ワーキングメモリとは?生活に不可欠な役割、発達障害との関係、調べ方、対処法をご紹介!

2018/08/10 更新
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「頼んだことをすぐに忘れる」「一度に2つ以上のことを処理するのが苦手…」それはワーキングメモリの働きが弱いのかもしれません。ワーキングメモリは、作業や動作に必要な情報を一時的に記憶・処理する能力です。この機能は会話、読み書き、計算など日常のあらゆる判断や行動に関わっているため、機能が弱いと様々な困りごとが生じます。ワーキングメモリの具体的な役割、機能の調べ方、日常生活で生じる困りごとへの対処法を紹介します。

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監修: 井上 雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
専門行動療法士
自閉症支援士エキスパート
LITALICO研究所 客員研究員
公認心理師
目次

ワーキングメモリとは?

ワーキングメモリは認知心理学で用いられる構成概念で、作業記憶、作動記憶と呼ばれることもあります。脳の前頭前野の働きの一つで、作業や動作に必要な情報を一時的に記憶し処理する能力で、私たちの行動や判断に影響しています。なかなか馴染みのない言葉ですが、実は私たちの日常に深く関係している機能なのです。

ワーキングメモリの役割は、入ってきた情報を脳内にメモ書きし、どの情報に対応すればよいのか整理し、不要な情報は削除することです。ワーキングメモリの働きによって、瞬時に適切な判断を行うことができます。

例えば、私たちが会話ができるのは、相手の話を一時的に覚えて(記憶)、話の内容から相手の意図をくみ取り(整理) 、話の展開に従って前の情報をどんどん忘れる(削除)という作業を無意識に行っているからです。このような情報処理の流れは、読み書き、運動、学習等、日常における様々な活動に関わっています。

情報処理の働きを学習部屋に例えて考えてみましょう。ワーキングメモリを作業机、入ってくる情報を本だとします。いったん、机の上(ワーキングメモリ)に入ってきた本(情報)を並べて保存します。そして、机の上で本(情報)を分かりやすく並べ変え、整理して必要かどうか判断します。いらない本(情報)は、速やかに机の上(ワーキングメモリ)から捨て(削除)します。

整理した情報の中でこれからも必要なものは、長期記憶するために本棚へ移動させます。
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この机の大きさ(=ワーキングメモリの大きさ)は人それぞれです。

上の図のように入ってくる情報をうまくさばける人もいれば、下の図のように机の面積が小さい(=ワーキングメモリが小さい)ため処理できる本の数が少ない人もいます。自分の机の広さに合わない量の本が出されると、うまく処理されなかったり、机にのりきらずにこぼれ落ちて削除されてしまったりするのです。
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ワーキングメモリの機能は成長と共に発達するものの、その度合いには個人差があります。では、ワーキングメモリの機能が弱かったり、発達が遅れたりするとどのような困りごとが生じるのでしょうか。
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ワーキングメモリの役割は?低下するとどんな困りごとが生じるの?

ワーキングメモリの一時的な記憶機能によって私たちの判断や行動が支えられています。では、ワーキングメモリの機能が弱いときにはどんな困りごとが起こりうるのでしょうか?

記憶が苦手な場合

情報を脳内に書き留めておくことが苦手なため、必要なことを忘れてしまいやすくなります。例えば、先生の指示をすぐ忘れたり、黒板をノートに書き写すのが遅くなったりします。忘れ物や失くし物が多くなる場合もあります。

他にも、読んだ内容を覚えていられないために文章を理解するのに時間がかかる、頭に浮かんだ内容をすぐ忘れてしまい文章を書くことが苦手になる、など学習面においても困りごとが起こりえます。

整理が苦手な場合

情報の整理が苦手だと、入ってきた情報の中で何に注意すればよいのかがわからず混乱してしまう、場違いな言動をしてしまうこと等があります。

例えば、会話の受け答えがちぐはぐになる、どの順番で体を動かすのかわからず運動が苦手になる、といった困りごとが起こりえます。

記憶の削除が苦手な場合

記憶の削除が苦手な場合は、新しい情報を取り入れにくく、行動の切り替えや連続的に会話を続けることが難しくなります。授業時間が変わっても次の科目に移ろうとしない、前の会話の内容を話し続ける、といった困りごとが起こりえます。

上に挙げた行動は一例にすぎず、また、ワーキングメモリの機能が弱いからといって全ての困りごとが現れるとも限りません。

ですが、こうした困りごとの原因がワーキングメモリ機能の問題だと気付かず、理解が得られないまま叱られ続けると、子どもが自信を失ってしまうこともあるのです。

なお、ワーキングメモリだけではなく、感覚過敏や鈍麻、疲労感などの身体的な問題や、不安や抑うつなどの心理的な問題によってあらわれることもあると考えられています。
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ワーキングメモリの機能を調べる方法

ワーキングメモリの機能を調べる方法は、主に2つあります。

一つは、ワーキングメモリを測定するためのテストを使うこと。もう一つは、ワーキングメモリが検査項目に含まれている知能検査を参考にすることです。

ワーキングメモリを調べるテスト

ワーキングメモリのアセスメントを目的にしたテストでは、詳細な測定ができます。詳細な測定によって、どのような類の行動に困りごとが生じやすいのかがわかります。

代表的なテストは2種類あります。
■AWMA
イギリスのピアソン社が販売しているテストで、ワーキングメモリの問題をスクリーニングするときに使用されます。このテストでは、ワーキングメモリの4つの側面(言語的短期記憶・視空間的短期記憶・言語性ワーキングメモリ・視空間性ワーキングメモリ)の検査ができます。
■HUCRoW
HUCRoWは、広島大学大学院教育学研究科(研究代表者:湯澤正通教授)が開発しているアセスメントツールで、日本の小・中学生用に開発されました。小中学生の教育・療育の関係者に限り、無料で利用できます。

知能検査・認知検査の利用

専用のアセスメントテスト以外に、検査項目としてワーキングメモリがある知能検査・認知検査も参考にできます。日本語版に対応しているためデータの分析が易しいという長所がある一方、専用のテストのようにワーキングメモリの具体的な能力まで測ることはできません。
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発達障害の診断目的で知能検査や発達検査を受けると、ワーキングメモリの弱さが見つかることもあります。

では、ワーキングメモリと発達障害の特性の間には、どのような関係があるのでしょうか。
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ワーキングメモリと発達障害の特性の関係

ワーキングメモリの弱さと発達障害の特性は、その症状に共通点も見られます。

発達障害とは、生まれつきの脳機能の発達のアンバランスさ・凸凹(でこぼこ)と、その人が過ごす環境や周囲の人とのかかわりのミスマッチから、社会生活に困難が発生する障害です。発達障害があると、不注意で衝動的な行動や、読字や書字の苦手といった症状が見られますが、ワーキングメモリが弱い場合に出る症状に似ています。そのため、何らかの関連があると考える専門家もいます。

ただしこの二つの関係性については「発達障害の診断が下りている子どもはワーキングメモリの数値が弱い傾向にある」というデータがあるのみで、関連を決定づける研究結果はまだありません。

次に、ワーキングメモリの弱さと発達障害の特性の共通点と、その関連について現在考えられている説をくわしく見てみましょう。

ADHD(注意欠如・多動性障害)

ADHD(注意欠如・多動性障害)は不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考えずに行動してしまう)の3つの症状がみられる発達障害のことです。

このうち、不注意と衝動性の特性による「注意すべきことの判別が付かない」「忘れ物が多い」「気が散りやすい」などの困りごとは、ワーキングメモリの機能の弱さによって、情報を一時的に記憶したり整理することが苦手なことが関連しているのではないかとも考えられています。
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LD(学習障害)

LD(学習障害)は、知的発達の遅れはないが、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算・推論する」能力に困難が生じる発達障害のことです。

LDの症状はさらに「読字障害」「書字障害」「算数障害」に分類されます。それぞれ複数の原因が考えられますが、「文字からの情報を記憶できない」「書こうとした文字の記憶ができず、正しく書けない」「頭の中で数字の情報を短期記憶、活用することができない」といった困りごとは、ワーキングメモリの機能の小ささが関係している可能性があります。

このように発達障害がある子どもの特性をワーキングメモリの働きという側面から考え、その仕組みに対する手立てを行うことで、困りごとを軽減するきっかけになるかもしれません。
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ワーキングメモリが弱い子どもへの支援ポイント

ワーキングメモリが弱い子どもへの支援ポイント

ワーキングメモリの機能が弱いと、速やかに適切な行動を行うことが難しくなります。でも、対処の仕方を学べば、困りごとを減らすことはできます。この章では、日常で起こりうる困りごとに対する具体的な対応方法を紹介していきます。

情報の最適化

情報は、子どもが受け取りやすい方法で伝えましょう。たとえば、前もってどのような順番でことが進むかを掲示したり、口頭で伝達するのと同時に文字や絵でも示したりすると、情報を整理して理解やすくなります。

記憶のサポート

記憶方法の活用、長期記憶の活用、ツールの利用で記憶をサポートすることができます。

記憶方法の活用とは、文面だけで覚えるのではなく音読によって音声情報として記憶すること、長期記憶の活用とは、新しい情報を覚える際に、すでに持っている知識との関連付けを行うことです。

ツールの活用とは、絵カードや図表など覚えておくべき情報などをすぐ確認できるよう視覚化しておくことです。他にも、録音や写真を撮るなど機械を使うことで思い出せるようサポートすることもできます。

「忘れ物が多い」「活動の切り替えができない」など、困りごとへのサポート方法

ワーキングメモリの機能自体を改善する方法として、効果が確証されているものはまだありません。日々の困りごとに対して、一つ一つサポートすることで、本人のつらさを減らしていきましょう。この章では代表的な行動別に有効的な関わり方を紹介します。

忘れっぽく、集中力が弱い

ワーキングメモリの弱さによって目の前のことに集中できなかったり頻繁に忘れ物をしてしまいます。

1.気になる様子や行動
・身の回りの物を何度もなくす

・必要なものを忘れてしまう

・指示内容を忘れてしまい、従えない

・周りの音や動きに簡単に反応するため、気が散りやすい

2.関わり方のポイント
・必要なものは保護者や先生が一緒に確認する…時間割や持ち物、連絡事項などは保護者や教師が一緒に確認しましょう。

・刺激を少なくする…勉強するとき、話を聞くときに刺激となるものが目に入らない環境づくりをしましょう。カーテンを閉める、仕切りを立てる、などの方法がおすすめです。

・思い出し気づかせるための言葉がけ…子どもが衝動的な行動をする前に、「座って話を聞こうね」「次は〇〇をする時間だよ」などと声をかけて行動を正したり、事前に想定される混乱をなくしたりできます。

活動の切り替えができない

ワーキングメモリの短期記憶した情報を捨てる働きが弱い場合、活動の切り替えが苦手になります。

1.気になる様子や行動
・授業が終わっても次の授業内容に移ることが苦手

・行動を正そうとするとパニックを起こす

・感情の切り替えができず、場違いな言動をしてしまう

2.関わり方のポイント
・活動の流れを最初に伝える…このとき、絵や数字を交えて視覚的、具体的に伝えるとより効果的です。

・終わる前に次の活動内容を伝える

・視覚的に提示する…対処法としては、事前に1日のスケジュールを教えておくこと、切り替える少し前に次は何をするのかを思い出させることが有効です。いきなり「次は〇〇をするよ」と言われてパニックにならないように、行動の流れを頭に置き続けられるような仕組みを作りましょう。

読み書きや計算が苦手

1.気になる様子や行動
・文章を読んでも内容を理解することができない

・板書の書き写しが苦手

・誤字脱字が多い、正しく字を書けない

・繰り上がり、繰り下がりの計算ができない

2.関わり方のポイント
・スモールステップで読む…少し読んで解釈を確認することを繰り返しながら読み進めることで理解の助けになります。計算をする時にも、一気に解こうとするのではなく段階的に区切ったり、具体的な操作を組み入れて文章題を再現したりすることで全体の流れを理解しやすくなるでしょう。

・復唱しながら書く…書こうとしていることを声に出すことで注意を集中しやすくなります。

・ツールを有効活用する…黒板の撮影をして授業についていけるようにする、計算機を使いながらまずは解く順番を覚えることに集中できるようにする、など、どうしても苦手なところは機械に任せることでつまずきを軽減できます。
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まとめ

ワーキングメモリは脳の機能の一つで、情報を一時的に記憶・整理することで私たちの判断と行動に広く影響しています。この機能が弱いと、指示に従うことが苦手、会話がちぐはぐになる、不注意で場違いな行動を起こしまう、といった困りごとが生じえます。

本人にとっては「どうしようもない、できない」にも関わらず、周囲からの理解が得られずに苦しんでしまうこともあります。

ワーキングメモリの機能自体を改善する方法はないものの、周囲のかかわり方や適切な環境作りによって、子どもの困り感を軽減することは可能です。まず特性を理解する、そして部屋の配置や話す順番を工夫する、ツールを活用するなど子どもに合った工夫で成長をサポートしていきましょう。

参考資料

1日5分! 教室で使えるコグトレ 困っている子どもを支援する認知トレーニング122
宮口 幸治
東洋館出版社
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