メタ認知の力と「三人称日記」のススメ
――本書の最後で品川裕香先生が、市川さんは「メタ認知機能が高い」と解説をされていましたが、市川さんはご自分を俯瞰し、内面にも非常に自覚的で、それを言語化する力をお持ちですよね。詳細に書いていただくことで、定型発達の人も改めて自分の内面に自覚的になれますし、発達障害のあるお子さんの保護者にとっても「そういう捉え方をすれば良いのか」とリフレーミングできる良いきっかけになるなと感じました。
市川:SNSのダイレクトメッセージでも、保護者の方から感想をいただきました。小学校4年生のお子さんがなぜこういう行動をとるのか分からなかったけど、本を読んだら全く同じことがあったと。小学校4年生だとまだ言語化できないし、聞かれても分からない、子どもも説明のしようがない。それは、多分に感情だったりするので、感情って言語化できないじゃないですか。そこを書いてもらったことで気づけた、という風におっしゃっていたので、出版した甲斐があったのかなと。
一方で、品川さんは「メタ認知」という言い方をされていますが、そこに対して僕はものすごく無自覚なんですよ。ほぼ衝動本能のままに生きているから、自分を損なわずにいられる生き方になっているだけというか。
僕もいろんなインタビューを受けていますが、逆にいろんな記事も目にして思うのが、一般の人たちとはかみ合わないパーソナリティなのに、そこに合わせようとすり減ってスポイルされている端境にいる人たちがすごく多い。僕くらい振り切っていると、そういう悩みもなくなっているので。「発達障害の診断をもらったと報告をしただけなのに、“カミングアウトをした有名人”と取り上げられた」とこの本にも書きましたが、そういうことですよね。 今、そこを悩む人が多いというのは、逆を言えば、まだまだ定型発達の能力があるのではと。ある種のミックスみたいな形で、定型のコモンセンスを持っていて、しかし本来のパーソナリティがこちら寄りだから辛いのかもしれませんね。
市川:SNSのダイレクトメッセージでも、保護者の方から感想をいただきました。小学校4年生のお子さんがなぜこういう行動をとるのか分からなかったけど、本を読んだら全く同じことがあったと。小学校4年生だとまだ言語化できないし、聞かれても分からない、子どもも説明のしようがない。それは、多分に感情だったりするので、感情って言語化できないじゃないですか。そこを書いてもらったことで気づけた、という風におっしゃっていたので、出版した甲斐があったのかなと。
一方で、品川さんは「メタ認知」という言い方をされていますが、そこに対して僕はものすごく無自覚なんですよ。ほぼ衝動本能のままに生きているから、自分を損なわずにいられる生き方になっているだけというか。
僕もいろんなインタビューを受けていますが、逆にいろんな記事も目にして思うのが、一般の人たちとはかみ合わないパーソナリティなのに、そこに合わせようとすり減ってスポイルされている端境にいる人たちがすごく多い。僕くらい振り切っていると、そういう悩みもなくなっているので。「発達障害の診断をもらったと報告をしただけなのに、“カミングアウトをした有名人”と取り上げられた」とこの本にも書きましたが、そういうことですよね。 今、そこを悩む人が多いというのは、逆を言えば、まだまだ定型発達の能力があるのではと。ある種のミックスみたいな形で、定型のコモンセンスを持っていて、しかし本来のパーソナリティがこちら寄りだから辛いのかもしれませんね。
――グレーゾーンにいたりすると、そうした面もあるのかもしれませんね。カモフラージュ研究(社会生活に順応するため、自身の特性が目立たないように意識的・無意識的に行う行動=カモフラージュについて、その内容や影響を分析する研究)もありますが、カモフラージュによって心身がすり減っている人も多いのではないかと思います。市川さんは、無自覚であることを自覚されていて、そこを俯瞰されているのが強みなのでしょうね。
市川:そうですね。デフォルトでは無自覚だけど、いざ言語化しようとする時には見えるというか。自分の行動を言語化する癖は昔からありました。これもネタでよく言っているのだけど、ちょっと良い状態が続いたりすると、自分の頭の中で「その時、彼はまだその先に来る苦難を知らなかった」ってナレーションがつくんですよ(笑)。自戒を込めたナレーションなんだけど。それも確か、20歳頃からだと記憶しているから、小説を書く前から自分を俯瞰して「馬鹿なことをやっているな」と思っていたんですね。
明確に覚えているのが――小学校高学年になった時、クラスの中でも浮いていたわけですよ。発育が早く学年で2番目に背が高かったし、このままだと自分以外の全員が敵になるぞという想いがあって、少しアホな振りをしようと考えたんです。結局は振りをしなくとも、素のままで居続けていたら、お笑いで言うボケ担当みたいな感じになりましたが(笑)。ただ、振りをしようと考えていたのは覚えているから、やっぱりその時からメタ認知をしていた。マセていたっていうのもありますけどね。身体が大きい分、内面の成長も早かったのだと思います。
市川:そうですね。デフォルトでは無自覚だけど、いざ言語化しようとする時には見えるというか。自分の行動を言語化する癖は昔からありました。これもネタでよく言っているのだけど、ちょっと良い状態が続いたりすると、自分の頭の中で「その時、彼はまだその先に来る苦難を知らなかった」ってナレーションがつくんですよ(笑)。自戒を込めたナレーションなんだけど。それも確か、20歳頃からだと記憶しているから、小説を書く前から自分を俯瞰して「馬鹿なことをやっているな」と思っていたんですね。
明確に覚えているのが――小学校高学年になった時、クラスの中でも浮いていたわけですよ。発育が早く学年で2番目に背が高かったし、このままだと自分以外の全員が敵になるぞという想いがあって、少しアホな振りをしようと考えたんです。結局は振りをしなくとも、素のままで居続けていたら、お笑いで言うボケ担当みたいな感じになりましたが(笑)。ただ、振りをしようと考えていたのは覚えているから、やっぱりその時からメタ認知をしていた。マセていたっていうのもありますけどね。身体が大きい分、内面の成長も早かったのだと思います。
――メタ認知を小学校高学年で、というのはすごいですね。
市川:僕は1歳になる前に喋り始めていたから。要は、ASD(自閉スペクトラム症)でも両極端じゃないですか。発語がめっちゃ遅いか、めっちゃ速いか。僕が初めて喋った言葉は「お花綺麗ね」という構文でした。1歳か2歳健診の時には、「今日は気が乗らないので帰ります」と言って(笑)。発育が早い方の発達障害だったんです。
以前に編集者から新人作家へどう助言したら良いか相談されたことがあって。その時は、三人称の日記を書かせたら良いとアドバイスをしました。1日の中で起きたトピックを小説風に、三人称で書くと、否が応でもメタ認知せざるをえないんです。なんなら架空の名前にしたり性別を変えるぐらいの距離感を置くと、自分を観察できるんですよね。僕は小学校5、6年の頃から原稿用紙100枚くらいにSF小説を書いていましたが、似たようなことだと思うんですよ。つまりは、自分の分身である主人公を動かしているわけですから。交換日記が流行った中学校1年の時には、グループノートみたいな形で、友達4人と自分たちを主人公に、架空のイベントが起きたことにして、1人1話ずつ書いていました。そういうのがすごく訓練になっていたのかもしれないです。
僕の地元の中学校では、さまざまな職業の人たちが特別授業を度々行っているんですけど、僕も作家として参加しているんですね。授業では子どもたちに作家になってもらい、10人なら10人のグループを作ってもらって、みんなで1本の小説をリレー形式で書いてもらいます。「僕、私は」と書くと、若干距離感が自分と重なってしまうのだけど、「He」にすると結構、良くなるんですよね。
――知的障害(知的発達症)がないASD(自閉スペクトラム症)で、自分の気持ちに無自覚ゆえに、自身がストレスを感じていることに気づけないというお子さんがいまして。ストレス過多になると急に倒れてしまうこともあるようです。市川さんがおっしゃる、三人称で日記を書く方法を教えてあげたら、自分のことを俯瞰してみる練習になるかもしれないですよね。
市川:一度きっかけを教えてあげれば、自分で気づけるようになって、そこからは早いかもしれないですよね。発達障害って、発達遅延もあるじゃないですか。僕みたいに早い子もいれば、ものすごくゆっくり大人になっていって、脳の機能も20歳ぐらいまでにだんだんと変わっていく子もいるから。何かきっかけがあれば、想定外の反応や成長につながるかもしれませんね。
市川:僕は1歳になる前に喋り始めていたから。要は、ASD(自閉スペクトラム症)でも両極端じゃないですか。発語がめっちゃ遅いか、めっちゃ速いか。僕が初めて喋った言葉は「お花綺麗ね」という構文でした。1歳か2歳健診の時には、「今日は気が乗らないので帰ります」と言って(笑)。発育が早い方の発達障害だったんです。
以前に編集者から新人作家へどう助言したら良いか相談されたことがあって。その時は、三人称の日記を書かせたら良いとアドバイスをしました。1日の中で起きたトピックを小説風に、三人称で書くと、否が応でもメタ認知せざるをえないんです。なんなら架空の名前にしたり性別を変えるぐらいの距離感を置くと、自分を観察できるんですよね。僕は小学校5、6年の頃から原稿用紙100枚くらいにSF小説を書いていましたが、似たようなことだと思うんですよ。つまりは、自分の分身である主人公を動かしているわけですから。交換日記が流行った中学校1年の時には、グループノートみたいな形で、友達4人と自分たちを主人公に、架空のイベントが起きたことにして、1人1話ずつ書いていました。そういうのがすごく訓練になっていたのかもしれないです。
僕の地元の中学校では、さまざまな職業の人たちが特別授業を度々行っているんですけど、僕も作家として参加しているんですね。授業では子どもたちに作家になってもらい、10人なら10人のグループを作ってもらって、みんなで1本の小説をリレー形式で書いてもらいます。「僕、私は」と書くと、若干距離感が自分と重なってしまうのだけど、「He」にすると結構、良くなるんですよね。
――知的障害(知的発達症)がないASD(自閉スペクトラム症)で、自分の気持ちに無自覚ゆえに、自身がストレスを感じていることに気づけないというお子さんがいまして。ストレス過多になると急に倒れてしまうこともあるようです。市川さんがおっしゃる、三人称で日記を書く方法を教えてあげたら、自分のことを俯瞰してみる練習になるかもしれないですよね。
市川:一度きっかけを教えてあげれば、自分で気づけるようになって、そこからは早いかもしれないですよね。発達障害って、発達遅延もあるじゃないですか。僕みたいに早い子もいれば、ものすごくゆっくり大人になっていって、脳の機能も20歳ぐらいまでにだんだんと変わっていく子もいるから。何かきっかけがあれば、想定外の反応や成長につながるかもしれませんね。
市川さんの語る「懐く」「あるがままを出す」「メタ認知」といったキーワードは、発達障害のある子どもたちやその家族の日常にも深く通じます。
「発達障害の使命」や「世界の優しさの総和を増やす」という市川さんの想いについて、さらに語っていただきます。
撮影/竹田宗司
発達障害のぼくが世界に届くまで
筑摩書房
Amazonで詳しく見る
発達障害のぼくが世界に届くまで
筑摩書房
楽天で詳しく見る
逆境を希望に。『いま会い』作者が語る「発達障害は使命である」という理由【作家・市川拓司さんインタビュー】
「間違ってる!」と言われ続けたぼくが、偏りを“個性”に出来た理由ー作家・市川拓司さんインタビュー
【読書の秋!10月おすすめ新刊4選】『いま会い』著者のエッセイ、算数障害支援、便利文具、年齢別子育てナビなど
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。
発達支援施設を探してみませんか?
お近くの施設を発達ナビで探すことができます
-
1
- 2