自閉症息子、3歳で取得した療育手帳。知的障害「中度」判定にショックで涙。15年後の再判定では…

ライター:立石美津子
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自閉スペクトラム症のある息子が1歳になるころから「なんだか怪しい…」と感じることが多かった私は、息子が3歳になるとすぐ、療育手帳(障害者手帳)を申請した。

判定結果は「中度」知的障害。自ら手帳の交付を希望したというのに、「軽度」でなかったことに落胆し、涙した。

それから15年後…。

監修者鈴木直光のアイコン
監修: 鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
1959年東京都生まれ。1985年秋田大学医学部卒。在学中YMCAキャンプリーダーで初めて自閉症児に出会う。同年東京医科歯科大学小児科入局。 1987〜88年、瀬川小児神経学クリニックで自閉症と神経学を学び、栃木県県南健康福祉センターの発達相談で数々の発達障がい児と出会う。2011年、茨城県つくば市に筑波こどものこころクリニック開院。

療育手帳の判定結果は「中度」知的障害、落胆して泣いた

自閉スペクトラム症のある息子は、1歳ごろから「なんだか怪しい…」と感じる行動をすることが多かった。母である私は、息子が3歳になるとすぐ、療育手帳(障害者手帳)を申請した。療育手帳は、3歳をすぎないと申請できなかったからだ。

療育手帳の申請は児童相談所が窓口だった。
3歳で療育手帳が交付されたころの、知的障害を伴う自閉症の息子
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息子は児童相談所で検査を受けた。

結果は3度(中度)の判定で「4度(軽度)ではないんだ」とショックを受けた。障害児向けの福祉サービスを受けるため、療育手帳が欲しくて自ら出向いたのにも関わらず…。
児童相談所からの帰り道、駅まで泣きながら歩いたことを思い出す。

1ヶ月後、療育手帳が郵送されてきた。
交通機関の割引制度を利用するには、手帳を提示する必要があったが、当時の私はものすごく抵抗があったので、しばらく使うことができなかった。

東京都の場合、療育手帳(愛の手帳)は知的障害の重さで4つの度数に分かれている。

最重度 1度…知能指数 19以下
重度  2度…知能指数 20~34
中度  3度…知能指数 35~49
軽度  4度…知能指数 50~75
参考:対象者(愛の手帳Q&A)|東京都福祉保健局
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shinsho/faq/techo_qa/taishou.html
軽度の目安が、IQ75未満の自治体もある。

IQ70〜75が、療育手帳がもらえるギリギリの、ボーダーラインで、IQが70〜75より高く、日常生活の能力に問題がない場合は、療育手帳の認定基準に満たないので、療育手帳はもらえない。

療育手帳がもらえるかもらえないかの境界は、自治体によって異なる。

療育手帳交付のボーダーラインは、IQ70が基準の自治体もあれば、IQ75が基準の自治体もある。
療育手帳とは?身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳との違いや交付条件など【専門家監修】のタイトル画像

療育手帳とは?身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳との違いや交付条件など【専門家監修】

療育手帳の再判定、結果は変わらず「3度」で中度の知的障害だった

息子が18歳になり、療育手帳の成人更新をすることになった。結果は今までと同じ3度だった。

少しホッとする。福祉サービスが今までと変わらず受けられるからだ。児童相談所からの帰り道、駅まで泣きながら歩いた昔と比べると、自分も随分変わったものだ。


療育手帳を持っていても使うのに抵抗があった昔に比べると、持っていくのを忘れたら家に取りに戻るくらい変化した。タクシーに息子と乗ったとき「障害者手帳持っているんですけれど、持ってくるの忘れてしまいました。でも障割にしてくれますか?」と図々しく聞くくらいだ。

親として成長したのか、諦めたのか、悟ったのか…。
自閉症の息子に交付されている、東京都の愛の手帳(療育手帳)
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特別支援学校高等部時代、学校のママたちとランチした。

あるママ友が呟いた。

「療育手帳の成人更新で3度が4度になっちゃった~(=軽度になったこと)『3度が4度に上がりました』と担任に話したら、『そうでしたか…』複雑な表情をされて、こちらも複雑な気持ちになったよ~。」

「あるあるだよね。」

そんな会話が交わされる。

愛の手帳が3度から4度(中度→軽度)になって本来喜ばしいことなのだろうが、それによって利用できなくなる福祉制度があるからだ。私が住んでいる自治体では、“緊急介護人制度”というのがあって、愛の手帳(療育手帳)が1度から3度だとこれを利用できる。しかし、4度だと利用できなくなる。
ほかにも、一般企業の障害者雇用枠では、療育手帳の1度や2度だと、ダブルカウントされる。つまり1人雇うと2人分とカウントされるのだ。

手帳の判定が変わるのは、親と嬉しくもあり、利用できる福祉サービスが減るのではと不安になることもあり、複雑な気持ちになるものだ。

そして、それくらい親と一心同体になってくれる特別支援学校高等部の先生方はありがたい存在だった。
「残念だ」とは決して口には出さないが、表情から、わが子のことを深く考えてくれいることは読み取れるから。

障害区分認定は?

療育手帳の成人更新とは別に、19歳になったら、区分認定も受けた。これは知能指数による判定ではなく、日常生活するのにどれくらい困難があるかを示す度数である。

療育手帳(愛の手帳)は「1・2・3・4」と数字が上がるほど軽度ということだが、区分認定は「1・2・3・4・5・6」とあり、数字が上がるほど重く、福祉サービスは手厚くなる。

逆なのだ。ややこしい!!
障害支援区分の認定結果通知書
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当時、ママ友との会話はもっぱら…

「成人更新で療育手帳は何度になった?」
「区分指定は何度?」
だった。

成人を前にやらなくてはいけない申請も多く、何しろいろいろ難しい。経験者としていえるのは、17歳になる前くらいから、いろいろ調べておくとよいということだ。

執筆/立石美津子


(監修・鈴木先生より)

療育手帳のボーダーラインはいつも疑問に思います。IQ69と71で何が違うのか?自治体で差がないように医師の診断書を添えて70以上でももらえるようなシステムがいいのではないかと常々思っています。

IQ49と51でも同様です。中にはIQ51でも中等度の知的発達症にしてくれる児童相談所の方もおられます。そのためには、いかに生活で困っているかを保護者が児童相談所に伝えられるかどうかにかかっているようです。

発達障がいは以前、軽度発達障がいと言われていました。障がいに軽度も重度もないことからスペクトラムという領域という意味の言葉が用いられ、軽度という言葉は診断名から消えました。
知的発達症もいずれ軽度や重度の枠がなくなってスペクトラムとなり、みんな同じ福祉サービスが受けられる時代が来ればいいですね。

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コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如・多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。

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