発達障害高校生、宿題は苦手でも家事は得意?「ルールの刷り込み」が息子に合っていたようで

ライター:丸山さとこ
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現在高校生の息子のコウは、お弁当生活が始まりました。それにあわせて、基本的に弁当箱は自分で洗ってもらっています。彼に見られる傾向が、たまたま新しい習慣と噛み合ったようです。今回は彼のそれらの「傾向」について振り返ります。

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監修: 初川久美子
臨床心理士・公認心理師
東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
臨床心理士・公認心理師。早稲田大学大学院人間科学研究科修了。在学中よりスクールカウンセリングを学び、臨床心理士資格取得後よりスクールカウンセラーとして勤務。児童精神科医の三木崇弘とともに「発達研修ユニットみつばち」を結成し、教員向け・保護者向け・専門家向け研修・講演講師も行っている。都内公立教育相談室にて教育相談員兼務。

コウにとっては「比較的ハードルが低い行動」があるようです

タオルを畳んだり水筒を洗ったり……家事をするコウを見ていると、「宿題はしないのに家事だけはフットワーク軽いんだよなぁ」と不思議に思います。
タオルを畳んだり水筒を洗ったり……家事をするコウを見ていると、「宿題はしないのに家事だけはフットワーク軽いんだよなぁ」と不思議に思います。
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生活の中で見えてくるコウの傾向あれこれ

現在高校一年生の息子のコウには、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)といった診断名で語られることの多い特性がいくつもあります。私にとってそれらは、『生活のなかで見えてくる形』として身近に存在しているものです。

例えば、『最初に身につけた習慣がずっと続きやすいこと』や、『目の前にある具体的な作業には比較的取りかかりやすいこと』などの行動には、彼の感じ方がよく現れていると思います。

「高校生からは弁当箱も洗える?」

最近では、こんなことがありました。コウは高校に入ってから毎日お弁当を持っていくようになったのですが、それにあわせて、お弁当箱も自分で洗うようになったのです。現在まで1か月以上、平日は毎日洗い続けています。

彼の場合、判断が必要なタスクや、何をすればいいかを自分で選ばなければならない場面では、足が止まりがちになります。ですが、すでに決まっている手順のある作業、たとえば『水筒や弁当箱を洗う』『タオルを畳む』といったことには、比較的抵抗なく取り組める傾向があります。(そのレベルに至るまで、「これは同じことだ」と理解できるだけの経験量が必要ではありますが)

コウには、良くも悪くも、最初に決めた習慣が、そのままずっと続きやすい傾向もあります。そのため、私は彼が中学生の頃から水筒を洗う習慣を生活に取り入れるようにし、「高校からは弁当箱も洗える?」とあらかじめ確認をとっておきました。
まだ中学生だったコウに高校からは弁当箱を洗えるかたずねると、「弁当箱を洗う?いいよ!りょーかい!」と気安く請け負いました。
まだ中学生だったコウに高校からは弁当箱を洗えるかたずねると、「弁当箱を洗う?いいよ!りょーかい!」と気安く請け負いました。
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確認する私に対し、コウは気安く「うん、弁当箱くらいなら洗えるよ」と言ってくれました。その流れに乗って、私は「じゃぁ、洗うほうはよろしくね。弁当をつくるほうはまかせてね!」とさり気なく弁当つくりの功労をアピールしつつ、『高校生になったら弁当箱は洗うものだ』というルールを彼に刷り込んでいきました。

知識と生活と実体験の積み重ねから分かること

弁当箱を洗うようになって気づいたこと

そんなふうにして始まった『弁当箱を洗う生活』が、1か月ほどたったある日。コウが弁当箱を洗いながら「……仕切りを洗うの、面倒なんだよね~」と言いました。

それを聞いて、私は少し感心しました。以前、「この弁当箱は、仕切りに角がなくて洗いやすいんだよ」と話したとき、彼は「へー、そうなんだ」と軽く返していたからです。実際に毎日洗ってみることで、“楽さ”や“面倒さ”がただの情報ではなく『作業を通じた実感』になったのだと思います。
弁当箱を洗いながら「仕切りを洗うの、面倒なんだよね~」と溜息をつくコウ。そんな彼を見て「へー、実感したんだなぁ」と感心する私。
弁当箱を洗いながら「仕切りを洗うの、面倒なんだよね~」と溜息をつくコウ。そんな彼を見て「へー、実感したんだなぁ」と感心する私。
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息子もそのときのことを思い出したのか、「角がない分、楽なんだけどね~」と苦笑いしました。私が「じゃあ、明日から仕切りなしで詰めようか?ご飯とおかずがくっついてもいいなら」と聞くと、「え? いいの? 助かる~」と、息子は顔を明るくしてうれしそうに言いました。

家事をしていると、つながりが見えるきっかけになるのかも?

相変わらず、部屋はよく散らかっていますし、「あっ、忘れてた!」もよくあります。でも、パジャマを出さないまま着るものがなくなったときに「僕が溜め込んだからかな~」と言っていたりして、「因果関係をよく見るようになったな」と感じることも増えてきました。

家事には、“自分の行動が次の自分の快・不快につながっている”という感覚を、ゆっくり育ててくれる側面もあるのかもしれません。それは、「自分が暮らしやすくなるように」という視点での気づきでもあるのだと思います。

お弁当箱を洗うという小さなことから少しずつ広がる“生活の地図”のようなものが、息子の中に育っているのかもしれないな、と感じました。
執筆/丸山さとこ

(監修:初川先生)
コウくんの生活の中で見えてくる『最初に身につけた習慣がずっと続きやすいこと』、『目の前にある具体的な作業には比較的取りかかりやすいこと』といった特性の現れ方についてのコラムをありがとうございます。コウくんは、家事のような手順の決まった作業は自らのものとして入りやすいのですね(その時点ですでに感心してしまいます。すてき!)。このコラムを通じて私が一番思ったのは、そうしたコウくんの特徴的なところについて、さとこさんがとてもニュートラルに捉えていらっしゃることです。例えば、家事に関していえば、もしかしたら人によっては「お手伝い」と捉え、「いかにして子どもに身につけさせるか」「どうやって習慣化させるか」と考える方もいるのではと感じます。さとこさんの捉え方はおそらくそうではなくて、コウくんの得意不得意を評価的に見る(いい悪いで見る)のではなく、まずはどんな行動が定着しているのか、どんな行動だったら取り掛かりやすいのかという視点があり、そこから日々の生活の中で観察をされ、行動に関しては最初に身につけた習慣が続く(最初が肝心といったところでしょうか)、後で何かを頼むのではなくコウくんの視野に入る、今行えるような作業ならストレス少なく取り掛かれるというところに気づかれたのだなと感じました。子どもに身につけてもらいたい行動は、保護者の立場からしたらたくさんありますが、その中でも、子どもが身につけやすい行動を検討・探索されたことが、「子どもに○○させる!」と掲げて苦戦しお互い疲弊してしまう場合とを考えると、とても自然で妥当なやり方だなと感じました。

また、最後に触れられているように、コウくんは高校生になりましたが、(おそらく苦手な)片付けについて、「どうしてまだできないの!」というまなざしではなく、コウくんの「僕が溜め込んだからかな~」という発言に成長を感じられるあたり、その成長を見取る目盛りの細やかさもとてもすてきだなと感じます。「お弁当箱を洗うという小さなことから少しずつ広がる“生活の地図”のようなものが、息子の中に育っているのかもしれないな」という感想も、その通りだなと感じます。習慣化された行動の中からこそ、本人の成長が浮き上がって見えることと思いますし、そこから分かることとして、家事を通したコウくんの体験知が鮮やかに・細やかに成長していることがありますね。
前の記事はこちら
https://h-navi.jp/column/article/35030608
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。

ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如・多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
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