ノーマライゼーションの基本原理

ニィリエが提唱した、ノーマライゼーションの8つの基本原理を紹介します。ニィリエが基本原理を提唱した当時は、知的障害者は大型施設で生活し、社会から分離されることが当たり前とされる時代でした。

そのため、ニィリエの提唱した基本原理には、大型施設に対して批判的な側面がありますが、ノーマライゼーションの基本原理は現在にも通じる点が多くあります。

1. ノーマルな一日のリズムを送る
1つ目の基本原理は、障害のある人でも、ない人と同じような一日の生活のリズムが送れるような環境をつくりだすべきという考えです。これは、例えば障害のある人も毎朝ベットから出て着替え、朝食を食べるのが好ましいということです。

障害があるという理由で自分の意志に逆らって、不必要に家族よりはやく就寝したり、外出したりしないという社会ではなく、誰もが各々のリズムで生活できる社会を目指すのがノーマライゼーションの考え方です。

2. ノーマルな一週間のリズムを送る
多くの人は、平日は自宅や職場、学校など複数の場所で活動しています。週末は、さらに他の場所で余暇活動をすることも珍しくありません。施設で生活している人は、平日週末を問わず施設が活動場所の中心になっています。

2つ目の基本原理は、障害があり施設に入所している人でも、地域社会におけるいくつかの異なるグループに所属し、日々の生活に刺激があることが自然という考え方です。

3. ノーマルな一年のリズムを送る
ノーマルな一年には、季節の変化や、こどもの日やひなまつりなどの伝統行事、誕生日などさまざまなイベントがあります。

3つ目の原理で大切なことは、障害があるかどうかでこれらのイベントに参加できるかどうかが決まってはいけないということです。これは、障害のある人が地域社会に関わっていく面でも大切な考え方です。

4. 個人のライフサイクルを通してのノーマルな発達的経験をする機会を持つ
誰しも、生まれてから幼児期、学童期、成人期、高齢期のライフサイクルを順に経験していきますが、障害のある人のライフサイクルは多くの人のライフサイクルとは異なっている場合があります。

例えば、家族と一緒にいられる時間が極端に短い幼児期を過ごす子どももいます。

そうではなくて、誰もが同じようなライフサイクルを経験できるようにしようというのが、4つ目の原理です。

5. 障害者の選択や願い、要望ができる限り考慮され尊重される
5つ目の原理は、本人自身の選択や希望はできる限り、尊重されるべきという考え方です。

そのためには、考えていることや意見をうまく言葉で伝えることが困難な人に対しても、注意深く耳を傾け、その人の意志や要望を聞く必要があります。

6. 男女が共に住む世界での生活を送る
社会では、男性と女性が協力して生活しています。しかし、それらしい理由がないにも関わらず、男女が離れて生活している施設も少なくありません。6つ目の基本原理は、男女を不必要に分離するのではなく、協力しあえる環境を作るべきという考えです。

7. ノーマルな経済水準を得る
7つ目の基本原理は、障害のある人も、社会に参加して、基本的な経済活動を行えるようにするべきという考え方です。そのためには、児童手当や早期年金、住宅手当、年金、最低賃金などの経済支援が必要になることもあります。

8. 設備が、障害のない人を対象とする施設と同じレベルのものである
障害者を対象とする施設と一般市民を対象とする施設の設備のレベルが異なっていることがあります。

例えば、一人あたりの居住空間を考えてみても、一般的な家のほうが、入居施設よりもプライベートな空間は広い傾向があります。

このように、理由もなく障害の有無によって施設の環境にギャップがあるのは好ましくありません。障害者向けの施設をより一般的な施設に近づけていくべきであるというのが8つ目の基本原理です。

ノーマライゼーションの8つの基本原理は、一見それぞれ言っていることがばらばらのようにも感じられますが、どれも障害のある人とない人の日常生活におけるギャップを埋めていこうという側面があります。
参考書籍:ベンクト ニィリエ/著『再考・ノーマライゼーションの原理ーその広がりと現代的意味』現代書館 (2008年)/刊
https://www.amazon.co.jp/dp/4768434835

インクルーシブ教育って? ノーマライゼーションの教育分野での取り組み

ノーマライゼーションが広がるにつれて、教育の現場にも変化がありました。

もともと、障害のある人とない人を完全に分離して教育が行われていましたが、1981年の国際障害者年をきっかけに、分離教育を減らし、障害の有無にかかわらず同じ教室で授業を受けられるようにしようと考えられはじめました。

しかし、みんなが同じ教室で授業を受けることを推し進めるあまり、子ども一人ひとりに必要な支援をすることができませんでした。この反省をもとに、「一人ひとり丁寧に」「みんなで一緒に学ぶ」の両方を実現する新たな教育としてインクルーシブ教育が打ち出されました。

特別支援学校、特別支援学級、通常学級など多様な教育の場を提供したり、子ども一人ひとりの困難さに応じた個別の配慮=合理的配慮によって、障害を気にせず勉強したり、生活したりできるようにすることが目指されています。
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ノーマライゼーションに基づく就労への取り組み

ノーマライゼーションの理論では、障害のある人もない人と同様に就労を通じて、自己実現できるようにするべきだと考えられています。障害者の社会進出という点からも、少しずつ制度が整えられはじめました。

厚生労働省は現在、障害のある人が障害のない人と同じように、その能力と適正にあった仕事をすることで、地域で自立して生活できるように、雇用対策を進めています。

例えば、企業に障害者を雇うことを義務化したり、障害者雇用に積極的な企業に支援をしたりしています。
障害者雇用対策|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/shougaishakoyou/index.html
次ページ「身近なノーマライゼーション 商品などのユニバーサルデザインって? 」

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