公立中進学を兄が大反対!ASDの私が進んだ私立中高一貫校のメリットとデメリット

ライター:宇樹義子
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小学校で周囲となじめずにいじめられつづけた私は中学受験をし、通学に時間のかかる私立の中高一貫進学校に進学しました。学校での級友や先生とのつきあいは、公立小学校と比べたら天国かと思うほど楽。とはいっても、ステータスのある進学校ならではの苦労もあり、発達障害特性からくる過ごしづらさもゼロになったわけではありませんでした。今回は当時の学校生活についてお伝えします。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。

公立中学校に進学しなかった理由

私は公立小学校に在学中、6年間ずっといじめられていました。勉強ができるいっぽうで運動は苦手で、コミュニケーションも不得手。言動がいちいち周囲から浮いているので、周囲の子どもたちから排除されたのです。

私が小学校6年生になるころだったか、地元の公立中学に通っている兄が、突然両親に「義子を私立の中学に行かせてやってくれ」と泣いて頼みました。兄は、「義子は地元の公立中学に行ったら、いじめ殺されるかいじめを苦に自殺するかになる」と言います。当時、地元の公立中学は荒れていて、ひどいいじめが横行しているとのことでした。

それで両親は震え上がり、私は中学受験をして私立の学校に進むことになったのでした。

私立進学校のメリットとデメリット

学校の成績が良いタイプにとって居心地がいい

進学校ではある程度以上勉強のできる子が集められているので、授業を聴いていて退屈に感じることがありませんでした。私の場合、勉強ができても周囲から嫉妬による攻撃を受けないので、それもとても居心地が良かったです。

進学校においては、成績が良いことがスクールカーストを大幅に上げる傾向があると感じます。友達が「義子はいつも学年で上位3位以内ぐらいにいて、すごく頭がいいんだよ!」とほかの子に自慢しているのを聞いたときにはとても驚きました。

ひどいいじめが横行しにくい

これはたまたま私のいた学校がそうだっただけかもしれませんが、特定の誰かが少しグループから外されるようなことはあったものの、深刻ないじめはなかったように思います。

どちらかというと、多くの子は勉強すること、自分の生活を健康的に律することのほうに興味とエネルギーを注いでいて(注ぐことのできる環境に恵まれていて)、学校の中でのグループの立ち位置がどうのとか、特定の子に対してどうこうするという方向にあまり興味を向けていないように見えました。

私も、やはり発達障害の特性によりなんとなく浮いているところがあったので、何回か軽くグループから排除されるようなことはありましたが、積極的にいじめと言えるほどまで加害されつづけるようなことはありませんでした。

大学受験にあたってのサポートが豊富

私のいた学校では、大学受験の基礎固めのために必要なトレーニングをうまくカリキュラムの中に練り込んであって、塾に行かなくてもそうとうの力がつけられるようにしてありました。これは卒業して10年ほども経ってから学習塾で講師のアルバイトをするようになって初めて気づいたことです。

国語の時間には百人一首、文学史、評論文用語の暗記と小テストの時間があり、英語の時間には英単語・英熟語の暗記と小テストの時間がありました。私にとってこれは、面倒で苦痛ながらもあたりまえに享受していたこと。

でも、私が20代になって講師を担当した子どもたちは、そういったサポートを受けていないようでした。「英単語・熟語は暗記しておかなきゃいけないんだよ、それにはこういう単語集がいいよ」とか、そういう指導を中学側はやっていないか、やっていたとしても、生徒たちにちゃんと伝わっていない…

私立の進学校でさせられた単語などのトレーニングは、ものすごく大学受験に役立ったし、今でも私の英語力や文章力のベースを支えています。進学校の学費は高いですが、こういうところで還元されていたんだなと、今は思います。

校則や雰囲気が保守的すぎる

私の学校は女子校だったのですが、地域で「伝統的なお嬢様校」としてステータスがありました。学校の周囲に卒業生がいたりするので、少しでも「お嬢様らしくない」服装や言動をしていると「わたくしの母校も落ちぶれてしまって嘆かわしい!」みたいに学校にクレームが入ります。

そういうわけで、校則はとても厳しいのですが、どうも生徒の側である私たちには、それが私たちの将来のための教育ではなく、学校の体裁を保つための強制であるように感じられました。

女性であってもどんどん社会に出て活躍してほしい、と口では言いながら、生徒が皆勤賞をとったらなぜか両親ではなく“お母さん”が表彰されたり、昼食は母親が弁当箱に詰めたものであることを求めてきたり… 結局は家父長制の中での良妻賢母像を維持することに加担しているような保守的な雰囲気。それが私にはとても嫌でした。(※)

※私が在籍していたのは今から20年以上前のことです。こうした校則や賞は、現在は異なっていると思います。

「難関の4年制大学に進学する」ことだけが目的になってしまう

お金持ちの、勉強のできるお嬢様ばかりが集まる、かなりの均質集団だった私の学校。特に私の所属した特進クラスでは、すべての前提が「東大京大・早慶上智に入る」でした。私はそのプレッシャーの中で視野が狭くなり、汲々として、常に過労状態だったのです。同時に、自分が非常に恵まれた学習環境に置かれていることに自覚がなく、とても傲慢だったとも思います。

当時から、人生の進路には人それぞれ向き不向きがあって、どれが上とか下でもないし、自分はどんな進路を選んでもいいのだ、選択肢も無数にあるのだ、ということを知っておきたかったなと思います。

本人の「楽」を大事にした進路選択を

私の場合、総合的に考えて、私立の中高一貫進学校に進んだことは自分にとって良いことだったと思っています。ただ、やはり私立の進学校には私立の進学校なりのデメリットもあるし、発達障害のある人が元気に過ごすには繊細な環境調整が必要です。

定型発達の人でも将来に確実な約束のない今、発達障害のある人はなおさら、一般的に言う高学歴を身に着けたからといって順風満帆な人生が約束されるわけではありません。公立、私立、専門学校、高等専門学校、通信制の学校など、いろいろな選択肢の中から、本人の中でいちばんメリットとデメリットのバランスがとれて、楽に過ごせる進路を選べるといいなと思います。

文/宇樹義子
(監修者・井上先生より)
体験として貴重な記事だと思います。
そらきさんが中学進学の際に、ご自身の得意な分野、個性が認められる環境を選べたことは、とてもラッキーでしたね。
このコラムで書いておられるように、私立の学校にはそれぞれ特有の校風があると思います。
加えて「進学クラス」など特別に設置されているコースを目指す場合、良いクラスメイトに恵まれることもありますが、相性の悪い同級生がいてもクラス替えもなくずっと一緒に過ごさなくてはいけないリスクもあります。
また私学の場合、学校側が特別な支援ニーズや合理的配慮についてどこまで学校側が理解してくれるかは、学校によりかなり異なるので、その学校の情報をオープンスクールなどでしっかり調べて進路決定することが大切だと思います。
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