【専門家アドバイス】5歳自閉症娘の癇癪・奇声・エコラリア…公共の場での悩み、解決のヒントは?

ライター:サチコ
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わが家の長女マユユは2歳の時に発達障害の診断を受けています(ASD/自閉スペクトラム症・軽度知的障害/知的発達症)。5歳での療育手帳の更新では、中度判定となりました。

今回は、マユユが小さい頃から年長の今でも悩んでいる「待つこと」や「声の大きさ」について鳥取大学大学院教授で発達障害を専門とする井上雅彦先生に対応方法などアドバイスをいただきました。

監修者井上雅彦のアイコン
監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。

Q1:待つことがむずかしい

病院や窓口での待ち時間や、順番列に並ぶこと。マユユにとっても母である私にとっても「待つ」ということは、これまでも今も苦手なことのひとつです。

これまでさまざまなグッズや、場合によってはゲームや動画などで時間をしのごうとしてきました。しかし楽しいものを与えると今度は切り替えが難しくなってしまい……。飽きた時の対応も難しく、結果的にその場で手に負えなくなったこともあります。
楽しいものを与えると今度は切り替えが難しくなってしまい……
楽しいものを与えると今度は切り替えが難しくなってしまい……
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飽きたり気持ちが乗らないと「帰る」一点張りになったり、声を出す・寝転がるなど注目されるような行動をとることも。

そんな経験から、「(一番楽だけど)動画やゲームじゃ根本的な解決にならないのでは?」という思いが強くなり、なるべく「ただ待つ」「ある程度の暇つぶしグッズでも待つ」という体験をさせようと意識しています。でも実際には、周囲に迷惑をかけられないという現実的なプレッシャーもあって、理想と現実の間で揺れてばかりです。

最近ではマユユの様子や成長を鑑みて、視覚的スケジュール提示や、その日その時の行動について説明を行うようになりました。待つことや切り替えのきっかけになるように、楽しくない予定(診察など)のあとには、ご褒美的な予定も入れます。

それによりスムーズにいく場面は増えましたし、実際の場面でうまくいかないときにも
『理解はできても、気持ちが追いつかなかったのかも?』
と頭では考えられるようにもなりました。
最近は視覚的スケジュール提示や、その日その時の行動について説明を行うように
最近は視覚的スケジュール提示や、その日その時の行動について説明を行うように
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それでも、やっぱり心のどこかでは
「”分かった”って言ってたのに」
「スムーズに終われば、ご褒美あるのに」
そんな、”なぜ待てないのだろう”という気持ちが拭いきれないことも事実です。
「こんなやり方でいいのかな」「どうするのがよかったのかな」と、これまでずっと迷いながら対応しています……。

井上雅彦先生からのアドバイス

静かに待っていなければいけないところで静かに待てなかったり、切り替えができずにその場から動けないというのは保護者としては非常につらいと思います。サチコさんが試みられているように対応方法としては楽しい活動で紛らわせる、先の予定を示す、終わったあとの楽しい活動を用意することを組み合わせることが考えられます。

待っている間の活動についてはいくつかの選択肢から選ばせるという工夫もありますし、どうしてもじっとしていられない場合は移動しながら待つ、場所を変えて待つなどの方法もあるでしょう。年齢的なことを考えると、現状ではこれらをお子さんの状態に合わせて柔軟に組み合わせること、保護者としては手の内を複数用意しておくことが安心につながるのではないかと思います。

Q2:声の調整がむずかしい

理由はさまざまですが、マユユの「声の大きさ」「声を出す場面」にも大きな悩みがあります。

マユユはおそらくエコラリア(他人の言葉をそのまま繰り返す行動)が多いほうで、楽しい時も不機嫌な時も出ます。会話の返事としてセリフのように言うこともありますし、一人で気に入ったセリフを繰り返していたり、奇声が出ることも……。
マユユの「声の大きさ」「声を出す場面」にも大きな悩みが
マユユの「声の大きさ」「声を出す場面」にも大きな悩みが
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人との関わりがまだ浅いこともあり、「今ここで声を出すとどうなるか」を予測したり、周囲の空気に合わせるといった感覚が本人にはまだあまりないのだと思います。

注意をしても通じないどころか、逆に「わざとやる」ような場面が増えてしまうのでは……という不安もあります。注目を浴びることで、それが“楽しい刺激”になってしまうようにも見えて、簡単に「静かにしようね」と言えないもどかしさもあります。


それでも一応、声の大きさを視覚的に伝えるために、イラストなどで「今の声これくらいだったね」(=マユユが出している声の大きさを伝える)と声掛けはしています。でも「この場所ではこういう声量にしよう」と理解しマユユ自身が調整するには、まだまだ時間がかかりそうだなと感じます。
イラストなどで「今の声これくらいだったね」と声掛けをしているが……
イラストなどで「今の声これくらいだったね」と声掛けをしているが……
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正直、この問題はマユユの困りごとというより、ストレスを感じているのは私自身です。

「また注目を集めてしまう……」「周りにどう思われるかな」と気が重くなる瞬間が多く、本人が悪いわけじゃないと分かっていながらも、どうにかならないものかと思ってしまいます。親としてどのような考え方をすればいいのかなどアドバイスいただけるとうれしいです。

井上雅彦先生からのアドバイス

エラコリア自体は言葉やコミュニケーションの発達のうえで重要な行動ではありますが、静かにしておく場面での大声でのエコラリアは保護者としてとても気になるところです。マユユさんの5歳という年齢やコミュニケーションの発達を考えると現段階でエコラリアを完全になくすことに注力するよりは静かにしなければならない場面だけでコントロールできるように教えることで良いように思います。

絵カードや身振りでやめることを視覚的に促したり、別の活動に誘ったり、困難な場合はその場から離れたりといった心の準備をしておき、周りの人の視線についての対応もあらかじめ考えておくと気持ちが楽になるのではないかと思います。

例えば、周囲の人に何か言われたとしても、子どもの症状について長々と説明するのではなく、ヘルプマークを示して会釈するなどその場を切り抜けることに重点をおいた対応を心のなかで準備しておくなどもあります。保護者のメンタルヘルスも大切なので自身の調子が悪い時は無理をしないのも大切かと思います。
執筆/サチコ
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
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