11/15公開!ドイツで100万人動員の大ヒット映画「ぼくとパパ、約束の週末」自閉症の息子と家族が教えてくれる大切なこと【モデル父子インタビュー】

ライター:発達ナビ編集部
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映画『ぼくとパパ、約束の週末』の主人公・ASD(自閉スペクトラム症)のジェイソンは、サッカーの「推しチーム」を探すため、父のミルコと共にドイツ中のサッカースタジアムを巡る旅をします。今回は、この映画のモデルとなったジェイソン&ミルコ・ユターツェンカ親子へのインタビューをご紹介します。

息子の推しチームを探す旅に!?映画のモデルとなった父子へのインタビューをお届け!

ドイツ本国で100万人動員の大ヒットを記録し、ハリウッドでのリメイク版制作も決定するなど、大きな反響を呼んでいる映画『ぼくとパパ、約束の週末(原題:Wochenendrebellen<週末の反逆者>)』が、11月15日(金)より公開されます。

ASD(自閉スペクトラム症)と診断されている10歳のジェイソンは、ある日クラスメイトと喧嘩騒ぎを起こします。原因となったのは、好きなサッカーチームはどこか?ということ。サッカーに興味を持ったジェイソンは、父親のミルコと共に、自分の「推しチーム」を探すことを決意しますが、なんとそれは「毎週末、ドイツにある56チームすべてのスタジアムで現地観戦する」という方法で……!?
今回は、本作のモデルで、今でもスタジアム巡りを続けているというジェイソン&ミルコ・ユターツェンカ親子へのインタビューをご紹介します。

私たちにとって些細なことでも、ジェイソンにとってはすごく大事なことなんです(ミルコ)

――映画『ぼくとパパ、約束の週末』は、お父さんのミルコさん、ASD(自閉スペクトラム症)の息子さんのジェイソンさんの実話がもとになっているそうですが、推しのサッカーチームを探すためにさまざまな場所に行くことで、どんな心境の変化がありましたか?

ジェイソン・フォン・ユターツェンカ(以下ジェイソン):最初は、ただサッカースタジアムに行き、サッカーを観戦するということが楽しみで仕方がなかったんです。でも、実際に行ってみて、混雑のなかで警備の人やほかのサッカーファンの人に身体に触れられたり、急に大きな音を聞いたりするリスクを冒さなくてはいけないことを学んだんです。僕にとって、これは非常に嫌なことなんですが、回を重ねることでそれらのことに対してどうすればいいかが分かりましたし、どんなことが起きても驚くことが少なくなったんです。そう考えると、以前よりも自分の中で問題だと思っていたこと、大変だと思うことが少なくなったように思います。
映画『ぼくとパパ、約束の週末』
映画『ぼくとパパ、約束の週末』
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ミルコ・フォン・ユターツェンカ(以下ミルコ):私たちにとって些細なことでも、ジェイソンにとってはすごく大事なことなんです。そこの対立は数えきれないくらいあるので、それを映画にしようと思ったらものすごい年月がかかるくらいなんですよね。対決するたびに2人ともひどく傷つきますし、心が痛むんです。でも、そこから学ぶことも多いですし、ひとつの対立から立ち直り、それをいい経験にしようと考えるきっかけにもなるんです。私にその力を与えてくれたのはジェイソンでもありますし、ジェイソンの妹である娘、妻でもあるんですよね。家族から力をもらい、どんな対立があったとしても、その都度、元気をもらってきました。そう言えるのは、つらい体験だけでなく、素晴らしい体験もいっぱいしているからなんです。大変な電車での旅もしましたし、いまこうやってジェイソンが個人的に社会に貢献しようとしている姿を見ると、ものすごく心が潤いますし、あらためて、ジェイソンから力をもらっています。

ーー映画化する際に、ミルコさんが一番大事にしたことを教えて下さい。

ミルコ:映画化のお話を頂いたときに、重要だと思ったことは3つありました。1つ目は、内容が歪んで伝えられないこと。2つ目はジェイソンのキャラクターが正確に再現されること。そして3つ目は苦しむことを見せる映画ではなく、観てくれた方が楽しいと思える作品にするということでした。とくに2つ目のジェイソンのキャラクターでは、彼がどのような才能を持っているか、そして彼がこだわる“持続可能性”や環境に対する情熱、我慢できることとできないことなどを、しっかり正確に伝えることを大事にしてほしいと制作サイドに伝えました。

――実際にスクリーンでジェイソンを見て、どう感じましたか?

ジェイソン:僕が最初に見たシーンは、電車の中で食事をするシーンでした。劇中でジェイソンはパスタとソースがくっついてしまい、パニックになってしまうんです。そのシーンがあまりにも現実と同じで、僕自身、恥ずかしくなってしまうくらいで(苦笑)。でも、それくらい迫真の演技だったんです。ほかのシーンにはポジティブなシーンもありましたし、全体的に素晴らしいと思いました。なによりも、自分のキャラクターを、客観的にみることができたのも、すごく良い経験になりました。
映画『ぼくとパパ、約束の週末』
映画『ぼくとパパ、約束の週末』
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もし僕と同じ自閉症の子に声をかけるとしたら「ありのままの君でいいんだよ」と伝えたい(ジェイソン)

――映画では息子さんがパニックを起こした時に周りの人から理解を得られず、お父さんが葛藤しているシーンも描かれました。ミルコさんは、ジェイソンさんの障害をどのように受容してきたのでしょうか。

ミルコ:僕がミルコの障害を受容できるようになったのは、ふたりで旅をし始めてからだと思います。僕も、妻もASD(自閉スペクトラム症)と向き合うのは初めてだったからこそ、最初は、間違った対応をたくさんしてしまいました。それこそ、パスタとソースが触れて、パニックになり、何も知らない周りの人達からいろいろ言われた時は、どうしていいか分からなかったんですよね。でも、今の私たちは、周りの言うことなどどうでもよく、ジェイソンがやりたいようにやらせてあげられるようになりました。というのも、ASD(自閉スペクトラム症)の人が、社会において、きちんとした立ち位置、居場所を得なければいけないと思っているので、その第一段階として、親である私たち夫婦が、ジェイソンそのものをまるっきり受容しなければいけないと思ったんです。その決意は確固たるものなので、その気持ちが揺らぐことはないですね。現在、大人になったジェイソンは自立し、遠い地域に離れて暮らしていますが、もし私たちの助けを求めているのなら、すぐに飛んで行って助けてあげたいと思っています。

ジェイソン:こうやって助けてくれた両親がいることに、僕はすごく感謝しています。でも、ASD(自閉スペクトラム症)の人も1人の人間として、まっとうな権利をもっているからこそ、要求が満たされて生きる価値、自分が生きやすいように生きる権利があるんです。それに、お父さんは全部のサッカーを見て、推しのチームを決めることを約束してくれたので、その約束は守らなくちゃいけないから、そこは感謝というよりも、当たり前のことですよね。

ミルコ:おいおいおい(笑)!長距離の会場まで付き合っているんだからそこは感謝してほしいんだけど(笑)!

ジェイソン:あはは。

――ジェイソンさんは、ASD(自閉スペクトラム症)の子どもたちに、どんなメッセージを伝えたいですか?

ジェイソン:「君は今のままでいいんだよ」と伝えたいです。この言葉は、映画の中で祖父がジェイソンに向かって言うセリフなんです。これは私が今作のなかで一番大事なメッセージだと思うんですよね。ASD(自閉スぺクトラム症)の人は、自分を社会に適応させたり、自分を社会に適応させるために変える必要はまったくないと思うんです。だって、ASD(自閉スペクトラム症)であることは間違いではないですし、本人にとって負担、重荷であることはないんですよね。そこに適応ができないところに身を置くと、そう思ってしまうだけなんです。なので、当事者の方はもちろん、その家族の方々も、そのメッセージを受け取ってもらえたらうれしいです。

(取材・文/吉田可奈)

『ぼくとパパ、約束の週末』上映情報

11月15日(金)より新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー

監督:マルク・ローテムント(『5パーセントの奇跡 噓から始まる素敵な人生』)
出演:フロリアン・ダーヴィト・フィッツ(『100日間のシンプルライフ』)、セシリオ・アンドレセン、アイリン・テゼルほか
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

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