ワーキングメモリとは?生活に不可欠な役割、発達障害との関係、調べ方、対処法をご紹介!【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン

「頼んだことをすぐに忘れる」「一度に2つ以上のことを処理するのが苦手…」それはワーキングメモリの働きが弱いのかもしれません。ワーキングメモリは、作業や動作に必要な情報を一時的に記憶・処理する能力です。この機能は会話、読み書き、計算など日常のあらゆる判断や行動に関わっているといわれているため、機能が弱いとさまざまな困りごとが生じ得ます。ワーキングメモリの具体的な役割、機能の調べ方、日常生活で生じる困りごとへの対処法を紹介します。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 客員研究員
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。
目次

ワーキングメモリとは?

ワーキングメモリは認知心理学で用いられる構成概念で、作業記憶、作動記憶と呼ばれることもあります。脳の前頭前野の働きの一つで、作業や動作に必要な情報を一時的に記憶し処理する能力で、私たちの行動や判断に影響しているともいわれています。なかなか馴染みのない言葉かもしれませんが、実は私たちの日常に深く関係している機能なのです。

ワーキングメモリの役割は、入ってきた情報を脳内にメモ書きし、どの情報に対応すればよいのか整理し、不要な情報は削除することです。ワーキングメモリの働きによって、瞬時に適切な判断を行うことができるともいわれています。

例えば、私たちが会話ができるのは、相手の話を一時的に覚えて(記憶)、話の内容から相手の意図をくみ取り(整理) 、話の展開に従って前の情報をどんどん忘れる(削除)という作業を無意識に行っているからです。このような情報処理の流れは、読み書き、運動、学習等、日常におけるさまざまな活動に関わっています。

情報処理の働きを学習部屋に例えて考えてみましょう。ワーキングメモリを作業机、入ってくる情報を本だとします。いったん、机の上(ワーキングメモリ)に入ってきた本(情報)を並べて保存します。そして、机の上で本(情報)を分かりやすく並べ変え、整理して必要かどうか判断します。いらない本(情報)は、速やかに机の上(ワーキングメモリ)から捨て(削除)します。

整理した情報の中でこれからも必要なものは、長期記憶するために本棚へ移動させます。
ワーキングメモリの例えの図
ワーキングメモリの例えの図
Upload By 発達障害のキホン
この机の大きさ(=ワーキングメモリの大きさ)は人それぞれです。

上の図のように入ってくる情報をうまくさばける人もいれば、下の図のように机の面積が小さい(=ワーキングメモリが小さい)ため処理できる本の数が少ない人もいます。自分の机の広さに合わない量の本が出されると、うまく処理されなかったり、机にのりきらずにこぼれ落ちて削除されてしまったりするのです。
ワーキングメモリが小さく困っている人のイラスト
ワーキングメモリの例えの図
Upload By 発達障害のキホン
ワーキングメモリの機能は成長と共に発達するものの、その度合いには個人差があります。では、ワーキングメモリの機能が弱かったり、発達が遅れたりするとどのような困りごとが生じるのでしょうか。

ワーキングメモリの役割は?低下するとどんな困りごとが生じるの?

ワーキングメモリの一時的な記憶機能によって私たちの判断や行動が支えられています。では、ワーキングメモリの機能が弱いときにはどんな困りごとが起こりうるのでしょうか?

記憶が苦手な場合

情報を脳内に書き留めておくことが苦手なため、必要なことを忘れてしまいやすくなります。例えば、先生の指示をすぐ忘れたり、黒板をノートに書き写すのが遅くなったりします。忘れ物や失くし物が多くなる場合もあります。

ほかにも、読んだ内容を覚えていられないために文章を理解するのに時間がかかる、頭に浮かんだ内容をすぐ忘れてしまい文章を書くことが苦手になる、など学習面においても困りごとが起こりえます。

整理が苦手な場合

情報の整理が苦手だと、入ってきた情報の中で何に注意すればよいのかが分わからず混乱してしまったり、状況にそぐわない言動や行動をしてしまうことなどがあります。

例えば、会話の受け答えがちぐはぐになる、どの順番で体を動かすのか分からず運動を苦手と感じる、といった困りごとが起こり得ます。

記憶の削除が苦手な場合

記憶の削除が苦手な場合は、新しい情報を取り入れにくく、行動の切り替えや連続的に会話を続けることが難しくなります。授業時間が変わっても次の科目に移ろうとしない、前の会話の内容を話し続ける、といった困りごとが起こり得ます。

上に挙げた行動は一例にすぎず、また、ワーキングメモリの機能が弱いからといって全ての困りごとが現れるとも限りません。

ですが、こうした困りごとの原因がワーキングメモリ機能の問題だと気づかず、理解が得られないまま叱られ続けると、子どもが自信を失ってしまうこともあるのです。

なお、ワーキングメモリだけではなく、感覚過敏や鈍麻、疲労感などの身体的な問題や、不安や抑うつなどの心理的な問題によってあらわれることもあると考えられています。

ワーキングメモリの機能を調べる方法

ワーキングメモリの機能を調べる方法は、主に二つあります。

一つは、ワーキングメモリを測定するためのテストを使うこと。もう一つは、ワーキングメモリが検査項目に含まれている知能検査を参考にすることです。

ワーキングメモリを調べるテスト

ワーキングメモリのアセスメントを目的にしたテストでは、詳細な測定ができます。詳細な測定によって、どのような類の行動に困りごとが生じやすいのかが分かります。

代表的なテストは2種類あります。
■AWMA
イギリスのピアソン社が販売しているテストで、ワーキングメモリの問題をスクリーニングするときに使用されます。このテストでは、ワーキングメモリの4つの側面(言語的短期記憶・視空間的短期記憶・言語性ワーキングメモリ・視空間性ワーキングメモリ)の検査ができます。
AWMA(Automated Working Memory Assessment)│Pearson Assessment
https://www.pearsonclinical.ca/en/products/product-master/item-83.html
■HUCRoW
HUCRoWは、広島大学大学院教育学研究科(研究代表者:湯澤正通教授)が開発しているアセスメントツールで、日本の小・中学生用に開発されました。

知能検査・認知検査の利用

専用のアセスメントテスト以外に、検査項目としてワーキングメモリがある知能検査・認知検査も参考にできます。日本語版に対応しているためデータの分析が易しいという長所がある一方、専用のテストのようにワーキングメモリの具体的な能力まで測ることはできません。
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WAIS・WISCとは?ウェクスラー式知能検査の特徴、種類、受診方法、活用方法のまとめ

発達障害の診断目的で知能検査や発達検査を受けると、ワーキングメモリの弱さが見つかることもあります。

では、ワーキングメモリと発達障害の特性の間には、どのような関係があるのでしょうか。
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子どもの臨床心理アセスメントとは?知能検査や行動観察からどうやって子どもの特性を把握していくの?

次ページ「ワーキングメモリと発達障害の特性の関係」


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