対象である「障害者」とは誰を指すか?

ここまで、合理的配慮の基本的な考え方とその背景を確認してきました。では、合理的配慮を受けられる対象となる、「障害者」とは具体的にどんな人たちのことを指すのでしょうか?

障害者差別解消法における定義

「障害者差別解消法」の中では、以下のように定義されています。
身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。(同法 第一章 第二条 一、太字は筆者強調)
出典:http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/law_h25-65.html
ここでポイントとなるのは“障害及び社会的障壁”という文言です。個人の心身の機能障害だけでなく、機能障害のない人が中心につくられた社会の制度や環境が障壁となって、その人の生活に障害をもたらしているとする、障害の「社会モデル」という考え方を反映しています。

障害の「社会モデル」

例えば、足が不自由な人が、駅で電車に乗ろうとしたとします。このとき、自分一人では乗り越えられないような段差や階段ばかりでは電車に乗ることができません。ですが、エスカレーターやエレベーターなどが十分に整っていれば、電車に乗ることができます。つまり、この人にとっての「電車に乗る」上での障害は、歩けないことにあるのではなく、駅が歩けない人がいることを前提につくられていないことにあると考えられます。

障害の「社会モデル」とは、このように、社会が多様な人がいることを前提につくられていないことを問題としてとらえ、社会の側にこのような社会的障壁を解消する責任があると考えます。合理的配慮は社会的障壁を解消するためのものです。

「障害者差別解消法」の中では、“法が対象とする障害者は、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない”としており、さまざまな社会的障壁によって障害がもたらされている人も、合理的配慮の対象であると考えられています。

医師の診断や障害者手帳がないから配慮は必要ない、ということでもありませんし、同じ診断や手帳のある人には一律に同じ配慮をすればそれで良い、ということでもありません。障害のある人一人ひとりが、具体的にどんな困難を抱えているかということに注目し、その背景にはどのような社会的障壁があるのかを踏まえ、必要な配慮を考えていくことが大切です。

配慮が「合理的」であるとはどういうことか?

次に、合理的配慮という言葉の一部である、「合理的」とはいったいどういうことなのか、基本的な考え方をご紹介していきます。

「必要かつ適当」な配慮であること

まず1つめは、障害のある人にとって、その配慮が「必要かつ適当」な程度や内容であるかという点が重要です。本人が必要としていないような過剰な配慮や、本人が望まない配慮は合理的とは言えません。

本人の状態や周りの環境の変化に応じて、

 ・その人が具体的にいつ、どんな場面で困っているのか
 ・社会的障壁はなにか
 ・その障壁を解消するための適切な配慮は何か


という3点を踏まえながら本人と対話をしながら合理的配慮を検討・実施することが大切です。

「均衡を失」さず、「過度な負担」でないこと

合理的配慮が事業者にとってあまりにも大きな負担を伴う場合は、「合理的」ではないとして、行政機関・事業者はその配慮を断ることができます。その配慮が「過度な負担」かどうかは、以下の観点を考慮しながら、行政機関や事業者が、個別の場合に応じて判断すべきとされています。
 
 1.事務・事業活動への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)
 2.実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)
 3.費用・負担の程度
 4.事務・事業規模
 5.財政・財務状況

ただし、「過重な負担」を理由として配慮を断る場合は、配慮を求めた本人にその理由を説明する義務があります。また、負担が少ない形でほかの配慮が実現できないか検討しなければなりません。

例えば、足が不自由な子どものために、校舎にエレベーターを設置するのは予算がなくて難しい…という場合も少なくないでしょう。ですが、その子どもの教室が1階になるようにクラス配置を工夫する、といった配慮なら可能かもしれません。お金や人手に限界があるなかでもどんな工夫ができるかを、常に考えることが重要です。

合理的配慮を必要とする当事者の権利

合理的配慮を受けることは、障害のある当事者の権利です。必要な合理的配慮は人や場面によって異なるため、配慮を必要とする本人が個々の場面で意思表明をする必要があります。

行政機関の窓口、学校の先生や職場の上司・同僚、お店や公共交通機関の従業員や責任者などに対し、自分がどんな場面で何に困っていて、どんな配慮を必要としているか具体的に伝えることが大切です。

ただし、言葉での意思表示が困難であるなど、さまざまな理由で、障害のある本人が意思表明をすることが難しい場合もあります。その場合は、家族や介助者など、その人のコミュニケーションを支援する人が、本人のかわりに意思表明をしてもかまいません。

また、家族や介助者がいない場合でも、本人が配慮を必要としていることが明白ならば、周りの人々から、必要な配慮についての提案や対話をすることが望ましいです。
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次ページ「合理的配慮を実現するための合意形成プロセス」

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