「障害があるように見えない」「勉強できるからいいじゃない」言われがちなセリフへのモヤモヤーー発達障害中1息子の理解を得づらい凸凹の激しさ

ライター:丸山さとこ
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ASDとADHDがある息子のコウは、凸凹エピソードに対して「誰にだってあるよ」と言われることがしばしばあります。

『それはそうだ。コウの苦手さや難しさの程度を知らなければ、そういうコメントになるよね』と内心でうなずいたりしています。

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監修: 新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
2003年信州大学医学部卒業。小児科医師として、小児神経、発達分野を中心に県内の病院で勤務。2010年信州大学精神科・子どものこころ診療部で研修。以降は発達障害、心身症、不登校支援の診療を大学病院及び一般病院専門外来で行っている。グループSST、ペアレントトレーニング、視覚支援を学ぶ保護者向けグループ講座を主催し、特に発達障害・不登校の親支援に力を入れている。 多様な子育てを応援するアプリ「TOIRO」の制作スタッフ。

コウの凸凹について言われがちなセリフTOP3!

ASDとADHDがある息子のコウは、「そんなの誰にだってあるよ」と言われることがしばしばある。和やかに会話しながらも「コウの苦手さや難しさの程度を知らなければ、そうなるよね」と私も内心でうなづいたりしている私。「勉強できるしー!」という言葉に『…って思うじゃん!?』と内心でツッコミつつ曖昧な笑顔で応えている。
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「誰にだってあるよ」「凸凹があるようには見えない」は殿堂入り!

神経発達症(発達障害)がある人は、『大丈夫だよ、気にすることないよ』という善意からの言葉として「そんなの誰にだってあるよ」「凸凹があるようには見えないよ?」と言われることがしばしばあります。

また、凸凹エピソードに対して「うちの子どもも同じ~!」「あるある。まだまだ〇年生ってそういう子どももいるよ」と言われることは多く、『それはそうだ。コウの苦手さや難しさの程度を知らなければ、そういうコメントになるよね』と内心でうなずいたりしています。

「〇〇だからいいじゃない」に曖昧な笑顔をつくる私です

そんな定番のコメント以外にも、コウの凸凹についてよくいただくコメントがあります。「〇〇だからいいじゃない」「□□なんだから大丈夫だよ!」というものです。

コウの凸の部分を指して言われるその言葉に「…って思うじゃん!?」と内心でツッコミつつ、曖昧な笑顔で応えるほかない私です。

それらの言葉の中には、慰めや励ましのつもりで言われたものも多いのだろうと思います。実際、私自身が優しさのつもりで同じような言葉をかけていることも多々あるはずです。

とはいえ、普段コウの凸凹にコウ本人も周りも振り回されているのを知っていると「〇〇だからいいか~!」と本心から流すことはできない複雑な心境になることもしばしばです。

「〇〇だからいいか~!」とは言い難いアレコレ…

凸があることはありがたいと思う。けれど…?

コウには確かに、凸と見なされやすいところがいくつかあります。「野菜が食べられる」「読書をする」「テストの点数が高い」「英語が好き」などの要素を見ていくと、彼には凹を補って余りある凸があるように見えます。

けれども、それは『凸凹の差がゆるやかな子ども』を想定した上で見たコウの姿なのかもしれません。

お子様ランチのメインが全て食べられなかったコウ

まず「野菜が好きならいいじゃない!」に関してですが、コウは小学校中学年のころまでほとんどの肉類が食べられませんでした。『苦手』ではなく『食べられない』なので、ミンチのひとかけらすら料理に入っていれば見つけ出します。

「せめて出汁や油分だけでも」と思い、豚コマ入りの焼きそばをつくってからキャベツと麺だけを取り分けたこともありました。それでも、彼は5ミリもない小さな肉のかけらが口に入っただけで「ムリ…」と涙目になって飲み込めませんでした。

そんな調子なので、一般的なお子様ランチは食べられません。冠婚葬祭や旅行中のホテルでの食事など自由にメニューを選べない場では、親の食事から取り分けながら何とか食事量を確保していました。
式場での会食にて、お子様ランチを前に『食べられるものがない』と困っているコウ。それを見て「みそ汁飲むか」と勧める夫と、「お母さんのブロッコリー食べる?」と勧める私。
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小学校高学年に入ってからは少しだけお肉も食べられるようになりましたが、それも食べたり食べられなかったりといった調子で、いくらか安定して食べられるものはレトルトのミートボールと冷凍から揚げ(それぞれ特定の1商品のみ)でした。

チーズと卵は食べられたので、それらの食品もアレルギーや感覚過敏で摂れないお子さんがいることを考えれば『何とかやっていける範囲の食べられなさ』だったのだろうと思います。

とはいえ、コンディションによってはそれすら受けつけないこともあるコウがご飯と野菜だけの食事をとるのを見ていると、「これでは栄養が足りないだろうな~」と不安になることもありました。

テストの点数ではカバーしきれない「未提出課題の多さ」

また、「コウ君は勉強ができるからいいよね!」に関しても、素直に「そうだね!」と言い難い現状があります。

コウの成績表は4と3で構成されています。それだけを見ればこれといって大きな特徴のない普通の成績です。私も「この成績を高校受験までキープできたらいいな」と思っています。ですが、その一見普通の成績も、凸凹の激しいせめぎ合いの結果なのです。
1学期の成績表について、スクールカウンセラーの先生から「コウ君の定期テストの順位でこの成績は通常あり得ないことです」と真剣な表情で言われ、「そうじゃないかなと思っていましたが…」と動揺する私。
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1学期の成績表について、スクールカウンセラーの先生から「コウ君の定期テストの順位でこの成績は通常あり得ないことです」と真剣な表情で言われたことがあります。地域の上位進学校を視野に入れられる学力にも関わらず、未提出課題があまりに多すぎて5が一つもなかったのです。

これにはコウもショックを受けて、2学期は課題の提出を頑張りました。その甲斐あって2学期の成績は上がりましたが、学力に合った学校に進学できるほどの内申点にはまだ届いていません。1~3割だった提出率が5~8割になっただけで、十分な提出率とは言えないからです。

これまでを知っている親から見れば快挙ですし、先生方も「1学期より頑張っているね」とコウに伝えてくださっています。それでも、進学についての話になると先生方もしぶい表情にならざるをえません。
頑張ったものの提出漏れが多かった2学期を見て『ミスを完全になくすのは難しいかもな…』と思いながら、「まずは7~9割の提出率を目指してやってみようか」とコウに提案する私。コウはプリントを整理しながら「うん。成績上げたいからねー!」とやる気を見せている。
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私立高校への進学を選べば、受験における内申点の影響は低くなります。ですが、入試に合格できたとしても、大学への進学率が一定以上ある高校であれば、入学後に課題や提出物の量に苦しむであろうことが予想されます。

提出物をどうするかは「進学を乗り越えさえすれば何とかなる」とは言い切れないコウの課題で、親子共々(そして学校やスクールカウンセリングの先生も)頭を悩ませています。

打ち消したり補ったりするのが難しい「コウの凸凹」

これらの食事や勉強の困りごとのように、コウの凸凹は『打ち消したり補ったりするのが難しい凸凹』であることが多く、「凸は凸でありがたいし、凹は凹で凄く困ってるんだよな~!」という状況になりやすい傾向があります。

学校行事で保護者の方々と話していると、「うちの子どもは勉強は苦手だけど、サッカーは得意だからスポーツ推薦で私立高校に進学することにしたよ」などの「得意を活かして苦手をカバーした話」を聞くことがあります。

コウも同じような話の枠として扱われているのだろうと感じることがありますが、彼の場合は「凸に合わせれば凹でつまずき、凹に合わせれば凸でつまずく」ことが多いようです。
コウに話をしていた大人が、話がスッと通らないコウの様子を見て『Aが理解できるのにBが分からないのはちゃんと話を聞いていないからだ』と判断している。「真面目に話を聞きなさい」と注意されたコウは、『えっ…真面目に聞いてるよ?』と焦っている。
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・多くの子どもが嫌いな野菜をモリモリ食べる姿を見て「お肉も少しくらいなら食べられるでしょ?」と強いられて吐いてしまう。

・「Aが理解できるのにBが分からないのは、ちゃんと話を聞いていないからだ」と思われ叱られる。

・「Bが分からないということはAを説明しても無駄だろう」と判断され、説明を受けられない。


…などの出来事に困ったり混乱したりしているコウを見ると、『〇〇だからいいじゃない』『□□なら大丈夫だよ』とは言えないなと思います。

スポーツが得意で勉強が苦手な子どもは理解されやすいのに、コウの場合はそうなりにくいのはなぜなのでしょうか。私は、『その存在が一般的な想定の範囲内なのかどうか』によるのではないかと考えています。

コウの凸凹は一般的な想定の範囲を超えているため、「できないのではなく、しないだけだろう」と解釈されやすいのかもしれません。

理解されにくい凸凹に困ることはあるけれど

そんな風に理解されにくい凸凹に悩まされることの多いコウですが、理解されにくいことそのものに対してはザックリと捉えて気にしていないそうです。

「分からないことは仕方ない。自分も周りの人の気持ちや考えは分からないことも多いし、すごく嫌なことを言われたりするんじゃなければいいや」とコウは言います。

私もコウと似たような考え方をしているところがあり、その気持ちは少し分かるなと思います。理解を求めてジレンマを抱えたりストレスを溜めたりすることを思えば、自分が楽になる考え方と言えるのかもしれません。
「分からないことは仕方ない。すごく嫌なことを言われたりするんじゃなければいいや」と言うコウに「そっかー」と返事をしつつも、『段々と理解を求めなくなっていく気持ちは分かるかも。けど…』と少し複雑な気持ちになる私。
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その一方で、近年の私は「これはあまりにも『他者や社会』をバッサリと切り捨てている考え方なのかもしれないな」とも思うようになりました。

理解を求めず「現状こうなのだから仕方ないね」と割り切れば、悩むことはなく気持ちは楽かもしれません。ですが、理解を得られないことによる誤解や、それに基づくトラブルや軋轢(あつれき)は解消しないままになるのだろうと思います。

私がそう考えるようになったのは、近年、自分の内面や都合について友人や家族に話すことで『伝えることにより理解される』という経験を積み重ねていったからなのかもしれません。
「友達オススメの面白い動画があるんだよ。お母さんも見る?てか見てほしい!」とタブレットを操作しながら楽しそうなコウのイラスト。『コウがその時々に合った「自分の納得感」を大事にしながら、周囲とのズレも含めた凸凹と付き合っていけたらいいなと思います』というモノローグ。
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コウはこれからも自分自身の凸凹によってつまずくでしょうし、分かりにくい凸凹であることから周囲の理解を得られずに困ることもあるだろうと思います。そうしていく中で、彼がその時々に合った『自分の納得感』を大事にしながら、周囲とのズレも含めた凸凹と付き合っていけたらいいなと思います。

執筆/丸山さとこ
(監修:新美先生より)
発達障害のある方にとってよくある、「誰にだってあるよ」「〇〇だからいいじゃない」とよく理解していない人に軽く言われてモヤモヤするというエピソードを、具体的に紐解いて解説していただきありがとうございます。本当によくありますよね…。書いていただいたようにまさに「凸凹は一般的な想定の範囲を超えている」ので、なかなか分かってもらえないのだろうというところです。全員に分かってもらうのは難しいので、分かってもらえそうにない人には理解を求めるのを諦めてスルーした方が、こちらの精神衛生上はいいのでは?とお話しすることが多かったのですが、今回の記事の中に「自分の内面や都合について友人や家族に話すことで『伝えることにより理解される』という経験を積み重ねていったからなのかもしれません。」という一文には、思わずハッとさせられました。
誰にでも理解を求めていこうとするとこちらも疲れてしまいますが、味方になってもらいたい大切な相手には、丁寧に伝えることで理解してもらえることに越したことはありませんね。そういうときに、ここにあるさまざまな体験談・解説などの記事を参考にして自分のお子さんの場合と照らし合わせて、説明の仕方を工夫するのもいいのかもしれません。いつも分かりやすい記事をありがとうございます。
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