演奏中に壁紙をむしる息子──「なぜなんだろう」と親の勘が働いた瞬間

体験レッスンの終盤、先生が電子オルガンで演奏を始め、「私の周りに集まって聞いてくださいね」と指示されました。息子は突然表情を変え、先生の近くへスタスタと歩いていきました。「やっと興味を持ってくれた!」とうれしく思ったのもつかの間、息子は先生を通り過ぎ、なんと先生の背後にある壁の破れた壁紙をむしろうとし始めたのです。私はすぐにその壁紙の前に立ち、演奏に耳を傾けているふりをしながら、必死で息子の壁紙むしりを阻止しました。客観的に見ればかなり滑稽な光景だったと思いますが、同時に冷静に「私は一体なにをしているんだろう……」とも感じました。それはみじめというよりも、「息子は何故ほかの子どもたちと同じことができないんだろう」という不思議な気持ちのほうが強かったです。
壁の破れた壁紙をむしろうと……
壁の破れた壁紙をむしろうと……
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この出来事を通して、私は「習い事で自信を」ということ以前に、「この子にはまだ別の何かが必要ってことかもしれないぞ……」と感じ始めました。この日、私が抱いた「発達の遅れの可能性があるかもしれない」という考えは、夫や祖父母からは「気にしすぎ」と否定されましたが、「親の勘」というものなのか、私の中でこの体験レッスンでの違和感が消えることはありませんでした。

「気にしすぎではない」──腑に落ちた診断と支援がもたらした穏やかな今

体験レッスンから1〜2か月後、市の3歳半健診がありました。そこで「発達に偏りが見られるので、今後心配なことが出てきたら、発達支援センターに相談してみては」と言われました。正直、多少のショックはありましたが、それよりも「やっぱり私の気にしすぎではなかった」という腑に落ちた感覚のほうが大きかったです。

年明けに発達支援センターに相談を始め、そこからはいろんな方々に支えていただきながら、息子の特性を知り、向き合い方を学びました。特に、視覚支援や見通しを示すことの必要性を知り、日常生活に取り入れたことで、息子とのコミュニケーションは大きく改善しました。私自身、息子の行動に一人で悩まなくて良くなったことに、ほっとしました。何より、息子が通うこども園の先生方が、発達支援センターと連携を取り、息子のできたことを「今日は、苦手なパンを一口食べられたんですよ!」「お遊戯会の練習、頑張っていました」などと一緒に喜んでくださる空気に、どれほど救われたか分かりません。

現在、息子は小2になり、地元の公立小学校の特別支援学級に通っています。今も変わらず、先生方に細やかに引き継ぎをしてもらい、適切な配慮のもと、落ち着いた学校生活を送れています。

あの30分のカオスな体験レッスンが、私たち親子が正しい道を歩み始める「気づきのスタートライン」となりました。あの時、息子の予期せぬ行動に覚えた違和感を大事にしたことで、今の穏やかな日常を手に入れることができたのだと思います。

そして「身近な人の言葉に耳を傾けつつも、ご自身の直感を信じることも大切」ということも感じました。身近な人の言葉には「気にしすぎであってほしい」という願望が少なからず混ざっている可能性もあるからです。だからこそ、もしお子さんの行動に戸惑いや違和感を抱いたら、一人で解決しようとせず、「親の勘」を信じて専門機関(発達支援センターなど)に相談してみることが自分自身の安心に繋がり、お子さんが過ごしやすい環境を作っていく第一歩になるのではないかと思います。
イラスト/もっつん
エピソード参考/苗

(監修:室伏先生)
大切な経験を共有してくださり、ありがとうございます。苗さんのお話は、同じように不安を感じている保護者の方々にとって大きな励ましになるはずです。発達に関する情報を耳にする機会は増えていますが、実際の経験がなければ、どの行動がその『特性』に該当するのか、あるいはどの程度の支援が必要かを判断することが難しいと思います。ですので、「なんとなく気になる」という親御さんの直感や、園の先生のお声はとても大切です。そのもやもやをひとりで抱え込まず、保健センターや発達支援センター、医療機関などで相談してみてください。早めに相談することで支援につながりやすくなり、お子さんが安心して過ごせる環境づくりに役立つはずです。
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(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。

神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。

※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。

ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
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