アテトーゼ型脳性麻痺とは?症状や理学療法、痙直型との違いを解説/医師監修

ライター:発達障害のキホン
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脳の損傷により運動や姿勢に影響が生じる脳性麻痺は、いくつかのタイプに分けられます。そのうちのひとつ、「アテトーゼ型」は、自分の意志とは無関係に筋収縮が起こり、体の一部が動く「不随意運動」が見られる脳性麻痺のこと。赤ちゃんの時に見られる症状は? ほかのタイプの脳性麻痺とはどう違う?など、詳しく解説します。

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監修: 藤井明子
小児科専門医
小児神経専門医
てんかん専門医
どんぐり発達クリニック院長
東京女子医科大学大学院修了。東京女子医科大学病院、長崎県立子ども医療福祉センターで研鑽を積み、2019年よりさくらキッズくりにっく院長に就任。2024年より、どんぐり発達クリニック院長、育心会児童発達部門統括医師に就任。お子様の個性を大切にしながら、親御さんの子育ての悩みにも寄り添う診療を行っている。 3人の子どもを育児中である。
目次

脳性麻痺とは?原因や定義など。

脳性麻痺とは、妊娠中から新生児期の間になんらかの原因で生じた脳の損傷のために、姿勢や体の動きなどに運動機能の障害が引き起こされる症候群です。厚生労働省脳性麻痺研究班により、次のように定義されています。
脳性麻痺とは受胎から新生児期(生後4週間以内)までの間に生じた脳の非進行性病変に基づく、永続的なしかし変化しうる運動及び姿勢の異常である。その症状は満2歳までに発現する。進行性疾患や一過性運動障害または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅延は除外する。
(厚生労働省脳性麻痺研究班の定義(1968年))
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会/監修『脳性麻痺リハビリテーションガイドライン第2版』
出典:https://www.jarm.or.jp/wp-content/uploads/file/member/member_publication...
脳は、体を動かすときに筋肉へどのように動かしたらよいかなどの信号を送る役割を果たしています。そのため、脳が損傷すると、自分が思った通りに動いたり、姿勢を保ったりすることが難しくなります。脳が損傷している部位は一人ひとり異なりますので、動きや姿勢に現れる症状も一人ひとり違ってきます。

脳性麻痺の原因には、さまざまな要因による脳形成不全や、胎児期における風疹やトキソプラズマ症などの感染、出産前後の低酸素状態、核黄疸(新生児期の重度の黄疸による脳の障害)などがありますが、はっきりしない場合もあります。

脳性麻痺は、運動障害の性質により、「痙直型」「アテトーゼ型」「失調型」、痙直型とアテトーゼ型が組み合わさった「混合型」などいくつかのタイプに分けられています。このコラムでは「アテトーゼ型」について詳しく解説をします。

アテトーゼ型脳性麻痺とは?

アテトーゼ型脳性麻痺とは? 痙直型との違いは?

アテトーゼ型は、痙直型に次いで多いタイプの脳性麻痺です。

もっともよく見られる痙直型は、脳性麻痺全体の約70%を占めると言われています。主な症状は、筋肉が緊張し続けているために突っ張った状態となるこわばり(痙直)と筋力の低下です。筋肉のこわばりは、両方の手足に起こることもあれば、片側の手足、足のみに起こることもあります。

次に多いアテトーゼ型は、約20%を占めると言われています。自分の意志とは関係なく体が動く不随意運動が見られるのが特徴です。この不随意運動のことをアテトーゼといいます。不随意運動は、不安に感じて緊張したときやうれしくて興奮したときなど、強い感情によって激しくなります。睡眠中には見られません。不随意運動は、自分の意志とは関係なく引き起こされますので、例えば、筋肉の緊張が高まって腕がピンと伸びるなどして姿勢を保てなかったり、全身の緊張が高まってうまくしゃべれなくなったりすることもあります。

アテトーゼ型脳性麻痺のある赤ちゃんの症状の特徴とは?

首がすわるのが遅い、寝返りをしない、おすわりができないなど、赤ちゃんが一般的にできるようになると言われている月齢を過ぎてもできないと心配になることもあると思います。しかし、発達の個人差は非常に大きいため、発達がゆっくりだからといって脳性麻痺であるとはかぎりません。赤ちゃんの段階で脳性麻痺かどうかを判断するのは、難しいのが現状です。同じような運動や姿勢の異常が見られても、必ずしも脳性麻痺ではなく、一過性の異常で、成長と共に見られなくなる場合もあります。

アテトーゼ型脳性麻痺の知的発達

脳性麻痺の症状として、知的障害を伴うことがあります。軽度〜重度と症例によって程度はさまざまです。アテトーゼ型脳性麻痺は言語療法を必要とすることがありますが、口の動きが思うようにできず、言葉をうまく発音できないために起こる構音障害に対して行われます。

残存しやすい反射は?

赤ちゃんの頃には、さまざまな反射と呼ばれる動きが見られます。赤ちゃんの成長のためには必要なもので、ビクッとして手を大きく広げる「モロー反射」などがよく知られています。アテトーゼ型脳性麻痺の赤ちゃんに残存しやすい反射には、「緊張性迷路反射」「非対称性緊張性頸反射」などがあります。

「緊張性迷路反射」とは、赤ちゃんの頭を前に傾けると体や手足が前に丸まり、頭を後ろに傾けると手足や体が伸びるという反応です。一方、「非対称性緊張性頸反射」とは、仰向けの姿勢で首を一方に向けると傾けたほうの手足が伸びて反対側の手足が曲がるという反応です。

反射は、成長するとなくなりますが、それが残存することがアテトーゼ型の脳性麻痺のある赤ちゃんの特徴だと言えます。
参考文献:飛松好子「中枢神経の障害 (4)不随意運動:特に脳性麻痺アテトーゼ型について」 日本義肢装具学会誌(2000年、日本義肢装具学会)
https://doi.org/10.11267/jspo1985.16.60

アテトーゼ型脳性麻痺の理学療法(リハビリ)

脳性麻痺の原因は、妊娠中から新生児期の間に何らかの要因により引き起こされた脳の損傷です。病気ではありませんので、悪化することはありません。また、現在の医療技術では、脳の損傷した部分を直接治すことはできません。しかし、脳のほかの部分が補って、動かない体の部位の代わりに、ほかの部位が発達していくこともありますし、適切なリハビリテーションにより活動範囲を広げ、自立性を高めることはできます。リハビリテーションには、次のようなものがあります。

・理学療法(PT)
歩く、立つなどの運動や姿勢を改善するための運動療法や、マッサージや電気刺激で痛みを軽減する物理療法を行います。

・作業療法(OT)
食事や着替えなどの生活動作や仕事で使う動作などのスキルが高まるように、実際の作業を通じて訓練を行います。

・言語療法(ST)
話すことや聞くこと、ものを飲み込むことなどに困難がある場合、それらができるように訓練を行います。発声がうまくできるようになるために行う構音訓練も、言語療法のひとつです。

このほか、関節を固定させたり歩くことを補助したりする装具を用いる装具療法があります。また、必要に応じて投薬や手術などの治療が行われることもあります。リハビリテーションは、通院だけでなく、入院でも行われます。また、病院のリハビリテーション室で行う訓練だけでなく、日常生活での環境調整が大切です。家庭や学校で日常の動作として立ったり歩いたりする機会を多く持つことが重要になってきます。
参考文献:朝貝芳美「教育講座 脳性麻痺時におけるリハビリテーションの実際―運動機能を中心に―」 The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine(2017年、日本リハビリテーション医学会)
https://doi.org/10.2490/jjrmc.54.449

まとめ

ここでは、アテトーゼ型の脳性麻痺についてご紹介してきました。

アテトーゼ型の脳性麻痺は、自分の意志とは関係なく手足などの体の部位が動く「不随意運動」が見られるのが特徴です。赤ちゃんの頃から運動面の発達に遅れが見られますが、発達がゆっくりだからといって、必ずしも脳性麻痺とはかぎらず、成長とともに改善する一過性のものであることもあります。赤ちゃんの発達で気になったときは、医師に相談しながら、成長を見守っていくことが大切だと言えるでしょう。

また、アテトーゼ型の脳性麻痺も、ほかの脳性麻痺同様、脳の損傷による障害ですので、現在の段階では、直接治療する方法はありません。しかし、理学療法や作業療法など、姿勢や運動機能の改善を目指すリハビリテーションが行われています。症状は一人ひとり異なりますので、それぞれに合ったリハビリテーションを受け、環境調整を行うことで、日常生活での困りごとを軽減し、主体的な生活がおくれるようになっていきます。
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