療法(PT)、作業療法(OT)を受けたい場合には、医師や、市町村保健センターの保健師などへご相談ください。

低緊張を指摘された6歳園児の理学療法エピソード

ここでは、低緊張の子どもが実際に理学療法を受けたエピソードを紹介します。

ASD(自閉スペクトラム症)のある6歳の男の子は、園の先生から「体育座りが苦手な様子がある」「友達とも離れて遊ぶことが多い」と言われる状態でした。以前に健診でも低緊張と言われたことがあったため、保護者は保健師に相談して理学療法を受けることにしました。

理学療法でははじめに
・基本的な筋肉や関節の状態
・基本体操
・応用動作や協調動作
など、筋肉やバランスなど身体機能の評価が行われました。そのうえで、子どもの身体の特性に合った方法で理学療法を実施していきました。具体的には、バランスボード立位、トランポリン、スポーツリハビリ(バスケットシュート、風船バトミントンなど)など楽しみながら身体の動かし方を学べる取り組みを実施していきました。

また、ASD(自閉スペクトラム症)の特性にも考慮し、見通しが立つようにプログラムの流れを視覚的に分かりやすくするなど工夫しながら進めていきました。

こういった理学療法を繰り返していった結果、苦手だった体育座りの姿勢も1分以上キープできるようになりました。
体育座りが苦手でフラフラ…健診で低緊張を指摘された自閉症息子。理学療法士の具体的な支援で変化が?【マンガ専門家体験談】のタイトル画像

体育座りが苦手でフラフラ…健診で低緊張を指摘された自閉症息子。理学療法士の具体的な支援で変化が?【マンガ専門家体験談】

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