ビジョントレーニングとは?発達障害との関わり/専門家監修

ライター:発達障害のキホン
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ビジョントレーニングとは目でものの性質や状態を捉える力を高め、見たものを正しく認識したり、自分の身体をイメージ通りに動かす機能を向上させるためのトレーニングです。 「黒板に書かれた字をノートに写すのに時間がかかる」「ボールを使った運動が苦手」など、生活や学習上の困難の軽減に活用できるのではないかと注目されています。今回はビジョントレーニングとはどういったものか、期待できる効果、ビジョントレーニングを受けられる場所について、順番に解説していきます。

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監修: 増本利信
九州ルーテル学院大学大学院 人文学研究科 障害心理学専攻 准教授
公立学校教諭を経て現職。学校現場では通常学級をはじめ特別支援学級、特別支援学校、LD/ADHD等通級指導教室にて支援にあたった。学校生活において困難さのある児童への支援のあり方について現場の経験知を元に研究を重ね、未来の教員を育成している。
目次

ビジョントレーニングとは?

ビジョントレーニングとは、目でものの性質や状態を捉える力を高め、見たものを正しく認識したり、自分の身体をイメージ通りに動かす機能を向上させるためのトレーニングです。

主に、生活や学習上の困りごとを改善したり、スポーツのスキルアップを目指したりする目的で活用されています。

もともと、ビジョントレーニングは50年以上前のアメリカが発祥で、近年日本でも広がりを見せています。

ビジョントレーニングの「ビジョン」とは?

ビジョントレーニングと聞くと、「視力をトレーニングするのだろうか?」と思われるかもしれませんが、ビジョントレーニングの「ビジョン」とは、視力だけではなく「ものを見る力(視覚機能)」全般を指します。

「見る力」は大きく「視機能(入力)」「視知覚認知(情報処理)」「目と手の協応(出力)」の3つから成り立ちます。
■視機能(入力)
視機能は、外界からの情報を取り入れる入力系の働きを担い、視力、調節力、眼球運動などが含まれます。
眼球運動とは、視線を素早く動かしたり、対象を目で追ったり、目を寄せたり離したりする働きのことです。眼球運動は、「見る力」のうちの最初のステップでもある「入力」の部分にあたり、情報を効率良く目から取り入れるためには欠かせない働きです。

眼球運動には、「滑動性眼球運動(追従性眼球運動)」「衝動性眼球運動」「輻輳・開散運動」 という3つの働きがあります。
・滑動性眼球運動(追従性眼球運動)…見ているものに合わせて視線をなめらかに動かす。
・跳躍性眼球運動(衝動性眼球運動)…あるポイントから違うポイントに視線をジャンプさせる。
・輻輳・開散運動…両目の視線を見ているものの距離に合わせて調整し、立体感や遠近感を理解する。
これら3つの眼球運動が正しく機能することにより、情報を目から取り入れる「入力」が完了します。
参考:日本LD学会/編 『発達障害事典』2016年 丸善出版/刊
https://www.amazon.co.jp/dp/4621300466
■視知覚認知(情報処理)
第1ステップの「入力」で目から取り入れた情報が脳へと伝わったあと、第2ステップの「情報処理」が行われます。

この情報処理のことを「視知覚認知」と呼び、具体的な働きは下記のような働きをします。

・色や形を見分ける
・見たいものと背景を区別する
・空間的な位置を認識する
・物の色や大きさに惑わされることなく、同じ形を認識する
・図形の形や並び方を覚える
■目と手の協応(出力)
視覚の働きと体の動きを連動させることを「目と手の協応」と呼びます。第1ステップの「入力」、第2ステップの「情報処理」の次のステップである「出力」にあたる部分です。

「目と手の協応」とは、目で捉えた形や位置の情報と体の動きを連動させることです。例として、人とボールを投げ合うときの動きを見てみましょう。

飛んでくるボールを目で追いかける(入力)
ボールが手元にやってくるタイミングを理解する(情報処理)
ボールを目で追いつつ、手を伸ばしてキャッチする(出力)

人間は意識しなくても、視覚と体の動きを連動させて、さまざまな活動をおこなっています。「視機能(入力)」「視知覚認知(情報処理)」「目と手の協応(出力)」を連動させる能力は、心身の発達や活動を通して向上していきます。

ビジョントレーニングと発達障害について

ビジョントレーニングは、発達障害のある子どもの、生活や学習上の困りごとの克服や改善に役立つのではないかといわれています。

例えば、発達障害のうちの1つ「学習障害(LD)」のある子どもが、ビジョントレーニングを活用するパターンも見られます。

※「学習障害(LD)」は現在、「限局性学習症(SLD)」という診断名となっていますが、最新版DSM-5以前の診断名である「学習障害(LD)」と呼ばれることが多くあるため、ここでは「LD(学習障害/限局性学習症)」と表記します。

LD(学習障害/限局性学習症)とは?

LD(学習障害/限局性学習症)は、学習における技能に困難さがみられる発達障害の一つです。
・読むことやその内容を理解することの困難さ
・書くことの困難さ
・数の理解や計算をすることの困難さなど
大きく3つの分類があります。

これらの困難が、知的障害(知的発達症)によるものでないこと、経済的・環境的な要因によるものでないこと、神経疾患や視覚・聴覚の障害によるものではないこと、学習における面のみでの困難であること、という場合に限り診断されます。

学校教育が始まる就学期になって診断されることがほとんどですが、就学前の段階で言語の遅れや数えることの困難、書くことに必要である微細運動の困難などがあることでその兆候に気づかれることもあります。
LD(学習障害/限局性学習症)は、その症状から「理解する機能」や「暗記する機能」に困難があると思われがちですが、学習に困難が生じる背景の一つに「見る力の困難さ」があるのではないかといわれています。
こうした「見る力の困難さ」がある場合には、困りごとや特性を理解し、一人ひとりにあった学習方法を提供することが大事です。
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LD(学習障害/限局性学習症)とビジョントレーニング

LD(学習障害/限局性学習症)がある子どもが感じる困りごとには以下のようなものがあります。
・音読がたどたどしい
・文章を読むとき文字や行を読み飛ばしてしまう
・ひらがな、カタカナ、漢字がなかなか覚えられない
・字を書くのに時間がかかる
・文字が枠からはみ出す
・計算の筆算を間違えることが多い

こうした学習に関する困りごとは、「見る力」が弱いことから生じている場合があります。
見る力の弱さが学習の困難に影響している場合には、ひたすら音読や書き取りの練習だけを積み重ねても効果が出にくいことがあります。

ビジョントレーニングで見る力を高めることで、学習に取り組む際に必要な情報処理や眼球運動の調整などがうまくできるようになり、困りごとが解決しやすくなるのではないかと期待されています。

ただし、ビジョントレーニングのみを取り入れるのではなく、子どもが学びやすい環境づくり(文字を大きくする・余白をつくる・字体を変更する・マス目の大きなノートを使用するなど)も合わせて行うことが大切です。

ビジョントレーニングの効果は?

ビジョントレーニングに期待できる効果は、「見る力」のうち、どの部分を重点的にトレーニングするのかによっても異なります。

この項目では「眼球運動」「視知覚認知」「目と手の協応」の3パターンに分けて、ビジョントレーニングを行ったときに得られる可能性のある効果について解説していきます。

眼球運動

眼球運動のトレーニングは、以下の3つの機能に対しておこなわれます。

■見たいものの動きに合わせて視線をなめらかに動かす機能(滑動性眼球運動)
ゆっくりと動く指標を見続けたり、指や鉛筆を使わず目で追いながら迷路をクリアしたりするなどのトレーニングをすることで「目標物を見失ってしまったり、目標物に合わせた手や体の動きが正確に行えなくなったりする」「文字を読み飛ばしてしまう」などの状態の改善に期待できます。

■見ているものの位置から、ほかの場所へ視線を移動させる機能(跳躍性眼球運動)
見ているものの位置から、ほかの場所へ視線を移動させる機能が弱いと、黒板から一時的に目を離してノートに文字を書いたあと、再び黒板に視線を戻したとしても、先程まで見ていたところをすぐに見つけ出せないことがあります。

少し離した指標を指示やリズムに合わせて交互に見たり、間違い探しをしたりするなどのトレーニングをすることで、上記のような困りごとのほか「本を読んでいるときに、文字や行を読み飛ばしてしまう」といった困りごとの改善につながる可能性が考えられます。

■両目のチームワークの機能(輻輳・開散運動)
両目のチームワークとは、近くにあるものを見るときに両目を寄せたり、遠くにあるものを見るときに両目を離したりする機能のことです。遠くの風景と自分の顔の前に出した親指を指示やリズムに合わせて交互に見るなどのトレーニングをすることで、この機能を高めることにより、「物との距離感を掴みにくい」「ものが二重に見える」などの状況を改善することに期待できます。

視知覚認知

視知覚認知は、見たものの色や形、距離感を正確に認識するための機能です。
点を数字の順番通りにつないで絵を描いたり、お手本の形と同じ形を書き写したりするトレーニングをすることで、視知覚認知を向上させることにより、以下のような効果があるといわれています。

・色や形を把握しやすくなり、塗り絵や図形問題に取り組みやすくなる
・対象物(見ようとしているもの)と背景を区別しやすくなる
・文字の形を覚えやすくなる
・距離感をつかめずに人や物にぶつかる状況を改善できる
・球技に取り組みやすくなる など

目と手の協応

目と手の協応とは、目で見た情報に合わせて、体を動かす機能のことです。
この機能が苦手な場合、「黒板の文字を見てノートに書き写すことが難しい」「転がってきたボールをキャッチすることが難しい」などの状況が考えられます。はみ出さないように意識しながら塗り絵をしたり、お手玉遊びをしたりすることで徐々に協応運動がなされるようにします。

このような「見る」と「動く」の能力のつながりは、経験の積み重ねやビジョントレーニングの効果により向上するといわれていることから、子どもが楽しみながらチャレンジできるように環境を整えたいですね。
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