特別支援学校卒業後いきなり企業就労を目指さず正解だった!?--自閉症息子、就労移行支援での職業訓練

ライター:立石美津子
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自閉スペクトラム症のある息子は22歳。特別支援学校高等部卒業後は一般就労を目指さず、就労移行支援事業所に行きました。
その理由は…。

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監修: 鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
1959年東京都生まれ。1985年秋田大学医学部卒。在学中YMCAキャンプリーダーで初めて自閉症児に出会う。同年東京医科歯科大学小児科入局。 1987〜88年、瀬川小児神経学クリニックで自閉症と神経学を学び、栃木県県南健康福祉センターの発達相談で数々の発達障がい児と出会う。2011年、茨城県つくば市に筑波こどものこころクリニック開院。

特別支援学校高等部卒業後、就労ではなく就労移行支援所へ

自閉スペクトラム症のある息子は22歳。息子は特別支援学校高等部卒業後は一般就労を目指さず、就労移行支援事業所に行きました。

どうしてかというと、定型発達の子どもでも高校卒業後、専門学校や大学に進学し社会に出るためのスキルを身つけるのに、障害がありながら18歳で社会に出てやっていくのは難しいのではないかと考えたからです。

4月に30度超した日、自閉スペクトラム症の息子はブレザーを脱がなかった

息子は自閉スペクトラム症の特性なのか、本人の性格なのか、ともかく真面目です。特に親以外の人から言われたことはキッチリカッキリ従います。

ある4月の日、その日は気温30度を超す暑い日でした。しかし息子は「まだ4月だからブレザーを脱いではいけない」と頑なで、就労移行支援の事業所へブレザー姿で向かいました。

就労移行支援所では、「ブレザーを脱いでいい理由」を息子が納得するように説明してくれた

スーツ姿の自閉症の息子
Upload By 立石美津子
医師や学校の先生の言うことは従う息子だったので通所している就労移行支援事業所の支援員さんに連絡して、頑として脱がない上着について、メールで相談しました。

「今朝、気温が高かったので衣服の調節をするように伝えたのですが、ビジネスマナーを遵守して4月だからブレザーを着なくてはならないと思い込んでいて、これにこだわっています。
私が言っても頑として言うことを聞きません。暑かったら、ブレザーを脱いだり半袖にしたりするように本人に話してください。よろしくお願いいたします」

すると次のような返信が来ました。

「訓練のプログラムではホワイトボードにイラスト(太陽とスーツを着込んで汗をかいている人それを見る人3人)を描いて、服装のルールと季節が合っているとは限らないので上着を脱ぐ、オフィスカジュアルの日はネクタイをしない方法もあること。

汗をたくさんかくと、冷えて風邪をひいたり、腹痛になったりする。スーツにも汗がついて匂いが臭くなるなどのデメリットがあることなどを話しました。

また、周りの人から見て、マナーを守るまじめな人と褒められることもあるし、具合が悪くならないか、上着を脱げばいいのに、と心配されることもあるし、家族やほかの人から言われても、素直に聞けない人なのかと疑問に思われることもあります、と説明しました。

説明のあとに立石さんは25℃以上の夏日は上着を脱ぎますと発表され、暑いときは脱ぐという認識でいらっしゃることも伝わりました。

振り返り時には、もしも立石さんとお母さまの考えが違って「ワーッ」となったら、職員に相談してよいと伝えました。
本日ご様子を見ても、特に心配な点はありませんでした。少しずつ、調整が上手になるとよいなと思います。
また何かございましたらご連絡お待ちしております」

家では絶対にこんな冷静な対応できないと思いました。さすがプロ集団です。息子を一人の大人として扱い敬語を使ってくれているのも心地よかったです。そしてまた、他人の力を借りことは大切なこと、それからSOSを親が出すことも大切なことだと学びました。

息子が通っていた特別支援学校では、ここまでの指導はありませんでした。学校は職業訓練だけの場ではないからです。

そういう意味でも、いきなり企業就労を目指さなくてよかったとシミジミ思いました。

執筆/立石美津子
(監修・鈴木先生より)

特別支援学校を卒業後はA型やB型などの就労移行支援施設で働くお子さんが多いです。少しずつ社会に慣れていけばいいのです。知的に重度のお子さんは生活介護施設で日々の生活を過ごしています。家にひきこもらず、それぞれの知的なレベルに合わせて社会参加できればいいのではないでしょうか。

自閉スペクトラム症のお子さんは感覚過敏やこだわりがあるため制服で問題が起きることが多々あります。
男子では詰襟が嫌いだという理由だけでブレザーの学校を選ぶこともあります。また、制服自体が嫌でずっと卒業までジャージを着ていたお子さんもいます。

逆に休日も制服をずっと着たがるお子さんもいて、こだわりは千差万別です。最近になってようやく女子はスカートかズボンかを選択できるようになりました。学校だけでなく会社でも男子も女子も自由に制服が選択できる時代になればいいですね。

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コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如・多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。

SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。

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