「地獄のような時間なんよ」中2の自閉症息子が学校を休んだ日、表情は清々しくて
ライター:まゆん
中学校に通っているASD(自閉スペクトラム症)の太郎は、ある日、学校に行きたくないような素振りを見せました。その理由は……。
監修: 鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
1959年東京都生まれ。1985年秋田大学医学部卒。在学中YMCAキャンプリーダーで初めて自閉症児に出会う。同年東京医科歯科大学小児科入局。
1987〜88年、瀬川小児神経学クリニックで自閉症と神経学を学び、栃木県県南健康福祉センターの発達相談で数々の発達障がい児と出会う。2011年、茨城県つくば市に筑波こどものこころクリニック開院。
太郎が学校に行きたくない理由
ある日、ASD(自閉スペクトラム症)の太郎が学校に行きたくないような素振りを見せた。私と祖母にはその理由ははっきりと分かっていた。その日は学校のバレーボール大会なのだ。
バレーボールの練習の段階から太郎は「バレーボールは難しい」「どこにボールを当てたらいい?」「どうやってボールをとばしたらいい?」など困っていた。毎日のように「今日もバレーボールした……」と浮かない顔で言っていた。
バレーボールの練習の段階から太郎は「バレーボールは難しい」「どこにボールを当てたらいい?」「どうやってボールをとばしたらいい?」など困っていた。毎日のように「今日もバレーボールした……」と浮かない顔で言っていた。
幼い頃から運動全般が苦手だった太郎
初めに不器用さを感じたのが離乳食の頃。嚥下や咀嚼が苦手で食事中にえづくことや嘔吐もみられた。これに関しては感覚過敏からくることも考えられるが、そのほかにもその運動自体に問題がある可能性について分かってきた。
次に箸や鉛筆の扱いの不器用さが著しかった。この頃、保育園側から家でも箸や鉛筆の扱いの練習をするようアドバイスがあったが、私は練習の量の問題ではないと太郎の動きからなんとなく気づいていた。
それから小学生になると、指先の小さな動きの不器用さは明らかになってきた。定規、ボタン、靴ひも、鉢巻、エプロンのひも結び、どれもほかの人の3倍以上は時間がかかるか、できずに途中で諦めていたり、周りに助けを求めてしてもらうことがあった(これは良いことだと思っている)。
特に難題だったのが、先生と取り組んだ縄跳び。いまだに太郎の中では苦でしかないだろうと思っている。縄を回すこと、腕を回すこと、縄のタイミングに合わせてジャンプすること。複数の動きを同時にしないといけないのが縄跳びだと、この時私は勉強になった。
太郎はその複数の動きを同時に起こす運動も苦手である。これは練習を重ねても平均的な跳びはできなかった。なんで跳べないのかと本人も思っているのかもしれない。明らかに縄跳びの時間になるとテンションが低かったと担任の先生から聞いていた。
自転車は小学5年生まで練習をぼちぼちと行っていたが中学生になってからは練習することもしていない。直線でも急にブレーキを強くかけたりいきなりバランスをくずして転倒する。何回乗っても手にはマメを作るほど力が異常にかかる。なので危険性を感じるためサイクリング場での自転車の運転だけで収めている。
次に箸や鉛筆の扱いの不器用さが著しかった。この頃、保育園側から家でも箸や鉛筆の扱いの練習をするようアドバイスがあったが、私は練習の量の問題ではないと太郎の動きからなんとなく気づいていた。
それから小学生になると、指先の小さな動きの不器用さは明らかになってきた。定規、ボタン、靴ひも、鉢巻、エプロンのひも結び、どれもほかの人の3倍以上は時間がかかるか、できずに途中で諦めていたり、周りに助けを求めてしてもらうことがあった(これは良いことだと思っている)。
特に難題だったのが、先生と取り組んだ縄跳び。いまだに太郎の中では苦でしかないだろうと思っている。縄を回すこと、腕を回すこと、縄のタイミングに合わせてジャンプすること。複数の動きを同時にしないといけないのが縄跳びだと、この時私は勉強になった。
太郎はその複数の動きを同時に起こす運動も苦手である。これは練習を重ねても平均的な跳びはできなかった。なんで跳べないのかと本人も思っているのかもしれない。明らかに縄跳びの時間になるとテンションが低かったと担任の先生から聞いていた。
自転車は小学5年生まで練習をぼちぼちと行っていたが中学生になってからは練習することもしていない。直線でも急にブレーキを強くかけたりいきなりバランスをくずして転倒する。何回乗っても手にはマメを作るほど力が異常にかかる。なので危険性を感じるためサイクリング場での自転車の運転だけで収めている。
中学生になりストレスが大きくなって
中学1年生の頃は大縄跳び大会でうまく飛べずに固まってしまい、2年生の時は水泳の時間にほかのクラスの生徒から一人ビート版の練習をしているのを笑われたとトラウマになっている。学年が上がるにつれて、太郎の中でも強く運動の不得意さを感じストレスになっていると感じている。
そんな中、中学1年生の終わりに療育センター相談をした。その時に担当の心理士の先生から伝えられたのが「DCD(発達性協調運動症)」についてだった。実際に、発達性協調運動症に関するチェックシートを記入してみると、ほぼ当てはまっていた。DCDの可能性が分かり納得はできたが、これからどうしていくかが私と太郎の課題になると感じた。
おそらく学校の先生はDCDについて詳しく知らない。どういう関わりがベストなのかといったマニュアルがない場合、先生の考え一つで教育は変わるだろうと思った。
一度担任の先生に相談した際は、「苦手な運動でも評価に繋がるため、頑張って参加してほしい」とのことであった。一方で私は参加を推すことで二次障害が出現しないかを危惧している。
これから私が行おうと思っているのは、太郎がどの範囲まで運動が可能か、何ができて何ができないかを知ることだ。そして、学校の先生と情報共有し配慮を行ってもらうこと。それが、太郎のメンタル面の二次障害を引き起こさないために必要になると考えている。
そして今回のバレーボール大会ではいよいよ学校を休むという判断を本人が出した。休んでどうだったかをあとで聞くと、後悔や後ろめたさはないとのことだった。逆に清々しく感じているようにも思えた。
学校の先生に事情を説明すると、とても残念そうにこう言われた。「20分だけでいいから頑張ろうと伝えてたんですけどね、だめでしたか」と。その言葉を太郎に伝えると「お母さん、バレーボールをしている時の20分は俺にとってはすごく長くて、地獄のような時間なんよ」と。
太郎の言うことはよく分かる。不思議な動きを見られて周りから笑われるくらいなら私も休んだほうがましだ、と思うに違いない。まさに今、先生の考えと私の考え、太郎の気持ち、DCD……いろいろと考え中である。
そんな中、中学1年生の終わりに療育センター相談をした。その時に担当の心理士の先生から伝えられたのが「DCD(発達性協調運動症)」についてだった。実際に、発達性協調運動症に関するチェックシートを記入してみると、ほぼ当てはまっていた。DCDの可能性が分かり納得はできたが、これからどうしていくかが私と太郎の課題になると感じた。
おそらく学校の先生はDCDについて詳しく知らない。どういう関わりがベストなのかといったマニュアルがない場合、先生の考え一つで教育は変わるだろうと思った。
一度担任の先生に相談した際は、「苦手な運動でも評価に繋がるため、頑張って参加してほしい」とのことであった。一方で私は参加を推すことで二次障害が出現しないかを危惧している。
これから私が行おうと思っているのは、太郎がどの範囲まで運動が可能か、何ができて何ができないかを知ることだ。そして、学校の先生と情報共有し配慮を行ってもらうこと。それが、太郎のメンタル面の二次障害を引き起こさないために必要になると考えている。
そして今回のバレーボール大会ではいよいよ学校を休むという判断を本人が出した。休んでどうだったかをあとで聞くと、後悔や後ろめたさはないとのことだった。逆に清々しく感じているようにも思えた。
学校の先生に事情を説明すると、とても残念そうにこう言われた。「20分だけでいいから頑張ろうと伝えてたんですけどね、だめでしたか」と。その言葉を太郎に伝えると「お母さん、バレーボールをしている時の20分は俺にとってはすごく長くて、地獄のような時間なんよ」と。
太郎の言うことはよく分かる。不思議な動きを見られて周りから笑われるくらいなら私も休んだほうがましだ、と思うに違いない。まさに今、先生の考えと私の考え、太郎の気持ち、DCD……いろいろと考え中である。
執筆/まゆん
(監修:鈴木先生より)
DCD(発達性協調運動症)は、不器用で手足の協調運動が苦手なお子さんに当てはまります。人生最初にみられる手足の協調運動はハイハイですが、DCDのお子さんは、うまくできないため、いきなりつたい歩きをするケースもあります。縄跳びや球技に苦手さがあったり、走り方やダンスもぎこちなかったりするため、体育の授業や運動会が嫌いになるお子さんも多くいます。そういうお子さんには病院のリハビリテーション科で行っている作業療法士による感覚統合訓練をおすすめしているほか、病院へ通えない場合には公園やアスレチックで遊具の遊びをおすすめしています。また、私のクリニックでは小脳を鍛えることで症状改善にアプローチするため、音楽療法に感覚統合訓練を取り入れた療育なども行っています。
DCD(発達性協調運動症)は、不器用で手足の協調運動が苦手なお子さんに当てはまります。人生最初にみられる手足の協調運動はハイハイですが、DCDのお子さんは、うまくできないため、いきなりつたい歩きをするケースもあります。縄跳びや球技に苦手さがあったり、走り方やダンスもぎこちなかったりするため、体育の授業や運動会が嫌いになるお子さんも多くいます。そういうお子さんには病院のリハビリテーション科で行っている作業療法士による感覚統合訓練をおすすめしているほか、病院へ通えない場合には公園やアスレチックで遊具の遊びをおすすめしています。また、私のクリニックでは小脳を鍛えることで症状改善にアプローチするため、音楽療法に感覚統合訓練を取り入れた療育なども行っています。
「みんなと一緒がいい」落ち込む自閉症息子、本当の気持ちは?発達性協調運動障害(DCD)を知って
自転車に必要な、バランスを取る動きはどんな遊びで養える?
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縄跳びが飛べなくて癇癪!ASD息子が「秘策」で笑顔に!?不器用すぎる息子と母の二人三脚――発達ナビユーザー体験談
子どもの不器用さが気になったら。発達性協調運動症(発達性協調運動障害)の相談や支援機関、家庭でのサポート方法など【専門家監修】ーーマンガで学ぶDCD
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。