【大人の広汎性発達障害】仕事での困りごと・対処法まとめ【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン
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広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の方の中にも働いている方はたくさんいます。どのような仕事に就いているのでしょうか? どのような困難に直面し、どのように対応しているのでしょうか? 広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)に向いている仕事や向いていない仕事、仕事の探し方や困りごとに対する対処法などをまとめました。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
目次

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)で働いている人はどのくらいいる?

現在働いている広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)(※)の人についてくわしい統計やデータはありません。

※以前は対人関係の困難、パターン化した行動や強いこだわりの症状がみられる障害の総称として「広汎性発達障害」が用いられていましたが、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)では自閉的特徴を持つ疾患は包括され、2022年発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。

しかし、行政や医療機関で広汎性発達障害の名称を使用している場合も多いこと、すでにこの名称で診断を受けた人も多いことから、本記事では最新版DSM-5-TR以前の診断名である広汎性発達障害とASD(自閉スペクトラム症)を併記してご説明します。


しかし、厚生労働省がまとめた「平成30年度障害者雇用実態調査」によると、従業員規模5人以上の事業所に雇用されている障害者数は身体障害者が42万3,000人(前回43万3,000人)、知的障害者が18万9,000人(前回15万人)、精神障害者が20万人(前回4万8,000人)、発達障害者が3万9,000人(前回統計なし)となっています。平成30年度調査は平成25年度調査と実施方法が異なるため、調査結果をそのまま比較することはできないですが、障害者の雇用数は年々増加傾向にあることが分かります。

これらは広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)に関する調査ではありませんが、広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の中には知的障害(知的発達症)や精神障害を抱える方もいますので、上記調査に含まれている方もいます。そのため、広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)を抱えながら働いている人も年々増えていると言えるでしょう。

また就職率は年度によってかなりばらつきがありますが、「新規求職申込件数」は2005年から2010年までにおいて増加傾向にあります。このことから、働きたい人、また実際に就職する人も増えていると考えられます。
出典:厚生労働省「平成30年度障害者雇用実態調査」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05390.html

大人の広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)、いつ診断された?きっかけは?

適切な治療やサポートを受けられない場合、広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の主症状とは異なる合併症状や状態を引き起こしてしまうことがあります。このような症状や状態を、一般的には「二次障害」と言うこともあります。これには、うつ病、不安障害、不登校やひきこもり、アルコールなどの依存症などが含まれます。

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の人の中には大人になるまで気づかない人も多いのですが、気づくきっかけとなるのは、仕事の環境に適応できず不安障害、うつ病などの気分障害、睡眠障害などに陥ってしまう、いわゆる二次障害の発現です。それらをきっかけに心療内科などを受診し、広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)と診断される場合もあります。

大人になってから診断される人の多くは、子どもの頃から自分と他人の違いに違和感をもっていたり、他人と比べて上手くできない経験があり、それらを理由に自ら検査を受けに行く人も多いです。
小さい頃には違う障害名で診断されていて、大人になってから広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)と診断された人もいます。発達障害の診断は難しく、その症状が重複することもあり、病院によって違う診断を下されたという人もいます。また、成長によって言語能力や運動能力などが発達し、定期的に受ける検査で診断名が変わることも多くあるので、変化を感じた時や違和感・気になったタイミングで再受診することもいいかもしれません。

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の人が向いている仕事は?向いていない仕事とは?

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の人が向いている仕事

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の人の中には、こだわりを持ち、パターン化されたものを好む人が傾向としては多いそうです。そのため、同じ作業を繰り返すルーティンワークで強みを発揮する場合があります。一度仕事のやり方を覚えると効率よくこなす人も多く、職場で高評価を受けることが多いのもこのルーティンワークです。

併存する知的障害(知的発達症)の重さや一人一人の特性にもよりますが、職種としては工場作業や組み立て・梱包、スーパーマーケットの品出し、レストランやファストフード店での食器洗い、クリーニングや清掃業務、データ入力などが挙げられます。また、ある特定分野で天才的な能力を持つ人も多く、芸術家や学者、研究者として活躍している人もいます。

障害者の人が参加する「全国障害者技能競技大会」通称「アビリンピック」に出場する人の能力は、障害の無い人と比べても高いと言われており、その能力を活かして仕事をしている人もいるそうです。受賞者の多くがそれらを活かし、一般企業で働いています。
厚生労働省 第9回 国際アビリンピック(フランス・ボルドー大会)での日本選手団の成績
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000117901.html

広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)の人が向いていない仕事

急な予定変更や臨機応変な対応が苦手なため、接客業などは向いていないと感じる人も多いと考えられます。もちろん中には人と接することが好きで楽しみながら接客業をされている人もいます。また、長文の会話を理解するのに時間がかかったり、暗黙の了解や曖昧な表現が苦手なことから、会話を必要とする職業は一般的に不向きと言えます。

例えば、営業職などは高度な会話スキルや対人スキルを必要とします。スケジュールも固定されていないため臨機応変な対応が必要となり、苦手と感じる方が多いようです。大人になるまで広汎性発達障害(ASD/自閉スペクトラム症)と気づかなかった人の中には、営業職に就職したけれどうまくいかず、周りからすすめを受けて病院で検査した方もいます。
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