周りから見たら変な趣味、やめさせるべき?トイレの便器に夢中な自閉症息子を見て思う「こだわり」が人生にもたらすもの

ライター:立石美津子
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私は、移動が困難な人に対して移動支援を行うガイドヘルパーの仕事をしています。コロナ禍では、福祉事業所への出社がなくなった方たちが、外出する予定もなく、ずっと家で過ごしているという例を多くみました。

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監修: 鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
1959年東京都生まれ。1985年秋田大学医学部卒。在学中YMCAキャンプリーダーで初めて自閉症児に出会う。同年東京医科歯科大学小児科入局。 1987〜88年、瀬川小児神経学クリニックで自閉症と神経学を学び、栃木県県南健康福祉センターの発達相談で数々の発達障がい児と出会う。2011年、茨城県つくば市に筑波こどものこころクリニック開院。

コロナ禍で気づいた趣味の大切さ

私は、移動が困難な人に対して移動支援を行うガイドヘルパーの仕事をしています。コロナ禍では、福祉事業所への出社がなくなった方たちが、外出する予定もなく、ずっと家で過ごしているという例を多くみました。
そうなると、人は時間を持て余すようです。この時期、時間が余って困った方たちから、外へ出かけたいというガイドヘルパーの依頼が増えました。

私は、こんなとき、みなさんが没頭できる余暇活動、つまり趣味があればいいのにな…と思いました。そして思い浮かべていたのは、自閉スペクトラム症のある息子のことです。

息子の趣味は“トイレの便器”!

自閉スペクトラム症のある息子は、小学生のころからトイレの便器に対して強い執着を持っています。
昔から、どこへ行ってもトイレの便器にしか興味を示さず、今でも趣味は“トイレの便器”です。
トイレの便器の写真をコレクションしている自閉症の息子
トイレの便器の写真をコレクションしている自閉スペクトラム症のある息子
Upload By 立石美津子
アイドルに夢中、電車が好き、エレベーターに興味がある、換気扇が回るのを見ていたい…子どもたちの興味はさまざまです。
ですから、私は息子のそれが便器であってもよいと思っています。

息子が22歳になった今では、彼は週末一人でトイレ散策に出かけます。そして好きな食事をとって帰ってきます。
平日の仕事でのストレスはあるでしょうが、この週末の趣味を息子は唯一の楽しみにしています。そして、この時間がさらに平日の頑張りへとつながっていると思うのです。
こんな有意義な時間の使い方ができるのは、息子に趣味があったからにほかなりません。

得意を伸ばすことが苦手の克服につながる“ハンカチの汎化作用”

“ハンカチの汎化作用”という言葉を聞いたことはありますか?
ハンカチを拾おうと、四隅をすべてつまもうとしても、すべてをつまむことはできませんし、持ち上げるという目的も果たすことができません。ですが、ハンカチの1ヶ所をつまめば、問題なく持ち上げることはできます。

これは、オールマイティにしたいがため、すべての苦手を克服させるよりも、その人の得意を伸ばしていった方が、結果的に苦手の克服も出来るようになるということです。
私は、こだわりや趣味も同様だと思います。
今は亡き私の父は、トイレの便器に没頭する息子の様子を見ては「変な趣味を止めろ!いい加減にしろ!」と何度も息子を怒鳴りつけていました。
私は、息子が怒鳴られたらすぐ息子の側につき「興味があるんだから放っておいて!」と言い返していました(そのため父との関係は悪化していく一方でしたが…)。

親や周りから見たら変なこだわりや趣味も、本人にとっては大事なことなのです。そして、本人が興味のあることを徹底して応援してやることが、本人の居場所を作ることになり、豊かな人生を送ることにつながっていくのではないでしょうか。

「そういう趣味は一般的ではないから、別の趣味を持たせよう」と、本人が望まないことを押し付けるよりも、本人が没頭できる趣味をこれからも応援したいと思います。
実父には「難儀な子を産んで」と言われ。自閉症息子にとって「怖いおじいちゃま」だったけれどのタイトル画像

実父には「難儀な子を産んで」と言われ。自閉症息子にとって「怖いおじいちゃま」だったけれど

(監修・鈴木先生より)
外来で私はよく「人に迷惑をかけなければいいよね」と話しています。

十人十色で興味やこだわりも人それぞれです。普通の型にはめようと押し付ける教育はよくありませんが、他人がトイレを使っている時は遠慮するなど一定のルールやマナーは必要になります。いわゆるSST(ソーシャルスキルトレーニング)をわかる範囲内でできるだけ早期に教えるべきだと思います。

特に最近のお子さんは電子メディアのルールやマナーが守れず、また場所を問わずやりたい放題で睡眠不足になっているケースが目立ちます。他人の前では食事中にトイレの画像は見せないなどの一定のルールは必要だと思っています。

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コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如・多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。

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