広汎性発達障害(PDD)は遺伝する確率があるの?きょうだい、父親、母親との関係は?【専門家監修】
ライター:発達障害のキホン
自身や家族が発達障害の場合、遺伝するのかどうか気になることがあると思います。広汎性発達障害の原因や遺伝に関するはっきりとした結論はないのですが、様々なデータがあるのは事実です。今回は広汎性発達障害の原因や遺伝に関する説や検査方法などをご紹介します。

監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 客員研究員
応用行動分析学をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のための様々なプログラムを開発している。
LITALICO研究所 客員研究員
広汎性発達障害(PDD)とは
広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders:略称PDD)は、コミュニケーションと社会性に障害があり、限定的・反復的および常同的な行動があることを特徴として分類される発達障害のグループ です。世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)(※)の診断カテゴリでは、このグループには自閉症、アスペルガー症候群のほか、レット症候群、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害という5つの障害が含まれています。
広汎性発達障害は、最新の診断基準であるアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)は自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害というカテゴリに変更されています。広汎性発達障害の障害名、症状の中には自閉症スペクトラム障害の概念では除外されたものも含まれています。
ですが、行政や医療機関で広汎性発達障害の名称を使用している場合も多いこと、すでにこの名称で診断を受けた人も多いことから、本記事では『ICD-10』の診断カテゴリに準拠して広汎性発達障害の名称でご説明します。
※ICD-10について:2019年5月、世界保健機関(WHO)の総会で、国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)が承認されました。日本国内ではこれから、日本語訳や審議、周知などを経て数年以内に施行される見込みです。
広汎性発達障害は、最新の診断基準であるアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)は自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害というカテゴリに変更されています。広汎性発達障害の障害名、症状の中には自閉症スペクトラム障害の概念では除外されたものも含まれています。
ですが、行政や医療機関で広汎性発達障害の名称を使用している場合も多いこと、すでにこの名称で診断を受けた人も多いことから、本記事では『ICD-10』の診断カテゴリに準拠して広汎性発達障害の名称でご説明します。
※ICD-10について:2019年5月、世界保健機関(WHO)の総会で、国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)が承認されました。日本国内ではこれから、日本語訳や審議、周知などを経て数年以内に施行される見込みです。
広汎性発達障害は親から子どもへ遺伝するの?確率は?
広汎性発達障害は遺伝的要因と環境要因が複雑に影響し合って発現するという説が主流になっています。遺伝性の関与を研究するための双生児研究や家族間研究が進められていますが、現在のところ研究によって数値がまちまちで、親子の遺伝確率の数値は明確にはわかっていません。
二卵性双生児と一卵性双生児を比較してみると、一卵性双生児のほうが広汎性発達障害の発現率は高いという報告があります。一卵性双生児は基本的な遺伝子配列が同じなので、この結果は遺伝子が近いほど、広汎性発達障害を発現しやすいということを意味し、広汎性発達障害の遺伝的要因説の根拠となっています。ですが、広汎性発達障害の原因は一つの特定の遺伝子によるのではなく、広汎性発達障害の原因となりうる様々な関連遺伝子が重なることによる多因子遺伝と呼ばれるタイプであると考えられています。この関連遺伝子自体は多くの人が持っていると言われています。
これらの広汎性発達障害の要因となる何らかの遺伝子が重なり、さらに様々な環境要因が相互に影響したとき、脳機能に障害が起こり、症状が現れるとされています。その際に両親の遺伝子配列が要因の一部となっていることもありますが、それは広汎性発達障害に限らず、すべての病気や障害に言えることです。つまり、親から子に単純に遺伝するということではないのです。よって、親が「広汎性発達障害」だからといって、子どもにも100%遺伝するとは限らないのです。
二卵性双生児と一卵性双生児を比較してみると、一卵性双生児のほうが広汎性発達障害の発現率は高いという報告があります。一卵性双生児は基本的な遺伝子配列が同じなので、この結果は遺伝子が近いほど、広汎性発達障害を発現しやすいということを意味し、広汎性発達障害の遺伝的要因説の根拠となっています。ですが、広汎性発達障害の原因は一つの特定の遺伝子によるのではなく、広汎性発達障害の原因となりうる様々な関連遺伝子が重なることによる多因子遺伝と呼ばれるタイプであると考えられています。この関連遺伝子自体は多くの人が持っていると言われています。
これらの広汎性発達障害の要因となる何らかの遺伝子が重なり、さらに様々な環境要因が相互に影響したとき、脳機能に障害が起こり、症状が現れるとされています。その際に両親の遺伝子配列が要因の一部となっていることもありますが、それは広汎性発達障害に限らず、すべての病気や障害に言えることです。つまり、親から子に単純に遺伝するということではないのです。よって、親が「広汎性発達障害」だからといって、子どもにも100%遺伝するとは限らないのです。
広汎性発達障害の原因は何?
現段階では正確な原因は解明されていませんが、脳機能の障害により症状が引き起こされるといわれています。その脳機能障害は、先天的な遺伝要因と、様々な環境要因が複雑かつ相互に影響し合って発現するというのが現在主流となっている説です。また、かつて言われたような親のしつけや愛情不足といった子育てのしかたによるという説は、医学的に否定されています。
広汎性発達障害に含まれる各症状の原因については下記の通りです。どの症状も正確な原因は解明されていませんが、各症状における原因は下記のように議論されています。
広汎性発達障害に含まれる各症状の原因については下記の通りです。どの症状も正確な原因は解明されていませんが、各症状における原因は下記のように議論されています。
自閉症の原因
自閉症は脳の機能障害が原因と考えられていて、これには複数の遺伝子と環境要因が関わっており、最近では父親の高齢化で自閉症の確率が高まるという研究報告や、妊娠時の体内環境の要因などが関連すると言われることもあります。しかしながら、これらは全てはっきりしたメカニズムが分かっておらず、医学的根拠については解明されていません。
アスペルガー症候群(AS)の原因
アスペルガー症候群も自閉症と同様に脳の機能障害である可能性が高いとされていますが、その全てが解明されている訳ではありません。小脳や脳内物質の異常、環境ホルモンやウィルス感染、成長環境での心理的要因など国内外で様々な研究が進められており、アスペルガー症候群の原因について医学的な裏づけを研究している段階です。
レット障害(レット症候群)の原因
レット障害(レット症候群)はほとんどが女児に見られる発達障害で、X染色体上に存在する遺伝子の突然変異が原因と言われていましたが、1999年にMECP2という遺伝子が主な原因遺伝子であることが発見されました。その後2004年にCDKL5、2008年にFOXG1という原因遺伝子も発見されています。稀に男児で発現する場合もありますが、ほとんどは遺伝子の異常で流産や死産してしまう可能性が高いと見られています。
病因:最初の報告から、ほとんどの患者が女児であるためX染色体性優性遺伝が疑われていましたが、遺伝子連鎖解析によりX染色体長腕のXq28と連鎖がある事がわかり、この領域に存在するMethyl-CpG-binding protein 2 gene(MECP2)がRTTの主な原因遺伝子である事がわかりました。(難病情報センター「レット症候群」より引用)
小児期崩壊性障害(CDD)の原因
小児期崩壊性障害(CDD)はヘラー症候群とも呼ばれますが、その原因は現段階では解明されていません。今まで話していた子どもが言葉を話さなくなるなど精神発達の退行が症状として現れますが、脳や神経系の感染症などを発現後に小児期崩壊性障害となるケースも多く、脂質代謝異常や結節性硬化症など、さまざまな疾患と関連があると考えられています。
特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)の原因
特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)の原因は不明とされています。一部では遺伝要因と環境要因による相互作用ではないかと考えられています。自閉症やアスペルガー症候群の診断基準には当てはまらないが、その特徴を一部持っているという場合に診断されることが多い診断カテゴリーのため、その症状や障害の重さも人によってさまざまで、原因も全ての人に当てはまるものはないのではないかと考えられます。