複雑な経済的支援の制度がまる分かり!『発達障害・精神疾患がある子とその家族がもらえるお金・減らせる支出』【著者インタビュー】
ライター:発達ナビBOOKガイド
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講談社
今すぐ利用には至らなくとも、まず制度を「知ること」で前向きに一歩、踏み出してほしい……障害年金の専門家である青木聖久先生は、そんな思いをこめて11月に『発達障害・精神疾患がある子とその家族がもらえるお金・減らせる支出』を出版しました。
なぜ経済的支援の諸制度を取り上げたのか、いま日本にはどんな制度があるのか、制度の中身はどうなっているのか。この本では「減らせる支出」と「もらえるお金」の2つの切り口から、マンガと図解を織り交ぜて楽しく解説されています。
監修: 青木聖久
日本福祉大学 福祉経営学部 医療・福祉マネジメント学科 教授/博士(社会福祉学)
精神保健福祉領域のソーシャルワーカーとして、1988年より、岡山、神戸の精神科病院で約14年間勤務。その後、自らが立ち上げていたNPO法人が運営する、明石(兵庫県)の小規模作業所の所長として4年間勤務。そして、2006年より、大学に拠点を移し、精神障害がある人の普及啓発の講演や執筆を本格的に展開。主な取り組みは、経済的支援の現実的アプローチと、一方で、多くの当事者の歩みを社会に追体験していただく情緒的アプローチ。これらを通して、誰もが自分及び他者を愛おしめる社会づくりを目指している。
「経済的支援」の必要性、大切さを知ろう!
障害の診断を受けた子どもやその家族は、申請して認められればさまざまな支援を受けることができます。しかし、そもそも制度の存在を知らないがゆえに、必要な支援につながれなかった、というケースもあれば、「どこに相談したらいいのか分からない」「申請方法が難しくて分からない」などの壁にぶつかって“回り道”をした……というケースもあります。
『発達障害・精神疾患がある子とその家族がもらえるお金・減らせる支出』では、そのタイトルが示す通り、発達障害・精神疾患がある子とその家族(青木先生はこの両者を「当事者」と呼んでいます)が受けられる経済的支援を紹介する本です。
どのような経済的支援があるのか、どのようなメリットがあるのか、といった内容を、「制度やサービスを知ること、使うこと」の大切さにまでさかのぼって具体的に説明しています。コミックや図解を織り交ぜて分かりやすく解説されているのが、この作品の魅力です。
『発達障害・精神疾患がある子とその家族がもらえるお金・減らせる支出』では、そのタイトルが示す通り、発達障害・精神疾患がある子とその家族(青木先生はこの両者を「当事者」と呼んでいます)が受けられる経済的支援を紹介する本です。
どのような経済的支援があるのか、どのようなメリットがあるのか、といった内容を、「制度やサービスを知ること、使うこと」の大切さにまでさかのぼって具体的に説明しています。コミックや図解を織り交ぜて分かりやすく解説されているのが、この作品の魅力です。
発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出
講談社
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第1章では、障害があるお子さんや家庭には経済的支援が必要な理由が詳しく載っています。周囲の人が、家族が、そして本人が「障害」というものを理解し、受け入れる大切さを、順を追って詳しく解説しています。具体的なケーススタディが分かりやすく図解されているページもあるので、参考になるのではないでしょうか。制度を正しく知り、「活用してみようかな」と背中を押してくれる内容になっています。
この章で青木先生は、重要なことを指摘しています。それは「内なる偏見」です。これは簡単にいうと、精神疾患や発達障害がある人は、必要以上に自分自身を卑下してしまう傾向があるということです。自身を苦しめるのをやめ、その人なりの「自立」を目指してほしい、経済的支援制度はそのための「起動装置」なのだと青木先生は述べています。
「減らせる支出」と「もらえるお金」ってなにがあるの?
第2章~第8章では、「減らせる支出(特別な出費の軽減)」と「もらえるお金(所得保障)」が制度ごとに紹介されています。
まず第2章では、支援の入り口となる「障害者手帳」の解説がされています。手帳を取得することに迷いがある方も多いと思いますが、青木先生によると、「手帳は支援の輪を広げる便利な道具」となり得ます。
支援を受けるには多くの場合、医師の診断書が必要です。しかし手帳があれば診断書替わりとして使える場合もあります。また、鉄道、バス、航空機、船舶などの運賃や、携帯電話などの通信費が減額になったり、テーマパークや美術館など施設を無料で利用できたりすることもあります。第3章では、そのような「減額と免除」について、いろいろな例を挙げながら分かりやすく解説しています。
まず第2章では、支援の入り口となる「障害者手帳」の解説がされています。手帳を取得することに迷いがある方も多いと思いますが、青木先生によると、「手帳は支援の輪を広げる便利な道具」となり得ます。
支援を受けるには多くの場合、医師の診断書が必要です。しかし手帳があれば診断書替わりとして使える場合もあります。また、鉄道、バス、航空機、船舶などの運賃や、携帯電話などの通信費が減額になったり、テーマパークや美術館など施設を無料で利用できたりすることもあります。第3章では、そのような「減額と免除」について、いろいろな例を挙げながら分かりやすく解説しています。
続く第4章~7章では、次のような経済的支援の制度が登場します。
●第4章 手当
●第5章 障害者扶養共済制度
●第6・7章 障害年金
今年(2024年)は児童手当が改正され話題となりました。この本でももちろん扱われていますが、それだけでなく、各自治体(都道府県・市区町村)が支給している手当も例を挙げて豊富に紹介されているのが特徴です。どの手当についても、「申請をしないともらえない」という点は気をつけたいポイントです。
●第4章 手当
●第5章 障害者扶養共済制度
●第6・7章 障害年金
今年(2024年)は児童手当が改正され話題となりました。この本でももちろん扱われていますが、それだけでなく、各自治体(都道府県・市区町村)が支給している手当も例を挙げて豊富に紹介されているのが特徴です。どの手当についても、「申請をしないともらえない」という点は気をつけたいポイントです。
障害年金について多くの人は、「まだまだ先のことだから」と、つい油断してしまったり、「手続きが複雑で仕組みが理解できない」と敬遠しがちです。しかし青木先生の本では、2つの章を使って漫画と、そしてワンテーマごとに区切られた本文で、
・障害年金とはどのような制度か
・どうすれば申請(請求)できるのか
・どんな人が、いつ、いくらくらいもらえるのか
などについて丁寧に説明されています。読書に苦手意識のある方でも読み進めやすいのではないでしょうか。
障害がある人は、通院や服薬の期間が長くなったり、障害特有の疾患で通院回数が増えたりするケースが多く、医療費がかさむことも少なくありません。
・障害年金とはどのような制度か
・どうすれば申請(請求)できるのか
・どんな人が、いつ、いくらくらいもらえるのか
などについて丁寧に説明されています。読書に苦手意識のある方でも読み進めやすいのではないでしょうか。
障害がある人は、通院や服薬の期間が長くなったり、障害特有の疾患で通院回数が増えたりするケースが多く、医療費がかさむことも少なくありません。
しかし日本には、医療費の自己負担が過重になった場合、減額してくれる制度があります。それが「医療費助成」です。第8章では、どのような医療費助成の制度があるのか、その概要や申請方法などを具体的に、かつ明快に説明しています。
制度と人がつながれば、暮らしが少し楽になる
ここからは著者の青木聖久先生へのインタビューをお贈りします。あらためて「なぜ経済的支援が必要なのか」、そして当事者が「今始められること」や「準備しておいたほうがよいこと」などについてヒントを探ります。
発達ナビ編集部(以下――)今回「経済的支援」をテーマとする本をつくることになった、そもそものきっかけや想いを教えてください。
青木聖久先生(以下、青木):私はこれまで、専門家を対象とする経済的支援の本を何冊も書いてきましたが、そのなかでいつも思っていたことがありました。それは、「発達障害や精神疾患のある人は現にいる。また、将来それらの病気・障害の当事者になる人もいる。そのような方々が、『使える制度って、思っていたよりもあるんだな』と感じられるようになってほしい」ということでした。つまり、「制度やサービスを使う」という考え方を知ってもらうことこそが意義深いことだと思うのです。その思いから説き起こし、さらに制度の具体的な中身に至るまで分かりやすく伝えたいと思ったのが、本書をつくったきっかけです。
伝えるのは難しいことです。しかし、難しさがありながらも、伝わったときに制度と人がつながります。すると、それだけで人の暮らしが少し楽になります。制度をつくったのは国であり、自治体、企業、市民です。それらの存在から「大切にされている」と感じることにもつながります。
障害による「生きづらさ」そのものは残るでしょう。しかし、知ることで「生きづらさ」は、その人の内面のなかで確実に小さなものとなっていきます。「生きづらさ」が小さくなれば、自分および周囲を愛おしむ気持ちが湧いてきます。経済的支援を切り口に、そこまで表現したいとの意気込みをもって本書に取り組みました。
私のモットーは、「つたえる・つたわる・つながる」です。最初は現場のソーシャルワーカーとして、いまは教育者として、福祉に長く携わってきた者として、「生きていくうえでの経済的支援の意味や大切さ」を伝えられたら嬉しく思います。
――本書において先生は、マンガや図解を取り入れながら具体的な支援について解説なさっています。それ自体が大きな工夫と言えますが、ほかに心がけたことや大切にしたことがあれば教えてください。
青木:(1)全体像をイメージできるようにすること、(2)経済的支援の意義をつたえること、この2つに注力しました。
まず(1)についてですが、制度の説明を次々とされても、読者には整理しづらいと思います。本書については、頭の中を整理しながら読めるよう、あらかじめ2つの「ボックス」を設けることにしました。本のタイトルにもなっていますが、経済的支援を「もらえるお金」(所得保障)と「減らせる支出」(特別な出費の軽減)という2つの大きな枠組みにわけたのです。その枠組みがボックスです。私自身、この2つのボックスを、講演会などで使うことがあります。
お金の流れを「収入」「支出」にわけるのは、意外と当たり前のことですが、あえてダイレクトに言語化して使った書籍は、本書を除けばまだ少ないというのが私の印象で、それが今回の作品の特徴になっていると思います。
次に(2)についてです。今回の本で私は、第1章で「なぜ経済的支援が必要か」ということを丁寧に説明しました。それには訳があります。
私はこれまで、多くの当事者(すなわち、発達障害や精神疾患のある本人や家族)と出会い、話を聞く機会に恵まれたのですが、「制度自体は知っているけど、活用するに至らない」という方がとても多かったのです。その原因の一つが、本のなかでも触れている「内なる偏見」でした。
生活に困っているのに、頑なに活用を拒む方もおられました。そういった方々に向け、制度の意義を正しくお伝えし、制度に目を向けてもらうための後押しをするのは、本当に重要だと思っています。制度の説明はとかく難しい・味気ないものになりがちですが、幸いにもかなしろにゃんこ。さんがユーモアを交えて質問し、それに私が回答するという流れで、とても分かりやすい漫画にしてくださいました。
発達ナビ編集部(以下――)今回「経済的支援」をテーマとする本をつくることになった、そもそものきっかけや想いを教えてください。
青木聖久先生(以下、青木):私はこれまで、専門家を対象とする経済的支援の本を何冊も書いてきましたが、そのなかでいつも思っていたことがありました。それは、「発達障害や精神疾患のある人は現にいる。また、将来それらの病気・障害の当事者になる人もいる。そのような方々が、『使える制度って、思っていたよりもあるんだな』と感じられるようになってほしい」ということでした。つまり、「制度やサービスを使う」という考え方を知ってもらうことこそが意義深いことだと思うのです。その思いから説き起こし、さらに制度の具体的な中身に至るまで分かりやすく伝えたいと思ったのが、本書をつくったきっかけです。
伝えるのは難しいことです。しかし、難しさがありながらも、伝わったときに制度と人がつながります。すると、それだけで人の暮らしが少し楽になります。制度をつくったのは国であり、自治体、企業、市民です。それらの存在から「大切にされている」と感じることにもつながります。
障害による「生きづらさ」そのものは残るでしょう。しかし、知ることで「生きづらさ」は、その人の内面のなかで確実に小さなものとなっていきます。「生きづらさ」が小さくなれば、自分および周囲を愛おしむ気持ちが湧いてきます。経済的支援を切り口に、そこまで表現したいとの意気込みをもって本書に取り組みました。
私のモットーは、「つたえる・つたわる・つながる」です。最初は現場のソーシャルワーカーとして、いまは教育者として、福祉に長く携わってきた者として、「生きていくうえでの経済的支援の意味や大切さ」を伝えられたら嬉しく思います。
――本書において先生は、マンガや図解を取り入れながら具体的な支援について解説なさっています。それ自体が大きな工夫と言えますが、ほかに心がけたことや大切にしたことがあれば教えてください。
青木:(1)全体像をイメージできるようにすること、(2)経済的支援の意義をつたえること、この2つに注力しました。
まず(1)についてですが、制度の説明を次々とされても、読者には整理しづらいと思います。本書については、頭の中を整理しながら読めるよう、あらかじめ2つの「ボックス」を設けることにしました。本のタイトルにもなっていますが、経済的支援を「もらえるお金」(所得保障)と「減らせる支出」(特別な出費の軽減)という2つの大きな枠組みにわけたのです。その枠組みがボックスです。私自身、この2つのボックスを、講演会などで使うことがあります。
お金の流れを「収入」「支出」にわけるのは、意外と当たり前のことですが、あえてダイレクトに言語化して使った書籍は、本書を除けばまだ少ないというのが私の印象で、それが今回の作品の特徴になっていると思います。
次に(2)についてです。今回の本で私は、第1章で「なぜ経済的支援が必要か」ということを丁寧に説明しました。それには訳があります。
私はこれまで、多くの当事者(すなわち、発達障害や精神疾患のある本人や家族)と出会い、話を聞く機会に恵まれたのですが、「制度自体は知っているけど、活用するに至らない」という方がとても多かったのです。その原因の一つが、本のなかでも触れている「内なる偏見」でした。
生活に困っているのに、頑なに活用を拒む方もおられました。そういった方々に向け、制度の意義を正しくお伝えし、制度に目を向けてもらうための後押しをするのは、本当に重要だと思っています。制度の説明はとかく難しい・味気ないものになりがちですが、幸いにもかなしろにゃんこ。さんがユーモアを交えて質問し、それに私が回答するという流れで、とても分かりやすい漫画にしてくださいました。
発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出
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経済的支援を「暮らしの応援団」として堂々と活用を
――障害がある方やその家族は、そうでない方々に比べて何かと出費がかさむはずです。当然、より大きな不安を感じることになると思うのですが、それを解消するためにも、経済的支援は大切なツールになってきますね。
青木:確かにそのとおりで、障害の種類や特性によって変わってはくるものの、当事者には「障害に起因する特別な出費」が発生します。その例としては、
・発達障害の当事者。感覚過敏がひどくて歯磨きがうまくできず、虫歯になりやすい。歯科にかかることが多く、治療費が負担になっている
・統合失調症の当事者。人混みが極端に苦手で満員電車に乗れない。やむを得ずタクシーを利用して通勤しているが、交通費が高額になり困っている
などが挙げられます。
問題は、ここで本人が「出費が苦しいけれど、フルタイムで働いて収入が増やして、なんとかカバーしよう」と無理に頑張ってしまうケースがあることです。心身に負荷をかけ過ぎると、そのあとかえって重い症状に見舞われることになります。そこから引きこもりになってしまったり、努力で何とかできない自分が嫌になって自暴自棄になってしまったりと、悪いほうへ悪いほうへと向かってしまうことも少なくありません。
しかし、ここで経済的支援を受けると、別の道が開けてきます。たとえば、自分に合った働き方を選択できるようになります。支援でもらえるお金を基礎収入に据え、不足分を無理のない範囲で働いて生活する、といったことが可能になるからです。すると、それまで“生存するだけで精いっぱい”だったのが、心身にも家計にも余裕ができるので、違う視点で物事を見ることができるようになります。それもまた立派な「自立」です。
――「自ら申請する」ことをしないと、支援は受けられないと繰り返し書いておられます。それが重要なのは分かりますが、同時に「大変そう」とも感じます。実際、「経済的支援を受けるのはちょっと……」と敬遠してしまう方も多いようです。
青木:そのような方には、とにかくまず全体像を知ることをおすすめしたいと思います。この本に即して言えば、「目次を知る」と言い換えてもいいでしょう。目次を見るだけで、主要な経済的支援の制度にはなにがあるか、一望できるようになっていますから。
人は「まったく知らないこと」について質問することはできません。何も知らなければ、その人にとって制度は存在しないも同然です。そんな状態だけは避けてほしいのです。ですから、とにかく制度の存在を知り、さらにそれらの制度が、
・国の制度
・自治体の制度
・民間の事業者が実施する制度
の3つに分類されているということだけでも知っていただきたい。そうすれば、「いざ」というときに、どこに何を聞きに行けばいいのかが分かります。「目次を知る」ことで、自分の中でいろいろなことが整理されていくのです。間違っても、自らの解釈や価値観だけで、断念しないでもらいたいのです。
そしてもう1つ、声を大にして申し上げたいのが、制度を「暮らしの応援団」として捉えてほしい、ということです。自ら好んで「生きづらさ」を抱える人はいません。制度は、思わぬところで「障害」を負った当事者が、少しでもよりよく暮らすのを応援する、そういう仕組みなのです。負い目を感じながら利用する必要はありません。分からないことは、ソーシャルワーカーや社会保険労務士など、その道のプロが教えてくれます。そういった人的社会資源も、ぜひ利用してほしいと思います。
インターネットで情報収集なさる方も多いと思いますが、それだけでなく、似たような障害のある仲間や、家族会など、同じ立場の人たちに直接会っていろいろ聞いてみるというのも、実践的で、現実的な方法だと思います。
青木:確かにそのとおりで、障害の種類や特性によって変わってはくるものの、当事者には「障害に起因する特別な出費」が発生します。その例としては、
・発達障害の当事者。感覚過敏がひどくて歯磨きがうまくできず、虫歯になりやすい。歯科にかかることが多く、治療費が負担になっている
・統合失調症の当事者。人混みが極端に苦手で満員電車に乗れない。やむを得ずタクシーを利用して通勤しているが、交通費が高額になり困っている
などが挙げられます。
問題は、ここで本人が「出費が苦しいけれど、フルタイムで働いて収入が増やして、なんとかカバーしよう」と無理に頑張ってしまうケースがあることです。心身に負荷をかけ過ぎると、そのあとかえって重い症状に見舞われることになります。そこから引きこもりになってしまったり、努力で何とかできない自分が嫌になって自暴自棄になってしまったりと、悪いほうへ悪いほうへと向かってしまうことも少なくありません。
しかし、ここで経済的支援を受けると、別の道が開けてきます。たとえば、自分に合った働き方を選択できるようになります。支援でもらえるお金を基礎収入に据え、不足分を無理のない範囲で働いて生活する、といったことが可能になるからです。すると、それまで“生存するだけで精いっぱい”だったのが、心身にも家計にも余裕ができるので、違う視点で物事を見ることができるようになります。それもまた立派な「自立」です。
――「自ら申請する」ことをしないと、支援は受けられないと繰り返し書いておられます。それが重要なのは分かりますが、同時に「大変そう」とも感じます。実際、「経済的支援を受けるのはちょっと……」と敬遠してしまう方も多いようです。
青木:そのような方には、とにかくまず全体像を知ることをおすすめしたいと思います。この本に即して言えば、「目次を知る」と言い換えてもいいでしょう。目次を見るだけで、主要な経済的支援の制度にはなにがあるか、一望できるようになっていますから。
人は「まったく知らないこと」について質問することはできません。何も知らなければ、その人にとって制度は存在しないも同然です。そんな状態だけは避けてほしいのです。ですから、とにかく制度の存在を知り、さらにそれらの制度が、
・国の制度
・自治体の制度
・民間の事業者が実施する制度
の3つに分類されているということだけでも知っていただきたい。そうすれば、「いざ」というときに、どこに何を聞きに行けばいいのかが分かります。「目次を知る」ことで、自分の中でいろいろなことが整理されていくのです。間違っても、自らの解釈や価値観だけで、断念しないでもらいたいのです。
そしてもう1つ、声を大にして申し上げたいのが、制度を「暮らしの応援団」として捉えてほしい、ということです。自ら好んで「生きづらさ」を抱える人はいません。制度は、思わぬところで「障害」を負った当事者が、少しでもよりよく暮らすのを応援する、そういう仕組みなのです。負い目を感じながら利用する必要はありません。分からないことは、ソーシャルワーカーや社会保険労務士など、その道のプロが教えてくれます。そういった人的社会資源も、ぜひ利用してほしいと思います。
インターネットで情報収集なさる方も多いと思いますが、それだけでなく、似たような障害のある仲間や、家族会など、同じ立場の人たちに直接会っていろいろ聞いてみるというのも、実践的で、現実的な方法だと思います。
人とのつながりの中で得る情報も大切にしてほしい
――未就学、小中学校、高校生以上など、子どものライフステージごとに親が着手しておくとよいことや、気をつけたいことなどがあれば、アドバイスをお願いします。
青木:やはりほかの保護者、たとえば同じような立場にいる人や“先輩”にあたる人とつながることが大切です。そういう人たちと話すなかで「今やるべきこと、やった方がいいこと」がはっきり見えてくるからです。少々間違っていてもいいので、できれば情報収集したうえで「私はこのように理解をしたんですけど」と自分なりの見解をもって話ができると、なおいいですね。ライフステージに関係なく、このアドバイスはすべての人にお伝えしたいです。
未就学児の保護者の方には、ご自身の親、親戚、仕事関係、配偶者の知り合いなど、何でもいいので、多くの人と交流する機会や「つながり」を持っておくことをおすすめします。行政機関などから得られるフォーマルな(公的な)情報だけでなく、保護者同士のつながりのなかから得られるインフォーマルな意見・情報も役に立ちます。保健センターの保健師さんなど、地域の専門家とも、いろいろと話せるといいですね。
気をつけていただきたいのは、「比べない」ことです。ほかの子/ほかの家庭と、わが子/わが家庭を比較してあれこれ気に病む必要はありません。その子なり・その家庭なりの在り方でいいのです。また、情報過多になりがちなので、どの意見も「参考の一つ」として捉えるといいと考えます。
小中学生を育てている間というのは、保護者にとっては相互のつながりができる貴重な時期なので大切にしていただきたいと思います。お子さんが習い事をしている場合は、そこで関わる先生やほかの保護者ともつながり、情報共有するといいかもしれません。学校の教員から、子どもの日中の様子を聞くのもいいでしょう。
ただし、人の育ちや考え方はそれぞれです。あくまでも「多くの価値観、状況を知るための参考として」ということを念頭においてください。ほかの子と比べて「できないこと」を探して落ち込むのではなく、わが子のストレングス(長所・強み)を一つでも多く見つけて、子どもを愛おしんでほしいと思います。
高校生以上のお子さんがいる保護者の方についてです。高校生や大学生にもなると、本人(すなわち子)は、精神疾患や発達障害の症状と一定の折り合いをつけながら生きようとし始めています。「どう生きたらいいか」と迷っていることもあるので、保護者はとにかく多様性を認めて、家庭を、思ったことを素直に吐露できる「フラットな環境」にしてあげてほしいと思います。そして本人が悩み・苦しんでいるときに、例えば、
「〇〇という制度がある。そんな暮らしの応援団を使って自立する生き方も、十分ありなんだよ」
「人間にとって大事なのは、何でもできることではないよ。置かれた状況で自分と他者を大事にしながら、等身大の暮らし方ができるもの素敵なのよ」
と伝えてあげてください。この年代に限った話ではありませんが、多様性を受け入れて認める家庭の雰囲気や環境を整えていくのは大事なことで、そのような文化のなかで育てば、子どもが自らを卑下して苦しむこと(すなわち「内なる偏見」)も減るに違いありません。
今まで私が関わった精神障害の方(成人)の中には、「内なる偏見」に囚われ、引きこもりがちで、障害年金を受け取ることに長いこと抵抗を示している人もおられました。周囲の助言もなかなか受け入れてくれなかったのですが、似たような障害のある人がしみじみと語った、「でもなあ、生きていかなあかんからな」という一言で心を縛っていた鎖が解け、障害年金を受給し活発に社会参加できるようになりました。本人が家族以外の人とのつながりをつくることも大切です。そのようなつながりも、大事にしていただきたいものです。
最後に、非常に実務的な話になりますが、公的年金の手続きだけは忘れないようにしてください。子どもが20歳になったら忘れずに国民年金保険料を支払っていただきたいですし、それが難しければ、免除・猶予などの手続きをして未納をつくらないようにしてほしいのです。その理由を詳しく知りたい方は、ぜひ今回の本『発達障害・精神疾患がある子とその家族がもらえるお金・減らせる支出』を手に取ってください。漫画で分かりやすく解説いたしました。
青木:やはりほかの保護者、たとえば同じような立場にいる人や“先輩”にあたる人とつながることが大切です。そういう人たちと話すなかで「今やるべきこと、やった方がいいこと」がはっきり見えてくるからです。少々間違っていてもいいので、できれば情報収集したうえで「私はこのように理解をしたんですけど」と自分なりの見解をもって話ができると、なおいいですね。ライフステージに関係なく、このアドバイスはすべての人にお伝えしたいです。
未就学児の保護者の方には、ご自身の親、親戚、仕事関係、配偶者の知り合いなど、何でもいいので、多くの人と交流する機会や「つながり」を持っておくことをおすすめします。行政機関などから得られるフォーマルな(公的な)情報だけでなく、保護者同士のつながりのなかから得られるインフォーマルな意見・情報も役に立ちます。保健センターの保健師さんなど、地域の専門家とも、いろいろと話せるといいですね。
気をつけていただきたいのは、「比べない」ことです。ほかの子/ほかの家庭と、わが子/わが家庭を比較してあれこれ気に病む必要はありません。その子なり・その家庭なりの在り方でいいのです。また、情報過多になりがちなので、どの意見も「参考の一つ」として捉えるといいと考えます。
小中学生を育てている間というのは、保護者にとっては相互のつながりができる貴重な時期なので大切にしていただきたいと思います。お子さんが習い事をしている場合は、そこで関わる先生やほかの保護者ともつながり、情報共有するといいかもしれません。学校の教員から、子どもの日中の様子を聞くのもいいでしょう。
ただし、人の育ちや考え方はそれぞれです。あくまでも「多くの価値観、状況を知るための参考として」ということを念頭においてください。ほかの子と比べて「できないこと」を探して落ち込むのではなく、わが子のストレングス(長所・強み)を一つでも多く見つけて、子どもを愛おしんでほしいと思います。
高校生以上のお子さんがいる保護者の方についてです。高校生や大学生にもなると、本人(すなわち子)は、精神疾患や発達障害の症状と一定の折り合いをつけながら生きようとし始めています。「どう生きたらいいか」と迷っていることもあるので、保護者はとにかく多様性を認めて、家庭を、思ったことを素直に吐露できる「フラットな環境」にしてあげてほしいと思います。そして本人が悩み・苦しんでいるときに、例えば、
「〇〇という制度がある。そんな暮らしの応援団を使って自立する生き方も、十分ありなんだよ」
「人間にとって大事なのは、何でもできることではないよ。置かれた状況で自分と他者を大事にしながら、等身大の暮らし方ができるもの素敵なのよ」
と伝えてあげてください。この年代に限った話ではありませんが、多様性を受け入れて認める家庭の雰囲気や環境を整えていくのは大事なことで、そのような文化のなかで育てば、子どもが自らを卑下して苦しむこと(すなわち「内なる偏見」)も減るに違いありません。
今まで私が関わった精神障害の方(成人)の中には、「内なる偏見」に囚われ、引きこもりがちで、障害年金を受け取ることに長いこと抵抗を示している人もおられました。周囲の助言もなかなか受け入れてくれなかったのですが、似たような障害のある人がしみじみと語った、「でもなあ、生きていかなあかんからな」という一言で心を縛っていた鎖が解け、障害年金を受給し活発に社会参加できるようになりました。本人が家族以外の人とのつながりをつくることも大切です。そのようなつながりも、大事にしていただきたいものです。
最後に、非常に実務的な話になりますが、公的年金の手続きだけは忘れないようにしてください。子どもが20歳になったら忘れずに国民年金保険料を支払っていただきたいですし、それが難しければ、免除・猶予などの手続きをして未納をつくらないようにしてほしいのです。その理由を詳しく知りたい方は、ぜひ今回の本『発達障害・精神疾患がある子とその家族がもらえるお金・減らせる支出』を手に取ってください。漫画で分かりやすく解説いたしました。
人が当たり前に「自らの人生の主人公」としてチャレンジできる社会づくり
――青木先生は社会福祉に携わり始めてもうすぐ40年になるとのことですが、大事にしていることや今後への思いについて教えてください。
青木:「誰もが自らの人生の主人公」――とにかくこの言葉に尽きると思います。生きていると、誰しも想定外のことに当たり前に直面します。たとえば天災、犯罪、事故など。思わぬ怪我や疾患も「想定外」の一つですが、想定外に見舞われても、その人なりに身体的にも精神的にも健康でいられる、そのような状況を作れる社会――それこそが重要だと私は考えています。
その人なりに健康であるために、使える社会資源は大いに活用していいのです。そして、活用することを当たり前に応援する社会を実現したいと思います。そんな気持ちを大切にしながら私は、かつては現場での実践に、現在は教育・啓発活動に取り組んでいます。
とはいえ、こちらが熱意をもって声高に伝えても、相手が“ボール”をキャッチできるとは限りません。できるだけ相手がリラックスして受けられるように、状況を見ながら、受け取りやすい位置・速度でボールを投げる、つまり情報提供するように気をつけています。相手が私のボールを受けて、それをもとに当たり前にチャレンジできる、チャレンジしたくなる……というふうになればいいな、と常々考えております。
青木:「誰もが自らの人生の主人公」――とにかくこの言葉に尽きると思います。生きていると、誰しも想定外のことに当たり前に直面します。たとえば天災、犯罪、事故など。思わぬ怪我や疾患も「想定外」の一つですが、想定外に見舞われても、その人なりに身体的にも精神的にも健康でいられる、そのような状況を作れる社会――それこそが重要だと私は考えています。
その人なりに健康であるために、使える社会資源は大いに活用していいのです。そして、活用することを当たり前に応援する社会を実現したいと思います。そんな気持ちを大切にしながら私は、かつては現場での実践に、現在は教育・啓発活動に取り組んでいます。
とはいえ、こちらが熱意をもって声高に伝えても、相手が“ボール”をキャッチできるとは限りません。できるだけ相手がリラックスして受けられるように、状況を見ながら、受け取りやすい位置・速度でボールを投げる、つまり情報提供するように気をつけています。相手が私のボールを受けて、それをもとに当たり前にチャレンジできる、チャレンジしたくなる……というふうになればいいな、と常々考えております。
支援を知って受けることで「今までと違った風景」が見える
――最後に「発達ナビ」読者の皆さんへメッセージをお願いします。
青木:知ることは、自分および家族の未来を創造することにつながります。ぜひ、多くのことを知り、誰もが一度きりの人生を豊かに過ごしてほしいです。「生きづらさ」のあるわが子を前に、保護者は心配と不安で「今を楽しむどころではない」というのが本音でしょう。しかし、経済的支援を知り、活用することで自分自身や子どもと向き合い、愛おしむことができ、気持ちが寛容になっていくケースを私はたくさん見てきました。
目の前の困難は変わらないかもしれません。でも、知ることで風景が変わるのです。それこそが素晴らしいことだと思っています。なんだかほっとして、困難な課題も小さくなった気がする、今まで見ていた日常が、世界が、異なって感じられる、そんな感覚を、この記事を読んでいる皆さんにも追体験していただければ幸いです。
青木:知ることは、自分および家族の未来を創造することにつながります。ぜひ、多くのことを知り、誰もが一度きりの人生を豊かに過ごしてほしいです。「生きづらさ」のあるわが子を前に、保護者は心配と不安で「今を楽しむどころではない」というのが本音でしょう。しかし、経済的支援を知り、活用することで自分自身や子どもと向き合い、愛おしむことができ、気持ちが寛容になっていくケースを私はたくさん見てきました。
目の前の困難は変わらないかもしれません。でも、知ることで風景が変わるのです。それこそが素晴らしいことだと思っています。なんだかほっとして、困難な課題も小さくなった気がする、今まで見ていた日常が、世界が、異なって感じられる、そんな感覚を、この記事を読んでいる皆さんにも追体験していただければ幸いです。
まとめ
経済的支援を受ける人は「社会に甘えている」「怠けている」などと誤解されがちです。本人や家族自身もそのような偏見を感じてしまうため、活用するに至らないケースが多く見られます。しかし経済的支援を受けることは、気持ちのゆとりを生み、日常生活や社会生活を心豊かに過ごすために必要な「起動装置」だと書かれています。
困っている家族や「生きづらさ」を感じている人にこそ、経済的支援の制度を知ってもらいたい。使えるサービスは存分に活用して、自分や家族を愛おしんで前を向いて生きていってほしい。本書はそんな思いから書かれた一冊です。
一つひとつの制度をインターネットで調べると、情報があふれている上にさまざまなところに拡散しているため、大変な作業になります。その膨大な情報を「どこがポイントか」押さえながら分かりやすくまとめた貴重な一冊といえるでしょう。
取材・執筆/田崎美穂子
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。