【作業療法士と事例で実践】癇癪のお悩み「なぜ?」に着目するフレームワークで原因を分析してみよう

ライター:LITALICO発達特性検査 編集部
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癇癪が起きたとき、その場でやめさせたりなだめたりしても繰り返してしまうというお悩みには、「なぜ癇癪が起きているか?」を考えるのが有効かもしれません。具体的にどう分析するか、事例をもとに、「困り→背景要因→サポート」のフレームワークを使って作業療法士の野田遥さんと一緒に実践してみませんか。

今回は2024年7月に開催されたオンラインセミナーでの講義内容を再構成してご紹介します。(取材・構成/LITALICO発達特性検査編集部)

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監修: 野田遥
作業療法士
LITALICO研究所 研究員
作業療法士として教育センターや障害児入所施設等で勤務したのち、現在は自閉スペクトラム症者の感覚処理に関する研究や、発達障害に関連したプロダクトの研究・開発に取り組んでいる。

背景に着目した癇癪へのサポートを実践してみよう

作業療法士の野田遥です。「LITALICO発達特性検査」の研究・開発に携わっています。

今回は、2024年の夏に行ったオンラインセミナーでの講義内容から、特に保護者の方の関心の高かった癇癪(かんしゃく)について、講義内容を再構成して詳しくご紹介します。

これまで、癇癪を引き起こしやすい背景要因がいくつかあることや、癇癪が起きる仕組み、対応方法など、癇癪についての基本的な考え方をお伝えしてきました。
「なぜ?」に着目!癇癪が起きる仕組みと影響しやすい3つの要因を作業療法士・野田遥さんが解説!のタイトル画像

「なぜ?」に着目!癇癪が起きる仕組みと影響しやすい3つの要因を作業療法士・野田遥さんが解説!

特に前回は癇癪が起きている間の対応方法や、癇癪自体を減らす手がかりなどについてご紹介しました。そこで、「その場でその場で癇癪をとめる」といった直接的な対応だけではなく、その背景を見ることで癇癪自体を減らしていく手がかりになるとお伝えしました。
癇癪のお悩み、対応方法と減らしていくヒントは?作業療法士・野田遥さんが解説!のタイトル画像

癇癪のお悩み、対応方法と減らしていくヒントは?作業療法士・野田遥さんが解説!

しかし、いざお子さまの癇癪を減らしていきたいときに、保護者の方が自分で困りの原因や背景を見つけたり、それぞれの原因にアプローチできるような対応方法を考えるのは少し難しいかもしれません。

そこで今回は、具体的な事例とともに、癇癪の「なぜ?」と「どうすれば癇癪が起きにくくなるか?」についてヒントを見つけるため、「困り→背景要因→サポート」のフレームワークを実際に使って解説します。

※イベントの内容やフレームワークについては以下の記事でも紹介しています。
イベントレポート「お子さまの困りごとはどうして起きる?」 背景に着目してサポートを考える方法を作業療法士・野田遥さんに聞きましたのタイトル画像

イベントレポート「お子さまの困りごとはどうして起きる?」 背景に着目してサポートを考える方法を作業療法士・野田遥さんに聞きました

※LITALICO発達特性検査について、詳しく知りたい方は以下の記事を併せてお読みください。
LITALICO発達特性検査とは。特徴、対象、検査で分かること、受検方法などを解説のタイトル画像

LITALICO発達特性検査とは。特徴、対象、検査で分かること、受検方法などを解説

「困り→背景要因→サポート」のフレームワーク

「なぜ癇癪が起きているのか」に着目して、お子さまの困りごとの根本的な原因に働きかける分析と実践は、いざ取り組もうとすると、何からやっていいか分からないという方もいらっしゃると思います。そこで、分かりやすい方法にしたのが「困り→背景要因→サポート」のフレームワークです。
困り→背景要因→サポートのフレームワーク
困り→背景要因→サポートのフレームワーク
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癇癪の困りごとを減らすためには、癇癪が起きる前の防ぐ手立てとして、興奮の波をキャッチしたり、お子さまのコミュニケーションの特性や選択肢を増やすといった方法が重要です。しかし、どんなサポートをすればいいのかはお子さまや状況によっても変わります。

その点で、癇癪の困りごとの場合、特にフレームワークを使って背景要因を探り、分析していくことが重要になってきます。癇癪が起きたときに、その場でとめるといった対応をするだけでは、その場では行動がやんだとしても、そのあとまた同じ行動が起きるかもしれません。また、その行動を起こしている原因が別の困りや行動につながっていくということがあるかもしれません。それらを避けるためにも、その場の状況を収めるための表面的な方法だけではなく、困りの背景にある要因から考えることがとても大事になってきます。

背景要因として、以下の2つの軸でお子さまの行動を捉えてみることが重要です。

1.行動が起きやすい背景の分析

以下の図のように、お子さまの行動の背景には、複数の特性が関係している場合があります。特定の刺激に反応しやすい(感覚過敏など)、突然変更があった場合に不安を抱きやすい(「同じ」へのこだわりなど)など、行動の背景にはさまざまな特性がありますし、それらの強さも個人によってバラバラです。お子さまの特性を知っておくことで、特定の行動の原因を捉えやすくなります。

図に示した以外にも、さまざまな特性が行動と関係してきます。癇癪と関係していそうなお子さまの特性はないか、振り返ってみましょう。
1.行動が起きやすい背景の分析「LITALICOオンラインセミナー資料」(野田遥)より
1.行動が起きやすい背景の分析「LITALICOオンラインセミナー資料」(野田遥)より
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2.行動自体の分析

次に行動の前と後に着目して、要因がないかを検討していきます。癇癪が起きたときの状況やきっかけは何か、起きたあとにどのような状況になったか、お子さまはどのような結果を得たか、ということに注目します。

行動の前後に着目する分析の方法についてはこちらの記事も参考にしてください。
機能的アセスメントとは?家庭でもできる?機能に着目した分析やサポートのヒントを紹介します【LITALICO発達特性検査】のタイトル画像

機能的アセスメントとは?家庭でもできる?機能に着目した分析やサポートのヒントを紹介します【LITALICO発達特性検査】

「困り→背景要因→サポート」を実践してみよう

事例:園で庭遊びをやめて教室に戻る時間に、声をかけられると癇癪を起こす

具体的な事例で考えてみましょう。以下のお子さまが、「園で庭遊びをやめて教室に戻る時間に、声をかけられると癇癪を起こす」という困りごとです。

【お子さま】
・5歳の女の子
・ASD(自閉スペクトラム症)の診断
・幼稚園の年中在籍

【困りごと】
・好きな遊びをなかなかやめられない
・特に砂遊びが好きで、園では切り替えができず癇癪を起こしている
お子さまは大好きな砂遊びをやめるように言われ、癇癪を起こしました。

・なぜ癇癪を起こすのか?
・なぜ砂遊びをやめられないのか?


先ほどのフレームワークに当てはめて考えてみましょう。

まず、「1.行動が起きやすい背景の分析」として、今回は不安とコミュニケーションという2つの特性との関係がありそうという見立てをして進めていきます。
【事例】1.行動が起きやすい背景の分析「LITALICOオンラインセミナー資料」(野田遥)より
【事例】1.行動が起きやすい背景の分析「LITALICOオンラインセミナー資料」(野田遥)より
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・不安
いつまで続けられるか分からない、次にいつ遊べるか分からないという状況で遊びをとめられるとすごく不安になります。これが切り替えにくいということにつながっている可能性があります。

・コミュニケーション手段
嫌だと伝えるためのコミュニケーション手段を癇癪以外に持っていないということが考えられます。「もっと遊びたい」と伝えたいのに、うまく言葉で伝えられない場合、癇癪によって表現しているという可能性があります。

また、「2.行動自体の分析」としては、癇癪を起こした結果、砂遊びが続けられたことがあったようです。お子さまにとっては、癇癪を起こすことで、望ましい結果が得られたということなので、癇癪という行動の頻度は増えます。このように、その行動の結果、つまりお子さまはどのようなことが得られたかということを考えると、行動の理由が分かりやすくなる場合があります。
【事例】2.行動自体の分析「LITALICOオンラインセミナー資料」(野田遥)より
【事例】2.行動自体の分析「LITALICOオンラインセミナー資料」(野田遥)より
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背景要因からサポートを考える

さまざまなサポート方法が考えられます。

1.行動が起きやすい背景からサポートを考える
1.行動が起きやすい背景からサポートを考える「LITALICOオンラインセミナー資料」(野田遥)より
1.行動が起きやすい背景からサポートを考える「LITALICOオンラインセミナー資料」(野田遥)より
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「いつまで続けられるのか」という不安に対しては、残り時間が視覚的に分かるタイマーを活用する方法があります。事前に「あと5分で砂遊びはおしまいにするよ。タイマーがなったら教室に戻るよ」など具体的に伝えてタイマーをかけるという方法です。「ここまでは砂遊びができるんだな」と分かるので、見通しが持て、受け入れやすくなる可能性があります。

「嫌だと伝えるためのコミュニケーション手段が癇癪以外にない」ということへの対応案の一つとして、絵カードで意思を伝える方法を教えていくという方法が挙げられます。その場合、「砂遊びはおしまいだよ。このあと、教室でどちらをしたい?」と聞いて「お絵描き」「鬼ごっこ」など、お子さまが選択して主張できる状況を作るのも一つの方法です。また、図のように砂遊びを続けるか終了するかの意思を聞く機会を作っていくことで、自発的に次の予定や行動を選ぶという経験につながります。まずは選択肢を提示してお子さまが選ぶところからスタートして、最終的にはお子さまが自分でカードを提示して次の遊びに移行できるようになるといいですね。

コミュニケーションによって「やりたいことができる」という成功体験を積むことで、切り替えもしやすくなります。

今回、背景要因についてこの2点に絞って分析しましたが、実際にはもっと複雑な場合も多いです。お子さまに合うように試行錯誤をしながら調整する必要があるという点にご注意いただければと思います。
2.行動の前後に着目してサポートを考える
「癇癪を起こした結果、砂遊びが続けられた」という行動の前後と結果についての分析からのサポート方法を考えます。行動自体ではなく、前後を変えることで行動が変わることを狙う方法です。

こちらも先ほどの
・タイマーで事前告知をする
・絵カードで砂遊びをやめた後の教室での遊びを選択してもらう
というサポートを例にして考えます。
癇癪が起きやすい行動の前を「タイマーが鳴る」という事象に変えます。お子さまにとって「突然砂遊びをやめさせられる」という状況から「時間がきたからおしまい」と認識が切り替わります。こういった事前予告によって、行動の切り替えに対して受けとめやすくなります。必ずしも予告だけで効果が出るとは限りませんが、結果として癇癪が減る可能性があります。
また、「砂遊びをやめたあと、教室に移動したら楽しい遊びができた」というように行動の結果に働きかけることで、ほかの選択肢を選んだり、促しに応じたりすることでもいいことがあると感じることができます。そういった成功体験を積み上げていくと、「砂遊びをやめてもいい」と切り替えやすくなります。結果として、癇癪を起こさなくてもいい状況につながっていきます。
行動の前後を変えることで行動が変わる「LITALICOオンラインセミナー資料」(野田遥)より
行動の前後を変えることで行動が変わる「LITALICOオンラインセミナー資料」(野田遥)より
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