ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもへの接し方は?子育ての困難と対処法まとめ【専門家監修】

ライター:発達障害のキホン
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ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもにはどのように接するべきでしょうか?こだわりが多い、コミュニケーションが苦手、など様々な特性がある子どもの子育てにおいては不安に感じることも多いのではないでしょうか。この記事では、ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもを育てる時に生じることの多い困りごとと、その対処法をご紹介します。

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監修: 井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授
LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
ABA(応用行動分析学)をベースにエビデンスに基づく臨床心理学を目指し活動。対象は主に自閉スペクトラム症や発達障害のある人たちとその家族で、支援のためのさまざまなプログラムを開発している。
目次

ASD(自閉スペクトラム症)とは

ASD(Autism Spectrum Disorder/自閉スペクトラム症)は発達障害の一つで、「社会的なコミュニケーションの困難」「限定された行動や興味、反復行動」の2つの特徴があると言われています。

以前は「自閉症」という診断名が用いられていましたが、アメリカ精神医学会発刊の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において自閉的特徴を持つ疾患が統合され、2022年発刊の『DSM-5-TR』では「自閉スペクトラム症」という診断名になりました。この記事では以下、ASD(自閉スペクトラム症)と記載しています。
ASD(自閉スペクトラム症)の原因は、まだはっきりとは解明されていませんが、生まれつきの先天的な脳機能の偏りであると考えられており、保護者の育て方や接し方、愛情不足が原因ではないことが医学的にわかっています。

ASD(自閉スペクトラム症)の根本的な治療方法は現在のところありませんが、周りの環境を整えたり、接し方を工夫したりすることで、症状や困りごとを緩和できる場合があります。ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもの子育てにおいてもその特性に応じた工夫が必要です。
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ASD(自閉スペクトラム症)とは?専門機関や診断基準を解説【専門家監修】

ASD(自閉スペクトラム症)の子どもに接するときの4つの基本

1. ASD(自閉スペクトラム症)の子どもは、自分とは物事の感じ方が違うことを理解する

感覚や考え方は主観的なものなので、保護者といえども子どもの感じ方を完全に理解することは難しいものです。ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもの中には、感覚の過敏性や鈍さ(鈍麻)がある子どもが多いと言われています。また、特定の言葉や行動、状況などについて、独特の理解の仕方や受け止め方が見られる場合もあります。

そのため、「子どもは、自分とは違う感じ方、受け取り方をしているかもしれない」ということを意識し理解することが重要です。「このくらい言わなくてもわかるだろう」「この程度の音なら我慢できるはず」と思わずに、子どもがどう感じているか、何に困っているかを想像して接するようにしましょう。

2. 本人がわかりやすい方法で具体的に

ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは、言葉でのコミュニケーションが苦手な傾向にあります。言葉で説明しても、子どもは混乱してしまうことも多いです。

子どもにとってわかりやすい指示や対話の方法は一人ひとりの特性によって違います。わかりやすい指示の例を以下にご紹介します。

◇指示する前に注意を引く
ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは、興味のある活動に没頭しやすく、そうした活動をしているときに声をかけても指示が全く入らないこともあります。子どもに近づき視野に入って、こちらに注意を向けてから指示するようにしましょう。

◇短い言葉で具体的に指示する
「椅子に座って」「靴を履いて」など、短い言葉で具体的に伝えます。状況や理由などの説明をしたり、一度にあれこれ指示をしたりするとわかりにくくなってしまいます。シンプルなステップに分け、一つが終わってから次の指示をします。

◇視覚的な方法で説明する
ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは、耳で聞いた情報を理解することが苦手な傾向にあるため、絵や写真といった視覚的な情報を用いて伝えることで、理解しやすくなることが多いです。
言葉での指示や説明に加えて、絵や写真を補助的に使用すると、視覚的に理解しやすくなり、言葉でのコミュニケーションが苦手な子どもにとっても、何をして欲しいのかがわかりやすくなります。予定や約束ごとなども、絵にして伝えると、理解しやすくなります。

3. ほめることで「できる」を増やしていく

ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもと接する上では「ほめる」ことが大きなポイントになります。

◇スモールステップで「できた」を増やす
苦手なことはいくつかのステップに分け、少しずつ教えていく方法が効果的です。必要な手順を細かく分解し、分かりやすい方法で一つひとつ説明します。一つができたら思いっきりほめたりごほうびをあげたりすることで、「できたら嬉しい」「自分にもできる」という成功体験をたくさん味わってもらうことがとても重要です。

◇のぞましい行動をほめる
ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは相手の言葉の意図をくみ取ることが難しい場合があります。そのため叱るよりも、「してはいけない」ことはできるだけスルーし、「してほしい」ことをしたときにストレートな表現でほめるほうが効果的な場合もあります。うまくいったことや頑張ったことがあれば、どんな小さなことでも思い切りほめます。同じことでも何度もほめることで「よい行動」が印象づけられ、定着しやすくなります。
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4. 不安な気持ちに寄り添う

ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは、変化が苦手な傾向にあります。「いつもと違う」ことに強い不安と拒否感を感じやすいため、時間割が違う、いつもと違う道を通る、部屋の家具の位置が違う、など、ほかの人には些細に思えることでも気持ちが動揺しパニックになってしまうことがあります。

◇見通しを持たせて安心させる
ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは、これから何をするか予測できると安心して行動できることが多いため、先の見通しを立てられるように予告することが重要です。絵や写真など子どもが理解しやすい方法で、かつ子どもが安心できるタイミングで伝えるようにしましょう。伝えるタイミングは直前だとパニックの原因になりますし、早すぎると意味がなくなったり、他のことが手に付かなくなったりすることもあります。

◇不安からくる行動を理解する
匂いを嗅いだり、くるくるまわったり、ジャンプを続けたり…。特徴的な行動やくせが見られることがありますが、その行動は不安や緊張をやわらげるためにしていることもあります。無理に止めるといっそう落ち着けなくなる場合もあります。危険な行動や人に大きな迷惑がかかる行動でなければ、ある程度は容認することも大切です。

また、年齢とともに、深呼吸、散歩、音楽を聴く、ヨガをするなど、不安に対する適切な対処法を教えていくとよいでしょう。

ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは、何もすることがないと時間をもてあまして不安になることもあります。病院の待合室や電車の中などで手持ち無沙汰を解消できるよう、絵の描けるホワイトボードやパズルなど、好きな遊び、おもちゃを準備しておくと落ち着いて過ごせます。
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ASD(自閉スペクトラム症)の特性による7つの困難とその対処法

1. あいまいなことを理解するのが苦手

ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは、抽象的な表現や発言の意図を理解しにくい傾向があります。たとえば「ちょっと」や「きちんと」などがなにを指すのか、「少し」と言われてもどの程度なのかを理解することが苦手です。電話口で「お母さんはいますか?」と言われて「います」とだけ答えて電話を切ってしまったり、電話がかかってきた意図を理解できなかったりすることもあります。言葉をそのままうのみにしてしまうこともあり、クラスメートにふざけて言われたひとことを真に受けて落ち込んでしまうこともあります。

一般的に「当たり前」「常識」ととらえられていることを理解するのが難しい場合も多く、人の領域と自分の領域の境界線を理解することが苦手な場合、過度に接近してしまったり、反対に距離をとり過ぎたりしてしまうことがあります。

また、ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは、表情や態度から他者の気持ちを察知することが難しい傾向があります。そのため、「周りの空気を読んで言動を調整する」ことが難しく、静かにしなければならない場面で喋り続けてしまったり、怒られている最中でも面白いことがあれば笑ってしまったりすることもあります。

【対処法】
なによりも大切なのが、指示を分かりやすく伝えることです。慣用句や代名詞、冗談などを理解するのが困難に感じる場合が多いため、何をしてほしいか、どのように行動すべきかを明確に伝えましょう。
例えば、ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは、静かにしなければいけない公共の場で大きな声で喋り続けてしまうことがありますが、「図書館では静かに本を読みます」と具体的に言われた場合は指示に従うことができることが多いです。

また、命令形で指示を出されると、怒られているのではないかと感じ、不安に思う子もいます。たとえば「はやくお風呂に入りなさい」という言葉を提案的な意味合いで言ったとしても、本人は怒られているのだと感じてしまうこともあります。「5分後にはお風呂に入リましょう」などと、できるだけ本人に誤解を与えない言葉を使って会話をするように心がけましょう。

2. 物事に強いこだわりを持っている

ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは、自分の中で決めたルールを守ろうとしたり、物事に強いこだわりを持っていたりすることが多いです。ASD(自閉スペクトラム症)症のある子どもの中には、急な変化を苦手とする子どもが多く、日々同じルーティンで物事を行ったり、自分のこだわりで物事をやり遂げたりすることで安心感を得る傾向があります。「決まったルールは必ず守らなくてはいけない」という思いがある子が多く、柔軟に状況に合わせて行動することが難しい場合があります。

【対処法】
「ルールは例外的には破られることもある」ということを理解してもらうためには、周囲の人のことを信頼できる環境が必要です。周囲の人との信頼関係を築くことで、「例外」の変化に対して安心して対応できるようにしていきましょう。

3. 感覚過敏がある

ASD(自閉スペクトラム症)がある子どもの中には、感覚過敏のある子どもが多いといわれています。感覚過敏には様々な種類があり、五感以外にも重力や回転を感じ取る「前庭感覚」や、筋肉や関節に関係する「固有感覚」などが敏感な場合もあります。

感覚過敏の症状はさまざまですが、よく見られる症状として、特定の音を嫌がったり、触られるのを嫌がったり、特定のにおいを過度に嫌がったり、逆に好んだりするなどが挙げられます。赤ちゃんの頃に抱っこを嫌がったり、手をつなぐと拒否したりする行動が見られる場合もありますが、このような行動は、触覚過敏によるものである可能性があります。また、1つの感覚だけでなく、複数の感覚が過敏なこともあります。

【対処法】
上記のような行動がみられた時には、感覚過敏である可能性があることをまず認識しましょう。その上で、適切な環境調整を行ったり、不快な刺激を回避するためのツールを用いたりするとよいでしょう。例えば聴覚過敏であればイヤーマフなどで音を遮断できるようにして、不快な刺激を減らしましょう。
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4. コミュニケーションを取ることを苦手に感じる

ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは、人とコミュニケーションを取るのが苦手な傾向があります。上で述べたように人の表情から感情を読み取ることが難しいという特性もあり、表情やジェスチャーを使ったコミュニケーションが苦手な子どももいます。また、あまり他の人に興味を示さないという特性に加え、言葉をなかなか話さなかったり、同じことを何度も発言したり、会話が一方通行になったりなど、会話やコミュニケーションの難しさから交友関係を広げにくい場合があります。

【対処法】
口頭でのコミュニケーションを苦手としている場合でも、素敵な表現を用いた文章や論理的な文章を書くことができる場合もあります。言葉にすることが苦手な子どもも多いので、絵カードや、ICT機器など、言葉の代替となる表現手段を用意するのもよいでしょう。
言葉をあまり発さないからと言って伝えたいことがないわけではありません。親が子どもの感情によくアンテナを張り、気持ちの変化などに気付いてあげるようにしましょう。

5. 突然パニックを起こしてしまう

ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは、いきなり大声をあげたり感情が爆発してコントロールができなくなることがあります。本人なりの理由があったとしても、周囲からはその原因が見えづらく、急にパニックを起こしたようにみえてしまう場合もあります。パニックが強くなると頭を打ち付けたりたたいたり、腕をかむなどの自傷行為に至ることもあります。

【対処法】
パニックが起きたらおさまるまでしばらく見守りましょう。頭を壁に激しくぶつけるなど危険な行動が見られる場合は壁にクッションを当てるなどしてけがをしないようにします。

落ち着けるスペースなどがある場合は、そこに連れて行きます。しばらくして落ち着いたらおもちゃなど子どもの好きな物を出して、気分が切り替えられるようにします。

パニックを起こす時は、なにか原因があるかもしれません。落ち着いたら「なぜパニックになってしまったんだろう」と本人の気持ちを探り、日頃から本人をよく観察し、環境調整をするように心がけましょう。

6. 困っても自分で助けを求めることが困難

ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは自分が「困っている状況」にあるということが理解できず、パニックになったり固まってしまったりする場合もあります。また困ったことがあったときにうまく助けを求められないこともあります。

【対処法】
困ったことや、できないことがあったときに、子ども自身が自分でサインを出して助けを求められるようになることがとても大切です。まずは子どもに「いらいらする」「どうしたらいいのかわからない」「涙が出る」など、自分の感覚や感情がどのような状態であると「困っている状況」なのかを教えます。

そして困った状況になったら誰に助けを求めればいいかを教えます。「どうしたらいいのですか?」「わからないので教えてください」など、具体的にどのように言えばよいかも説明するとよいでしょう。

7. 時間的な見通しを持つのが苦手

ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもは時間的な見通しを持つことが苦手な傾向にあります。また、予測できない変化が苦手なため、わかりやすい見通しがないと不安になることもあります。わかりやすいスケジュールなどがあるとスムーズに動けることが多いです。

【対処法】
◇時間を把握するためには?
ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもの中には時間の感覚を理解することに困難さを持っている場合があります。ですから1日のスケジュールを見やすいところに貼り、何時に何をするのかを目で見て確認できるようにします。慣れるまでは大変かもしれませんが、慣れてしまえば自分から行動することができるようになります。
時計が読める子どもには、時計を使い説明すると、本人も理解しやすくなります。個人差があるので本人が理解しやすい方法を選んでください。

◇夢中になるとやめることができない
夢中になっている時に何かをやめさせるのは難しいですが、何かを始める前に「始める時間」と「終わる時間」を決めておきましょう。そうすると終わりの時間がはっきりしていますので、やめさせる時にパニックになりづらくなります。視覚的に残り時間が表示されるタイマーなどを使うとよいでしょう。

◇睡眠障害を軽減させるには?
ASD(自閉スペクトラム症)のある子どもの中には睡眠障害が併存する場合もあります。生活リズムが崩れている場合、急に戻すことは家族や本人にも負担がかかってしまいますので、焦らずにゆっくり正常に戻していくことが大切です。昼間に沢山遊ばせる、体を使った遊びをするなどし、夜になったら眠たくなるように生活のリズムを整えていきましょう。
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