サヴァン症候群のメカニズム

能力がアンバランスになってしまうサヴァン症候群ですが、どうしてこのようなことが起こるのでしょうか。

なんらかの後天的な要因で、サヴァン症候群になることもありますが、後天性のサヴァン症候群はサヴァン症候群全体の1割程度のため、ここでは先天性のサヴァン症候群のメカニズムを詳しく説明します。
サヴァン症候群のメカニズムはいまだに解明されていませんが、これまでいくつかの仮説が提示されてきました。仮説には次のようなものがあります。

通常の能力の延長にすぎない

1つ目の仮説は、サヴァン症候群で示される突出した能力は、反復した訓練によって得られたにすぎないというものです。現在では、この仮説はおそらく正しくないだろうといわれています。

例えば、複雑な計算をすばやく解くサヴァン症候群の人がいたとします。このとき、彼の計算方法とサヴァン症候群でない人の計算方法はまったく異なることが多いです。また、脳の血流を調べてみると、サヴァンとサヴァンでない人では、そもそも血流が増える場所が異なっていることがわかりました。

これらのことから、反復した訓練だけで説明することは難しいと考えられています。

脳の左半球の代わりに右半球が発達している

2つ目の仮説は、脳の右半球(いわゆる右脳)が発達しているためにサヴァン症候群が生じるというものです。

サヴァン症候群で示される突出した能力は、右半球と関連が深いとされています。しかしその一方で、実際にサヴァン症候群の人の脳を調べてみると左半球(いわゆる左脳)に異常がある可能性がみられます。

なぜサヴァン症候群は右半球と関わりが深いはずなのに、左半球に異常が見られるのでしょうか。

ヒトにはどこかの機能が低下したり失ったりしたときには、他の機能を向上させるような働きがあります。例えば、目が見えない人は、他の人に比べて聴覚や触覚などの感覚が鋭くなるとされています。

この働きによって、左半球に異常があるために、結果として右半球が活発になったのではないかと考えられます。

部分的な情報処理に特化している

3つ目の仮説は、サヴァン症候群でも、自閉スペクトラム症児と同様に部分的な情報処理に特化しているのではないかという考えです。

自閉スペクトラム症児によくみられる特徴のひとつとして、全体をとらえることは苦手であっても細かいところを調べることは得意というものがあります。このことから、一部の人は「自閉スペクトラム症児は全体的な情報処理を犠牲にして部分的な情報処理に特化しているのではないか」と考えています。

この考え方をサヴァン症候群にもあてはめられるではないかというのが3つ目の仮説です。

ここでは3つの仮説を紹介しましたが、どれも科学的に証明されているわけではありません。あくまで仮説にすぎず、ここにあげた仮説以外の他のメカニズムでサヴァン症候群が生じている可能性もあります。
参考:高畑圭輔 加藤元一郎「発達障害とサヴァン」BRAIN MEDICAL
https://mol.medicalonline.jp/archive/search?jo=ai1braid&ye=2012&vo=24&issue=4

サヴァン症候群のある人の困りごと

サヴァン症候群のある人には、ベースになんらかの発達障害や知的障害があるため、それらの障害特有の日常生活上の困りごとが生じやすいと言えます。

そのほかにもサヴァン症候群の困りごととして、映画やドラマなどによって世間で偏ったイメージ(多くが天才サヴァン症候群)が広がっているために誤解されてしまうことが挙げられます。

大ヒットした映画『レインマン』の主人公レイモンド・バビットは類い稀な能力を持っていましたが、自閉スペクトラム症でもあり、日常生活を送るときに多くの困りごとがありました。また『レインマン』以外の映画や書籍でも、サヴァン症候群といえば特殊な人物として描かれていることが多いです。

しかしサヴァン症候群には多くの例があり、必ずしも特殊で傑出した能力があるわけではありません。周りに「サヴァン症候群だからきっとなにか特別な能力があるのだろう」と天才サヴァン症候群であることを期待され、有能サヴァン症候群の人が追いつめられてしまうこともあります。

また、天才サヴァン症候群であるダニエル・タメットは次のように述べています。
きわめて稀で卓越した能力が備わっていたため、サヴァンの人々は怖れられたり、誤解されたり、さらに悲しいことに利用されたりもしてきた。これは非常に痛ましいことだ。ぼく自身の経験からも言えることだけれど、高機能自閉症のサヴァンは、人間の複雑な感情を理解できるし、意味ある社会貢献もできる。サヴァンの能力は人間の創造的な脳が生み出したものであり、無味乾燥で機械的な処理が生み出したものではない。
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4062155133
サヴァン症候群は多様性に富んでいることを理解し、世間で天才と呼ばれる人であっても、一人の人間であるという、一見あたりまえのことを忘れないようにすることが大切なのかもしれません。
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サヴァン症候群の診断・相談先は?

自閉スペクトラム症のある人の10人に1人、他の発達障害・知的障害(知的発達症)のある人の1400人に1人がサヴァン症候群だという報告がありますが、実際にサヴァン症候群だと診断されている人はそれほど多くはありません。

というのも、現在、サヴァン症候群は、国際的に広く使われている診断マニュアルである、アメリカ精神医学会の『DSM-5-TR』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版改訂版)や世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)(※)などでは明確な診断カテゴリーとして確立していないからです。

そのため現在では、医学的な診断名としてサヴァン症候群を用いることは一般的ではなく、正式な診断名としては併存しているなんらかの発達障害・知的障害(知的発達症)で診断されることが多いです。

「もしかしてサヴァン症候群かも」と感じたとしても特に本人が困っていなければ問題ありませんが、日常生活の中でなにか困っていることがあれば、次のような専門機関で相談してみるといいでしょう。

サヴァン症候群の疑いがあるのが子どもか大人かで相談する機関が変わってくるので注意が必要です。

【子どもの場合】
・保健センター
・子育て支援センター・児童発達支援事業所
・発達障害者支援センター など

【大人の場合】
・発達障害者支援センター
・障害者就業・生活支援センター
・相談支援事業所 など

※ICD-10について:2019年5月、世界保健機関(WHO)の総会で、国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)が承認されました。日本国内ではこれから、日本語訳や審議、周知などを経て数年以内に施行される見込みです。
参考:ICD-11 | 世界保健機関(WHO)
https://icd.who.int/en/
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